『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第11話 消された第三の子――もう一人の継承者

 その夜。

 

 ホグワーツの一室に、五人が集まっていた。

 

 机の上には、一枚の古い写真。

 

 そこに写っているのは、幼いレオニダス。

 

 そして、その隣には幼いレオナ。

 

 その二人のすぐそばに――。

 

 もう一人の子どもがいる。

 

「……これ」

 

 ローズが写真を見つめた。

 

「本当にレオニダスとレオナ?」

 

「ああ」

 

 レオニダスが頷く。

 

「俺だ」

 

 レオナも写真を覗き込む。

 

「私も……」

 

 しかし。

 

「この子は誰?」

 

 スコーピウスが尋ねた。

 

 誰も答えられない。

 

 アルバスが写真を裏返す。

 

「名前は?」

 

 裏には、古い文字が残っていた。

 

『家族の記録 ――――』

 

 そこだけ、黒く塗り潰されている。

 

「名前だけ消されてる」

 

 ローズが呟いた。

 

「いや」

 

 レオナが写真を指差す。

 

「名前だけじゃない」

 

「え?」

 

「この子がいたことそのものが、消されてる」

 

 全員が黙った。

 

 レオナは写真を見つめる。

 

「だって、私たちの家族の写真なら……」

 

「本来なら、この子のことも知ってるはず」

 

 ローズが続ける。

 

「なのに、誰も知らない」

 

「第三の継承者……」

 

 アルバスが呟いた。

 

 レオニダスは写真を握りしめる。

 

「じゃあ、この子が第三の継承者なのか?」

 

「まだ分からない」

 

 ローズが首を振る。

 

「でも、可能性は高い」

 

「だったら調べよう」

 

 レオニダスが立ち上がった。

 

「この写真がどこから出てきたのか」

 

「待って」

 

 ローズが止める。

 

「それだけじゃない」

 

「何?」

 

「どうして私たちが、この写真を見つけられたのか」

 

 ローズは黒板に文字を書いた。

 

『第三の継承者』

 

『消された記憶』

 

『名前を失った生徒』

 

『古い写真』

 

 そして、その下に。

 

『共通点――名前』

 

「全部、名前に関係してる」

 

 ローズが言った。

 

「記録から名前を消す」

 

「記憶から名前を消す」

 

「そして、この子の名前も消されている」

 

 スコーピウスが腕を組む。

 

「つまり、敵が狙っているのは人間そのものじゃなくて……」

 

「その人間が存在したという記録」

 

 アルバスが答えた。

 

 レオナが小さく息を呑む。

 

「存在を消す……」

 

「そう」

 

 ローズが頷く。

 

「時間を変えるだけじゃない」

 

「歴史から、その人間を最初からいなかったことにする」

 

 部屋に沈黙が落ちた。

 

 レオニダスが写真を見る。

 

「……それなら」

 

「うん?」

 

「俺が消されそうになった理由も分かる」

 

 レオニダスは写真の中の自分を見る。

 

「俺がいなくなれば、レオナの記録も変わる」

 

「双子だから」

 

 レオナが続けた。

 

「私たちは一人だけ消しても、もう一人の記憶が残る」

 

「だから敵は……」

 

 アルバスが言葉を止めた。

 

「二人とも消そうとしてる?」

 

 レオナは写真を見つめた。

 

「でも、それなら第三の子は?」

 

 誰も答えられない。

 

 そのとき。

 

 コンコン。

 

 扉が叩かれた。

 

「誰?」

 

 ローズが尋ねる。

 

「僕」

 

 昼間の生徒だった。

 

 扉を開けると、少年が立っている。

 

 まだ少し顔色が悪い。

 

「大丈夫?」

 

 レオナが声をかける。

 

「うん」

 

 少年は頷いた。

 

「さっきはありがとう」

 

「名前は思い出した?」

 

「……まだ」

 

 少年は苦笑した。

 

「でも、少しだけ」

 

「何を?」

 

「頭の中に、文字が浮かぶんだ」

 

 ローズが近づく。

 

「どんな文字?」

 

「R」

 

 全員が顔を見合わせる。

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

 少年は写真を見る。

 

 すると。

 

 突然、表情が変わった。

 

「……この子」

 

「え?」

 

 少年が写真を指差す。

 

「見たことがある」

 

 レオニダスが立ち上がった。

 

「どこで?」

 

「分からない」

 

「思い出して!」

 

 レオナが制する。

 

「お兄ちゃん」

 

「でも!」

 

