『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
継承者の部屋を出たあとも。
レオニダスは、妹の手を離さなかった。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「ずっと握ってるよ」
「分かってる」
「手、疲れない?」
「全然」
レオニダスは笑った。
「もう一回消えたら困るから」
「……うん」
レオナも笑う。
その後ろを、ローズ、アルバス、スコーピウスが歩いている。
だが、四人とも笑ってはいなかった。
頭から離れない言葉がある。
『第三の継承者――未確認』
ローズが口を開いた。
「まず、これを整理しよう」
「うん」
五人は空き教室へ入った。
ローズが黒板に文字を書いていく。
『第一の継承者――レオニダス』
『第二の継承者――レオナ』
『第三の継承者――未確認』
スコーピウスが腕を組む。
「第三の継承者が誰なのか分からない」
「でも、継承者が三人いるなら」
アルバスが続ける。
「最初から三人だった可能性もある」
レオナが首を傾げた。
「じゃあ、どうして私たち二人しか本に名前が出なかったの?」
「それが問題」
ローズが頷く。
「誰かが第三の継承者の記録だけを消したのかもしれない」
「だったら探そう」
レオニダスが即答した。
「第三の継承者を?」
「ああ」
「手掛かりがないよ」
「だから探すんだろ」
レオニダスが笑う。
「何も分からないなら、一つずつ見つければいい」
ローズが少し笑った。
「……そういうところ、お父さんに似てるね」
「俺のお父さん?」
「うん」
「じゃあ、いいところじゃん」
「そこだけね」
「そこだけ!?」
レオナが笑い出す。
「お兄ちゃん、頑張って!」
「レオナまで!」
少しだけ緊張がほぐれる。
しかし、ローズは黒板を見つめた。
「まず、昨日の記録をもう一度調べよう」
五人は図書館へ戻った。
昨日と同じ本を開く。
だが。
「……ない」
ローズが呟く。
「何が?」
「昨日の記録そのものが消えてる」
ページには、普通の歴史だけが書かれていた。
『時間魔法による歴史改変未遂』
その項目さえ、存在しない。
「完全に消された?」
スコーピウスが尋ねる。
「ううん」
ローズがページを指差す。
「違う」
「何が?」
「ここ」
紙の中央。
誰かが何度も消去魔法を使った跡が残っている。
「一度じゃない」
ローズが言う。
「何度も消してる」
レオニダスが拳を握る。
「じゃあ、誰かが今も記録を消してるんだ」
「そう考えるのが自然」
アルバスが答える。
そのとき。
レオナが突然、顔を上げた。
「……待って」
「どうした?」
「昨日のこと、みんな覚えてる?」
「もちろん」
レオニダスが答える。
「本当に?」
「え?」
レオナはローズを見る。
「ローズ、昨日、私が消えたとき……何を言った?」
「えっと……」
ローズの顔が固まった。
「……」
「覚えてない?」
「違う」
ローズは慌てて首を振る。
「覚えてる。覚えてるはず」
しかし。
何度思い出そうとしても、言葉が出てこない。
「……おかしい」
アルバスも眉を寄せる。
「僕も、一部だけ思い出せない」
「俺もだ」
スコーピウスが言う。
レオニダスは二人を見る。
「じゃあ、昨日の記憶も消されてる?」
「少しずつ」
ローズが答えた。
「でも、私たちは気づけた」
「どうして?」
レオナが聞く。
「たぶん……」
ローズは二人を見る。
「双子の影響」
「また?」
「昨日、本に書いてあったでしょ」
ローズが指を差す。
「双子は時間への干渉力が増幅する」
レオニダスは考える。
「つまり、俺たちが一緒にいると……」
「時間改変に抵抗できる可能性がある」
アルバスが答えた。
「だから敵は、まず二人を引き離そうとしてるんじゃない?」
その瞬間。
