一億年ぶりの食事。
そして、自分の黒歴史が歴史資料として保存されているという地獄。
刀也君の胃は休まる暇がありません。
「俺がノートの表紙に書いたやつなんだけど」
梔子刀也の呟きに、長い廊下の空気が止まった。
壁には古びた掛け軸。
黒い地に銀の文字で、
『凍てつく星辰を戴きし者、万象を白き終焉へ導かん』
と記されている。
忘れたくても忘れられない。
十四歳の自分が、極星凍剣術という架空の武術を思いついた直後、妙に格好いい言葉を書きたくなって考えた一文だった。
しかも当時は気に入りすぎて、ノートの表紙だけでなく最初のページにも大きく書いた。
今思えば二重に書く必要などまったくなかった。
「師父」
「今ちょっと喋らないで」
「なぜだ」
「心を守ってる」
「そうか」
ハクア・シラサギは素直に口を閉じた。
その素直さだけは本当にありがたい。
一方、屋敷の管理を任されている老人ロウエンは、掛け軸と刀也を交互に見ている。
「刀也様」
「様はいらないです」
「では、刀也殿」
「……まあ、それなら」
「今のお言葉は、いかなる意味でございましょう」
聞かれると思った。
当然の疑問である。
刀也は掛け軸を見上げたまま、どう答えるべきか悩んだ。
正直に言うなら簡単だ。
それ、中学生の俺が書いた恥ずかしい文章です。
だが、そんなことを言ったところで信じてもらえるだろうか。
いや。
今のハクアなら、別の方向へ全力で勘違いする。
「師父自らが残した言葉ということか」
「ほらもう始まった!」
「違うのか」
「違う……と言い切れないのが一番嫌なんだよ!」
書いたのは確かに刀也だ。
しかし「残した」という表現には猛烈な違和感がある。
誰かへ伝えるつもりなどなかった。
まして一億年後の人間に読まれる前提など皆無だった。
「とにかく」
刀也は額を押さえた。
「これ、どこから持ってきたの?」
「掛け軸そのものは三百年ほど前に作られた写しです」
答えたのはロウエンだった。
「写し?」
「はい。原文はさらに古い石板に記されていたと伝わっております」
「石板」
嫌な単語が出てきた。
「その石板って、もしかして遺跡から?」
「左様でございます。北方の旧文明遺跡より発見されたと」
「…………」
刀也は考える。
自分が書いたのはノートだ。
紙。
石板ではない。
ならば、一億年のどこかで誰かが文章を写し取ったのだろう。
問題は、どうしてそんなことをしたのかという点だ。
「その文章って、有名なんですか?」
「剣士の間では非常に」
「非常に……」
聞きたくなかった。
「極星凍剣術を志す者で知らぬ者は少ないでしょう」
「志す者って、そんなにいるんですか?」
ロウエンが僅かに驚いた顔をする。
「完全な修得者は剣天様ただお一人ですが、極星凍剣術そのものを研究する流派や学派は各地にございます」
「学派」
「はい」
「研究」
「はい」
刀也のこめかみが引きつる。
「つまり俺の黒――」
危ない。
今「黒歴史」と言いかけた。
言っても意味は通じないだろうが、説明を求められるとさらに苦しい。
「……その極星凍剣術を、本気で研究してる人が大勢いる?」
「少なくとも剣術史においては、最重要級の古代武芸の一つとされております」
「最重要級……」
刀也は壁へ手をついた。
胃が痛い。
本当に痛くなってきた。
一億年ぶりに空腹を感じた直後だというのに、食べる前から胃が拒絶反応を起こしそうである。
「師父、顔色が悪い」
「誰のせいだと思ってる」
「我か?」
「半分くらいは」
「すまない」
「素直に謝られるとこっちが困るんだよな……」
刀也は深く息を吐いた。
とりあえず今ここで極星凍剣術の歴史を追及するのはやめたほうがいい。
腹も減っている。
喉も乾いている。
身体の状態も完全には分からない。
まずは食事。
そのあとでゆっくり考えるべきだ。
「ロウエンさん」
「はい」
