長めです。
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感想並びに評価ありがとうございます。
新しい超かぐや姫の二次創作がたくさん出ていて嬉しい季節になりました。
読むものが多く楽しいです。
扉の前で彩葉ちゃんに話しかける。
…彩葉ちゃん、大丈夫?
…そっか。
扉越しだからか、
くぐもった声が返ってくる。
大丈夫ならいいんだ。
…まだ、部屋から出るのは無理そう?
…だよね。
昨日帰ったばっかだもんね。
…今日はお店をお休みにして、
かぐやの部屋を
整理しようと思うんだ。
ほら、かぐやって
整理整頓してなかったでしょ?
もし帰ってきたときに、
部屋が散らかってたら嫌だしね。
部屋の扉が少しだけ開いた。
隙間から彩葉ちゃんの顔だけが見える。
……ありがとう。顔を見せてくれて。
彩葉ちゃんはよく頑張ったよ。
俺も見てた。
よかったらさ、
部屋の整理、一緒にやる?
言葉はない。
ただ、頷きだけが返ってくる。
…ありがとう。
彩葉ちゃんの手を握って、
一緒に姫様の部屋まで行く。
扉を開けると、
服に、ゲームに、謎の機材。
配信用の小道具が溢れていた。
それを一つずつ、
丁寧に整理していく。
配信で使っていた小道具。
かぐやが気に入っていた服。
ガチャガチャの変な人形。
それらをただ、
整理していく。
ときどき何かを見つけては、
彩葉ちゃんはじっと見つめていた。
そうして夕方までかかったが、
なんとか終わった。
…ありがとう、彩葉ちゃん。
これで少しきれいになった。
ご飯は下で食べる?
それとも上?
彩葉ちゃんが床を指さす。
今日はこの部屋で食べたいらしい。
わかった。
じゃあ、持ってくるよ。
俺は下で食べるね。
料理を作って、上に持っていく。
食べ終わった頃に部屋を覗くと、
彩葉ちゃんがベッドに座り、
ただ部屋のどこかを見つめていた。
隣に座った。
ときどき手が触れ合って、
なんとなくその手を握った。
しばらくすると、
彩葉ちゃんが俺の肩に寄りかかってきた。
…眠くなった?
……そっか。
彩葉ちゃんの声を、
今日初めてちゃんと聞いた。
少しかすれていた。
…どうだろうね。
これは彩葉ちゃんがいくら強くても、
難しかったと思うよ。
だって、相手は超テクノロジーの宇宙人だよ?
もし彩葉ちゃんやみんなが
今の十倍強くても、
きっと同じ結果だったと思うよ。
…最後に、かぐやは彩葉ちゃんに
何を伝えてくれた?
そう聞くと彩葉ちゃんは
ときおり言葉を詰まらせながら
ゆっくりと話してくれた。
……かぐやは、たくさんのものをくれたんだね。
じゃあ、彩葉ちゃんは
かぐやに全部伝えられた?
肩に乗った頭が横に揺れる。
…そっか。
じゃあさ、伝えてみない?
彩葉ちゃんと目が合う。
そのブレスレット、
かぐやから貰ったやつだよね?
多分、少しだけなら
こっちの声も聞こえると思うよ。
距離が遠いからラグはあるけどね。
……なんで知ってるかって?
……以前、かぐやが言ってたんだ。
月でだけど
会話は遮断されやすいけど
歌なんかは届きやすいんだって。
彩葉ちゃんの目が光る。
…それで、どうする?
ちなみに、しばらく
お店はお休みにするし、
俺は暇なんだけど。
頭が肩から離れる。
彩葉ちゃんが立ち上がって
こちらを見詰める。
…やろうか。
◇
…神様じゃないっすか。
今回はどうしました?
…ばれました?
そっすね。
月、行きますよ。
…なんすか、その反応。
そんな親みたいな。
全部知ってました、みたいな顔やめてください。
顔見えませんけど。
…止めないんすか?
まぁ、止めても行きますけど。
片道なんすよね?
…え、体も壊れる?
他のチートも使えなくなる?
……それ、体が壊れたら
俺どうなるんです?
情報生命体になる?
月人みたいな感じっすか?
へぇー。
……そういうの、
もっと早く言ってくれません?
情報は正しく伝えましょうよ。
…いや、まぁ、
何があっても結局行きますけど。
まぁ、仕事を手伝って一緒に帰ってきますよ。
少し長めになりますけど。
姫様と先輩だけだと、
もっと時間がかかりますし。
俺がいれば、もしかしたら
早めに帰れるかもしれませんから。
それに、彩葉ちゃんやみんなが
会いたがってますから。
その結果、体が消えて
チートが使えなくなるだけでしょ?
寧ろ、プラスの方が大きいでしょ。
最悪、月でクーデター起こして
宇宙船でも強奪して帰ります。
…自由にやれ、ですもんね?
やりますよ。自由に。
…いいんだ。
あんた、意外と寛容だよな。
…え、贈り物?
机の引き出しの二重底にUSBがあるんですね?
中身は見ちゃダメで、月に行ったらボサツに?
……よくわかんないけど、わかりました。
殴ったばっかだから気まずいなぁ。
てか、二重底ってデスノートかよ。
これで中身がエロ本とかだったら、
一生エロ本キモオタ神って言いますね。
…って、あれ?
魂こねこねしないんですか?
