なにしてるんだい?
アハハハ!
カァイイなぁ、カァイイなぁ。
太くて重いのに、カァイイ女の子の声だなぁ……
わたし今、『ネイカ』ちゃんの大っきな手に掴まれてる。
すごい力。両手足ごと握られて、首から上以外の身動きが取れないや。
そんな、ネイカちゃんの顔が、すぐ左に見える。大っきい上に近すぎて分かりませんが……前に見た時は胴体があったけど、今は空間に開いた黒い穴から、顔と手首から先だけが出ていたように思いました。
「分かっていたことだけど……君の行動は読めなさすぎる。悪いけど、このまま僕のそばで拘束させてもらう」
すぐ隣から、大好きな男の子の声が聞こえた。
緑谷出久くん。
雄英高校の例外、最強の雄英生、神野の奇跡の立役者……そんな色々な呼び名を持った彼は、刀を手に椅子に座って、動けない様子でいた。
左右には、イレイザーヘッドが彼に触れてる。彼の個性で、イレイザーヘッドの個性をコピーさせているんですね。その逆隣には、水を操るヒーローのマニュアル。前の全面戦争でも、イレイザーヘッドのそばで、彼の目が乾かないよう個性を使ってましたっけねぇ。
出久くんにも同じことをしているようです。三人とも動かずにいるのはコピーの時間制限でしょうね。
けど、前よりも強化されている部分もあるようです。
「俺の『抹消』をアイテム化した眼鏡……瞬きをしても効果が続くとは、便利だな」
そう言っているイレイザーヘッドの顔には、ゴーグルではなく、前回は無かったはずの地味な眼鏡が掛けられてる。
彼の言った通り、緑谷くんの刀と同じ、緑谷くんが個性から作ったアイテムなのでしょう。
「一緒に戦ってくれる人数分創れたら良かったんですけど、『ネイカ』の力で一度作ったアイテムは、その一個が壊れるまで新しく作ることはできないんです。おまけに、一度アイテム化したら、その個性はコピーストックから消失。もう一度コピーし直すまで二度と使えなくなります」
「コピー自体は何度でもできるが、引き換えに物質化は壊れるまでの一度限りってわけか」
そうして今は、緑谷くんからアイテムをもらったイレイザーヘッドと、そのイレイザーヘッドの個性をコピーした緑谷くんの二人体勢で、
「イレイザー……お前はカッコイイヤツだと思ってたのに、ガッカリだよ」
「どこ見てんだコラァアアアアアア!!?」
ミルコが大声で叫んで、義手に付いた銃を撃ちまくりながら弔くんへ走っていく。
弔くんはたくさん増えた手を振り回して攻撃してますが、ミルコは避けていって、義手の左手で弔くんを殴りつけた。
義手はその一発で壊れちゃったけど、そんな壊れた義手の下から――
「気ん持ちぃ~~~~~~~~!!」
無くなったはずの左手を握って、もう一回、蹴るのでなく殴りました。
「その左手……イレイザーヘッドの右足と言い、『例外』が生やしたのか? 相変わらずのチート具合だなぁ」
「愛しの旦那が見てんだ!! 真希じゃなくて、私がテメェをぶっ倒してやらぁ!!」
「へぇ~……ミルコって、旦那さんがいたんですね」
「うん。それなりに長い付き合いだけど、知らなかったよ」
そんな会話をわたしとしてる、緑谷くんに対して、なぜだかイレイザーヘッドもマニュアルも、呆れた顔を向けていました。
「相澤先生……真希さんもいません。やっぱり、ここは僕が――」
「お前が
「……すみません。どれだけ試しても、黒霧の個性の永久ストックができなかったばかりに」
「気にするな。そこまで何でもかんでもお前に任せていたんじゃあ、それこそ仲間や他のヒーローたちの立つ瀬がない。禪院もそうだったろう。なんでも一人でやろうとする必要はない」
「……」
刀の鞘と柄を握りしめながら、唇を噛んで、悔しがってる。
やっぱり、カッコイイなぁ、カァイイなぁ……
「出久くん!」
「なに?」
今しかないなと思って、ずっと言いたかったことを、言おうって決めた。
「わたしの恋人になって?」
「いいよ」
「……は?」
「え?」
「あぁああん!!?」
イレイザーヘッドにマニュアル、それに、下で戦ってるはずのミルコの声が響いた。
けど、わたしはそんなの、気にならなかった。
「え……緑谷くん、恋人になってくれるの?」
「君の恋人になることで、君の気が済んでこんなことやめてくれるなら、構わないよ」
「おい、緑谷……」
「緑谷君、それはちょっと……」
「ざっけんなああああああああああ!!?」
「なんなら、今の僕は独身だし……いっそのこと、結婚しちゃう?」
「結婚!?」
「おいおい……」
「緑谷君!?」
「くぅぉおおおらああああああああ!!?」
「死柄木!? 結婚式するから、神父役やってよ!!」
とんとん拍子に話を進めていって、あげく、敵であるはずの、弔くん? にまで、そんな呼びかけをしちゃいました。
「ハハッ!! イカレてるね君? 元
弔くんは、戦いながらものすごく面白がってる。