「先にご飯、もらってもいいですか」
「もちろんでございます。すでに準備を進めております」
「助かります」
ロウエンに案内され、刀也は屋敷の奥へ進んだ。
広い。
外から見ても大きかったが、中に入るとさらに広く感じる。
廊下は磨き上げられ、柱には精巧な彫刻が施されている。ところどころに飾られた壺や屏風らしき品も、素人目に見ても高価そうだった。
そのくせ人の気配は少ない。
「静かですね」
「剣天様は騒がしい環境を好まれませんので」
「なるほど」
「必要以上の人員は置いておりませぬ」
「この広さで?」
「現在、常勤は二十七名ほどです」
「二十七人いて少ない扱いなんだ」
現代日本の一般家庭からすれば多すぎる。
だが、この屋敷の規模を考えれば確かに少ないのかもしれない。
やがて一室へ通された。
広い座敷。
低い卓。
外には庭が見える。
白い花をつけた木々が風に揺れ、その向こうには山頂から見下ろす雲海が広がっていた。
「景色すごいな……」
「気に入ったか」
「うん。これは素直にすごい」
ハクアが僅かに目を細めた。
表情の変化はほんの少し。
しかし刀也も段々、彼女の感情が読み取れるようになってきた。
「嬉しい?」
「何がだ」
「いや、何でもない」
言ったら否定されそうなのでやめておく。
刀也が座ると、すぐに湯気の立つ器が運ばれてきた。
「おお……」
思わず声が出る。
白い粥。
細かく刻まれた青菜。
柔らかく煮込まれた根菜。
薄い色の汁物。
そして小さな器に、果実を潰したようなもの。
「ちゃんと胃に優しそう」
「長期の絶食後という事情を考慮し、刺激の少ないものを用意いたしました」
「ありがとうございます」
刀也は素直に頭を下げた。
一億年後の世界で、まさか最初の食事が粥になるとは思わなかった。
だが今は何よりありがたい。
「いただきます」
手を合わせる。
ロウエンが少し不思議そうな顔をしたが、何も言わなかった。
匙を取り、粥を少量すくう。
息を吹きかけ、口へ運んだ。
「…………」
温かい。
柔らかい。
味はかなり薄い。
それでも。
「うま……」
思わず漏れた。
特別豪華な味ではない。
むしろ病人食に近い。
それなのに、身体の中へ温かさが染み込んでいく感覚があった。
胃が動く。
空っぽだった腹の奥が、ようやく食べ物を受け入れたと実感する。
「大丈夫か」
正面に座ったハクアが聞いた。
「うん。今のところ平気」
「苦しくはないか」
「ない」
「吐き気は」
「ないよ」
「痛みは」
「ハクア」
「何だ」
「お母さんみたいになってる」
「母?」
「いや、忘れて」
「分かった」
刀也はもう一口食べる。
ゆっくり。
急がないように。
そのつもりだった。
ところが数口食べたところで、妙な変化が起きた。
「……あれ?」
空腹が強くなった。
普通なら食べれば落ち着くはずなのに、逆だった。
最初は小さかった食欲が、食べ物を口にするたびに急速に膨らんでいく。
「どうした」
「いや、何か……もっと腹減ってきた」
「食べたのに?」
「そうなんだよ」
胃が痛いわけではない。
気分も悪くない。
むしろ身体が食事を歓迎している。
それどころか、
もっと寄越せ。
そう訴えているような感覚すらあった。
刀也は残っていた粥を見た。
「これ、もう少し食べてもいいかな」
ハクアが答えるより先にロウエンが口を開く。
「少量ずつ追加いたしましょう」
「お願いします」
器へ少し追加される。
刀也はまた食べる。
問題ない。
さらに少し。
まだ問題ない。
「……普通に食えるな」
むしろ食べるほど頭が冴えてくる。
身体に力が戻る。
いや。
戻るという表現は少し違う。
目覚めた時点から動けていた。
だが食事を始めてから、身体の奥に何かが満ちていく感覚がある。
手足が軽い。
視界も妙に鮮明になった。
「師父」
「ん?」
「顔色が戻っている」
「そう?」
「先ほどより明らかに」