これが最後だからしない?
最後って、仕事のことですか?
……会うのが最後ってどういうことすか?
え、俺殺される?
違うんだ。
ほへぇ、とにかくこれで最後なんすね。
……そう考えると
なんか寂し……くもないですね。
あ、ちょ、今さっきしないって言ったのに!
やめて、魂がパン生地みたいになるぅ!
…はぁ、はぁ。
まぁ、このくらいの別れの方がいいでしょ。
…………あー、神様。
俺、この世界楽しんでます。
よければ、まだ見ててください。
最高のいろかぐてぇてぇ、
見せてやりますよ。
それじゃ、また。
◇
んー、良く寝た。
ここ最近、徹夜だったからなぁ。
起きると机では彩葉ちゃんが
曲を作っていた。
通話アプリも開いており
相手は朝久さん。
…邪魔しちゃ悪いな。
彩葉ちゃんの部屋から出て、自分の部屋に向かう。
えーと、二重底、二重底。
………ほんまにあるやん。
中身は言ってた通りUSBか。
なんか、汚れとかもあるし。
年代物か?
…まぁ、見るなとは言ってたけど
あれ、フリだしな。
とりあえず、PCに差した。
が、閲覧できなかった。
…まぁ、仕方ないか。
月に行ったらボサツに渡してみよう。
さて、朝ごはんでも作ってあげるか。
…いやもう、昼か?
…どっちでもいいか。
はい、ご飯できたよ〜。
今日は簡単にパスタです。
… できたの?
おぉ、やっぱすごいねー。
じゃあギター準備するね。
早速届けてあげよう。
大丈夫、ちゃんと届くよ。
魔法使いのお墨付きだ。
…うん、良い歌だったよ。
神様も惚れるくらいには。
いやいや、ほんとほんと。
この世界は君達に釘付けだよ。
なんなら、俺も。
…で、何だけどさ。
少し、お店を休もうと思うんだ。
…そうだなぁ。
期間は…わかんないな。
長引きそうで。
そう、魔法使いのお仕事ができたんだ。
しばらくは喫茶店のマスターはお休み。
友達や知り合いにはもう伝えてあるんだ。
最後は彩葉ちゃんにと思って。
なんだかんだ長く過ごしたからね。
…いやいや、会える会える。
絶対会えるよ。
そんな、死ぬとかじゃないからね。
ということで、このお店の合鍵渡しておくね。
好きに使っていいから。
…えぇ、泣かないでよ。
あー…多分2、3年くらい?
いや、4、5年かも…。
もしかしたら10年くらい?
かかるかもしれないけど
絶対会えるから。
俺が約束破ったことある?
…まぁ、そうな。
結構あったな。
でも、これだけは信じてほしい。
俺は、彩葉ちゃんの幸せを願ってるよ。
そしてそのためにがんばるよ。
だから、任せてほしい。
待っててほしい。
そしたら、また魔法を見せにやってくるよ。
そう言って、手を握る。
指先に力を込めると、
何もなかったはずの手の中に、
一輪の赤い薔薇が現れた。
こんなふうに。
綺麗でしょ?
実はこんなお花も出せるんです。
これはお別れじゃないからね。
湿っぽい花より派手で
綺麗な花のほうがあってるでしょ。
彩葉ちゃんが抱きついてくる。
…じゃあね。
彩葉ちゃん。
ちゃんとご飯食べて、寝て
勉強して、遊んで、休んで
楽しく生きてね。
しばらくした後、彩葉ちゃんは寝た。
徹夜の疲労もたまってたんだろう。
彩葉ちゃんをベッドに寝かせる。
パスタは冷蔵庫にでも入れておこう。
えぇと、USBは持った。
それ以外は…まぁ、いらないか。
体壊れるならほかのも壊れるだろうし。
てか、USBは壊れないのか?
