もう一つの英雄譚   作:FeIron

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第7話

 鍋の中には灰色の塊が浮いていた。

 さっきまでは液体だった。少なくとも、ルークが匙を入れたときにはそうだったはずだ。ところが今は、持ち上げると鍋の中身まで一緒についてくる。

 

「それ、食べられる?」

 

 隣からベンが覗き込んだ。

 

「食べたいならやる」

 

「聞いただけだよ」

 

 ベンは自分の鍋を少し遠ざけた。

 そちらには、薄く濁っているものの、まだ液体と呼べるものが入っていた。ルークは匙を下ろす。灰色の塊は鍋底へ落ち、鈍い音を立てた。

 

 教卓の方で、スラグホーンが誰かの薬を褒めている。大きな腹を揺らしてこちらへ歩いてきたので、ルークは教科書を見下ろした。

 材料は間違えていない。量も数えた。手順を飛ばした覚えもない。だがどうだ、鍋の中には謎の塊しかない。

 

「さて、ウォルフ君」

 

 立派な口髭の下から聞こえた声が、鍋を覗いたところで止まった。

 

「これはまた、ずいぶんと……まとまりがよくなったね」

 

 ベンが咳をした。

 ルークはそちらを見ずに答える。

 

「最後の材料を入れたら、こうなりました」

 

「ふむ。その前は?」

 

「黄色でした」

 

「黄色にもいろいろある。教科書の色見本は確かめたかね?」

 

「はい」

 

 スラグホーンは柄の長い匙で表面を押した。へこんだ部分が、ゆっくり戻る。

 

「煮詰めすぎたようだ。次は時間だけでなく、鍋の中も見ておくことだね」

 

「見ていました」

 

「では、何を見るべきかを、もう少し覚えなくてはいかんな」

 

 穏やかな声だった。言い返せることは何もなかった。

 スラグホーンはベンの鍋へ移り、こちらはもう少し丁寧に材料を刻むようにと言った。ベンが頷いている間、ルークは教科書の色見本と鍋の中を交互に見た。

 最初から灰色だったわけではない。黄色になったところまでは教科書通りだったはずだ。

 授業の終わりに中身を捨てようとしたが、鍋を逆さにしても落ちなかった。ベンが底を叩くのを手伝ってくれた。

 

 

 

 

 十月に入ってから、朝の石床が冷たくなった。

 寮の窓から見える木々には黄色い葉が混じり、校庭を横切ると、風がローブの裾を持ち上げる。朝食の席で熱い粥を選ぶ生徒が増えた。ネッドはそれに蜂蜜をかけるが、ベンは蜂蜜を入れると何でも同じ味になると言っている。

 そのベンは、トーストにジャムを二種類塗っていた。確かに他にない味になることは確かだった。

 

「今日も魔法薬学?」

 

「明日だ」

 

「よかった」

 

「お前の鍋は固まってなかっただろ」

 

「でも、隣から何か飛んでくるかもしれない」

 

 ルークが手を伸ばすと、ベンは皿を引いた。

 取ろうとしていたのは、その向こうの塩だった。

 

 

 

 

午前の闇の魔術に対する防衛術は、レイブンクローとの合同授業だった。

 教室へ入ると、机の上に浅い金属皿が並んでいた。皿の中央には短い蝋燭が三本ずつ立ち、その間に細い黒線が引かれている。

 窓際の机で、ヒューが教科書を開いていた。

 ルークが近づくと顔を上げ、隣の椅子に置いていた鞄を足元へ下ろす。

 

「ここ、座る?」

 

「ああ」

 

 ルークは自分の鞄を机の脇へ置いた。

 後ろではベンが椅子を引いている。

 

 皿の真ん中の蝋燭を指で押してみたが動かない。どうやら皿に固定されているらしい。

 

「それ、全部つけるんじゃないよ」

 

 ヒューが言った。

 

「まだ何もしてない」

 

「うん。でも触ってたから」

 

「触ると三本つくのか?」

 

 ヒューはルークを見てから、黒板を指した。

 

「真ん中だけだって」

 

 黒板には、その通りに書かれていた。

 ルークは蝋燭から指を離した。

 ベンが後ろの席から身を乗り出す。

 

「今日は得意そうだな」

 

「鍋がないからな」

 

 授業が始まると、教授は前の机に同じ皿を置いた。

 杖が動き、中央の芯に小さな火がともる。炎は芯の上で揺れたが、左右の蝋燭には何も起きなかった。

 

「火が出れば成功、という課題ではありません」

 

 教授は皿を持ち上げ、教室を見渡した。

 

「火をつけたいものの隣に、燃やしてはいけないものがあることもあります。今日はその区別をつけてもらいます。炎を大きくする必要はありません。隣の芯まで燃やした場合は、やり直しです」

 

