『上杉家の天才双子の弟は、五つ子たちを見捨てない』   作:夜幻

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第6話 テスト前、三人三様の想い

「今日は、テスト範囲を全部確認する」

 

風太郎がホワイトボードに教科名を書いていく。

 

数学。

 

英語。

 

国語。

 

理科。

 

社会。

 

その五文字を見ただけで、四葉の顔が曇った。

 

「……多いです」

 

「当たり前だ」

 

「五教科ですよ?」

 

「高校生なら普通だ」

 

「普通って怖い言葉ですね……」

 

一花が吹き出した。

 

「四葉ちゃん、そこに気づいちゃった?」

 

「だって五教科ですよ!?」

 

「だから勉強するんだ」

 

風太郎は容赦がない。

 

「テストまで時間がない。今日からは苦手分野を重点的に潰す」

 

「……分かった」

 

三玖が問題集を開く。

 

その隣で、二乃も渋々ページをめくった。

 

五月は既にノートを広げている。

 

孝鷹は三人の様子を見ながら、にこりと笑った。

 

「みんな、昨日よりずっと早く机に向かうようになったね」

 

「……孝鷹君に褒めてもらえるなら」

 

五月が小さく呟く。

 

「ん?」

 

「い、いえ! 何でもありません!」

 

五月が慌てて顔を伏せる。

 

二乃が横からちらりと見る。

 

「……分かりやす」

 

「二乃!」

 

「何よ」

 

「今、何か言いましたよね?」

 

「言ってない」

 

「絶対言いました!」

 

「五月、勉強しろ」

 

風太郎の冷静な一言が飛んできた。

 

「……はい」

 

五月は大人しく問題集へ戻った。

 

孝鷹は笑いながら、三玖のノートを覗き込む。

 

「三玖、英語はどう?」

 

「……昨日より分かる」

 

「おお!」

 

「戦国時代に置き換えると、覚えやすい」

 

「やっぱり好きなものを使うのは強いね」

 

三玖は少しだけ笑った。

 

「……孝鷹のおかげ」

 

「俺だけじゃないよ」

 

「……でも」

 

三玖は鉛筆を握ったまま、孝鷹を見る。

 

「私の好きなものを覚えててくれた」

 

「当然じゃん」

 

「……当然?」

 

「うん」

 

孝鷹は何の迷いもなく答える。

 

「友達が好きなものなら、覚えておきたいでしょ?」

 

「……」

 

三玖は黙った。

 

友達。

 

その言葉に、少しだけ胸が痛む。

 

自分にとっては。

 

それだけではない気がしていた。

 

「……孝鷹」

 

「ん?」

 

「私……」

 

「?」

 

「……なんでもない」

 

三玖は視線を落とした。

 

まだ。

 

言葉にする勇気はなかった。

 

その様子を、二乃が見ている。

 

「……」

 

二乃は少しだけ唇を尖らせた。

 

「ねえ、孝鷹」

 

「ん?」

 

「私も質問」

 

「もちろん」

 

二乃が問題集を差し出す。

 

「ここ」

 

「どれ?」

 

「この英文」

 

孝鷹が隣に座る。

 

「これはね――」

 

「……近い」

 

「え?」

 

「いや」

 

二乃は顔を逸らす。

 

「何でもない」

 

孝鷹は不思議そうに首を傾げた。

 

「じゃあ、ここをこう分けると……」

 

「……」

 

二乃は説明を聞きながら、横顔を見ていた。

 

近い。

 

思っていたよりずっと。

 

京都で会ったときも。

 

この人はいつも自分たちのそばにいた。

 

あの頃は。

 

ただ優しい男の子だと思っていた。

 

でも。

 

今は違う。

 

「……ねえ」

 

「何?」

 

「孝鷹ってさ」

 

「うん」

 

「誰にでも、こんなに優しいの?」

 

孝鷹は少し考えた。

 

「そうかな?」

 

「そうよ」

 

「うーん……」

 

孝鷹は笑った。

 

「困ってる人がいたら助けたいとは思うよ」

 

「……ふーん」

 

二乃は頬杖をついた。

 

「じゃあ、私だけ特別じゃないんだ」

 

「え?」

 

「……何でもない!」

 

二乃は問題集を顔の前に立てた。

 

孝鷹はますます分からない。

 

「変なの」

 

「……本当に鈍い」

 

二乃が小声で呟いた。

 

その頃。

 

五月は黙々と問題を解いていた。

 