これなんか古そうだけど。
…最後くらいは神様を信じてやるか。
外に出る。
太陽が出ていた。
青空に雲も少し。
いい天気だ。
出かけるにはいい日だ。
ルーラ
■
「彩葉大丈夫かな…」
ベランダから月を眺める。
帰ってしまった友達を思いながら。
かぐやちゃんが帰ってから
彩葉と会っていない。
お店も閉まっているし
店長と連絡も取れない。
…店長が一緒なら
大丈夫だとは思うが
それでも心配だ。
彩葉のこと最初は急にやってきて
店長の隣を独占して
知らない話をたくさんして
少し、あれだったけど…。
それでも、一緒に過ごせば
頑張り屋で、気配りが上手で
優しいことがすぐにわかった。
ただの友達じゃない。
大事な友達だ。
最初の印象は店長が悪い。
いきなり別の女の子を褒めだして
何を考えてんだろう。
鈍感というかクソボケが過ぎる。
電話も出ないし。
「店長のばーか」
「え、なんで悪口?」
「ッ!?」
思わず上を見上げる。
「あ、ごめん」
屋根の上に店長がいた。
「…不法侵入?」
「屋根だからギリセーフにしてくれない?」
「……そこからの景色次第で考えます」
「了解です、お嬢様」
手を伸ばして、引き上げてもらう。
少し風があり、店長に掴まって
辺りを見渡す。
「許してもらえますか?」
「…今回だけですよ」
「へへ、ちょろ」
「ちょっとー?」
隣に座って、一緒に空を見る。
都会だというのに星がよく見えた。
「こうしてると、あの時みたいですね」
「…最初に魔法を見せたとき?」
「そうです、紐なしバンジーの時です」
「ごめんて」
あれはひどかった。
死ぬかと思ったし。
「でも、あれからちょこちょこ転移で旅行いったじゃん。それでチャラにしてよ」
「んー、まだ負債が二万回分あります」
「それちょっと、計算教えて?」
「芦花の定理で計算しました」
「なにそれ」
だって転移で旅行便利だし。
日帰りで色んな所行けるし
美味しいものや見たいものが
すぐ手に入るし。
……お泊りに誘導できないのは
あれだけど。
「てことで、今度彩葉や真実と一緒に旅行行きませんか?」
「それは魔法ありの?」
「ありの」
「彩葉ちゃんのため?」
「……旅行に行きたいだけです」
ただ、みんなで旅行に行きたいだけ。
それ以外に理由はない。
「…芦花ちゃんは優しいね」
「…不法侵入者め」
「許されてなかった!?」
うるさい。
夜中だから静かにしてください。
「でも、それは少し後でいい?」
「いいですけど、少し後って?それに彩葉、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、もう彩葉ちゃんは大丈夫」
「なら、いいですけど…」
店長が大丈夫というなら
大丈夫なんだろう。
でも、少し後って…。
「…どれくらい後ですか?」
「んー、1~10年の間くらい?」
「………幅がありすぎません?」
「少し野暮用で」
「…野暮用って?」
「魔王から世界を救いに?」
「…いつからファンタジーになったんですか」
「もとからだよ、魔法使いだし」
「そうでした」
行くんだろうな。
このどこでも行ける魔法で。
横に座る店長を見る。
月をまっすぐと見ていた。
「…行ってほしくないです」
「ごめんね」
「でも、行くんですよね?」
「行くね」
「じゃあ、いいです」
「ありがと」
「ただし…」
止まらないことは知ってる。
誰よりも誰かを大事にする人だと知ってるから。
だから、せめて
「帰ったら、旅行に行きましょう」
「いいよ」
「お泊りで」
「いいよ」
「費用はそっち持ちで」
「……それは要相談で」
少しでも帰ってきてくれるように
約束を残しておこう。
帰ってきやすいように。
「かぐやちゃんのことお願いします」
「あいよ」
「ちなみに私の前に誰に会いに行きました?」
「…? 芦花ちゃんが最初だよ」
「…なら、いいです」
…しょうがない人だ。
店長の手を借りて
屋根から部屋に戻る。
「じゃ、そういうことで」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ、芦花ちゃん」
一瞬光ると
そこには綺麗な夜空しかなかった。
■
学校からの帰り道。
彩葉はあれから来てないし
芦花は今日は用事があるらしい。
「やぁ、真実ちゃん」
「あ、店長」
歩いていると店長と会った。
「学校帰り?」
「そうです」
「お疲れ様」
「今日も頑張りました…なのであそこのコロッケ買ってください」
「えぇ…まぁいいけど」
コロッケを買ってもらった。
歩きながら一緒に食べる。
「…彩葉大丈夫なんですよね?」
「芦花ちゃんに聞いた?」
「聞きました」
今日嬉しそうな顔しながら話してましたよ。
最後に少し悲しそうでしたけど。
「そっか…うん、大丈夫だよ」
「あと、お店も休むって」
「そうなんだよ、経営が苦しくて」
「もとからでしょ」
「なんてことを」
店長がおどけて見せる。
「真実ちゃんが宣伝してくれてたら、客は来る予定だったのに」
「いやでーす」
「なんで?うちのご飯は美味しいよ?」
「…なんでもでーす」
「一体何回目のお願いでいけるんだろう」
「何回でも無理です」
たくさん人が来たら、
店長も忙しくなるでしょう。
せっかく彩葉と芦花と
仲良くしてるんですから。
邪魔しちゃ悪いですしね。
私は機微がわかる人間なんです。
「まぁ、そんなわけで二人のこと頼むよ」
「えぇー、また愚痴聞かされるのめんどい…」
「…俺って、嫌われてる?」
逆だよ、バカ野郎。
コロッケを食べ終わる。
「じゃあ、またそのうち」
「はい、また」
店長と分かれて歩き出す。
ふと、振り返る。
まだ、店長の後ろ姿が見えた。
…………。
「店長ー」
店長が振り返る。
「ご飯いつもおいしかったでーす!」
「また、いつか彼氏と二人で行きますねー!」
店長が笑って、手を振った。
私も振り返して、また歩き出した。
もう一度振り返ったら
店長の姿は見えなかった。
■
うつ伏せになると、
背中に程よい圧がかかった。
そのあと、じんわりと身体が温かくなる。
「あぁー、そこそこ」
「朝久さん、肩こりすぎですよ」
「最近、忙しゅうてなぁ」
「休んでください」
「それに……彩葉からお願いもされてしもたし」
背中にはかつての恩人。
「それは…すいません」
「ははは、ええんよ。彩葉から頼られるんは久しぶりやったし」
「君からもお願いされたからね」
「いやぁ…紅葉さん怖かったです」
「……筋が通った人やから」
「それは思います」
「…俺、しばらくいないんで、体労わってくださいね」
「……彩葉は知ってるん?」
「曲が出来たら言いますよ」
この感じやと、長くなりそうやな。
長い付き合いやし、何となくわかる。
「うちの子を泣かせたら承知せえへんよ?」
「こわいな」
「大事な子なんや」
「知ってます」
「君にとっては?」
「大事ですよ、俺も」
「ほな、わかるね?」
「うす」
「…まじめに」
「はい」
「よろしい」
君は本当に……。
まぁ、そんな彼に救われてきた僕が、
言うことやないか。
「それに、僕にとっては君も大事なんや」
「あざっす」
「…まったく」
マッサージが終わり
体が軽くなる。
「…まぁ、また会ったら飲みにでも行きましょう」
「ええねぇ。最近、粉モンが美味しいお店を見つけたんよ」
「いいっすねー」
彼が玄関に向かう。
「紅葉には会わへんの?」
「…最近会うたびに責任がどうってなるんでやめときます」
「………それは、君のせいもあると思うよ」
「なにがですか…?」
「わからへんなら、ええよ」
「それじゃあ、お元気で」
「うん、君も元気でね」
玄関の扉が閉まる。
身体は軽くなった。
けれど、少しばかり先のことを考えると、
今度は胃が痛くなってきた。
「…紅葉になんて言おうかなぁ」」
■
ピンポーン
宅配だろうか?
