『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

10 / 32
第9話 消えた名前――双子への干渉

その日の午後。

 

 レオニダスは、妙な違和感を覚えていた。

 

「……なあ、レオナ」

 

「なに?」

 

「今日って、何曜日だっけ?」

 

「え?」

 

 レオナが首を傾げる。

 

「木曜日じゃない?」

 

「……そうだよな」

 

 レオニダスは頭を掻いた。

 

「なんか、昨日と今日の境目が変な感じがする」

 

「昨日は昨日でしょ」

 

「分かってるんだけどさ」

 

 レオナは兄の顔を見る。

 

「また、あの時計のせい?」

 

「……たぶん」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 レオナの表情が真剣になった。

 

「じゃあ、今日も一緒にいる」

 

「え?」

 

「離れない」

 

 レオニダスが笑う。

 

「それ、いつもじゃん」

 

「今日は特に」

 

「分かった」

 

 二人は並んで歩き出した。

 

 しかし。

 

 廊下の角を曲がったところで、ローズが走ってきた。

 

「二人とも!」

 

「ローズ?」

 

「探してたの!」

 

 ローズは息を整えながら言った。

 

「アルバスとスコーピウスも一緒。すぐ来て」

 

「何かあった?」

 

「名前」

 

「名前?」

 

 ローズは頷く。

 

「昨日、私たちが調べていた記録の一部が――消えた」

 

 レオニダスの表情が変わった。

 

「消えたって?」

 

「本そのものじゃない」

 

 ローズが答える。

 

「文章は残ってる。でも、そこに書かれていた人の名前だけが消えてる」

 

 レオナが眉を寄せる。

 

「誰の名前?」

 

「昨日の『R』に関係する人」

 

 五人は顔を見合わせた。

 

 すぐに図書館へ向かった。

 

 そこには、アルバスとスコーピウスが待っていた。

 

「見て」

 

 アルバスが机の上に一冊の本を置く。

 

 ページには、昨日と同じ記録がある。

 

『時間魔法による歴史改変未遂』

 

『実行者――不明』

 

『対象――継承者二名』

 

 だが。

 

 その下にあったはずの文章が変わっていた。

 

『記録保管者――』

 

 そこから先だけが、白紙になっている。

 

「昨日は名前があったんだよね?」

 

 レオニダスが聞く。

 

「うん」

 

 ローズが答える。

 

「私が見たときには、ちゃんと名前があった」

 

「覚えてる?」

 

「……」

 

 ローズは眉を寄せる。

 

「覚えてるはずなのに……」

 

「どうした?」

 

「思い出せない」

 

 全員が黙った。

 

 ローズは額に手を当てる。

 

「おかしい……。昨日まで読めていたのに」

 

「じゃあ、名前そのものが消された?」

 

 スコーピウスが言う。

 

「記録からだけじゃない」

 

 アルバスがページを見る。

 

「僕たちの記憶からも」

 

 レオナが息を呑む。

 

「そんなこと……できるの?」

 

「時間魔法なら、可能性はある」

 

 ローズが答えた。

 

「昨日の先生が言ってた。記憶そのものが変わることもあるって」

 

 レオニダスは拳を握る。

 

「じゃあ、次は俺たちの番かもしれない」

 

「だから――」

 

 ローズが言いかけた。

 

 その瞬間。

 

「レオニダス?」

 

 背後から声がした。

 

 振り返る。

 

 そこには、一人のグリフィンドール生が立っていた。

 

「……誰?」

 

 レオニダスが尋ねる。

 

 相手はきょとんとした。

 

「え?」

 

「俺のこと、知ってる?」

 

「もちろん知ってるよ」

 

「じゃあ、名前は?」

 

 生徒は答えようとした。

 

 しかし。

 

「……」

 

 口が止まる。

 

「どうしたの?」

 

 レオナが聞く。

 

 生徒の顔が青ざめた。

 

「……分からない」

 

「え?」

 

「君の名前……知ってるはずなのに」

 

 レオニダスの背筋が冷たくなる。

 

 ローズが立ち上がった。

 

「みんな、離れて!」

 

 杖を抜く。

 

 その瞬間。

 

 廊下の照明が一斉に消えた。

 

「何!?」

 

 暗闇。

 

 そして。

 

 どこからか、時計の音が聞こえた。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

「また……」

 

 レオニダスが呟く。

 

 レオナが兄の手を握る。

 

「お兄ちゃん」

 

「いるよ」

 

「絶対、離さないで」

 

「ああ」

 

 レオニダスは強く握り返す。

 

 その瞬間。

 

 闇の中から、声が聞こえた。

 

『継承者を確認』

 

 全員が凍りつく。

 

『第一対象――レオニダス・スキャマンダー』

 

 レオニダスの胸が跳ねる。

 

『第二対象――レオナ・スキャマンダー』

 

 レオナが兄の手を強く握る。

 

『記録消去を開始』

 

「やめろ!」

 

 レオニダスが叫ぶ。

 

 杖を振る。

 

「Lumos!」

 

 光が弾ける。

 

 しかし、何もいない。

 

 廊下には、誰もいなかった。

 

「どこだ!?」

 

 レオニダスが辺りを見る。

 

 すると。

 

 床に黒い文字が浮かんだ。

 

『一人ずつ消す』

 

 レオナの顔が強張る。

 