 もう一振りで火が消えた。

 ルークは三本の蝋燭を見た。

 真ん中だけ。狙う場所は小さいが、動きはしない。

 

 教授が各列を回り始めると、あちらこちらで呪文が聞こえた。何も起きない皿もあれば、煙だけが上がる皿もある。ベンの後ろでは、誰かが自分の息でつけたばかりの火を消してしまい、隣の生徒に笑われていた。

 ルークは杖を構えた。

 

「インセンディオ」

 

 炎が上がった。

 

 中央の芯を捉えたのは分かった。けれど、その上に伸びた火は思ったより幅があり、皿の左右へ広がる。気づけば三本とも燃えていた。

 後ろでベンが小さく口笛を吹く。

 

「全部ついた」

 

「見れば分かる」

 

 教授が近づいてきて、皿の火を消した。

 

「着火は十分です。次は、指定された一本だけに」

 

 叱られはしなかった。ただ火をつける前と同じ皿が残った。

 ルークは杖先を少し近づけて構える。今度は小さくする。さっきより抑えればいい。

 二度目の炎は低かった。しかし、中央から右の芯へ火が移った。左だけが残っている。

 

「惜しい」

 

 ベンが言った。

 

「お前は?」

 

「まだ全部無事」

 

 ベンの皿には煙も上がっていなかった。

 ルークがもう一度杖を上げかけたとき、隣でヒューが教科書を机の端へ寄せた。開いていた頁には、杖の動きを示す図がある。

 

「まだ読んでたのか」

 

「最後のところを確かめてた」

 

 ヒューは袖を引き上げ、杖を握り直した。

 

「インセンディオ」

 

 何も起きなかった。

 後ろから覗いていたベンが、自分の皿へ戻る。

 ヒューは眉を寄せたが、すぐには唱え直さなかった。教科書の図をもう一度見て、杖を持つ手を机の上で小さく動かす。

 二度目に、芯の先が赤くなった。火はそこから細く伸びた。

 

 一本だけだった。

 

「できた」

 

 ヒューは顔を近づけかけ、途中で止まった。息で消した生徒のことを思い出したらしい。

 代わりに、椅子を少し後ろへ引いた。

 ルークはその皿を見てから、自分の杖へ目を落とした。

 

「今、どこを変えた?」

 

「最後。杖を止めるところ」

 

 ヒューは自分の杖を持ち上げかけ、燃えている皿を見て下ろした。代わりに人差し指で、宙に短い線を描く。

 

「ここで止めたつもりだったんだけど、先が下がってた。それと、芯の上の方を見てたから、今度は先端を見た」

 

「それだけか」

 

「たぶん。両方変えたから、どっちがよかったのかは、もう一回やらないと分からない」

 

 ルークは皿へ向き直った。

 ヒューが横からこちらの杖を見ている。

 

「君は、その先も動いてる」

 

「先?」

 

「止めたあと。手首が外へ」

 

 ルークは呪文を唱えずに、さっきの動きを繰り返した。最後に杖先が右へ流れる。今度はルークにも認識できた。

 

「……ここか」

 

「うん」

 

 動かさないつもりで、もう一度やる。

 今度は手に力が入りすぎ、杖先が細かく震えた。

 

「それだと、もっと動くと思う」

 

「分かってる」

 

 ヒューが口を閉じた。

 ルークは一度杖を下ろし、指を開いてから握り直す。

 

「今のも見てて」

 

 ヒューは頷き、少し身を引いた。

 教授に火を消してもらい、三度目を試す。

 中央に火がついた。右の芯から薄い煙が上がったが、炎にはならなかった。

 ルークはしばらく見ていた。

 右の芯は黒くなっている。完全に同じ状態ではない。それでも、燃えているのは一本だけだった。

 

「よくなりましたね」

 

 教授が言った。

 

「その大きさで十分です。次は同じことを、続けてできるように」

 

 ルークはヒューを見た。

 

「動いてたか?」

 

「さっきより、ずっと少なかった」

 

「まだ動くのか」

 

「少しだけ」

 

 ヒューが指先で幅を示す。

 ルークはその狭い隙間を見て、自分の手首を確かめた。

 ベンが後ろから覗く。

 

「ヒュー、こっちも見て」

 

「僕もまだ一回しかできてないんだけど」

 

「僕は一回もできてない」

 

 ヒューは少し迷ってから、ベンの机が見えるように椅子をずらした。

 ルークは自分の火を見た。

 小さい。さっきの方が、火としてはずっとよく見えたが、教授が頷いたのはこちらだった。

 

 授業が終わる頃には、ルークは三回続けて真ん中だけに火をつけられた。

 四回目は右も燃えた。

 ヒューはその間、一度試すたびに教科書の余白へ何か書いていた。覗くと、短い線と丸、それから小さな文字が並んでいる。

 

「全部書くのか」

 

「同じ間違いをしたくないから」

 