カメラで確認すると見知った顔があった。
「あーくん、あーけーてー」
「やめろそれ」
フロントの扉を開ける。
エレベーターの音がすると
またインターホンの音がしたので開ける。
「来ちゃった」
「来るな、帰れ」
「ひどいな、久々に会ったのに」
そう言いながら兄貴が勝手に上がる。
「で、なんか用?」
「いや、子ウサギとしてきた」
「殴るぞ」
そのまま椅子に座る。
「…飯でも食べる?」
「ウーバー?」
「そうだよ」
「…なら、俺が作るよ」
そのために来たし、そう言いながら
兄貴がキッチンに向かう。
「たまには作りなよ」
「めんどい」
「じゃあ、店に来てよ」
「…暇になったら」
椅子に座りながら
料理している兄貴を見る。
しばらくすると
いい匂いがしてきた。
「ほい、召し上がれ」
出来たのはカレーとサラダだった。
「この短時間でどうやって…」
「ルーは前作ったやつの残り、足りない具はさっき作った」
「流石飲食店」
「でしょ?」
スプーンですくって
食べる。
………うまい。
「美味いっしょ?」
「まぁまぁ…」
「うそつきめ」
そのまま一緒に
サラダ、カレーを交互に食べる。
「…店、しばらく休むんだって?」
「せやね」
「ふーん」
電子レンジの音が鳴った。
「あ、できた」
「なにが?」
「お楽しみ」
またキッチンに向かって
小さい小皿二つを持ってきた。
「はい、これ」
カレーに温玉がのった。
「好きでしょ?」
「……まぁ」
「なんだよ、まぁって」
そのまま二人で食べて
後片付けくらいはした。
「それじゃ、そろそろお暇します」
「……あっそ」
玄関の扉を兄貴が開ける。
「じゃあ、また」
「また」
玄関が閉まる。
…………。
玄関を開けて
エレベーターに近づく。
「どした?」
「……ごちそうさま、うまかった」
「…お粗末様でした」
「今度、教えて。あいつらにも食わせたい」
「……いいよ」
エレベーターが着いた。
「ありがとな、兄貴」
「…おう」
「じゃあね、あーくん」
エレベーターが閉まる。
「…やめろ、それ」
■
「てことで、さよならヤチヨ」
「ちょいちょいちょい、今適当に終わらせようとしたでしょ」
彼に呼ばれてきてみれば
適当な挨拶だけすまして
どこかに消えようとするクソボケ。
「いや?ヤチヨならいくら経ってもいるしなって」
「…ひどーい」
鋭いな。
「しばらく来れないんですか?」
奥からセンが出てくる。
「あ、センちゃん久しぶり」
「…お久しぶりです。…どこかに行くんですか?」
「そうなのよ、ごめんねー。しばらく会えないんだよ」
「私とセンで対応違い過ぎない?」
「はは、まさか」
…………こいつ。
「…で、なに?お別れのあいさつ?」
「いや、どちらかといえば俺のことを忘れないでねっていう情けないお願い」
彼が照れくさそうに笑う。
「忘れないよ」
「忘れないです」
私とセンが即答で答えると
彼が驚いたような顔した。
「えぇ、ありがと。いいやつぅ」
「そうなのです、私たちはいいやつなのです」
彼の顔を見る。
「…だから忘れないよ、絶対」
「なら、いいか」
照れたように顔をそむける彼が
少し可愛い。
「まぁ、そんなわけでしばらく顔出せないからあのアニメの続きはまた見よう」
「えぇ、結構いいところなのに」
「それは我慢してよ」
「むーりー、お願い聞いてくれないと無理でーす」
「えぇ、なによ…」
彼が聞いてくる。
「お願いはね、君らしく生きてほしいってこと」
「……?了解?」
きっと君は分からない。
「意味は分からなくてもいいよ」
「あ、はい」
けど、君は君だから
だれかを、私を救ってくれるんだ。
だから、君らしく生きてほしい。
「ほら、じゃあ最後に三人でハグしようか。再会を祈って」
「え、なんで?」
「前、センが羨ましがってたからだよ」
「ちょ、ヤチヨ様…!」
「すぐしよう」
「こいつ……」
真ん中に私。
左側にセン
右側に彼の構図でハグをする。
ハグというよりおしくらまんじゅうみたいだが。
「センちゃんが真ん中のほうがいいんじゃ……」
「これでいいんだよ」
「これでいいです」
これでいいのだ。
もう、きみに触れ合えないのだから。
最後くらい、またあの頃みたいに。
「なら、いいか」
そうして少しハグをして
お互いを離した。
「それじゃ、またねヤチヨ」
「うん、また」
「またね、センちゃん」
「また会いましょう」
彼がログアウト画面を開く。
「あ、そうだ。ヤチヨ」
「ん?なに?」
彼が近づいて耳元で囁く。
「病院代ありがとね」
彼がログアウトしていく。