刀也は自分の頬へ触れる。
自覚はない。
「もしかして単純に腹減ってただけかな」
「それならよいが」
「……よくない気もするけど」
一億年眠っていた人間が、粥を数杯食べただけで急速に元気になる。
普通に考えればおかしい。
「ロウエンさん」
「はい」
「これ、普通の人ならどうなるんです?」
「長期の絶食状態から目覚めた者、という意味でございますか?」
「そうです」
「そのような例そのものを存じませんが、衰弱しているのであれば慎重な養生が必要でしょう」
「ですよね」
「少なくとも、刀也殿のように歩き回った後でこれほど食欲があるというのは……」
ロウエンは言葉を濁した。
「やっぱ変ですか」
「率直に申し上げれば」
「ですよねえ……」
刀也は粥を見つめた。
義母。
コールドスリープ装置。
一億年。
そして現在の自分の身体。
「母さん、絶対何かしただろ……」
呟いたところで答えは返らない。
「母君が関係しているのか」
「たぶん」
「どのような方だ」
「研究者。天才。生活能力なし。人の話を聞かない。危ない実験ほど目を輝かせる」
「なるほど」
「今ので何が分かったの?」
「師父の師に相応しい人物なのだろうと」
「なんでそうなる!」
食事中くらい黒歴史から離れたい。
刀也は残った粥を食べ切った。
「ごちそうさまでした」
量は現代日本で言えば軽い一食分ほど。
本来なら空腹が完全に満たされる量ではない。
しかし先ほどまでの猛烈な飢えは一旦落ち着いた。
「まだ食べられそうだけど、ここで止めたほうがいいか」
「今日は少量を何度かに分けるのがよろしいかと」
「そうします」
ロウエンの提案に従う。
身体が大丈夫そうだからと調子に乗って、いきなり大量に食べるのは怖い。
食事が片づけられたあと、刀也は温かい茶を少しずつ飲んだ。
味は緑茶に似ている。
ようやく一息つけた気がした。
「……生き返った」
「元から生きている」
「そういう意味じゃない」
ハクアは刀也の向かいに座ったままだ。
いつの間にか彼女にも茶が用意されている。
「それで」
刀也は湯飲みを置いた。
「さっきの話、聞いていい?」
「極星凍剣術か」
「うん」
逃げても仕方がない。
どうせこの世界で生きていくなら、自分の黒歴史がどこまで侵食しているのか知っておいたほうがいい。
精神衛生上は知らないほうがいい気もするが、後からもっと大きな爆弾を踏むよりマシだ。
「ロウエンさん、何か資料あります?」
「ございます」
「あるんだ……」
期待通りなのに嬉しくない。
ロウエンは一礼して部屋を出た。
しばらくして戻ってきたとき、両腕には数冊の分厚い本が抱えられていた。
卓上へ置かれる。
「こちらが代表的なものにございます」
「代表的なものだけでこの厚さ?」
刀也は一冊を手に取った。
表紙の文字は読めない。
「これ何て書いてあるんです?」
「『古代剣術大系・極星篇』でございます」
「専門書になってる……」
二冊目。
「これは?」
「『極星凍剣術成立史考』」
「成立史まである」
三冊目。
「……聞くの怖いな」
「『極星開祖伝』でございます」
刀也はそっと本を置いた。
「開祖って誰です?」
「不明です」
「不明なのに伝記あるの!?」
「伝承を集成したものですので」
「一番危ないタイプの本じゃん!」
事実が分からないからこそ、後世の想像が盛られる。
刀也には嫌な予感しかない。
「開祖って、どんな人だとされてるの?」
ハクアが答えた。
「星辰より降りた神人」
「はい?」
「氷雪の神霊と契りを交わし、北天の極星から剣理を授かった者ともいう」
「待って」
「一夜にして海を凍らせたという伝承もある」
「待って待って」
「死後、その肉体は氷晶となって天へ還ったとも――」
「誰だそいつ!」
刀也は卓を叩いた。
粥が片づけられたあとでよかった。
「俺そんな設定書いてないぞ!」
ハクアが動きを止める。
ロウエンも止まった。