「書けばしないのか?」

 

「するよ」

 

 ヒューは当然のように答えた。

 

「でも、忘れるよりいい」

 

 ルークは自分の教科書を引き寄せた。

 図の最後に小さな印をつけ、その横へ、手首、と書く。

 

「それで分かる?」

 

 ヒューが尋ねた。

 

「俺はな」

 

 後ろでベンが息を呑んだ。

 振り返ると、中央の蝋燭に細い火がともっていた。

 

「先生」

 

 ベンは手を上げた。

 

「先生、できました」

 

 教授が別の生徒の皿を確かめている間に、火が小さくなる。

 ベンは上げた手をさらに伸ばした。その動作に合わせて火が揺れる。

 

「先生、今なら──」

 

 消えた。

 ベンの手だけが、教室の中ほどに残った。

 ルークは自分の皿へ顔を戻したが、隣でヒューの肩が揺れるのが見えた。

 

「見てただろ、二人とも」

 

「見てた」

 

「僕も見たよ」

 

「次の授業で言ってくれる?」

 

「次もつければいいだろ」

 

「それはそうだけどさ」

 

 階段の手前でベンがネッドに呼ばれ、先へ走っていった。

 ルークは鞄の紐を掛け直し、隣を歩くヒューを見た。

 

「魔法薬も得意か?」

 

 ヒューの顔が曇った。

 

「どの薬?」

 

「授業で作るやつ」

 

「先週、鍋の外側を溶かした」

 

 ルークは足を止めた。

 

「外側?」

 

「こぼしたんだ。中は平気だったんだけど」

 

「どうして外だけ」

 

「それを調べてる」

 

 ヒューは少し早口になった。

 鍋の材質と薬の温度について何か考えがあるらしかったが、ルークには途中からよく分からなくなった。

 階段が動き始めたので、二人とも手摺を掴む。

 向こうの踊り場へ着くと、ヒューは図書館へ行くと言った。

 

「さっきの、助かった」

 

 別れる前に言うと、ヒューは一瞬だけ黙った。

 

「君、すぐ変えられるんだね」

 

「何を?」

 

「言われたところ。僕は、分かってても手が違う動きをすることがあるから」

 

「四回目は燃えただろ」

 

「でも三回はできた」

 

 ヒューはそう言って、本を抱え直した。

 ルークはその背中を見送ってから、反対側の階段へ向かう。自分は出来なかったことを重視するが、ヒューはできたことを重視する。そういう捉え方もあるか、と妙に納得した。

 

 

 

 夕食までには、まだ少し時間があった。

 談話室の暖炉の前では、ジェームズが椅子に横向きに座っていた。片脚を肘掛けへ載せ、手の中で羽根ペンを回している。

 向かいの長椅子には、黒髪を無造作に耳へかけたシリウスがいた。整った顔に退屈そうな表情を浮かべ、ジェームズの話を聞いている。

 ルークに先に気づいたのは、その脇で本を読んでいた少年だった。

 薄茶色の髪をした痩せた上級生で、ローブの袖口に小さな繕い跡がある。顔を上げると、疲れて見える目元が少し和らいだ。

 

「ジェームズ。後ろ」

 

「ん?」

 

 ジェームズが振り向いた。

 

「お、ウォルフ。どうした。箒が言うことを聞くようになったか?」

 

「箒の話じゃない」

 

「じゃあ、飛ぶ前から落ちた?」

 

「落ちてない」

 

 シリウスが笑った。

 暖炉に近い低い椅子では、淡い色の髪をした小柄な少年が、膝の上の菓子袋へ手を入れている。丸い顔をこちらへ向け、ジェームズの次の言葉を待っていた。

 ルークは暖炉の輪に入った。

 

「魔法薬学が得意な人、知らないか」

 

 ジェームズの手の中で、羽根ペンが止まった。

 

「魔法薬学?」

 

「そう」

 

「スラグホーンがいるだろ」

 

「授業では聞いた」

 

「じゃあ解決だ」

 

「してないから聞いてる」

 

 シリウスがジェームズを見た。

 さっきより、ずっと楽しそうな顔になっている。

 

「いるだろ」

 

「何が」

 

「魔法薬学が得意な人」

 

「僕だって、できないわけじゃない」

 

「得意な人を聞かれたんだよ、ジェームズ」

 

 本を読んでいた少年まで口を挟んだ。

 ジェームズはそちらを睨む。

 

「リーマス、お前は本を読んでろ」

 

「聞こえるところで話すから」

 

 リーマスは頁に指を挟み、ルークへ向き直った。

 

「リリー・エバンス。僕たちと同じ五年生。魔法薬はとてもよくできるよ」

 

「ああ、確かに彼女は魔法薬学がよくできる。それに──」

 

 菓子袋を抱えた少年が呟いた。

 

「ピーター」

 

