MCU世界で『ただいま』を言えない怪物 作:お砂糖さらさら
私は事前に持ち込んでいたノートパソコンを壁のメインデータポートへと直結させ、要塞の内部構造、および全セクターの防衛マップを1/1000秒のクロック数で完全取得。即座にナターシャとエレーナ、3人の専用端末へとそのナビゲーションデータを暗号同期・共有した。
データ抽出を完了した次のミリ秒、役目を終えて手荷物となったノートパソコンの分子構造を、私は体内のアマダムの物質・原子操作能力によって一瞬にして融解。
サラサラサラ……。
重厚な精密機械だったはずのそれは、火花も音も立てずに、ただの物言わぬ無害な砂の粒子へと姿を変え、私の指先から床へと虚しく零れ落ちていった。
「バナー博士によって量産されたあの紅い洗脳解除ガスの追加分は、現在上空でホバリングしているステルス・アークに可能な限り積載されています。確実に彼女たちの洗脳を解除し、生存マージンを黒字にしながら前進しましょう」
私は金髪のボブカットを微かに揺らし、完璧なエリンの無表情のまま、冷酷な戦術のインデックスを2人の姉妹へと並べ立てた。
「支配者であるドレイコフとて、これまでの研究成果である世界中のウィドウの資産データをそう簡単にはデリートしないと算定します。
ですが、彼はすでにブダペストの段階で二桁近いウィドウの通信ログが強制遮断された異変を検知し、警戒の閾値を跳ね上げているはず。
最悪の場合、彼の命の灯火が消えかけたとしても、私の『独立生体サーバー』に彼の脳殻を直接突っ込んで、ニューロンの最深部レジストリからすべての情報を力ずくで引きずり出す処理を第一優先に切り替えます。ですから、できれば彼は殺さないように制動してください」
私はコートの内側から、物質変換によって急ピッチで成型した、特殊なUSB端子のついた奇妙な生体デバイスを2人へ向けて差し出した。
「どうぞ。先ほどの情報共有端末とは別に、もし要塞のメインシステムの差し込み口を見つけたら、有無を言わずにこれを深々と挿入してください。直結した瞬間、私の生体サーバーへレッドルームの全権限が逆流流入し、システム全体の完全な乗っ取りを執行します。
なお、ドレイコフという個体は、自らの体臭や声紋そのものを物理的なインターフェースにして、ウィドウたちの脳に絶対的な服従のロックを仕掛けている可能性が極めて高い。
……そのフェロモンの拒絶ルールを完全に引き算するため、ドレイコフの処理は、洗脳経験を持たないこの私が直接、前線で対処します。それでは皆さん、各自のタスクへ向けて、頑張りましょう」
「ちょっと、生体サーバーって何? 脳を突っ込んで引きずり出すって何!? ……いや、お願いだから説明しないで、知りたくない、絶対に教えないで!!」
エレーナは狂気的な怪物の合理主義に完全に頭をバーストさせ、戦慄のあまり顔を引きつらせながら絶叫した。
ナターシャはプロの戦闘服に身を包みガスマスクを装着する、エレーナもまたガスマスクを装着し最新のタクティカル・ベストの弾倉をがっちりと固定した完全武装状態。
その隣で、私は二十歳の仕様値のまま、いつものマットな質感の黒いコートを燕の尾のように不気味に翻しただけの、ただの普段着の佇まいで通路の真ん中に直立していた。
衣服の下、皮膚の裏側で、チタウリの電磁シールド特性【電磁的パッシブ・ステルス】、そしてかつてベックの技術をハック同化して内製化を完了させていた【B.A.R.F.膜】を一斉に最大臨界で同時駆動させる。
次の瞬間、大気の光学的屈折率が滑らかに変態し、私の金髪ボブの輪郭、黒いコートの質量そのものが、現実世界のレンズや現役ウィドウたちの肉眼から、1ビットの残像も残さずにスウゥゥと完全に消滅し完璧な静寂で満たされた。
「本当、最高に可愛げがないけど。頼もしいわね」