刀也も止まる。
「…………」
言った。
完全に言った。
「師父」
「聞かなかったことにして」
「やはり開祖伝承に誤りが」
「そこじゃない!」
刀也は顔を覆った。
「もういい。もう隠すの無理だ」
疲れた。
誤魔化せば誤魔化すほど、ハクアが妙な方向へ解釈する。
だったら一部だけでも正直に言ってしまったほうがいい。
「極星凍剣術は」
刀也は深く息を吸った。
「俺が考えた」
静かになった。
ハクアの蒼い瞳が刀也を見る。
「……師父が?」
「そう」
「創始したのか」
「違う。いや、ある意味そうだけど、そういう言い方しないで」
説明が難しい。
「俺の時代には、こんな力なんてなかった。剣を振ったら山が凍るとか、妖魔を斬れるとか、そういう世界じゃない」
「では、なぜ」
「遊びだよ」
「遊び?」
「十四歳くらいの時に、頭の中で格好いい剣術を考えた。それをノートに書いた。ただそれだけ」
「…………」
ハクアは黙った。
刀也は少し安心する。
さすがに理解したかもしれない。
「実在しない武術を想像のみで体系化した、と」
「そうそう」
「修練もせず」
「そう」
「実戦経験もなく」
「その通り」
「それが一億年後、実際に使用可能な剣術として成立している」
「そうなんだよ! 俺が一番聞きたいよ!」
やっと伝わった。
「ならばやはり師父は偉大なのでは?」
「どうして!?」
一瞬で安心が崩れた。
「何の力も存在しない時代に、後世で実現可能となる剣理を想像のみで完成させたのであろう」
「いやいやいや!」
「我が数年を費やして補完した型を、一目見ただけで正したこととも一致する」
「偶然だから!」
「一億年を超えて通用する剣理が偶然で生まれるとは思えぬ」
「そこは思って!」
駄目だった。
正直に話しても結果が変わらない。
むしろハクアの中で「何もない時代に未来の武術を予見した古代の天才」という、新しい設定が追加されただけだった。
「ロウエンさんは分かってくれますよね?」
最後の望みを託す。
老人は顎に手を当て、真剣な顔で考えていた。
「刀也殿のお話が事実であるならば……」
「はい」
「それは剣術史のみならず、古代史そのものを揺るがす発見かと」
「そっち!?」
「既存の定説では、極星凍剣術は古代文明末期に実戦武術として成立したとされております。しかし、その原型がさらに古く、しかも創案者ご本人が現存しているとなれば――」
「現存って言わないで。遺物みたいだから」
「失礼いたしました」
ロウエンは頭を下げる。
「ただ、この事実を学術院が知れば大騒ぎになるでしょう」
「絶対言わないでください」
「承知いたしました」
「本当に」
「剣天様の許可なく外へ漏らすことはございません」
「よかった……」
刀也は胸を撫で下ろした。
「ハクアも絶対言うなよ」
「分かった」
「本当に?」
「師父が望むなら」
「よし」
これは重要だ。
今でも剣天の師匠というだけで面倒なのに、「一億年前に極星凍剣術を作った本人」などと知れ渡れば何が起きるか分からない。
「ちなみに」
刀也は歴史書を指差した。
「極星凍剣術って、いつ頃から記録に出てくるの?」
「ロウエン」
「はい」
老人が一冊の本を開く。
「現存する最古の記録は、約八千六百万年前とされております」
「……八千六百万」
刀也の表情が変わった。
「一億年前じゃないんだ」
「左様でございます」
「じゃあ、俺が眠ってから千四百万年くらい空いてる?」
「装置の記録を基準とするならば、概ね」
刀也は黙り込んだ。
ここに来て初めて、黒歴史とは別の疑問が明確に浮かんだ。
自分がノートを書いたのは一億年前。
しかし極星凍剣術が歴史上に現れるのは、その約千四百万年後。
「……誰が持ってたんだ」
「何をだ」
「俺のノート」
コールドスリープへ入るとき、黒歴史ノートを持ち込んだ記憶はない。
少なくとも自分から持ってきた覚えはない。