 ジェームズが低い声を出すと、ピーターは口へ菓子を放り込んだ。

 ルークは四人を見比べた。

 

「聞いちゃいけない名前だった?」

 

「全然」

 

 シリウスが答えた。

 

「こいつが教えたがらないだけ。それくらい教えてやれよ。鍋を爆発させたくないんだろ?」

 

「固まった」

 

「そっちか」

 

 シリウスは肩を揺らした。

 ジェームズは肘掛けから脚を下ろし、椅子へ座り直す。

 

「エバンスだって暇じゃないんだ」

 

「今、君はスラグホーンに聞けって言ったよね」

 

 リーマスが静かに言った。

 

「先生の方が忙しいと思うけど」

 

 ジェームズは羽根ペンを机へ置いた。

 置き方が少し強かったので、ピーターがまた笑いそうになった。

 そのとき、肖像画の入口が開いた。

 

「ちょうどいい」

 

 シリウスが言うより早く、ジェームズの目がそちらへ動いた。

 入ってきたのは、本を二冊抱えた女子生徒だった。濃い赤毛が肩の下まで落ち、暖炉の光を受けたところだけ明るく見える。

 入口を塞がないよう一歩脇へ寄ってから、談話室を見渡した。

 

「エバンス」

 

 ジェームズが呼んだ。

 彼女の緑の目がこちらへ向く。

 

「何?」

 

「この子が、君に聞きたいことがあるって」

 

 ルークはジェームズを見た。

 さっきまでは名前さえ教えなかったのに、もう自分から呼んでいる。

 ジェームズはその視線を無視した。片手が黒髪へ行き、前髪を後ろへかき上げる。

 

「一年のウォルフ。魔法薬で困ってるらしい」

 

 リリーはルークへ目を移した。

 ジェームズに向けていたときより、声が柔らかくなる。

 

「何を作ってたの?」

 

「授業の薬。最後に灰色になって固まった」

 

「灰色?」

 

「鍋を逆さにしても落ちないくらい」

 

 リリーの眉が上がった。

 

「それは、途中を見ないと分からないかも。教科書と、書き込みは持ってる?」

 

「部屋にある」

 

「私は夕食のあと図書館にいるから、持ってきて。どこで変わったのか、一緒に見ましょう」

 

 話はそれで決まった。

 ルークが礼を言うと、リリーは軽く頷いた。

 

「僕も見てやろうか」

 

 ジェームズが言った。

 リリーは彼を見る。

 

「あなたに聞いたんじゃなかったの?」

 

「得意な人を紹介してほしいって言うから」

 

「じゃあ、私が見るわ」

 

 シリウスが口元を手で隠した。

 ジェームズは気づかないふりをしたようだった。椅子の背へ肘を置き、少し気取ったふうに言う。

 

「僕だって、たいていの薬は作れるよ」

 

 リリーが何か言う前に、ルークは尋ねた。

 

「だったら、最初にそう言えばよかっただろ」

 

 一瞬、誰も喋らなかった。

 リリーが笑った。長くはなかった。口元を緩め、息が少し漏れただけだ。

 

「そうね。その通り」

 

 ジェームズはルークへ顔を向けかけていた。

 何か言い返そうとしていたのだと思う。口が開きかけていたからだ。

 けれど、リリーが笑うと、そちらを見た。

 用意していた言葉が出てこない、代わりに口の端が上がった、ルークにはそんな風に見えた。

 箒の話をするときとも、シリウスと人をからかうときとも違う。目元から力が抜け、彼女がまた何か言うのを待っている。

 

「じゃあ、あとでね、ウォルフ」

 

「ルークでいい」

 

「分かった。私はリリー」

 

 彼女は本を抱え直し、女子寮の階段へ向かった。

 ジェームズの目が、赤い髪を追っていた。

 

「作れるんだって?」

 

 シリウスが言った。

 

「何だよ」

 

「たいていの薬」

 

「作れる」

 

「今度、僕の課題も見てくれよ」

 

「自分でやれ」

 

 笑い声が上がった。

 ジェームズも笑ったが、目は一度だけ階段へ戻った。

 ルークは暖炉の縁へ目を落とした。

 男が女を見るところなら、知っていた。

 路地にも、酒場の裏口にも、そういう目はあった。金を握った手。閉じた扉。夜中の怒鳴り声。昨日とは別の相手に、同じことを言う男もいた。

 だから、ジェームズがどうしてリリーを見ていたのか、おおよその見当はつく。

 だが、彼女はただ笑っただけだ。ジェームズを褒めたわけでも、隣に座ったわけでもない。むしろ、ルークの方へ頷いていた。

 それなのに、ジェームズはあんな顔になる。

 

「何だ?」

 

 見ていたのに気づいたジェームズが言った。

 

「いや」

 

「僕の薬の腕を疑ってるのか?」

 