バレてたか…。
妙なところが鋭いのは
いつも変わらないんだから。
「ヤチヨ様、めちゃくちゃ抱きしめてましたね」
「センこそね」
「…そんなことないです」
「私もそんなことありませーん」
「…泣いてますよ?」
「泣いてないよ」
「だって、アニメの続き一緒に見るからね」
「…ですね」
「…私たちをよろしくね、魔法使いさん」
…囁きボイスよかったなぁ。
■
扉の前からお兄さんの声がする。
「…彩葉ちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫です」
しばらく声を出していなかったからか
声がかすれていた。
「…そっか、大丈夫ならいいんだ」
お兄さんの声が優しい。
「…まだ、部屋から出るのは無理そう?」
なにも言えない。
「…だよね。昨日帰ったばっかだもんね」
昨日を思い出すと
喉が渇く。
喋れない。
「…今日はお店をお休みにして、かぐやの部屋を整理しようと思うんだ」
かぐやの部屋……。
「ほら、かぐやって整理整頓してなかったでしょ?」
「もし帰ってきたときに、部屋が散らかってたら嫌だしね」
かぐやのために何かできることを
やりたかった。
何もできなかった罪滅ぼしに。
だから勇気を出して
扉を少し開けた。
お兄さんが優しい顔で
こちらを待っていた。
「……ありがとう。顔を見せてくれて」
「彩葉ちゃんはよく頑張ったよ。俺も見てた」
「よかったらさ、部屋の整理、一緒にやる?」
私はただ頷いた。
「…ありがとう」
お兄さんは私の手を握って
一緒に部屋まで来てくれた。
扉をお兄さんが開けてくれた。
そこにはかぐやの部屋があった。
昨日と何も変わらない。
かぐやがいないこと以外は。
それらをお兄さんと
黙々と整理した。
機材やゲーム
服やおもちゃの一つ一つに
かぐやを思い出した。
そうしてお兄さんと
片付けを終えた。
「…ありがとう、彩葉ちゃん。これで少しきれいになった」
「ご飯は下で食べる?それとも上?」
床を指でさす。
まだだれかと話す気にはなれなかった。
「わかった。じゃあ、持ってくるよ。俺は下で食べるね」
一人で食べられる。
ありがたかった。
お兄さんが作ってくれたご飯を食べる。
かぐやが使ってた机で食べる。
『彩葉、おいしいね』
かぐやの声が聞こえた気がした。
食べ終った後はベッドに座って
部屋を眺めた。
かぐやと過ごした日々を
ひとつひとつ思い返していく。
気が付くと隣にお兄さんがいた。
外を見ると暗くなっていた。
そのまま隣に座った
お兄さんの体温を感じながら
またかぐやのことを思い出す。
時折、手が触れ合って
お兄さんが握ってきた。
暖かかった。
頭が自然とお兄さんの肩に
傾いた。
「…眠くなった?」
「…ううん」
「……そっか」
この日、お兄さんの前で
初めて声が出た。
喉はまだ乾くが
声は出た。
「ねぇ、お兄さん」
「なに」
「私がもっと強ければ、かぐやを助けられたかな?」
「…どうだろうね。これは彩葉ちゃんがいくら強くても、難しかったと思うよ」
「…そうかな」
「だって、相手は超テクノロジーの宇宙人だよ?もし彩葉ちゃんやみんなが今の十倍強くても、きっと同じ結果だったと思うよ」
「…かな」
そのまま時間が流れた。
お兄さんの体温だけが感じ取れた。
手を握ると、同じ力で握り返してくれる。
それが嬉しかった。
「…最後に、かぐやは彩葉ちゃんに何を伝えてくれた?」
昨日のことを思い出す。
話すのはつらかった。
それでも、聞いてほしい気持ちが
少しだけ勝った。
「かぐやがね、見つけてくれてありがとうって」
「育ててくれて、ありがとうって」
「曲作ってくれて、嬉しかったって」
「ご飯も美味しかったし、毎日楽しかったって」
「一緒に、暮らせてよかったって」
「大好きって…」
伝えられた言葉を
思い出しながら伝える。
「そんなの私もだったのに…」
「かぐやがいてくれて、いろんなことをしれた」
「感じ方もモノの見方ももっと楽しくなったのに」
「なのに、なのに…」
自然と言葉がこぼれた。
「……かぐやは、たくさんのものをくれたんだね」
「………うん」
少し心が軽くなった。
「じゃあ、彩葉ちゃんはかぐやに全部伝えられた?」
お兄さんの言葉をかみしめる。
足りない。
全然足りなかった。
肩に寄せていた頭を横にゆらす。
「…そっか。じゃあさ、伝えてみない?」
思わず、お兄さんの方を向く。
目が合った。
そこからお兄さんは話し始めた。
「そのブレスレット、かぐやから貰ったやつだよね?」
