『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

11 / 32
第10話 第三の継承者――消えない記憶

 継承者の部屋を出たあとも。

 

 レオニダスは、妹の手を離さなかった。

 

「……お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「ずっと握ってるよ」

 

「分かってる」

 

「手、疲れない?」

 

「全然」

 

 レオニダスは笑った。

 

「もう一回消えたら困るから」

 

「……うん」

 

 レオナも笑う。

 

 その後ろを、ローズ、アルバス、スコーピウスが歩いている。

 

 だが、四人とも笑ってはいなかった。

 

 頭から離れない言葉がある。

 

『第三の継承者――未確認』

 

 ローズが口を開いた。

 

「まず、これを整理しよう」

 

「うん」

 

 五人は空き教室へ入った。

 

 ローズが黒板に文字を書いていく。

 

『第一の継承者――レオニダス』

 

『第二の継承者――レオナ』

 

『第三の継承者――未確認』

 

 スコーピウスが腕を組む。

 

「第三の継承者が誰なのか分からない」

 

「でも、継承者が三人いるなら」

 

 アルバスが続ける。

 

「最初から三人だった可能性もある」

 

 レオナが首を傾げた。

 

「じゃあ、どうして私たち二人しか本に名前が出なかったの?」

 

「それが問題」

 

 ローズが頷く。

 

「誰かが第三の継承者の記録だけを消したのかもしれない」

 

「だったら探そう」

 

 レオニダスが即答した。

 

「第三の継承者を?」

 

「ああ」

 

「手掛かりがないよ」

 

「だから探すんだろ」

 

 レオニダスが笑う。

 

「何も分からないなら、一つずつ見つければいい」

 

 ローズが少し笑った。

 

「……そういうところ、お父さんに似てるね」

 

「俺のお父さん?」

 

「うん」

 

「じゃあ、いいところじゃん」

 

「そこだけね」

 

「そこだけ!?」

 

 レオナが笑い出す。

 

「お兄ちゃん、頑張って!」

 

「レオナまで!」

 

 少しだけ緊張がほぐれる。

 

 しかし、ローズは黒板を見つめた。

 

「まず、昨日の記録をもう一度調べよう」

 

 五人は図書館へ戻った。

 

 昨日と同じ本を開く。

 

 だが。

 

「……ない」

 

 ローズが呟く。

 

「何が?」

 

「昨日の記録そのものが消えてる」

 

 ページには、普通の歴史だけが書かれていた。

 

『時間魔法による歴史改変未遂』

 

 その項目さえ、存在しない。

 

「完全に消された?」

 

 スコーピウスが尋ねる。

 

「ううん」

 

 ローズがページを指差す。

 

「違う」

 

「何が?」

 

「ここ」

 

 紙の中央。

 

 誰かが何度も消去魔法を使った跡が残っている。

 

「一度じゃない」

 

 ローズが言う。

 

「何度も消してる」

 

 レオニダスが拳を握る。

 

「じゃあ、誰かが今も記録を消してるんだ」

 

「そう考えるのが自然」

 

 アルバスが答える。

 

 そのとき。

 

 レオナが突然、顔を上げた。

 

「……待って」

 

「どうした?」

 

「昨日のこと、みんな覚えてる?」

 

「もちろん」

 

 レオニダスが答える。

 

「本当に?」

 

「え?」

 

 レオナはローズを見る。

 

「ローズ、昨日、私が消えたとき……何を言った?」

 

「えっと……」

 

 ローズの顔が固まった。

 

「……」

 

「覚えてない?」

 

「違う」

 

 ローズは慌てて首を振る。

 

「覚えてる。覚えてるはず」

 

 しかし。

 

 何度思い出そうとしても、言葉が出てこない。

 

「……おかしい」

 

 アルバスも眉を寄せる。

 

「僕も、一部だけ思い出せない」

 

「俺もだ」

 

 スコーピウスが言う。

 

 レオニダスは二人を見る。

 

「じゃあ、昨日の記憶も消されてる?」

 

「少しずつ」

 

 ローズが答えた。

 

「でも、私たちは気づけた」

 

「どうして?」

 

 レオナが聞く。

 

「たぶん……」

 

 ローズは二人を見る。

 

「双子の影響」

 

「また?」

 

「昨日、本に書いてあったでしょ」

 

 ローズが指を差す。

 

「双子は時間への干渉力が増幅する」

 

 レオニダスは考える。

 

「つまり、俺たちが一緒にいると……」

 

「時間改変に抵抗できる可能性がある」

 

 アルバスが答えた。

 

「だから敵は、まず二人を引き離そうとしてるんじゃない?」

 

 その瞬間。

 

 レオニダスとレオナが同時に顔を上げた。

 

「……それなら」

 

「第三の継承者は?」

 

 レオナが呟く。

 

 ローズが目を見開く。

 

「第三の継承者は、二人を引き離すための鍵かもしれない」

 