「……」

 

カリカリ。

 

一問。

 

二問。

 

三問。

 

そして。

 

「できました」

 

「見せて」

 

孝鷹が答案を見る。

 

「……惜しい」

 

「え?」

 

「ここ、計算が一つだけ違う」

 

「……」

 

五月の表情が曇る。

 

「また……」

 

「五月」

 

「はい」

 

「前より減ってるよ」

 

「……え?」

 

「計算ミス」

 

孝鷹は答案を指差す。

 

「昨日は三つあった」

 

「……」

 

「今日は一つ」

 

五月は目を見開いた。

 

「本当ですか?」

 

「本当」

 

「……」

 

五月は答案を見つめる。

 

「私……少しは成長していますか?」

 

「もちろん」

 

孝鷹は笑う。

 

「ちゃんと頑張ってるからね」

 

「……」

 

五月の頬が少し赤くなる。

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

「……孝鷹君」

 

「ん?」

 

「私、もっと頑張ります」

 

「うん」

 

「あなたに、ちゃんと『できました』って言えるように」

 

孝鷹は嬉しそうに笑った。

 

「楽しみにしてる」

 

五月は胸に手を当てた。

 

まただ。

 

この人に認めてもらえると。

 

もっと頑張りたくなる。

 

「……」

 

五月は自分でも不思議だった。

 

勉強を頑張る理由が。

 

少しずつ変わってきている。

 

その時。

 

「よし!」

 

風太郎が立ち上がった。

 

「一度、模擬テストをやるぞ」

 

「今!?」

 

四葉が叫ぶ。

 

「今だ」

 

「聞いてません!」

 

「今言った」

 

「横暴です!」

 

「うるさい」

 

風太郎は五人に問題を配った。

 

「制限時間は三十分」

 

「三十分……」

 

四葉が青ざめる。

 

「大丈夫だよ」

 

孝鷹が声をかける。

 

「今までやったことを、そのまま使えばいい」

 

「はい!」

 

四葉が頷く。

 

「やります!」

 

「始め!」

 

五人が一斉に問題を解き始める。

 

静寂。

 

鉛筆の音だけが響く。

 

カリカリ。

 

カリカリ。

 

三玖は英文を読む。

 

二乃は料理のレシピを思い浮かべるように文章を分解する。

 

五月は一つ一つ丁寧に確認する。

 

四葉は何度も途中式を見直す。

 

一花は覚えた単語を思い出す。

 

三十分後。

 

「終了」

 

風太郎が答案を集めた。

 

「……」

 

五人が緊張した顔で待つ。

 

風太郎は採点を始めた。

 

一枚。

 

二枚。

 

三枚。

 

四枚。

 

五枚。

 

「……」

 

風太郎の表情が少し変わった。

 

「どうですか?」

 

五月が尋ねる。

 

「……前よりはマシだ」

 

「それだけ?」

 

二乃が不満そうにする。

 

「だが」

 

風太郎は答案を並べた。

 

「全員、前回より点数が上がっている」

 

「……!」

 

四葉の顔が輝く。

 

「本当ですか!?」

 

「ああ」

 

「やったぁ!」

 

四葉が両手を上げた。

 

一花もほっとしたように笑う。

 

「よかった」

 

三玖は答案を見る。

 

「……私も」

 

二乃も自分の点数を確認する。

 

「……」

 

そして。

 

五月が小さく息を吐いた。

 

「……よかった」

 

孝鷹は五人を見渡した。

 

「みんな、頑張ったね」

 

「……」

 

三玖が孝鷹を見る。

 

二乃も。

 

五月も。

 

三人とも、同じように胸が熱くなった。

 

点数が上がったことも嬉しい。

 

でも。

 

それ以上に。

 

「頑張ったね」

 

その一言が嬉しかった。

 

「よし!」

 

孝鷹が立ち上がる。

 

「じゃあ、この調子でテストまで続けよう!」

 

「おー!」

 

四葉が拳を上げる。

 

一花も笑う。

 

「頑張ろうか」

 

「……うん」

 

三玖が頷く。

 

二乃は小さく息を吐いた。

 

「仕方ないわね」

 

五月は真っ直ぐ孝鷹を見る。

 

「はい!」

 

五人の勉強は。

 

確実に前へ進んでいた。

 

そして同時に。

 

五月、二乃、三玖。

 

三人の胸の中にも。

 

少しずつ、別の感情が育ち始めていた。

 

 

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