ナターシャは妹の肩を軽く叩き、不敵なスパイの目を鋭く尖らせて銃を構えた。
「それじゃあ、エレーナ。私たちはあの子が城の首根っこをハックして回るそのドサクサの隙に、脱出用の足を確保したり、捕まった女の子たちの洗脳を片っ端から解除して回りましょうか。お姉ちゃんの意地を見せる番よ」
「信じらんない。あのアベンジャーズって、全員あんな化け物なわけ?」
エレーナは呆然と呟きながらも、姉の背中を追うようにして、赤いガス玉の詰まったバックパックを引き締め、地を蹴った。
笑わない怪物の、光学迷彩を纏った死神の行進。
ドレイコフの築き上げてきた偽物の牙をすべて世界から引き算し、空中要塞そのものを退職金のアセットとして強奪するための最終蹂躙戦の火蓋が雲の上の檻の中で切って落とされるのだった。
◆ ◆ ◆
カツン、カツン、カツン。
完全に気配と光学的質量を引き算された私の足音が、不気味な医療機器の電子音だけが響く手術室のコンクリート床を冷たく叩いていた。
透過ディスプレイが放つ冷たい青白い光に照らされていたのは、冷酷な実験台の上に拘束され、新たな生体ハッキングを施されかけている一人の若いウィドウの姿。そして、その細い肉体に無慈悲なメスを向けようとしていた、レッドルームの白衣の研究員たち。
彼らが自らの手元に生じた不自然な空気の密度の歪みを感知するよりも早く、私は右手のスリングリングを嵌めた指先を滑らかに一閃させた。
――パリン、パキパキパキッ!!!!
空間のソースコードが内側から強硬にハックされ、現実世界から100%隔離された独立領域『ミラー・ディメンション』の穴がゼロ秒で口を開ける。研究員たちは何が起きたか理解する間すら与えられず、叫び声のパルスを電網に踏ませる前に、鏡の向こう側の奈落の底へと一瞬でまとめて叩き落とされ、盤面から完全に引き算された。
「……これより、検体の救出、および生体バグの物理的切除を執行します」
低く、わずかに掠れた、血の通わない平坦な声音。
私は実験台へ肉薄すると、用意していた紅い量産型解除ガスを彼女の顔面へとダイレクトに破裂させ、脳内の洗脳レジストリを強制上書き中和した。大混乱のパルスを起こして目を見開く彼女を拘束具から解放し、私は自らの漆黒の指先を、彼女の項の皮膚へとそっと触れさせた。
衣服の下、全細胞の構造をミリ秒単位で操作する。
ジュルリ。不気味な生体組織の摩擦音を立てて、私の指先から粘り気のある黒い生体組織の触手がドロリと露出。彼女の項の肉の割れ目、組織の隙間へと滑り込み、神経ネットワークに直接寄生していた高密度の「位置発信・服従制御チップ」の分子構造を完璧にロックした。
そのまま、肉の可動域を最小限の仕様値に留めながら、肉をかき分けるようにしてチップを物理的に強硬に抽出、指先でプチリと木端微塵に噛み砕いて完全破壊した。
間髪入れず、先代クウガのアマダムから受け継いだ物質変換の式を、傷ついた断面へとダイレクトに流し込む。
パキ、ピキピキピキ……!
引き裂かれていた肉組織、および毛細血管の分子間結合が、瞬時に元の正常な繊維へと再結合され、何事もなかったかのように、傷一つない完璧な元の皮膚の仕様値へとその場で滑らかに修復・復調を完了した。
――【生体サーバー:外部アクセス・インジェクションを検知】
網膜の端に、鮮やかな緑色の同期完了ログが美しくポップアップした。
要塞の最暗部、メインデータポートの差込口へと、ナターシャ・ロマノフの手によってあの特殊USB生体デバイスが深々と挿入されたのだ。
直結したそのミリ秒、私の独立生体サーバーからレッドルームの全中枢システムへ向けて、トニーのマーク42をハックした時と同じ、最大臨界の攻勢ウイルスによる上書きコマンドが一斉に雪崩れ込んだ。
バチバチバチバチッ!!!!!