レオニダスとレオナが同時に顔を上げた。
「……それなら」
「第三の継承者は?」
レオナが呟く。
ローズが目を見開く。
「第三の継承者は、二人を引き離すための鍵かもしれない」
五人の間に沈黙が落ちた。
そのとき。
図書館の奥から、紙がめくれる音がした。
誰も触れていない本が、一冊だけ開いている。
「……あれ」
レオナが近づく。
「待って!」
ローズが止める。
「今度は全員で」
五人が慎重に近づく。
本のページには、新しい文字が浮かび上がっていた。
『第三の継承者を探せ』
その下に。
『ヒント――最も近くにいる者』
「最も近く?」
スコーピウスが辺りを見る。
「僕たちの中にいるってこと?」
「それなら……」
アルバスが全員を見る。
ローズ。
スコーピウス。
アルバス。
レオニダス。
レオナ。
誰も何も言わない。
すると。
ページがさらにめくれた。
『名前を失った者』
レオナが息を呑む。
「名前を……失った?」
レオニダスが考え込む。
「それって、昨日の……」
ローズが振り返る。
「図書館にいた生徒」
「俺たちの名前を思い出せなかった人?」
「そう」
五人は顔を見合わせる。
すぐに図書館を飛び出した。
廊下を走る。
しかし。
目的の生徒は見つからない。
「どこだ!?」
レオニダスが辺りを見る。
「待って!」
レオナが叫ぶ。
「向こう!」
廊下の先。
一人の生徒が立っていた。
昨日、レオニダスの名前を思い出せなかった生徒だ。
レオニダスが駆け寄る。
「君!」
生徒が振り返る。
「……誰?」
レオニダスの足が止まった。
「俺だよ」
「……」
「昨日、図書館で会っただろ?」
生徒は首を傾げる。
「ごめん」
「……」
「君のこと、知らない」
レオナが兄の隣へ立った。
「じゃあ、あなたの名前は?」
生徒は答えようとした。
しかし。
「……分からない」
自分自身の名前さえ、思い出せない。
ローズが息を呑んだ。
「そんな……」
その瞬間。
生徒の胸元に、淡い光が現れた。
光の中に、一つの文字。
『R』
レオニダスが目を見開く。
「昨日の紙と同じ……」
生徒が苦しそうに頭を押さえる。
「……誰かが……」
「何?」
「僕の名前を……」
声が震える。
「消してる……」
そして。
その生徒の足元に、黒い魔法陣が現れた。
「危ない!」
レオニダスが飛び込む。
レオナも杖を抜く。
「Protego!」
盾の魔法が展開する。
魔法陣から黒い光が放たれる。
バチッ!
盾にぶつかり、火花が散る。
「レオナ!」
「分かってる!」
二人が同時に杖を振る。
「Expelliarmus!」
「Expelliarmus!」
二つの魔法が重なった。
黒い魔法陣が砕ける。
生徒が倒れそうになる。
レオニダスが支える。
「大丈夫か!」
「……君」
「俺?」
「……君の名前」
生徒が震える声で言った。
「レオニダス……だよね?」
「……ああ!」
レオニダスが笑う。
「そうだ!」
生徒の目に涙が浮かぶ。
「思い出せた……」
レオナも笑った。
「よかった」
しかし。
ローズは床を見ていた。
砕けた魔法陣の中心。
そこに、文字が残っている。
『第三の継承者――接触済み』
全員の顔から笑顔が消える。
「……接触済み?」
アルバスが呟く。
スコーピウスが周囲を見る。
「つまり……」
レオニダスが言った。
「第三の継承者は、もう俺たちの近くにいる」
そして。
遠くの窓の外。
誰かがこちらを見ていた。
黒いローブ。
獅子の紋章が刻まれた指輪。
その人物は、五人と生徒の姿を確認すると、静かに背を向けた。
「……まだ、気づいてはいない」
小さく呟く。
「第三の継承者が、誰なのか」
その手には。
一枚の古い写真が握られていた。
写真に写っていたのは――。
まだ幼い、レオニダスとレオナ。
そして。
二人のすぐ隣に立つ、もう一人の子どもの姿だった。