『上杉家の天才双子の弟は、五つ子たちを見捨てない』 作:夜幻
テストが終わって、数日。
昼休みの教室。
「……遅い」
二乃が机を指で叩く。
「何が?」
一花が隣から尋ねる。
「結果よ、結果」
「二乃、気にしてるんだ?」
「べ、別に!」
二乃は顔を逸らした。
「ただ、自分がどれくらい取れたか確認したいだけ!」
「ふふっ」
「何よ、一花」
「ううん。珍しいなって思って」
「何がよ」
「前なら、テストなんてどうでもいいって言ってたじゃん」
「……」
二乃が黙る。
少しして。
「……今回は、ちゃんとやったから」
小さな声だった。
「だから……知りたいのよ」
「そっか」
一花は笑った。
その頃。
職員室前。
「風太郎」
孝鷹が廊下を歩いてくる。
「先生から呼ばれたって聞いたけど」
「ああ」
風太郎は腕を組んでいた。
「結果が出たらしい」
「おお!」
孝鷹の顔が明るくなる。
「じゃあ、五人の点数も?」
「たぶんな」
「楽しみだなぁ」
「お前、本人たちより嬉しそうだな」
「そりゃそうだよ」
孝鷹は笑った。
「みんな頑張ってたから」
「……そうかよ」
風太郎は少しだけ目を細めた。
やがて、答案用紙が返却された。
「はい。次」
教師から一人ずつ答案が渡されていく。
そして――。
「中野」
「はい」
五月が答案を受け取る。
「……」
点数を見る。
「……!」
思わず目を見開いた。
「どうだった?」
一花が聞く。
「……上がっています」
「本当?」
「はい!」
五月の顔が明るくなる。
「前より、ずっと……」
答案を握りしめる。
「頑張ってよかったです」
隣では四葉も答案を見ていた。
「私も上がってます!」
「何点?」
「えっと……」
四葉が数字を確認する。
「……前より二十点くらい高いです!」
「すごいじゃん!」
一花が笑う。
「やったー!」
四葉が両手を上げた。
「……静かに」
「すみません!」
教師に注意され、四葉が小さくなる。
それでも嬉しそうだった。
二乃は、自分の答案をじっと見つめていた。
「……」
「二乃?」
「……上がった」
「どれくらい?」
「結構」
そう言ってから、二乃は小さく笑った。
「……私、ちゃんとできた」
その言葉には、今までとは違う響きがあった。
誰かに褒められたいからではない。
自分自身で、自分の努力を認められた。
それが嬉しかった。
三玖も答案を眺めている。
「……」
「どうだった?」
五月が尋ねる。
「……英語が上がった」
「本当ですか?」
「うん」
三玖は答案を見つめたまま言った。
「歴史だけじゃなくて……他の教科も、前よりできた」
「すごいです!」
「……孝鷹のおかげ」
「え?」
「……なんでもない」
三玖は顔を伏せた。
そして放課後。
「どうだった!?」
教室に入ってきた孝鷹が、開口一番に尋ねた。
「孝鷹、声大きい」
一花が笑う。
「ごめんごめん!」
「結果なら、もう出たわよ」
二乃が答案を見せる。
「おお……!」
孝鷹が目を輝かせる。
「二乃、すごいじゃん!」
「……まあね」
「ちゃんと上がってる!」
「だから、言ったでしょ」
「うん!」
孝鷹は本当に嬉しそうだった。
「三玖は?」
「……これ」
三玖が答案を差し出す。
「おお!」
孝鷹は目を丸くする。
「英語、かなり上がってる!」
「……うん」
「すごいよ、三玖!」
「……ありがとう」
三玖は少しだけ微笑んだ。
「五月は?」
「こちらです」
五月が答案を渡す。
「……おお!」
「計算ミス、かなり減りました」
「昨日言ってたもんね!」
「はい」
五月は嬉しそうに頷いた。
「孝鷹君に『できました』と言えてよかったです」
「うん。俺も嬉しい!」
その言葉を聞いた五月は、少しだけ照れた。
「……はい」
「じゃあ、私も!」
四葉が答案を持って走ってくる。
「見てください!」
「おおっ!」
「数学、二十点くらい上がりました!」
「すごい!」
孝鷹が両手を広げる。
「四葉、頑張ったな!」
「はい!」
そして一花も答案を見せる。
「私も結構上がったよ」
「一花も!」
「ふふ。お姉さんだってやるときはやるんだよ」
「うん。みんな凄い!」
孝鷹は五人を見渡した。
「本当に頑張ったんだね」
その声には、からかいも冗談もなかった。
ただ純粋な喜びだけがあった。
五人は、少し照れながらも笑った。
その後。
風太郎が答案をまとめながら口を開く。
「全員、前回より上がった」
「本当?」
「嘘をつく理由がない」
風太郎は五人を見る。
「ただし、まだ目標点には届いていない」
「……」
四葉が少しだけ肩を落とす。
「でも」
風太郎が続ける。
「勉強のやり方は間違ってなかった」
「風太郎君……」
「次は、もっと上げるぞ」
「はい!」
五月が答える。
「やります!」
四葉も続く。
「私も!」
一花が笑う。
「もちろん」
三玖も頷く。
「……うん」
二乃は腕を組んで。
「当然でしょ」
風太郎は少しだけ笑った。
「なら、次に行くぞ」
「……でも」
孝鷹が手を挙げる。
「今日は休もう」
「え?」
五人が振り返る。
「テスト、頑張ったんだからさ」
孝鷹は笑う。
「一日くらい、思い切り遊んでもいいんじゃない?」
「……珍しいわね」
二乃が目を丸くする。
「孝鷹君は、もっと勉強しようと言うと思っていました」
五月も驚いている。
「俺だって休むよ!」
「お前、昨日も休んでただろ」
風太郎が突っ込む。
「それは部活!」
「同じだ」
「違うって!」
笑い声が広がる。
「そういえば」
一花がスマートフォンを見ながら言った。
「今週末、花火大会があるみたい」
「花火大会!?」
四葉の目が輝く。
「行きたいです!」
「……花火」
三玖も小さく呟いた。
「いいじゃない」
二乃も頷く。
「テスト終わったんだし」
五月は少し考えてから。
「……私も、行ってみたいです」
五人の視線が孝鷹へ集まる。
「え?」
孝鷹は目を瞬かせた。
「俺?」
「そう」
一花が笑う。
「孝鷹も来るでしょ?」
「もちろん!」
即答だった。
「じゃあ風太郎も」
「俺も?」
「兄弟で来ればいいじゃん」
「……まあ、いいけど」
風太郎が頷く。
「決まり!」
四葉が両手を上げた。
「花火大会です!」
「……」
三玖は静かに笑う。
二乃はそっと髪を整える。
五月は胸元に手を当てた。
まだ誰も、自分の気持ちを言葉にはできない。
ただ――。
もう少しだけ。
孝鷹と一緒にいたい。
そんな小さな気持ちが、それぞれの胸に芽生えていた。
帰り道。
「孝鷹」
風太郎が隣を歩きながら言う。
「ん?」
「今回の結果、どう思う?」
「最高だと思う」
「点数は?」
「それも大事だけど」
孝鷹は夕焼けの空を見上げる。
「みんなが、自分から勉強するようになったことが一番嬉しいかな」
「……そうだな」
風太郎も前を見る。
「俺も同じだ」
「じゃあ、次も頑張ろう」
「ああ」
二人は並んで歩く。
その先には、夏の気配が少しずつ近づいていた。
そして――。
五人との関係もまた。
少しずつ、次の段階へ進もうとしていた。