要塞全体のメインフレームが悲鳴を上げて明滅する。世界中のウィドウたちの全資産データベース、および現在進行形で稼働している暗殺タイムラインの全ソースコードが、私のサーバーのなかに生のデータのままドクドクと逆流同期・完全掌握されていく。
『――システムコントロールの掌握率、現時点で84%。ドレイコフの防壁は完全に決壊しました、エリン』
脳内に響く、遠い地から情報支援を行うヴィジョンのクリアな音声コード。
異変を察知し、自家用の脱出シャトルへ向かって回廊を逃走し始めた老いた支配者――ドレイコフの醜悪なバイタルパルスが、私の生体センサーに明瞭に引っかかった。
「逃がしませんよ、ドレイコフさん。あなたのそのインフラは、現時刻を以て差し押さえられました」
思考同期一つ。ハック完了したレッドルームのセキュリティ・グリッドへ、私は冷酷な遮断コマンドを執行した。
ガガガグォッ!!! バチン!!! と凄まじい金属の激突音を立てて、ドレイコフの目の前にあった何重もの頑強な防弾ブラインド隔壁が内側からのハック指令によって一瞬で強制閉塞・完全ロックされた。
退路の物理的完全遮断。
私は黒いコートの裾を燕の尾のように不気味に、そして美しく風に翻しながら、完璧なエリンの無表情のままドレイコフの首根っこを直接力ずくで確保するため、無音の足取りで要塞の最深部へと滑らかに激走を開始するのだった。
光学迷彩のまま、私はシャッターの奥で行き止まりに陥っていたドレイコフの背後へと、音もなく滑らかに肉薄した。
筋肉を内側で最大励起させ、生身の剛腕を伸ばして老いた支配者の首根っこを掴み取ると、そのまま冷たい床へと無慈悲に叩きつけた。
「ガ、はっ……っ!?」
床がひび割れる凄まじい衝撃。
彼が恐怖の心音をバーストさせるその最初の1ミリ秒の隙間、私は自らの漆黒の指先を、アマダムの原子操作能力によって超高熱を帯びた「光のメス」の仕様へと完全変態させた。
躊躇はない。
ドレイコフが持つ要塞の最高管理権限、その生体認証アセットを物理的に毟り取るための、冷徹な引き算の執行。
私は彼の右手の指の骨格、および結合組織を分子レベルで強硬に両断し、片手の指をまとめて滑らかに切断。
続けて、彼の脳神経や基幹血管に1ミクロンの傷もつけない極限の最小値の加減を脳内CPUで瞬時に弾き出し、彼の片目の眼球を、その奥の組織ごと綺麗に抉り取った。
あらかじめ用意していた、生体データを永続保護するための特殊培養液が詰まったシリンダーの中へ、奪い取った眼球と指のアセットを無機質に沈めて密閉・隔離する。その実物物証をコートの内側へ格納すると同時に、私はドレイコフが握り締めていた端末を遠くの壁際へと蹴り飛ばして排除した。
さらに、私は彼の喉元へと右手を触れさせ、モーフィングパワーを流し込。
パキパキ、ゴリッ!!!
声帯、および軟骨の構造を強硬に歪曲・上書き。彼がどれほど大声でウィドウたちへ「服従の音声コマンド」を放とうとも、その響きそのものが一瞬でバグを起こして不協和音と化す、声紋の強制歪変。
「こんにちは、ドレイコフさん。率直に質問します」
私は完璧なエリンの無表情のまま、オッドアイの色彩を消灯させた焦げ茶色の瞳で彼を見下ろし、血の通わない平坦な声音を滑り込ませた。瞬きの回数は、一秒に0.8回。
「これからあなたが、頼むから殺してくれと何百回叫んでも絶対に殺してくれない奈落へ行くのと。すべての罪をデータ放流で告白し、司法という名の生温い人間のインフラに身を委ねるのと。脳のニューロンを私に弄くられて、ただの物言わぬ人形になるのと。一体どれが、あなたにとって最も割安なコストですか? ……2秒で、返事しなさい」
「……、……ッ!?」
喉を潰され、歪んだ空気の摩擦音しか出せない老支配者。
「ワン」
「ツー」
冷酷な、クロック数に狂いのないカウント。
回答の遅延を無駄な処理コストと判定した私は、一切の感情を引き算したまま、抉り出した彼の左の眼窩、その外側の骨の隙間へと、Hardox鋼板並みに固めた漆黒の指先を強硬に押し込み、ベキリと音を立てて外殻をへし折った。
「ガ、アァ、アァァァァッ!!!」
「ワン」
「ツー」
再びの冷徹な秒針の刻み。彼が激しい激痛のパルスで肉体を痙攣させるのをただのバイタルデータとして冷たく処理しながら、私はさらにその指先を奥へと強硬に押し込んだ。
指先が、内側の外眼筋へと直接、ザク、と無慈悲に突き刺さる。
「ワン」
「ツー」
三度目の、逃げ場のないデッドライン。
完璧な無感情の無表情。私の指先へ、さらに人外の電圧が加わる。
ベキンッ!!!
