『上杉家の天才双子の弟は、五つ子たちを見捨てない』   作:夜幻

9 / 10
第9話 五人の努力、その答え

テストが終わって、数日。

 

 昼休みの教室。

 

「……遅い」

 

 二乃が机を指で叩く。

 

「何が?」

 

 一花が隣から尋ねる。

 

「結果よ、結果」

 

「二乃、気にしてるんだ?」

 

「べ、別に!」

 

 二乃は顔を逸らした。

 

「ただ、自分がどれくらい取れたか確認したいだけ!」

 

「ふふっ」

 

「何よ、一花」

 

「ううん。珍しいなって思って」

 

「何がよ」

 

「前なら、テストなんてどうでもいいって言ってたじゃん」

 

「……」

 

 二乃が黙る。

 

 少しして。

 

「……今回は、ちゃんとやったから」

 

 小さな声だった。

 

「だから……知りたいのよ」

 

「そっか」

 

 一花は笑った。

 

 その頃。

 

 職員室前。

 

「風太郎」

 

 孝鷹が廊下を歩いてくる。

 

「先生から呼ばれたって聞いたけど」

 

「ああ」

 

 風太郎は腕を組んでいた。

 

「結果が出たらしい」

 

「おお!」

 

 孝鷹の顔が明るくなる。

 

「じゃあ、五人の点数も?」

 

「たぶんな」

 

「楽しみだなぁ」

 

「お前、本人たちより嬉しそうだな」

 

「そりゃそうだよ」

 

 孝鷹は笑った。

 

「みんな頑張ってたから」

 

「……そうかよ」

 

 風太郎は少しだけ目を細めた。

 

 やがて、答案用紙が返却された。

 

「はい。次」

 

 教師から一人ずつ答案が渡されていく。

 

 そして――。

 

「中野」

 

「はい」

 

 五月が答案を受け取る。

 

「……」

 

 点数を見る。

 

「……!」

 

 思わず目を見開いた。

 

「どうだった?」

 

 一花が聞く。

 

「……上がっています」

 

「本当?」

 

「はい!」

 

 五月の顔が明るくなる。

 

「前より、ずっと……」

 

 答案を握りしめる。

 

「頑張ってよかったです」

 

 隣では四葉も答案を見ていた。

 

「私も上がってます!」

 

「何点?」

 

「えっと……」

 

 四葉が数字を確認する。

 

「……前より二十点くらい高いです!」

 

「すごいじゃん!」

 

 一花が笑う。

 

「やったー!」

 

 四葉が両手を上げた。

 

「……静かに」

 

「すみません!」

 

 教師に注意され、四葉が小さくなる。

 

 それでも嬉しそうだった。

 

 二乃は、自分の答案をじっと見つめていた。

 

「……」

 

「二乃?」

 

「……上がった」

 

「どれくらい?」

 

「結構」

 

 そう言ってから、二乃は小さく笑った。

 

「……私、ちゃんとできた」

 

 その言葉には、今までとは違う響きがあった。

 

 誰かに褒められたいからではない。

 

 自分自身で、自分の努力を認められた。

 

 それが嬉しかった。

 

 三玖も答案を眺めている。

 

「……」

 

「どうだった?」

 

 五月が尋ねる。

 

「……英語が上がった」

 

「本当ですか?」

 

「うん」

 

 三玖は答案を見つめたまま言った。

 

「歴史だけじゃなくて……他の教科も、前よりできた」

 

「すごいです!」

 

「……孝鷹のおかげ」

 

「え?」

 

「……なんでもない」

 

 三玖は顔を伏せた。

 

 そして放課後。

 

「どうだった!?」

 

 教室に入ってきた孝鷹が、開口一番に尋ねた。

 

「孝鷹、声大きい」

 

 一花が笑う。

 

「ごめんごめん!」

 

「結果なら、もう出たわよ」

 

 二乃が答案を見せる。

 

「おお……!」

 

 孝鷹が目を輝かせる。

 

「二乃、すごいじゃん!」

 

「……まあね」

 

「ちゃんと上がってる!」

 

「だから、言ったでしょ」

 

「うん!」

 

 孝鷹は本当に嬉しそうだった。

 

「三玖は?」

 

「……これ」

 

 三玖が答案を差し出す。

 

「おお!」

 

 孝鷹は目を丸くする。

 

「英語、かなり上がってる!」

 

「……うん」

 

「すごいよ、三玖!」

 

「……ありがとう」

 

 三玖は少しだけ微笑んだ。

 

「五月は?」

 

「こちらです」

 

 五月が答案を渡す。

 

「……おお!」

 

「計算ミス、かなり減りました」

 