「多分、少しだけならこっちの声も聞こえると思うよ」
「距離が遠いからラグはあるけどね」
信じたかった。
そしてかぐやの反応から嘘だとも
思えなかった。
「…なんでそんなことを?」
「……前にかぐやが言ってたんだ」
その後小声で何か言った気がしたが
聞き取れなかった。
「会話は遮断されやすいけど歌なんかは届きやすいんだって」
それにそんなことよりも
やるべきことが見えたからだ。
「…それで、どうする?」
お兄さんの顔がよく見えた。
「ちなみに、しばらくお店はお休みにするし、俺は暇なんだけど」
身体に力が入る。
頭もすっきりする。
「お兄さん、曲作りたい」
「…やろうか」
声はやはり少し
しゃがれていた。
◇
父とお兄さんと一緒に曲を作り、完成した。
そしてその演奏が今終わった。
「…どうだった、お兄さん」
「…うん、良い歌だったよ。神様も惚れるくらいには」
「軽口禁止」
「いやいや、ほんとほんと。この世界は君達に釘付けだよ。なんなら、俺も」
「はいはい」
「ほんとなのに」
また、助けられちゃった。
「それでね、曲を作ってて分かったことが――」
「ごめん。その前に一ついい?」
「え、なに?」
お兄さんの顔は、いつもより真剣だった。
「少し、お店を休もうと思うんだ」
「…え」
「期間は…わかんないな。長引きそうで」
「だから、しばらく会えないんだ」
「…え、それは、なんで……?」
「魔法使いのお仕事ができたんだ、久々にね」
喫茶店のマスターはお休み。
そう言ったお兄さんの顔が、見られなかった。
足元がぐらつく。
呼吸が浅くなる。
目の前がちかちかした。
「友達や――伝えて―んだ」
「最―彩葉ちゃ――思って」
「なん――んだ長く―――からね」
よく聞き取れない。
また、お兄さんに会えなくなる?
かぐやもいなくなっちゃったのに?
仮説はある。
ヤチヨがかぐやなんじゃないかと。
でも絶対じゃない。
違ったら私は大事な人を二度も失ってしまう。
「もう……会えへんの?」
「…いやいや、会える会える。絶対会えるよ。そんな、死ぬとかじゃないからね」
どうしてだろう。
嘘だとわかった。
「ということで、このお店の合鍵渡しておくね。好きに使っていいから」
お兄さんから鍵を受け取る。
まるで、自分が帰ってこられなくなった後の
ことを考えているみたいだった。
そう考えた途端、
お兄さんのいない未来が頭に浮かんで、
涙が出てきた。
「…泣かないでよ」
「あー…多分2、3年くらい?」
「いや、4、5年かも…」
「もしかしたら10年くらい?」
「かかるかもしれないけど、絶対会えるから」
「嘘、つかんといて」
「俺が約束破ったことある?」
「…ある」
「…まぁ、そうな。結構あったな」
寧ろ守ったことの方が少ない。
お兄さんがいつもの優しい顔に戻る。
「でも、これだけは信じてほしい。俺は、彩葉ちゃんの幸せを願ってるよ」
それは……知ってる。
今回のことも、きっとそうなんだろう。
どうせ、なんとかして月に行って、
かぐやを取り戻そうとしているんだ。
本当に、お兄さんらしい。
きっと、私が泣いていたことも理由なんだと思う。
ずっと一緒にいたから分かる。
お兄さんは、そういう人だから。
「だから、任せてほしい。待っててほしい」
「……ほんまに帰ってきてくれる?」
「くるくる。そしたら、また魔法を見せにやってくるよ」
そう言って、お兄さんが私の手を取った。
大切なものを包むように、
その手を優しく握る。
指先に、そっと力がこもった。
ゆっくりと手が開かれる。
そこには、一輪の赤い薔薇が咲いていた。
「こんなふうに」
「綺麗でしょ?実はこんなお花も出せるんです」
「…いつもの、白いお花は?」
「これはお別れじゃないからね。湿っぽい花より派手で綺麗な花のほうがあってるでしょ」
「それに、彩葉ちゃんには赤色が似合うと思ったから」
ずるい…。
ずるいよ…。
「お兄さん…」
身体を力いっぱい抱きしめる。
逃がさないように。
「…じゃあね。彩葉ちゃん」
「ちゃんとご飯食べて、寝て、勉強して、遊んで、休んで、楽しく生きてね」
そのまま、お兄さんを離したくなかった。
どれくらいそうしていたのかは覚えていない。
気づけば、私は眠っていた。
目を覚ましたとき、家には誰もいなかった。
机の上には、作曲に使った機材と
赤い薔薇だけが残されていた。
■
月に帰ってから、
私は先輩と一緒に溜まりに溜まった仕事を片付けていた。
ちなみに、いいニュースと悪いニュースがある。
「先輩ー、これどこー?」
「ココデス」