ミルコは、ものすごい顔になってて、一緒に戦ってるベストジーニストやエッジショットは、元々顔の半分が見えないし、爆豪くんは……無ですね。
「だが面白い! 乗ってあげよう! あー……富める時も貧しき時も、健やかなる時も病める時も、一緒にいることを誓うか君たち!?」
「誓います!」
とっさに何も言えなかったわたしと違って、迷うことなく、緑谷くんは叫んだ。
「では君たち、誓いのキスを!!」
「するなああああああああああああああ!!?」
動けない緑谷くんの前に、ネイカちゃんが、その大っきな手でわたしを持っていった。
緑谷くんは瞬きを決してしないまま、近づいてきた私の顔に、自分の顔を近づけて……
緑谷出久くん。私が好きだった男の子によく似た子。
昔から、誰でもかれでも、色んな人が、色んなものが、すぐ好きになった。
人はみんな、好きな人みたいになりたいって願う。
わたしもそう。わたしもあの人みたいになりたい。あの小鳥さんみたいに、カァイイ娘になりたい。
そのために、好きな人たちの血を吸いたい、血が欲しい……
そんなことばかり考えてた。
個性の影響だったんだと思う。けど、わたしにとっては、そう考えることが
けど、両親や社会は、そんなわたしの普通を許さなかった。
『普通』とは違う。人間じゃないの産んじゃった。両親はそう言って、頭を抱えてた。
『普通』になっていきましょう。カウンセラーの大人から、笑ってそう言われた。
それでも、『普通』でいなきゃ生きていけないから、わたしは、『普通』になろうとした。
生きにくい……
ただ、好きなものを好きって思って、そうなりたいって思ってただけなのに。
わたしは、わたしにとっての普通でいたいだけなのに。
そう願う度、両親は泣いて。友達は離れて。大人は同情して。
いつだか、わたしを見た大人に言われました。カワイソウな娘だって。
わたしにしか分からない、わたしだけの価値観と願いを持ってる。ただそれだけのわたしに向かって、カワイソウ……
理解ができない。そして、とても頭に来ました。
自分たちの尺度で、カワイソウを押しつける大人たちが。
大勢の『普通』を押しつけて、わたしの普通を認めない社会が。
わたしの好きなもの、好きな人、全員を否定して無き者にしようとする世界が。
それでも……
やっぱり、好きなものは好きだから。好きでいたいって思うから。
だから、たとえ敵だとしても、言わずにはいられないんです。
あなたのこと、好きですって。
あなたになりたいんですって。
あなたのカッコイイとこ、見たいんですって……
「自分らしく生きたいのに、周りが許さない恐怖と怒り……なんとなくだけど分かるよ」
誓いのキスをした後で、またわたしを定位置に戻した後。
出久くんは、わたしの話を黙って聞いてくれた。
「この世に同じ人間なんて一人もいない。ただ似通った価値観と、生前から続く常識や倫理観が、この社会の前提になってるってだけ。それを身につけた人たちは普通って呼ばれて、少しでも外れた人や、欠けた人は異常だって言われる。人は、社会の中でしか生きられないから、ほとんどの人は『普通』でいようとする。普通でいるために『異常』は排除しようとする……残酷だけど、本当に生きにくくできてるよ。社会ってものは」
黙って聞いてくれていた出久くんは、そうわたしに共感してくれた。
「とは言え、誰もがいつまでも『普通』でいられるとは限らない。みんなどこかで妥協をしたり我慢したり、何かを諦めたりして、そうして自分や他人のことを考えながらバランスが保たれてる。どこか一つ間違えたら、昨日まで『普通』だった人が、今日は『異常』になるかもしれない。その人がそのまま『異常』として見捨てられるか、『普通』の人だと受け入れられるか……それはもう、運や環境次第としか言えないだろうね」
「出久くんにとって、わたしは異常ですか? 普通ですか?」
「正直、理解できない部分は多いよ。僕は、大切な人を失ってしまったから余計に、大切な人が傷つくことが怖いと思う。だけど君は、好きな人ほど傷つけたくなる。個性の影響なのか、君自身のサガなのかは分からないけど……こういう理解の難しさと、そこから来る放置や放棄が、君を敵にしたんだって、今なら分かるよ」
「わたしと結婚しようって言ってくれたのは、同情からですか?」
「君が僕と寧香ちゃんの馴れ初めを聞いた時に流した涙は、同情じゃないの?」
それを言われると……
何も言えなくなってしまった。
「けど、おかげで分かった。君は、君という人間のことを理解されず、『普通』じゃないから『異常』に分類されて、カワイソウだと決めつけられて、そう思われることに傷ついて、敵になった……でも、同じように、君は人のことをカワイソウだと思いやることができる。お互いに悪気はない。お互いの感情に、大きな差は無いんじゃないかな?」
「……」
確かに……
以前、
けど、それ以外の人たちは、どうだったろう?