「昨日言ってたもんね!」

 

「はい」

 

 五月は嬉しそうに頷いた。

 

「孝鷹君に『できました』と言えてよかったです」

 

「うん。俺も嬉しい!」

 

 その言葉を聞いた五月は、少しだけ照れた。

 

「……はい」

 

「じゃあ、私も!」

 

 四葉が答案を持って走ってくる。

 

「見てください!」

 

「おおっ!」

 

「数学、二十点くらい上がりました!」

 

「すごい!」

 

 孝鷹が両手を広げる。

 

「四葉、頑張ったな!」

 

「はい!」

 

 そして一花も答案を見せる。

 

「私も結構上がったよ」

 

「一花も!」

 

「ふふ。お姉さんだってやるときはやるんだよ」

 

「うん。みんな凄い!」

 

 孝鷹は五人を見渡した。

 

「本当に頑張ったんだね」

 

 その声には、からかいも冗談もなかった。

 

 ただ純粋な喜びだけがあった。

 

 五人は、少し照れながらも笑った。

 

 その後。

 

 風太郎が答案をまとめながら口を開く。

 

「全員、前回より上がった」

 

「本当?」

 

「嘘をつく理由がない」

 

 風太郎は五人を見る。

 

「ただし、まだ目標点には届いていない」

 

「……」

 

 四葉が少しだけ肩を落とす。

 

「でも」

 

 風太郎が続ける。

 

「勉強のやり方は間違ってなかった」

 

「風太郎君……」

 

「次は、もっと上げるぞ」

 

「はい!」

 

 五月が答える。

 

「やります!」

 

 四葉も続く。

 

「私も!」

 

 一花が笑う。

 

「もちろん」

 

 三玖も頷く。

 

「……うん」

 

 二乃は腕を組んで。

 

「当然でしょ」

 

 風太郎は少しだけ笑った。

 

「なら、次に行くぞ」

 

「……でも」

 

 孝鷹が手を挙げる。

 

「今日は休もう」

 

「え?」

 

 五人が振り返る。

 

「テスト、頑張ったんだからさ」

 

 孝鷹は笑う。

 

「一日くらい、思い切り遊んでもいいんじゃない?」

 

「……珍しいわね」

 

 二乃が目を丸くする。

 

「孝鷹君は、もっと勉強しようと言うと思っていました」

 

 五月も驚いている。

 

「俺だって休むよ!」

 

「お前、昨日も休んでただろ」

 

 風太郎が突っ込む。

 

「それは部活!」

 

「同じだ」

 

「違うって!」

 

 笑い声が広がる。

 

「そういえば」

 

 一花がスマートフォンを見ながら言った。

 

「今週末、花火大会があるみたい」

 

「花火大会!?」

 

 四葉の目が輝く。

 

「行きたいです!」

 

「……花火」

 

 三玖も小さく呟いた。

 

「いいじゃない」

 

 二乃も頷く。

 

「テスト終わったんだし」

 

 五月は少し考えてから。

 

「……私も、行ってみたいです」

 

 五人の視線が孝鷹へ集まる。

 

「え?」

 

 孝鷹は目を瞬かせた。

 

「俺?」

 

「そう」

 

 一花が笑う。

 

「孝鷹も来るでしょ?」

 

「もちろん!」

 

 即答だった。

 

「じゃあ風太郎も」

 

「俺も?」

 

「兄弟で来ればいいじゃん」

 

「……まあ、いいけど」

 

 風太郎が頷く。

 

「決まり!」

 

 四葉が両手を上げた。

 

「花火大会です!」

 

「……」

 

 三玖は静かに笑う。

 

 二乃はそっと髪を整える。

 

 五月は胸元に手を当てた。

 

 まだ誰も、自分の気持ちを言葉にはできない。

 

 ただ――。

 

 もう少しだけ。

 

 孝鷹と一緒にいたい。

 

 そんな小さな気持ちが、それぞれの胸に芽生えていた。

 

 帰り道。

 

「孝鷹」

 

 風太郎が隣を歩きながら言う。

 

「ん?」

 

「今回の結果、どう思う?」

 

「最高だと思う」

 

「点数は?」

 

「それも大事だけど」

 

 孝鷹は夕焼けの空を見上げる。

 

「みんなが、自分から勉強するようになったことが一番嬉しいかな」

 

「……そうだな」

 

 風太郎も前を見る。

 

「俺も同じだ」

 

「じゃあ、次も頑張ろう」

 

「ああ」

 

 二人は並んで歩く。

 

 その先には、夏の気配が少しずつ近づいていた。

 

 そして――。

 

 五人との関係もまた。

 

 少しずつ、次の段階へ進もうとしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。