凄まじい骨の砕ける不快なノイズ。
私の指先は彼の眼窩の底を完全に貫通し、細かく砕け散った骨の鋭利な破片が、眼下の神経組織へと深く、無数に突き刺さっていった。
「――ル、ガァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
もはや人間のそれではない、地獄の底から響くような獣の絶叫が、隔離された回廊を激しく震わせる。
だが、その血に塗れた凄惨な大惨劇のど真ん中に直立しながらも、怪物の少女の生存演算は、空中要塞レッドルームの全権限の完全な上書きへ向けて、1ミクロンの狂いもなく、冷酷に次の式を組み立て続けるのだった。
床に散らばった骨と肉の残渣を生体組織の触手で無機質に回収し、彼の側頭部へ融着させると、モーフィングパワーによって強硬に再縫合・治療。さらに喉の組織の歪みをミリ秒単位で一時的に反転させ、最低限の声が出せる程度にまで発声回路をアジャストすると、私はドレイコフの残された右目を冷たく覗き込み、再び同じ数式を突き付けた。
「もう一度問います。
これからあなたが、頼むから殺してくれと何百回叫んでも絶対に殺してくれない奈落へ行くのと。すべての罪をデータ放流で告白し、司法という名の生温い人間のインフラに身を委ねるのと。脳のニューロンを私に弄くられて、ただの物言わぬ人形になるのと。一体どれが、あなたにとって最も割安なコストですか? ……2秒で、返事しなさい」
「あ……、が、頼む、何でもする、何でもするから許してくれ……!!」
ドレイコフは潰れかけた喉から、かすれた、しかし必死に命を繋ぎ止めようとする人間の醜悪な悲鳴をラウンジの残響のように絞り出した。
だが、その命乞いを聞いた私の脳内CPUは、ただただ感情の乗らない冷徹な算定を弾き返す。
「私は、選択肢を選べと言っているのですよ、ドレイコフさん」
一片の慈悲もない、完璧なエリンの無表情。
私は先ほど修復したばかりの彼の側頭部へと、Hardox鋼板並みに固めた漆黒の指先を再び容赦なく押し込み始めた。
「ワン」
「ツー」
クロック数に狂いのない、絶対的なカウントダウン。
回答の拒絶、および処理遅延を継続した老支配者の頭蓋が、私の人外の圧力によって、メキメキと不気味な音を立てて内側へと歪み始めるのだった。
◆ ◆ ◆
「時間切れのようですね、ドレイコフさん」
完璧なエリンの無表情のまま、私は冷酷にカウントを打ち切った。
指先から伝わるメキメキという頭蓋の軋み音を脳内CPUはただの数値として処理する。ナターシャがメインデータポートに挿入した生体デバイスを介し、私の独立生体サーバーへレッドルームの全権限の流入が完了したのだ。
データベースの情報はすべて100%確保され、もはやこの老いた支配者の自白すら、私の生存演算において1ビットの価値もない不要な処理コストへと引き算されていた。
――【生体サーバー:2機目のステルス機の現地上空へのデリバリーを承認】
――【自動シークエンス:大量生産型解除ガス搭載ドローンの射出を執行】
要塞の防衛バリアが決壊したその同じミリ秒、上空で待機していた2機目の光学迷彩戦闘機から、バナー博士の量産型解除ガスを搭載した数百機の自立型ドローンが、ハッチをあけ放たれて蜂の巣をつついたように一斉に内部へと侵入・なだれ込んでいった。
ドローンは網の目のように回廊を激走し、配置されていた現役ウィドウたちの顔面へ向けて、ピンポイントで紅いガスを最大臨界で自動噴射・吸引させていく。
道具としてすり潰されてきた少女たちの脳内洗脳レジストリが、一瞬にしてオート処理で次々と書き換えられ、正常値へと反転・救出されていく圧倒的な超大黒字のタイムライン。
その間も、システムエラーを起こして恐慌に陥ったドレイコフの残党のネズミどもは、回廊の随所でプラチナブロンドの髪を揺らしたナターシャとエレーナの圧倒的なスパイの手際によって、物言わぬ気絶ログへと次々に打倒・排除されていた。