「まだ作ったところを見てない」

 

「今度見せてやる」

 

「鍋から出せるやつにしてくれ」

 

 シリウスが声を上げて笑った。

 ジェームズはルークの頭へ手を伸ばしたが、ルークは一歩下がって避けた。

 いつもの顔に戻っていた。それでも、さっきの顔は覚えている。どうやらここでは男女の関係もロンドンとは違うらしい。

 ルークはもう一度、リリーが消えた階段を見た。誰もいなかったので、自分も鞄を取りに向かった。

 

 

 

 

 夕食のあと、図書館は思ったより混んでいた。

 入口に近い机はほとんど埋まっている。頁をめくる音と、小声の相談が重なっていた。

 ルークは本棚の間を歩き、奥の窓際に赤い髪を見つけた。

 リリーの向かいには、男子生徒が座っていた。

 肩にかかる黒髪が細い顔の両側へ垂れ、長い鼻の下に、薄い唇が結ばれている。ローブの胸元には緑と銀が見えた。

 彼はリリーに何か説明していたが、ルークが近づくと口を閉じた。

 

「来たのね」

 

 リリーが隣の椅子を引いた。

 

「座って。セブ、さっき話した一年生」

 

 黒い目がルークを見た。顔から鞄、それから教科書へ移る。

 

「ルーク・ウォルフ」

 

 ルークが名乗ると、彼は少し間を置いて答えた。

 

「セブルス・スネイプ」

 

「セブは魔法薬が得意なの。私より細かいところまで知ってるから、聞いてみようと思って」

 

 スネイプはリリーを見た。

 

「何を作ったかも、まだ聞いてない」

 

「今から見せてもらうの」

 

 リリーはルークへ手を差し出した。

 教科書を渡すと、該当の頁を開いて机の中央へ置く。

 ルークは、羊皮紙も広げた。材料の量と、入れた順番、それから授業中に書き取った注意が並んでいる。

 

「最後の前までは黄色だったんだよね」

 

 リリーが尋ねた。

 

「そう。それで、ここを入れたら灰色になった」

 

 指を置くと、向かいから声がした。

 

「その前に、どれくらい減った?」

 

 スネイプだった。

 

「減った?」

 

「鍋の中身」

 

「分からない」

 

 黒い目が上がった。

 ルークは見返した。

 

「見てたけど、そこは数えてない」

 

「量は数えるものじゃない」

 

「じゃあ、測ってない」

 

 リリーの口元が少し動いた。

 スネイプは笑わなかったが、教科書を自分の方へ引き寄せた。

 

「鍋の内側に跡は残ってた?」

 

 ルークは思い出そうとした。

 灰色の塊を落としたあと、鍋には黄色い筋があった。洗っても、すぐには取れなかった。

 

「あった。上の方に」

 

「どれくらい上?」

 

 指を二本並べる。

 

「このくらい」

 

「煮詰めすぎてる」

 

「それは先生にも言われた」

 

「だったら、そうなんだろう」

 

 少しぶっきらぼうな言い方だった。

 だが、スネイプの指はまだ頁の上にある。

 

「火を落としたのは、いつ?」

 

「書いてある時間になったとき」

 

「その時点で黄色かった?」

 

「なってた」

 

「いつから?」

 

 ルークは黙った。

 スネイプが椅子の背から体を起こした。

 教科書の一行を爪で示す。

 

「ここの時間は目安だ。こっちに色が変わったらって書いてある。君は、先に変わってたのに、そのまま煮た」

 

「時間まで待つんじゃないのか」

 

「色が変わったら、次へ行くの」

 

 リリーが言った。

 

「最初の火が強かったなら、早く変わることもあるでしょう?」

 

 ルークは二つの行を読み直した。

 時間の方には、自分で線を引いていたが、色についての一文には何も書いていない。

 

「黄色って、どれくらいだ?」

 

 スネイプは教科書の端にある見本を指した。

 

「これ」

 

「鍋の上からだと、もっと暗く見えた」

 

「……照明のせいもある」

 

 彼は少し考え、リリーの筆箱の脇から、使っていない羊皮紙を取った。

 

「借りるよ」

 

「どうぞ」

 

 細長い四角を描き、その内側に線を引く。

 

「匙に少し取って、薄く広げる。鍋の中だけで比べないで。量が多いと、色は濃く見えるから」

 

 ルークはその図を見た。

 言われてみれば、窓の瓶も、端の方が薄く見える。

 

「それ、教科書に書いてある?」

 

「そこにはない」

 

「じゃあ、どうやって知るんだ」

 

 スネイプは答える前にルークの顔を見た。

 

「今、知っただろ」

 

 ルークは少し黙ってから、頷いた。

 

「確かに」

 

 羽根ペンを取り出し、時間に引いた線の隣へ書き足す。

 色を先に見る。匙に取る。

 スネイプはその文字を逆さから読んでいた。

 