まず、いいニュース。
先輩がなんと、ずいぶん喋るのが上手くなっていた。
なんでも、私が地球に行っている間に練習していたらしい。
ここまではいいニュース。
問題は、悪いニュースだ。
最近、本当に忙しい。
仕事は、人間の一生を何度繰り返しても終わらないくらい溜まっていた。
それに、地球を覗くことも禁止されてしまった。
「……彩葉、元気にしてるかなぁ」
そんなとき、どこからか
歌が聞こえてきた。
ただの歌じゃない。
彩葉の歌だ。
「…そんなら、かぐやもう一回!」
仕事をする手に力が入る。
そうだ。
もう一回行けばいいんだ。
私の代わりに仕事をしてくれるものでも作ればいい。
そうすれば、会いに行ける。
また、みんなに会いたい。
彩葉に、芦花に、真実に。
それに、バグにだって。
「先輩頑張ろう!今度は一緒に行こう!」
「ハイ!」
だけど…一日じゃ、そこまで進まず。
「うへー、仕事しながら私の代わりも作るとか無理ゲーじゃん」
「…デスネ」
いつもの仕事をこなしながら、
私の代わりに働けるものまで作る。
だいぶハードモードだ。
「まぁ、でもやるしかないか」
「…ハイ」
「とりあえず、今日は休もう」
「また、明日一緒に考えよ」
「ハイ」
各々の部屋に帰っていく。
自分の部屋の扉を開けて
仕事着を脱ぎ
部屋着に着替える。
そして布団に入り、休息に努める。
効率よく働くためには休息も大事なのだ。
それに、今は目的もある
休むことなんか朝飯前だ。
もう、つまんないなんて言っていたかぐやちゃんはいない。
…まぁ少しは寂しいけど。
そんな時は地球でのことを
思い出す。
昨日は彩葉のこと。
その前は芦花や真実のこと。
じゃあ今日はバグのことでも
思い浮かべるとしよう。
ベッドから立ち上がり、
引き出しから白い帽子を取り出す。
それを胸元に抱えて、布団に潜り込んだ。
一緒にアニメを見たこと。
あのアニメ面白かったなぁ。
魔法使いもバグに似てたし。
ご飯を食べたこと。
バグのご飯美味しかった。
でも、私もできるから
今度は料理対決も面白いかも。
一緒に暮らしたこと。
バグってお風呂短いんだよなぁ。
たまに半裸で歩いてるし。
もう少し気を付けた方がいいと思う。
何度思い出しても楽しい。
忘れないように、なくさないように。
一つずつ思い出して、胸の奥に仕舞っていく。
この時間が楽しかった。
あとは、二人で寝たときのこと。
あれは……なんだったんだ。
あのバグは凶器だ。
身体を力強く掴んでくるし、
声はなんだか甘いし。
しかも、そのあと……。
……だめだめ。
思い出したら、なんだか暑くなってきた。
これは封印しておこう。
お酒も禁止にしたことだし。
…………。
目を瞑るが眠れない。
……バグのせいだ。
余計に眠れなくなった。
これは、ちゃんと分析する必要がある。
なぜ、あんなことになったのか。
とりあえず、バグ人形を取り出す。
これは地球から帰ってきて作ったものだ。
もちろん、彩葉や芦花、真実の人形もある。
「あの時はツクヨミじゃなかったから……現実バージョンを用意して、と」
押し入れを開けて、
奥からバグ人形Ver.店長を取り出す。
帽子をかぶせれば完璧だ。
……よし。
準備はできた。
あの時の再現をする。
「まずは横に座って……その後、私が押し倒して」
「それから、足の間に私が座って」
「一緒に後ろに倒れて……頭に手を添えられて」
ベッドの上で、人形と格闘する。
「それで、その後……ここを触られたり、噛まれたり」
人形の腕を、頭からゆっくり下へと動かす。
指はないので、人形の上から自分の手で再現する。
身体が少し痺れた。
……変な感じ。
だけど、それだけだ。
あの時みたいに、どきどきはしない。
「……やっぱり、本物じゃないとだめかぁ」
分析はここまで。
せっかく人形を出したのだから、一緒に寝ることにした。
人形を抱えて、布団に潜り込む。
「バグー、狭いよ」
「はは、すいません……いや、違うな。すません……かな」
自分で店長の声を真似してみる。
うん、結構似ている気がする。
人形の顔を両手で包み、まっすぐ見つめる。
ボタンの目と目が合った。
「私、頑張るからさ。また会えたら、今度は胸じゃなくて上の方にお願いね」
「私も練習しとくからさ」
「本番は彩葉やみんなでしよ」
顔を近づける。
少し恥ずかしい。
でも、ここでやめたらもっと悲惨になると思った。
目を瞑る。
もう少しだけ、顔を近づける。
すると、何かが割れるような音がした。
瞼の裏に、一瞬だけ光が走る。
……ん?
