超かぐや姫。突如として現れたそのアニメは瞬く間に世間へ広まり、色んなところでキャラクターの映像が流れていた。ファン達は皆まだ見ぬ情報を探し、公式が齎す新情報に歓喜と阿鼻叫喚。そう、まさに世は超かぐや姫時代なのである!!
「ふっふっふ」
そんな影響を受けた人がここにも1人。鏡の前に映る自分の姿を見ながらほくそ笑む女の子がおったそうな。
「かんっぺき!何処からどう見ても本人でしょ!」
鏡の前に映る貴方は、キラっとした瞳に、長い金髪、和服をギャルちっくにしたような明るい服装。月の髪飾り。それらしいポーズをすればなんと、超かぐや姫に出てくるキャラクターにそっくり!
「我ながらいい出来……製作期間半年、やっとここまで──」
声も、少し頑張ればそれらしいものにはできる。これで次のコミケは貰ったぜ!とガッツポーズする貴方は、ここで少し魔が差したというのか。完成したコスプレにテンションが跳ね上がったのか。そのまま外を歩く事にしました。
「真夜中だしへーきへーき!」
ルンルン気分で外に飛び出した貴方を包む冷たい空気。少し肌寒さを感じながらもテンションは最高潮。誰もいない街中はやけに空っぽで、まるで別世界に来たみたいな気分。
さて、ここまでは良かった。あー楽しかった、で終わる程度の物語。問題があったのはここから。
帰ろうと一歩踏み出した時、体中を包むように感じたヌルリ、とした感触がしたのち、視界に映るものが一転、まるで摩天楼の如き煌びやかな繁華街のそれへと変わった事だ。
「へ?」
それはまるで、超かぐや姫における仮想空間ツクヨミのようで──
「なにこれおもしろっ!」
そこに大した疑問を持つ事なく、貴方は目を輝かせます。これが夢なのか、或いは本物の超かぐや姫の世界なのか。どちらにせよ、体験したいという欲求は変わらず。
「どうせこの姿なら」
今の私は中身はともかくかぐやである。ならやりたい事をやってみたいじゃない?そう貴方は考えたのです。
普通の人間であればこの世界に与える影響などを考え慎重に行動する場面だ、しかしこの女はこんな場面で敢えてアクセルをベタ踏みするカス。fpsゲームなら屈伸をし、エクストリームなバーサスの動物園ならシャゲダンするタイプのカスです。
ガサゴソと道端で何やら変な動きをするカスのかぐやは適当に弄ったら出たゲームウィンドウから何かを取り出し、床へと置く。
「夢だか知らないけど、都合がいいものがあるじゃん!」
それは少し古びた旧型のラジカセ。今はもう見なくなって久しいそれの再生ボタンをポチッと押し、流れ出す音楽。
明るい前奏が流れ始めると、道を行く人達が突如始まった路上ライブにいくつもの目がこちらを見る。注目の的となったカスが徐に取り出したのは、赤いラベルの2Lペットボトル。
── YO! SAY夏が 胸を刺激する!
体全体を激しく動かしながら両手でペットボトルを上下へと振り回し始めたのだ!
──なにあれ!?
──何年前だよあのネタ!
指差して笑う者。突如始まった奇行に目を白黒させる者。大きく二つに分かれた反応を前に、一切の動揺なく乱れなく踊るカスのかぐや。
貴方は知っている、経験則で知っている。ネタに走る時、少しでも羞恥の心を見せてしまえばそれは濁るものとなってしまう事を。
とある大学教授は言いました。『なぜベストを尽くさないのか?』と。
──すげぇ……
ネタと書いてガチと読む、あまりの真剣さ故か、周りも貴方のクソ真面目なカス行動に一目置き、息を呑んでいます。さぁ、フィニッシュがそこまで迫っています!
ペットボトルを空中に放り出し、くるりとキングオブポップを思わせる一回転ターンを決め落下してくるペットボトルを華麗にキャッチ!
出すとこ出して たわわになったら宝物の恋は やれ 爽快っ!
激しく振り回し続けたペットボトルは既に破裂寸前!貴方はカシュっと音を鳴らしながらフタを取り、目の前に向かって濁流の如く噴き出す黒い炭酸を見て、完璧に決まった、そう確信しました。
──ヤオヨロー、何か騒ぎがあるって聞い……
ドヤ顔を決める貴方はどこかで聞き覚えのある声を聞き取ります。しかし、その言葉は自分の放った液体がその声の主の顔面に直撃する事で止まります。
その場にいる者達の顔が青ざめ、空気が、凍りました。
そこで貴方は目の前にいるのが誰かをようやく理解しました。この仮想空間ツクヨミにおける管理人ことAIライバーの月見ヤチヨその人です。
誰も言葉を発することができず、まるで時間が止まったのではないかと思える沈黙がそこにはありました。
── ダレカナー?コンナオイタヲスルノハ……?
地の底から響くような、ドスの効いた声が聞こえました。しかし、貴方は怯みません。何故なら貴方の座右の銘は引かぬ、媚びぬ、顧みぬであるからです。
しかし、ここは戦略的撤退をする場面。悪ガキらしい笑みをしながらささっとその場を片付け、全力で逃走しました。
──……っ!?
しかし、予想に反し彼女は貴方を追いかけることはしません。目を見開き、貴方を見ているだけ。そして、次に炭酸に濡れた自らの顔に触れ、信じられないと言わんばかりに息を漏らしました。
しかし、それを貴方が見ることはなく、走っているうちにあの摩天楼の世界を抜け、自らの自宅へと辿り着いていました。
──あー、楽しかった。
部屋に戻った貴方は楽しそうに呟き、ベットにダイブしました。次があるのかは分かりませんが、次があったならどうしようかな、そんな風に楽しそうに笑うのでした。