「毎回、何度も取る必要はないよ。減るから」

 

「一回でいい?」

 

「変わり始めたときに。それで違ったら、もう少し待つ」

 

 リリーがルークの羊皮紙へ目を落とした。

 

「材料の量は、ちゃんと書いてあるのね」

 

「間違えたら困るから」

 

「その調子で、色や匂いが変わったところも書いておくといいわ。失敗したとき、どこまでは合っていたか分かるから」

 

 昼間、ヒューも似たことを言っていた。

 ルークは空いているところへ、黄色になった時間、と書いた。そこで止まる。

 

「今回のは覚えてない」

 

「次の分」

 

 リリーが言うと、向かいから小さく息が漏れた。

 スネイプの口元が、ほんの少し緩んでいた。

 ルークはそれを見たが、何も言わなかった。

 そのあと、切った材料の厚さも聞かれた。同じ数を入れても、大きさが違えば同じようにはならないらしい。

 

「全部同じに切るのか」

 

「できるだけ」

 

「細かければいい?」

 

「違う」

 

 スネイプはすぐに答えた。

 それから、声を少し落とす。

 

「細かくするのと、潰すのも違う。ここは切る。こっちは潰す。勝手に同じにしない方がいい」

 

 頁の上を細い指が移動する。

 ルークはその指を追いながら、自分が同じことだと思っていた箇所へ印をつけた。

 机の隅で時計が進んでいた。

 リリーが先に気づいた。

 

「ごめん、私、戻らなきゃ。メアリーと約束してたんだった」

 

 彼女は本を閉じ、ルークを見る。

 

「少しは分かった?」

 

「どこで間違えたかは」

 

「じゃあ、次はそこを変えてみて」

 

 リリーはスネイプへ本を一冊返した。

 

「これ、ありがとう。明日、続き聞かせて」

 

 スネイプが顔を上げた。

 

「うん」

 

 短い返事だった。

 けれど、教科書を見ていたときの眉間の皺が消えていた。リリーが微笑むと、彼もわずかに口元を緩める。本を受け取ったあとも、目は彼女に向いたままだった。

 ルークの手が止まった。

 さっき見た。

 暖炉の前。椅子の背へ肘を置いていたジェームズ。彼女が笑ったとき、言い返すのを忘れた顔。

 スネイプは髪をかき上げなかったし、こちらへ聞こえるように大きな声を出しもしなかった。

 ただ、リリーを見ている。それなのに、目元にあるものは同じだった。

 

「またね、ルーク」

 

 呼ばれて、ルークは顔を上げた。

 

「うん、ありがとう」

 

 リリーは二人に手を振り、本棚の間へ入っていった。

 スネイプの目が、その後ろ姿を追う。

 赤い髪が棚の陰へ消れてから、ようやく手元の本へ戻った。

 ルークはリリーの消えた方を見た。

 彼女はいつも通りに話して、帰っていった。スネイプの目を見て驚いた様子も、からかう様子もなかった。

 談話室では、皆がジェームズを見て笑っていた。

 こちらにも同じものがあることは、誰も話していなかった。

 

「その字」

 

 声に、ルークは振り向いた。

 

「何?」

 

「ここ。煮立てる、じゃない。煮続ける」

 

 スネイプが指していたのは、授業中に書いた文字だった。

 

「同じだろ」

 

「同じじゃない」

 

 さっきの表情は、もうなかった。

 スネイプは椅子を少し前へ寄せ、教科書を開き直す。

 ルークも羊皮紙へ目を落とした。

 小さな泡がどこから出てくるか。表面全体が動いているか。匙を抜いたときに、どれくらい跡が残るか。

 質問は細かかった。答えられないものも多い。

 けれど、答えられないと言っても、笑われはしなかった。

 スネイプはときどき眉を寄せ、それから別の聞き方をした。

 リリーがいなくなっても、帰れとは言わなかった。

 ルークは鞄へしまいかけていた羽根ペンを、もう一度取り出した。

 

 

 

 

 図書館を出たときには、廊下の窓は黒くなっていた。

 スネイプも途中まで同じ方向だった。

 並んで歩くと、思っていたより背が高い。歩幅は大きいが、ルークが少し遅れても急かさなかった。

 

「次の実習は?」

 

「明日」

 

「同じ薬?」

 

「もう一度やるって」

 

 スネイプは頷いた。

 

「最初から全部変えない方がいい。火と、色を見るところ。まずそこだけ」

 

「材料の切り方は?」

 

「ひどく違ってたなら直す。でも、何もかも変えると、どれが悪かったか分からなくなる」

 

 ルークは昼間のヒューを思い出した。

 杖の向きと止め方を一度に変えたから、どちらがよかったか分からないと言っていた。

 

「分かった」

 