「あ……、あ、が、頼む……」
自身の築き上げてきた帝国が1秒で完全に強奪され、四方をシャットダウンされた床の上で、文字通りの恐慌を起こしてのたうち回り始めたドレイコフ。
私は彼が自爆等の致命的なエラーパルスを起動する前に、コートの内側から引き抜いた特殊な鎮静薬物のシリンダーを、彼の細い頸椎へと無慈悲にダイレクトに突き刺し、流し込んだ。
薬物の急激な制動により、彼の心音は一瞬で凪ぎ、糸が切れたように昏睡の底へと滑り落ちていった。処理、完了。
ピ、と人外の硬質な指先が専用端末の暗号回線を殴るようにしてプッシュした。
「こちらエリン。ナターシャさん、ベローワさん、聴こえますか」
喉の筋肉の摩擦を正確に固定し、血の通わない平坦な声音をブダペストの電波に乗せて滑り込ませる。瞬きの回数は一秒に0.8回。
「ドレイコフの身柄の公式な確保を完了しました。戦術的な必要経費として彼を多少拷問しましたが、生存の仕様値は満たしています。データベースの全同期は終了。
現在、2機目のステルス機から射出されたドローン群が全階層で救出の式を執行中ですので、あなた方の端末に表示されるリアルタイムの発信に注視し、連携してください」
完璧な隠蔽と、完璧な清算。お母さんの待つヘルズ・キッチンの日常を永久に守り抜くため、アベンジャーズのルールを完全に置き去りにした怪物の、これが最後の最高の実務報告のインデックスだった。
――【生体プロセッサ:ドレイコフの脳内レジストリ、完全なオフライン隔離を執行】
――【判定:生体認証アセットの永続的保持、および情報抽出パーツへの相転移――100%完了】
私は、薬物によって強制昏睡させたアルドリッチ・キリアン以上の悪辣なる老支配者、ドレイコフの側頭部へ、自らの漆黒の指先をそっと触れさせた。指先から伸びた粘り気のある黒い生体組織、有機光ファイバーの触手が、彼の耳腔から脳髄の最深部へとドロリと滑り込み、神経ネットワークを完全にスタンドアロンで私の『独立生体サーバー』の最下層へと直結・ハックしていく。
「おやすみなさい、ドレイコフさん。私の肉の檻の中で、死ぬことも許されぬまま、永久に世界中のウィドウたちの洗脳を解除するためのパーツとして、仕様値を満たし続けなさい」
低く、わずかに掠れた、血の通わない平坦な聲音。
彼がこれまで世界中で少女たちをすり潰して構築してきた「レッドルーム」のすべての隠蔽ログや服従のキーワードは、これで私の生体サーバーのなかで永久に自動デコード・初期化されるインフラへと上書きされた。
重厚な防弾シャッターが内側からのハック指令によって左右にあけ放たれ、通路の奥からプラチナブロンドの髪を揺らしたナターシャ・ロマノフ、そしてタクティカル・ベストを血に染めたエレーナ・ベローワの2人の姉妹が、プロの隠密の足取りで部屋へと突入してきた。
「エリン! ドレイコフは……、そいつは一体どうなったの!?」
ナターシャの緑色の眸が、実験卓の横で完全に沈黙し、私の肉の触手と直結されてバイタルモニターの数値を無機質に刻んでいる老人の姿を捉えて硬直した。エレーナもまた、自らの人生を地獄に変えた黒幕の無惨な成れの果てに、息を呑んで立ち尽くしている。
「処理、および資産の差し押さえは完了しました、ナターシャさん」
私は完璧なエリンの無表情のまま、コートの裾を整えた。
「これより、最終作戦の式を執行します。……この空中要塞レッドルーム、および救出した30数名のウィドウたちの身柄。公的機関やシールドの生き残りどもに明け渡せば、数年後に必ず別の裏切り者の手によって再利用されるのは確定した仕様値です。
ですから、この城は私のこれまでの危険物対応の労働対価――あるいはウィドウ達への退職金として、私が個人的に丸ごと強奪し、宇宙の最果てへワープ隠匿します」
誤字報告、感想、お気に入り、評価ありがとうございます。
拷問シーンは拷問シーンを入れたかっただけで特にドレイコフが何を言おうが末路は変わりません。