気になって目を開ける。
ボタンの目は、そこにはなかった。
代わりにあったのは、
見知った、糸のような目。
人形とは違う、頬の柔らかな感触。
そして、目が合った。
「あ、ども」
「…バグ?」
「あ、はい」
頬を引っ張る。
「痛いです」
揺らしてみる。
「なんですか?」
…………。
「…本物?」
「そうですけど……あとこの状況なんですか?」
「え…?」
今一度自分の状況を振り返る。
シングルの布団の中
バグとの距離は1センチも離れていない
バグの顔を包むように両手を添えている
少し口元を近づけようとしている
目が合っている
「~~~~っ!!!」
思いっきりバグを蹴って
布団から追い出す。
「いってぇ!?」
「な、なんでいるの!?」
「…いやぁ、仕事手伝おうかと」
普通に答えるバグ。
「いや、いやいや…そもそもどうやって……」
「もしかしてもう死んじゃったの!?」
「いや、俺不老不死…あ、それも消えたのか」
何を言っているのかよくわからない。
「それに、体もなんか私とおなじ…?」
「消えたというか、消滅したというか、大気圏突破した時に燃え尽きました」
「は…え……なにして」
「いやぁ…………」
「…私言ったじゃん、彩葉を…みんなをお願いって」
バグはみんなのバグだ。
私だけのものじゃない。
そんなこと、分かってる。
でも、こんなの……。
「それは……俺じゃないです」
「かぐやが必要なんだ、あの子には。みんなには」
「それはバグだって……」
同じこと、そう言葉を続けられなかったのは
きっとバグの顔を見てしまったからだ。
「…いや、あー」
「あとは、その……俺が、あなたがいないことが寂しかったんだ」
「だから会いに来た」
ただ本当に会えて、喜んでいるように見えた。
「…バグ」
嬉しくないはずがない。
でも、それでもこれは劇薬だ。
「それとずっと一緒って約束破ったでしょ?」
「あ…」
「ハグももらいに来ました」
バグが両手を広げる。
「ん」
少しずつ近づいてくる。
そんなのされたら私だって…
「バグっ…!」
「はい、バグです」
バグの胸に顔を埋める。
……あったかい。
「ばぐぅ…」
「へい」
人形じゃない。
思い出でもない。
本物のバグだ。
それからしばらく、私たちはそのままでいた。
「…あの、そろそろハグ大丈夫ですよ?」
「……まだ、ごめんって言ってない」
「じゃあ早く言ってください。一回でいいので」
「……やだ」
「えぇ……」
言ったらこの状態の大義名分が消えてしまうじゃないか。
もうしばらくこのままがいい。
「自分の部屋にいきたいんですけど…」
「だめ」
「いや、この部屋窓割っちゃいましたし」
「あ、本当だ。これは追加のハグが必要だね」
辺りを見ると確かに部屋の窓が割れていた。
なので賠償を請求する。
「なにその賠償方法。…それになんか人形?も転がってるし」
バグの視線を追うと確かに白い帽子をかぶった
エプロンを付けた黒髪の大きい人形があった。
というか私のバグ人形だ。
「なんです、あれ?俺の帽子被ってますし」
「あ、いや」
「なんか全体的にくたびれてるような」
「えーと」
「腕もなんか湿ってますよ、あれ」
「その…………」
まずい。
寂しくて作ったなんか言えない……。
「……まさか呪いの人形?」
「…そ、そう!最後に蹴られた恨みを発散してたんだよ!」
「まじすか。…あれくらい許してくださいよ」
いけたか……?
いけてそうだ……。
かぐやちゃん、大天才すぎる。
それにこれなら
「許すからさ、今日は一緒に寝よ?バグの部屋で」
追加のお願いも可能。
そしてバグはこういうお願いのされ方は断れないはず。
「まぁ、そういうことなら…」
勝った。
「あ、先輩も呼びます?久々会いたいですし」
……………。
「せ、先輩は今日はもう寝たよ」
「そうなんですか?」
「……うん。だから起こしちゃ悪いし、今日は二人で寝よう!」
「それなら仕方ないですね」
「うん、仕方ないね!」
「謝りたかったんだけどなぁ」
ごめん、先輩。
今日だけ独り占めさせて。
「……因みに寝るときもこの状態ですか?」
「………そうだけど?何か文句がある?」
「ないけど、歩きにくいです」
「じゃあ抱っこして、お姫様のやつ」
「えぇ……」
困惑しながらもバグは
私を横に抱いてくれた。
私もバグの首に手を巻き付けて。
……密着がすごい。
………これ、いい。
「それじゃあ、このまま行きますよ」
「よ、よろしくお願いします」
「何その感じ……」
しょうがないだろ、緊張するんだもん。
「……お持ちかえりされちゃう」
「だれだ、それ吹き込んだの」
「えへへ」
こういう会話が嬉しかった。
下からバグの顔を見る。
…いいアングルだ。
「ねぇ、バグ」
「なんすか」
「これからはずっと一緒だね」
「そうっすね。仕事終わって、地球に帰るまでは」
「だめ、その後も」
そうしてバグの部屋まで一緒に入った。
定期的に掃除をしていたからか綺麗だ。
そのまま、バグに布団に入れてもらう。
あとからバグも入ってくる。
「狭いっすね……」
「だね」
どきどきする。
うん、やっぱり本物がいい。
あの人形は処分しておこう。
「バグ、手」
「はいはい」
お互いを抱きしめ合う。
バグは少し加減をしながら優しく。
私は逃がすまいと全力で捕まえた。
「バグ、明日からよろしくね」
「うす。まぁ、手早く仕事終わらせて帰りましょう」
「…だね」
返事が遅れたのは少しこの状態が
長く続けばいいのにと思ったせいかもしれない。
「ふわぁ…」
眠気が来た。
「おやすみ、バグ」
「おやすみ、姫――」
「ん」
「かぐや」
「よろしい」
「へい」
その日は一緒に二人で寝た。
月にはない温度を感じた気がした。
USB君→俺、ポケットにいるんすけど…。