 階段の分かれ目で、スネイプが足を止める。

 

「教科書の見本は、授業の前に見ておいて。作りながら探すと遅いから」

 

「そうする」

 

 ルークは鞄を持ち直した。

 

「ありがとう。時間、取らせた」

 

 スネイプは少し目を細めた。

 それから、ルークの持っている教科書を見た。

 

「次は、固まる前に止めればいい」

 

 ルークは笑った。

 

「止める場所は増えた」

 

「覚えていればね」

 

 スネイプは階段を下りていった。

 黒いローブの裾が角を曲がるまで見送り、ルークは上へ向かった。

 

 

 

 

「ウォルフ」

 

 声がしたのは、談話室へ戻る手前だった。

 ジェームズとシリウスが廊下の窓際にいた。ジェームズは壁へ肩を預け、シリウスは窓の桟に腰を掛けている。

 さっきまで何か話していたらしかったが、ルークが近づくと二人とも黙った。

 

「どうだった、魔法薬学」

 

「分かった。たぶん」

 

「エバンスは教えるのも上手いからな」

 

 ジェームズが言った。

 ルークは頷く。

 

「リリーも。あと、スネイプって人」

 

 ジェームズの顔から笑みが消えた。

 

「誰?」

 

「セブルス・スネイプ。図書館にいて、教えてくれた」

 

 シリウスが窓の桟から下りた。

 靴底が石床を打った。

 

「何を?」

 

「魔法薬学」

 

「それだけか」

 

 尋ね方が変わっていた。

 

 ルークは二人を見た。

 ジェームズの口が細く結ばれている。シリウスは腕を組んだ。

 

「何かあるのか?」

 

「ある」

 

 ジェームズがすぐに言った。

 

「あいつとは、あまり関わらない方がいい」

 

「どうして」

 

「付き合ってる連中がよくない。本人もだ」

 

 ルークは鞄の紐から手を離した。

 

「何をしたの?」

 

 ジェームズとシリウスが一瞬目を合わせる。

 答えたのはシリウスだった。

 

「闇の魔術に首を突っ込んでる。あいつの周りにも、そういうのが好きな奴らがいる。人に使って面白がるような連中だ」

 

「スネイプも使ったのか」

 

「少なくとも、嫌がって離れる気はないらしいね」

 

 ジェームズの声は硬かった。

 

「スリザリンだから言ってるんじゃない。あいつらは、マグル生まれをどう扱ってもいいと思ってる」

 

「リリーは?」

 

 ジェームズが眉を寄せた。

 

「リリーが、何?」

 

「あの人はマグル生まれなのか?」

 

「そうだよ」

 

「一緒にいた。友達なんだろ」

 

「だから、あいつは──」

 

 ジェームズが言いかけ、口を閉じた。

 シリウスが続ける。

 

「あいつがエバンスをどう扱うかと、ほかの奴をどう扱うかは、同じじゃない」

 

 ルークは黙った。

 リリーへ向けた黒い目を思い出した。

 それから、目の前のジェームズを見る。

 眉が寄り、唇に力が入っている。今は似ていない。

 さっき図書館で見つけたことは、言わなかった。この顔に向かって口に出すことではない気がした。

 

「死喰い人って、聞いたことあるだろ」

 

 ジェームズが言った。

 ルークは頷く。

 列車で聞いた言葉だった。

 

「知ってる」

 

「僕には、あいつらがなりたがってるものは、それに見える」

 

 廊下の向こうで、誰かが笑った。

 足音が二つ近づき、角の手前で別の方向へ消えた。

 ルークはジェームズの目を見ていた。

 

「本人が、そう言ったのか?」

 

「そこまで言わせないと分からないか?」

 

 声が少し大きくなった。

 シリウスがジェームズを見る。

 ルークは一歩も動かなかった。

 

「俺は今日、知り合ったんだ」

 

 ジェームズの口が閉じる。

 

「何も知らない。だから聞いてる」

 

 しばらく、誰も話さなかった。

 先に息を吐いたのはジェームズだった。

 

「……そうだな」

 

 彼は髪へ手をやり、今度はかき上げずに下ろした。

 

「でも、気をつけろ。薬を教えてもらったからって、何でも信じるなよ」

 

「何でもは信じてない」

 

「ならいい」

 

 シリウスが扉の方へ顎を向けた。

 

「分からないことがあれば、ほかにも聞ける相手はいる」

 

 ルークは頷いた。

 それから、二人の間を通って入口へ向かった。

 背中に視線が残っていた。

 振り返らなかった。

 

 

 

 

 翌日の魔法薬で、ルークは最初に色見本を見た。

 ベンが隣から覗き込む。

 

「今日は何を作る?」

 

「授業と同じもの」

 

「前回もそのつもりだった?」

 