「……お兄ちゃん」

 

「大丈夫」

 

 レオニダスはすぐに答えた。

 

「俺たちは一緒だ」

 

 だが。

 

 その瞬間。

 

 レオニダスの手から、レオナの手が――消えた。

 

「……え?」

 

 レオニダスが目を見開く。

 

「レオナ?」

 

 そこにいたはずの妹がいない。

 

「レオナ!」

 

 叫ぶ。

 

 返事がない。

 

「レオナ!」

 

 ローズたちも驚いて辺りを見回す。

 

「さっきまで、ここに……」

 

 ローズの声が震える。

 

 レオニダスの顔から血の気が引く。

 

「レオナ!」

 

 廊下を走る。

 

 角を曲がる。

 

 いない。

 

「レオナ!」

 

 どこにもいない。

 

 しかし。

 

 レオニダスの手には、まだ妹の温もりが残っていた。

 

「……いる」

 

 レオニダスが呟く。

 

「絶対にいる」

 

 ローズが駆け寄る。

 

「レオニダス!」

 

「俺には分かる」

 

 レオニダスは自分の胸を叩いた。

 

「レオナは消えてない」

 

「でも、見えない」

 

「関係ない!」

 

 レオニダスは叫んだ。

 

「俺の妹だ!」

 

 その瞬間。

 

 胸元から光が溢れた。

 

 昨日、オリバンダーの店で選ばれた杖。

 

 その杖が強く光っている。

 

「何……?」

 

 ローズが驚く。

 

 レオニダスは杖を見る。

 

「これ……」

 

 光が一本の線となって、廊下の奥へ伸びていく。

 

 まるで何かを指し示すように。

 

「レオナのところへ続いてる」

 

 レオニダスは走り出した。

 

「待って!」

 

 ローズたちも続く。

 

 廊下を抜ける。

 

 階段を下りる。

 

 さらに地下へ。

 

 そして。

 

 見覚えのある扉の前で、光が止まった。

 

 獅子の紋章。

 

 継承者の部屋だった。

 

 レオニダスは扉へ手を伸ばす。

 

「レオナ!」

 

 扉の向こうから。

 

 かすかな声がした。

 

「……お兄ちゃん?」

 

「レオナ!」

 

 レオニダスは扉を開ける。

 

 そこには。

 

 レオナがいた。

 

 しかし。

 

 その姿は半透明だった。

 

「レオナ!」

 

 レオニダスが駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「うん……」

 

 レオナは自分の手を見る。

 

「でも、体が……変」

 

 指先が少しずつ薄くなっている。

 

「……怖い」

 

 初めて。

 

 レオナの声が震えた。

 

 レオニダスは妹を抱きしめる。

 

「大丈夫」

 

「でも……」

 

「絶対、大丈夫」

 

「お兄ちゃん……」

 

「俺がいる」

 

 レオニダスは妹を離さない。

 

「俺が絶対に見つける」

 

 すると。

 

 部屋の中央にある『継承者の記録』が開いた。

 

 ページに文字が浮かぶ。

 

『記録消去まで――残り三分』

 

 ローズが息を呑む。

 

「三分しかない!」

 

「どうすればいい!?」

 

 アルバスが叫ぶ。

 

 本の次のページが開く。

 

『二人の継承者が、互いの名を呼べ』

 

「……名前?」

 

 レオナが兄を見る。

 

 レオニダスはすぐに答えた。

 

「レオナ!」

 

「レオニダス!」

 

 二人が同時に名前を呼ぶ。

 

 しかし。

 

 何も起こらない。

 

「もう一度!」

 

 ローズが叫ぶ。

 

「レオナ!」

 

「レオニダス!」

 

 光が弾ける。

 

 半透明だったレオナの身体が、少しだけ戻る。

 

「効いてる!」

 

 アルバスが叫ぶ。

 

「もっと!」

 

 レオニダスが叫ぶ。

 

「レオナ!」

 

「レオニダス!」

 

「レオナ!」

 

「レオニダス!」

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 二人は互いの名前を呼んだ。

 

 そして――。

 

 光が部屋いっぱいに広がった。

 

 時計が逆回転する。

 

 カチカチカチカチ――。

 

 そして。

 

 ドン!

 

 時計が止まった。

 

 レオナの身体が完全に戻る。

 

「……戻った」

 

 レオナが自分の手を見る。

 

 レオニダスはその場に座り込んだ。

 

「よかった……」

 

 レオナが兄に抱きつく。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「……当たり前だろ」

 

 レオニダスも笑った。

 

 だが。

 

 その直後。

 

 本の最後のページに、新しい文字が浮かび上がった。

 

『第一干渉――失敗』

 

 全員が凍りつく。

 

 そして、その下に。

 

『次は、兄を消す』

 

 レオナの表情が変わった。

 

「……お兄ちゃん?」

 

 レオニダスは妹を見る。

 

 今度は。

 

 レオナが兄の手を強く握った。

 

「今度は私が守る」

 

「レオナ……」

 

「だって、私たち双子でしょ?」

 

 レオニダスは笑った。

 

「ああ」

 

 二人は手を繋ぐ。

 

 しかし。

 

 誰も気づいていなかった。

 

 部屋の壁に浮かんだ、最後の小さな文字に。

 

『第三の継承者――未確認』

 

 そして。

 

 時計の針が、再び動き始めた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。