わたしの事情や生い立ちを知って、カワイソウと言ってきた人たち。
ただの同情? 憐れみ?
あの女記者みたいな、嘲笑? 優越感?
どちらにせよ、わたしにとっては余計なお世話で、不快なだけだった。
誰も、わたしのこと分からないくせに、分かった気になって、無責任な感情を向けてくる。それが不快で、気持ち悪くて……
でもそれは、わたしが出久くんと寧香ちゃんの話を聞いた時に感じた感情と、何が違うんだろう……
「少なくとも僕は、君のことは何も知らない。君が、人のために涙を流せて、好きなものを全力で好きだと思える……そんな、普通の可愛らしい女の子だってことくらいしか、僕には分からないんだ」
普通の、カァイイ女の子……
出久くんは、わたしに向かって、そう言ってくれた……
「それ以外はなにも知らない。だから、もっと教えてほしい。同じように、僕のことも知ってほしい。せっかく結婚して夫婦になったんだから。これから時間はたくさんあるよ」
「出久くん……」
「もっとも、君は罪を犯してしまった
「……嬉しいなぁ、幸せだなぁ……」
多分、このまま出久くんのこと受け入れたら、逮捕されても、死刑になっても、きっと幸せな日々が送れるのかもしれない。
でも……
「でも……ごめんね、出久くん。わたしやっぱ、結婚、できないや」
「……」
「今のわたしは、出久くんと同じくらい、連合のみんなが好きで……連合の方が、大切だから」
「……相澤先生」
「なんだ? 緑谷?」
「僕、バツ2になっちゃいました」
「成田離婚どころじゃないスピード感だな」
「ほ……」
「アハハハハハ!! 例外の野郎、フラれてやんの!! アッハハハハハ!!」
「ッタリメェだああああああああ!!」
……分かってました。
結婚うんぬんの話は、わたしのことを説得するための手段の一つだって。
加えて、弔くんの意識を逸らせて、ミルコを怒らせて力を引き出させる……まぁ、後者に関しては偶然というか、無自覚のようですが。
それでも、わたしのことを心から思いやって、夫婦として愛そうとしてくれた気持ちは本物だって分かった。
きっと、元々
ずっと、そうやって生きてきたから……
こういう感情が、『普通』じゃないってことなんだろなぁ。
こう思っちゃうことを、『異常』って呼ぶんだろうなぁ。
だからわたしは、出久くんのことが好きになったんだろうなぁ。
わたしと似てて、けどやっぱり違ってて、色々なことを気づかせてくれる、強くてカッコイイ男の子。
恋人になってくれて、嬉しぃなぁ。
結婚してくれて、幸せだなぁ。
そんな、大好きでカッコイイ男の子だから……
今は特に、甘えちゃダメなんです、きっと……
おい
ウソだろぉ?
それはダメだろおおおおおおおおお!!?