 ルークが無言で見ると、ベンは自分の教科書へ戻った。

 材料を切る。大きすぎるものを脇へ分け、同じくらいに揃える。火をつけ、鍋を載せた。

 いつもより、待つ時間が長く感じられた。

 何もしないでいると、火を強めたくなる。隣の鍋が先に変わり始めると、余計にそう思った。

 ルークは杖へ手を伸ばさず、羊皮紙を見た。

 色を先に見る。匙に取る。

 黄色くなり始めたところで、少しすくった。鍋の中では暗く見えた液体が、匙の上では薄く広がる。

 見本を確かめる。まだ少し違う。もう少し濃くなるまで待つべきだと判断した。

 

「何してるんだ?」

 

「色を見てる」

 

「僕にも見せて」

 

 ベンが身を寄せたので、ルークは匙を真ん中へ動かした。

 

「鍋の中だと濃く見えるんだって」

 

「ああ。本当だ」

 

 もう少し待った。

 次に取ったものは、見本に近かった。砂時計には、まだ砂が残っている。

 ルークはそれを見たあと、鍋の火を落とした。

 最後の材料を入れても灰色にはならなかった。

 匙を動かすと、液体の表面に跡ができ、ゆっくり消える。

 ルークは鍋の底まで確かめた。

 

「今回は動くな」

 

 ベンが言った。

 

「見れば分かる」

 

 スラグホーンは、ルークの鍋の前で足を止めた。

 匙に取り、光へかざす。

 

「うん。少し濁りがあるが、ずいぶんよくなった。こちらはちゃんと瓶へ移せそうだね」

 

「はい」

 

「どこを変えた?」

 

「火を落とすところです。時間になる前に、色が変わってたので」

 

「結構。その判断を覚えておくように」

 

 スラグホーンが離れると、ベンがルークの羊皮紙を引き寄せた。

 

「それ、あとで見せて」

 

「字が読めれば」

 

「読めないところは聞く」

 

 ルークは瓶へ薬を注いだ。

 底に残ったものも、鍋を傾ければ流れた。

 それを見て、少し笑ってしまった。

 

 

 

 

 昼食へ向かう途中、玄関ホールの向こうにスネイプがいた。

 同じ寮の上級生が二人、一緒に歩いている。何かを言われ、スネイプは口元を歪めた。離れていたので、何を話しているかは聞こえなかった。

 ルークの足が少し遅くなる。

 死喰い人。

 昨夜のジェームズの声を思い出した。

 隣のベンが大広間へ入っていく。ルークも続こうとしたとき、スネイプがこちらを見た。黒い目が、ルークの手にある教科書へ落ちる。

 

「どうだった?」

 

 彼が尋ねた。

 一緒にいた二人も振り向いた。

 ルークはその顔を見てから、スネイプへ答えた。

 

「固まらなかった」

 

「色は?」

 

「少し濁った。先生は、前よりいいって」

 

 スネイプは小さく頷いた。

 

「じゃあ、次は刻んだ材料を見直せばいい」

 

「うん」

 

 ルークは一歩だけ近づいて言う。

 

「教えてくれて、ありがとう」

 

 スネイプの隣で、一人が退屈そうに体の向きを変えた。

 スネイプはそちらを見ずに答えた。

 

「礼は昨日も聞いたよ」

 

「今日、できたから」

 

 黒い目が戻ってくる。

 一瞬だけ、昨日、図書館で見たのと同じように口元が緩んだ。

 

「そう」

 

 それだけ言って、スネイプは仲間たちと歩いていった。

 ルークは大広間へ入った。

 グリフィンドールの席では、ベンが隣の場所を空けている。その少し先に、ジェームズたちがいた。

 ジェームズはこちらを見た。今のやり取りが見えていたのかは、分からなかった。

 ルークが座ると、ベンは皿を押して寄越した。

 

「どうした?」

 

「何が」

 

「立ってたから」

 

「別に」

 

 パンを一つ取る。

 向こうでは、シリウスが何か話していた。ジェームズがそちらへ向き直り、笑う。

 少し離れた席にはリリーがいた。友人の話を聞きながら、頷いている。

 昨日は、その三人とも、自分に時間を使ってくれた。

 ルークは鞄から魔法薬の教科書を出した。頁の間に挟んでいた羊皮紙が、机へ落ちる。

 自分の大きな字の横に、細く、傾いた文字があった。

 煮立てない。スネイプが書き直してくれたところだ。

 

「それ、あとで貸してくれるんだろ?」

 

 ベンが言った。

 ルークは羊皮紙を拾った。折れていた端を指で伸ばし、教科書へ挟み直す。

 

「うん」

 

 返事をしてから、まだ何も書いていない余白に目を落とした。

 薬のことなら、次に聞くことがあった。それ以外にも聞きたいことができていた。けれど、昨夜のジェームズの顔を思い出すと、口に出す言葉はすぐには決まらなかった。

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