ならば家にあったはずだ。
一億年もの間に家など跡形もなくなっている。
それなのに、一部の文章や技名が未来へ残った。
しかも最初の記録までに、千四百万年もの空白がある。
「母さん……?」
義母の顔が浮かぶ。
偶然では済まない気がする。
「師父」
「ん?」
「心当たりが?」
「まだ何とも言えない」
刀也は首を振った。
今は情報が少なすぎる。
ただ、一つだけ確かなことがある。
「俺が寝たあと、何かあった」
一億年という時間の中で。
自分が眠っている間に。
義母か。
誰か別の人間か。
あるいはまったく別の何かが。
刀也の残したものを、未来へ運んだ。
そう考えなければ説明がつかない。
「……調べるしかないか」
「何をだ」
「俺がどうしてここにいるのか。それと、母さんが何をしたのか」
今までは状況に流されていた。
目覚めて。
一億年後だと知って。
黒歴史を見つけて。
ハクアに弟子入りされて。
それだけで精一杯だった。
だが。
そろそろ向き合わなければならない。
なぜ自分は一億年も眠らされたのか。
なぜ生きているのか。
なぜ身体はこれほど正常なのか。
そして。
なぜ自分の黒歴史が、一億年後の世界へ残っているのか。
「手伝おう」
ハクアが言った。
「いいの?」
「弟子として当然だ」
「そこはもう諦めたほうが早い気がしてきた」
「認めるのか」
「認めてない」
「そうか」
ほんの少し残念そうに見えるのは気のせいだろうか。
刀也は苦笑した。
「でも、ありがとう」
「問題ない」
「とりあえず今日は、飯食って寝る」
「賢明だ」
「明日から考える」
「分かった」
刀也は湯飲みを手に取った。
温かい茶を一口飲む。
ようやく少し落ち着いた。
そのとき。
ロウエンが何気なく開いた歴史書の一ページが、刀也の目に入った。
「…………ん?」
絵が描かれている。
古代の人物を想像して描いたものだろう。
長い外套。
星を模した装飾。
片手に剣。
その人物の背後には、巨大な円環が浮かんでいる。
「これ誰?」
「極星凍剣術の開祖像でございます」
「へえ」
刀也は眺める。
当然、自分とは似ても似つかない。
それはいい。
問題は、その人物の横に描かれている紋章だった。
円。
その中央を一本の縦線が貫き、周囲に八つの小さな星。
「…………待って」
刀也の表情が消える。
「このマーク、何?」
「極星の紋と呼ばれております」
「いつから?」
「少なくとも最古の極星凍剣術の資料には確認されていると」
「嘘だろ……」
刀也は覚えている。
その紋章。
自分が描いた。
ただし。
極星凍剣術のためではない。
「それ……別の設定のマークだぞ」
ハクアが首を傾げた。
「別の?」
「極星凍剣術とは関係ない」
「では何の紋だ」
刀也は答えようとして。
止まった。
嫌な記憶が蘇る。
十四歳の頃。
極星凍剣術よりさらに前。
友人にすら見せなかった設定ノート。
世界の裏側から歴史を管理する、架空の秘密結社。
正式名称まで思い出してしまった。
「…………最悪だ」
「師父?」
「いや」
刀也は額を押さえた。
剣術だけではなかった。
本当に。
それだけではなかったらしい。
「その紋章」
刀也は低く呟いた。
「俺が昔考えた秘密組織のマークだ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一億年ぶりの食事は、無事にお粥でした。
ただし刀也の身体は、やはり普通とは言い切れないようです。
そして極星凍剣術。
刀也が一億年前に考えたものなのに、現存する最古の記録は約八千六百万年前。
約千四百万年の空白があります。
誰が刀也の黒歴史を未来へ残したのか。
そこにも少しずつ踏み込んでいきます。
そして最後に新しい黒歴史が発掘されました。
次回、第6話。
極星凍剣術とは別に存在していた、刀也十四歳作の「秘密組織」について触れていきます。