 五人の間に沈黙が落ちた。

 

 そのとき。

 

 図書館の奥から、紙がめくれる音がした。

 

 誰も触れていない本が、一冊だけ開いている。

 

「……あれ」

 

 レオナが近づく。

 

「待って!」

 

 ローズが止める。

 

「今度は全員で」

 

 五人が慎重に近づく。

 

 本のページには、新しい文字が浮かび上がっていた。

 

『第三の継承者を探せ』

 

 その下に。

 

『ヒント――最も近くにいる者』

 

「最も近く?」

 

 スコーピウスが辺りを見る。

 

「僕たちの中にいるってこと?」

 

「それなら……」

 

 アルバスが全員を見る。

 

 ローズ。

 

 スコーピウス。

 

 アルバス。

 

 レオニダス。

 

 レオナ。

 

 誰も何も言わない。

 

 すると。

 

 ページがさらにめくれた。

 

『名前を失った者』

 

 レオナが息を呑む。

 

「名前を……失った?」

 

 レオニダスが考え込む。

 

「それって、昨日の……」

 

 ローズが振り返る。

 

「図書館にいた生徒」

 

「俺たちの名前を思い出せなかった人?」

 

「そう」

 

 五人は顔を見合わせる。

 

 すぐに図書館を飛び出した。

 

 廊下を走る。

 

 しかし。

 

 目的の生徒は見つからない。

 

「どこだ!?」

 

 レオニダスが辺りを見る。

 

「待って!」

 

 レオナが叫ぶ。

 

「向こう!」

 

 廊下の先。

 

 一人の生徒が立っていた。

 

 昨日、レオニダスの名前を思い出せなかった生徒だ。

 

 レオニダスが駆け寄る。

 

「君!」

 

 生徒が振り返る。

 

「……誰?」

 

 レオニダスの足が止まった。

 

「俺だよ」

 

「……」

 

「昨日、図書館で会っただろ?」

 

 生徒は首を傾げる。

 

「ごめん」

 

「……」

 

「君のこと、知らない」

 

 レオナが兄の隣へ立った。

 

「じゃあ、あなたの名前は?」

 

 生徒は答えようとした。

 

 しかし。

 

「……分からない」

 

 自分自身の名前さえ、思い出せない。

 

 ローズが息を呑んだ。

 

「そんな……」

 

 その瞬間。

 

 生徒の胸元に、淡い光が現れた。

 

 光の中に、一つの文字。

 

『R』

 

 レオニダスが目を見開く。

 

「昨日の紙と同じ……」

 

 生徒が苦しそうに頭を押さえる。

 

「……誰かが……」

 

「何?」

 

「僕の名前を……」

 

 声が震える。

 

「消してる……」

 

 そして。

 

 その生徒の足元に、黒い魔法陣が現れた。

 

「危ない!」

 

 レオニダスが飛び込む。

 

 レオナも杖を抜く。

 

「Protego!」

 

 盾の魔法が展開する。

 

 魔法陣から黒い光が放たれる。

 

 バチッ!

 

 盾にぶつかり、火花が散る。

 

「レオナ!」

 

「分かってる!」

 

 二人が同時に杖を振る。

 

「Expelliarmus!」

 

「Expelliarmus!」

 

 二つの魔法が重なった。

 

 黒い魔法陣が砕ける。

 

 生徒が倒れそうになる。

 

 レオニダスが支える。

 

「大丈夫か!」

 

「……君」

 

「俺?」

 

「……君の名前」

 

 生徒が震える声で言った。

 

「レオニダス……だよね?」

 

「……ああ!」

 

 レオニダスが笑う。

 

「そうだ!」

 

 生徒の目に涙が浮かぶ。

 

「思い出せた……」

 

 レオナも笑った。

 

「よかった」

 

 しかし。

 

 ローズは床を見ていた。

 

 砕けた魔法陣の中心。

 

 そこに、文字が残っている。

 

『第三の継承者――接触済み』

 

 全員の顔から笑顔が消える。

 

「……接触済み?」

 

 アルバスが呟く。

 

 スコーピウスが周囲を見る。

 

「つまり……」

 

 レオニダスが言った。

 

「第三の継承者は、もう俺たちの近くにいる」

 

 そして。

 

 遠くの窓の外。

 

 誰かがこちらを見ていた。

 

 黒いローブ。

 

 獅子の紋章が刻まれた指輪。

 

 その人物は、五人と生徒の姿を確認すると、静かに背を向けた。

 

「……まだ、気づいてはいない」

 

 小さく呟く。

 

「第三の継承者が、誰なのか」

 

 その手には。

 

 一枚の古い写真が握られていた。

 

 写真に写っていたのは――。

 

 まだ幼い、レオニダスとレオナ。

 

 そして。

 

 二人のすぐ隣に立つ、もう一人の子どもの姿だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。