6 干しいちご
アシュクロフト少将との会合は翌日の昼になった。
俺は日時指定を失念していたが、マーサは既に会議の場を整えていた。こういう抜け目のなさは、正直助かる。
俺達もちゃんと資料を纏める時間があったし、熱いシャワーを浴びて身だしなみも整え、サッパリできたのは幸いだった。
正し、バークはギリギリまで数字の修正案を出してきて、最終的に資料が完成…上がってきたのは会合の10分前……
相変わらずミーティングルームに俺は急いで向かうこととなった。
マーサがバークに怒っていたが、ギリギリまで考え尽くすバークらしいと言えばバークらしいところだ。
……
………
「………以上が今回の考察となります。」
前回同様、画面にはアシュクロフト少将、マクレラン准将は俺の近くの席に着座している。
今回は点灯しているモニターは他にない。
『ふむ……
結局、ザビ家が和平案に応じるとすればソロモンが落ちて、更にあのドズルを亡きものか捕虜にしないとデギンは乗ってこない…と?』
俺達の報告書には多岐に渡り選択肢が分かれていて、マーサやカーターと相談し、かなり分かりやすくしたはずだが、前提条件がソロモン攻略後…結果が見えない。
選択肢が増えるのは当然と言える。
「ただ、仮にソーラーシステムが上手くいき、ジオンに多大な戦果を上げた場合、和平への可能性はかなり高くなると言えます。
仮に、ソロモンで戦果が乏しかったとしても、ソロモン宙域を艦隊で抑え、連邦の宙域としてしまえば、ジオンの反転攻勢はかなり厳しい物となります。
時間がかかるかもしれませんが、月面のキリシアなら話し合いに応ずる可能性は高いと考えます。」
『グラナダの女狐か…
あまりいい噂は聞かないがな…』
「はい、しかし、別紙3枚目の資料に付けたように…」
『いや、理に聡い事は知っておる…が、実際のところは判らん』
少将の言っていることは正しい…
実際キシリア・ザビについては決定的に情報が少ない。
『ソロモン攻略成功の確率は…
80%か…
高くないか?
その根拠は?』
ページを捲るアシュクロフト少将の目が細くなったが、返って眼光は強くなったように感じる。
「まず、我々の調べたところ、ソーラーシステムの完成度はかなり改善してきています。
先日、閣下から成功確率50%とお伺い致しました。
が、現時点では75%…つまり4回やれば3回は当たると我々は判断しています。
仮にソーラーシステムが失敗、又は機能不全を起こしたとしても、1番懸念していたソロモンへのジオン艦隊の増援は無さそうです。
唯一不安材料としては、新型のモビルスーツですが、数が少なければ、戦局を変えるほどの大きな影響は先ずありません。
試作機が数機程度なら物量で押し切るだけの兵力が我軍側にあります」
ここで俺は一呼吸置き、アシュクロフトの反応を確かめる。
深く考えながら紙を捲る音だけ聞こえてくる。
「しかしながら、閣下、懸念材料もございます。
最後に付けた別紙をご覧下さい…
コチラは今戦闘における支援補給物資の一覧となります。
一見、キチンと足りていると思われますが、圧倒的に補給艦の数が足りていません」
『どういう事だ?』
「はい、後方に食料をはじめ、液化燃料等の支援物資が潤沢に集められています。コレは非常によいところでしょう。
しかし、前線に届ける手段が不足しているのです…
このままでは、ソロモン戦後、多くの艦が1度戻り出直す必要性が出てくるでしょう」
『回りくどい、つまりは何が言いたい…』
「はい、おそらくソロモンは高確率で落ちるでしょう…
でも、この作戦はそこまでしか考えられていませんね…
つまり、ソロモンを占拠するのか?
徹底的に破壊して使えなくするのか?
占拠した場合、維持する為の物資はどうするのか?
また、ソロモンで投降した一般のジオン兵の扱いも不明です。
彼らの投降を認めれば食わせて行く必要があるでしょう…投降を認めなければ殲滅戦など消耗戦以外の何物でもなく、我々の足を引っ張ります…」
『ソロモンにも蓄えはあるだろうさ』
…俺は少将を睨みつけた。
「…では、わが連邦軍は占拠後、有るだろうと思われる敵の物資を当てにして、無かった場合はみな飢えろと仰るんですね」
「おい!ハーディング…もう少し抑えろ!」
マクレランの心配そうな声が聞こえる…が、ここは絶対に譲れない。
『確かにハーディング少佐の言いたいことはわかる…が、戦は理屈だけでは成り立たん…
それにこれはソロモン攻略は『ホシイチゴウ作戦』の現段階、この時点で後方の支援物資を使い潰すわけにはいかんのだ』
苦虫を噛み潰したように少将が答えた。
「『干しいちご』作戦?なんですか?」
俺は将兵が飢える姿を想像してしまい、干からびていくイチゴが頭に浮かんでしまった。
「星1号作戦だ。
ハーディングのところには回って無いのか?」
俺は黙り込む、もしもここ2〜3日にうちの班に回ってきたとすれば、残念ながら目を通していないからだ。
『准将、おそらくハーディングのところには回っていまい、回っていれば、こんなにも杜撰な補給計画は立たんだろう…おそらくハーディングを避けて武功を上げたい一部の者のゴリ押しだな…
しかし、正式に裁可されている以上戻れはしまい』
少将が深く深く息を吐き、言葉を続けた。
『まったく…想像以上にハーディングを部下に持つことは大変だな…ぐうの音もでん…
しかし、知ってしまった以上見過ごすことは出来ん』
アシュクロフトの表情が変わり厳しい物になる。
表情が変わっただけで場の空気が一変した。
俺は今、何かとんでもない地雷を踏んだのかもしれない。
『ハーディング少佐、星1号作戦の補給計画の見直しを命ずる。
よいな、マクレラン准将』
マクレランがコチラを冷めた目で見ている。
「はっ。
全力で事に当たらせます。
いいな、ハーディング少佐」
言下に、知らんからな、自分でなんとかしろよって言われた気がした。
えっっいや待ってよ。
昨日までうちの部下ろくに寝てないんだよ…
「あの…待って、
ちょっとだけ待って…
うちの部署人数少ないんで、明日からでお願いしてもいいですか?」
俺は顔から血の気が引いていくのを感じた。