どんどん増えて大きくなっていく弔くんの手。激しくなっていく戦い。
そんなさ中、とうとう、爆豪くんが倒れて、動けなくなった。
ベストジーニストが絶望してる。これだけ離れてても分かる。
彼は、もう――
「待て緑谷!」
「行かせてください、相澤先生。今ならまだ、僕の『反転』で蘇生できる」
椅子から立ち上がり、刀を握りしめた出久くんを、イレイザーヘッドとマニュアルが押さえました。
「何度も言ったろう! お前の出番は――」
「今行かなきゃ、いつだって言うんですか!?」
「君の役目は死柄木弔を倒すことだ! 負傷者を助けることじゃない!」
「今中途半端に力を使ってやられでもしてみろ。それこそ爆豪や、他のヒーローたちの戦いが無駄になる」
言われた出久くんは、それ以上なにも言えずに震えてる。
みんなが弔くんとの戦いに精一杯。彼を緑谷くんのもとへ運べるような人もいない。
そんな倒れたままの爆豪くんに、ボロボロになったエッジショットが近寄った。
個性を使って、身体を細い糸に変えてる。戦闘不能になった彼が、爆豪くんを蘇生させようとしてるみたいだ。
雨が降り出したその間にも、戦いは続く。
そんな中、わたしたちがいる空中の檻が傾いた。どうやら、弔くんが増やし続けた手の重さに耐えられなくなってきたみたいです。
「風も出てきた……水のコントロールがぶれるかもしれない」
「相澤先生に渡した眼鏡もあります。それに……個性『うるおい保湿』。本来はお肌に使うための個性ですが、これを応用すれば、目の乾燥も防げる」
「あれ? それじゃあ、僕、いらなかったんじゃ……」
「他に同じことができる個性は無い。マニュアルの個性をコピーしても、同じだけ扱えるようになるまでとても時間が足りない。あなたの力は必要なんです」
「そうか……」
そんな会話をしてる間に……
「やっと来たか、禪院真希――
惨状に怒った禪院真希ちゃんが個性を暴発させたり、そんな真希ちゃんを先輩のヒーローが説得したり。
そんな真希ちゃんに、弔くんが襲い掛かって――
「『
「個性『
「
真希ちゃんが参戦したことで、更に戦況が激化し始めた戦場で、真希ちゃんと、目が合った。
「渡我被身子? なんでここにいる? じゃあ、
そんな声が聞こえた瞬間……
後ろの空間で、黒い穴が空いた。
哀れな死の行進――サッドマンズ・デスパレード
出久くんは個性を発動させようとしたみたいだけど間に合わずに、黒霧さんの穴からたくさん出てきた
衝撃で目は閉じて、イレイザーヘッドの眼鏡は割れて曲がった。
「どうやら、わたしと違って
「渡我被身子……いつから――」
「むしろ、いつからわたしが、仁くんの血を飲んでないって錯覚してたんですか? オールマイトがいなくても、
たくさんのわたしに潰されながら、わたしから手を離したネイカちゃんはイレイザーヘッドとマニュアルを守って、緑谷くんはわたしをかばってくれてる。
こんな時でも、彼はわたしのことを……
「腕が……今の衝撃で折れたのか。消えないってことは、君は本物?」
「ですね……個性を伸ばして、『変身』した人の個性も使えるようになった後は、あなたが帰ってきても戦えるようにって、仁くんからは輸血パック一杯分ほどの血をもらっていたんです。それを飲んだ後は、個性『2倍』を使ってもう一人増やしていたわたしと、それぞれ小分けしていた血液を持っておきました。今みたいに、どちらかが戦えなくなったとしても、一人は戦えるように……『変身』を解いた後も、飲んだ血液の効果が残ってる限り、増やしたわたしが消えないのは確認済みでしたので」
わたしは事前に多めの血を飲んでおいたけど、それはあくまで、増やしたもう一人のわたしを維持するため。
もっとたくさん増やしておけば有利になったかもしれない。けど、それだと目立ってバレちゃうでしょうし、増やせば増やした分だけ分身は弱くなるっていうことも仁くんに教えてもらってた。
「
「あなたの前でそんなこと、自殺行為です……何より、わたしはもう、満足して、戦意も、腕も、折れちゃいましたから」
『個性』を使えない代わりに、わたしの折れた腕に、接ぎ木代わりの瓦礫を当てて縛ってくれてる緑谷くんに、そう返事をする。
そうしてる間に、『抹消』が解けた弔くんと、真希ちゃんが空の檻から飛び出していった。
空に浮かんだ檻はそのまま落ちていったけど、途中で何かに支えられたみたいだった。
衝撃でイレイザーヘッドとプレゼントマイクが下に落ちて、ネイカちゃんが手を伸ばすより先に黒い穴へ消えていった。
雨も本降りになってきた中、その後も出久くんは、増え続けるわたしから、わたしや仲間のヒーローたちを守っていたけど、どうやら時間切れが来たようで、わたしは全員、消えていった。
その後、出久くんは何かを見つけて、地上を見てた。
そこには、
「おいで、ネイカ――全部だ」
やーっとまともな出久の戦闘が書けますわ。
まあ、またお時間もらうけど……
『ネイカ』の詳細は次話書きます。