「焦ったら、また記憶を消されるかもしれない」

 

 レオニダスが黙る。

 

 少年は目を閉じた。

 

「……白い部屋」

 

「白い部屋?」

 

「うん」

 

「誰かがいた?」

 

「……子どもが三人」

 

 五人の表情が変わった。

 

「三人?」

 

「うん」

 

 少年は苦しそうに頭を押さえる。

 

「一人は……レオニダス」

 

「俺?」

 

「もう一人は……レオナ」

 

「私」

 

「そして……」

 

 少年の声が震える。

 

「もう一人」

 

 レオナが息を呑む。

 

「名前は?」

 

「……」

 

 少年は必死に思い出そうとする。

 

「名前は……」

 

 その瞬間。

 

 少年の胸元に、また淡い光が浮かんだ。

 

「危ない!」

 

 レオニダスが少年を引き寄せる。

 

 ローズが杖を構えた。

 

「Protego!」

 

 光が弾ける。

 

 だが今回は、黒い魔法ではなかった。

 

 白い光が部屋中に広がった。

 

「何これ!?」

 

 スコーピウスが目を覆う。

 

 光の中に、映像が浮かび上がる。

 

 幼いレオニダス。

 

 幼いレオナ。

 

 そして。

 

 三人目の子ども。

 

 三人は楽しそうに笑っている。

 

 誰かが遠くから呼びかける。

 

『三人とも、こっちを見て』

 

 幼いレオナが笑う。

 

『お兄ちゃん!』

 

 幼いレオニダスが振り返る。

 

『レオナ、待てよ!』

 

 そして。

 

 三人目の子どもが振り返る。

 

 顔が見える。

 

 しかし――。

 

 その瞬間だけ、映像が乱れた。

 

 顔の部分が黒く塗り潰される。

 

「また消された!」

 

 ローズが叫ぶ。

 

 レオニダスが前へ出る。

 

「やめろ!」

 

 杖を向ける。

 

「誰だ!」

 

 映像は答えない。

 

 ただ。

 

 三人目の子どもが、レオニダスに手を伸ばしている。

 

 そして口が動いた。

 

『……兄ちゃん』

 

 レオニダスが固まる。

 

「……今、何て?」

 

 レオナも映像を見る。

 

「お兄ちゃんって……」

 

「違う」

 

 レオニダスが首を振る。

 

「俺のことを、お兄ちゃんって呼んだ」

 

 ローズが考え込む。

 

「つまり、この子は……」

 

「俺たちのことを知ってる」

 

 レオナが呟いた。

 

 映像がさらに乱れる。

 

 今度は、三人目の子どもがレオナの手を握る。

 

『レオナ』

 

 優しい声。

 

『大丈夫』

 

『僕がいるから』

 

 レオナの目が大きく開く。

 

「……この声」

 

「知ってるの?」

 

 アルバスが聞く。

 

「分からない」

 

 レオナは胸に手を当てる。

 

「でも……」

 

 涙が一粒落ちた。

 

「懐かしい」

 

 その言葉と同時に。

 

 映像が消えた。

 

 部屋は静まり返った。

 

 ローズが写真を見つめる。

 

「第三の継承者は、レオニダスとレオナの過去を知っている」

 

「それどころか」

 

 スコーピウスが続ける。

 

「二人の幼少期から一緒にいた」

 

「だったら」

 

 アルバスが言う。

 

「なぜ僕たちは、その存在を覚えていない?」

 

 答えは出なかった。

 

 しかし。

 

 レオナが写真をもう一度見た。

 

「待って」

 

「どうした?」

 

 レオニダスが聞く。

 

「この写真」

 

 レオナが指差す。

 

「三人の足元」

 

 そこには、小さな影が三つ。

 

 しかし。

 

 三人目の影だけが――。

 

 少し離れている。

 

「これ……」

 

 ローズが目を細める。

 

「写真を撮った時点では、もうこの子は……」

 

「俺たちから離れていた?」

 

 レオニダスが呟く。

 

「違う」

 

 レオナが首を振る。

 

「違うよ、お兄ちゃん」

 

「え?」

 

「この子が離れたんじゃない」

 

 レオナは写真を裏返した。

 

 そして。

 

 裏側の黒く塗り潰された部分を指差す。

 

「誰かが、この子を切り離したんだと思う」

 

 その瞬間。

 

 写真の裏側に、文字が浮かび上がった。

 

『第三の継承者は、消されたのではない』

 

 五人が息を呑む。

 

 さらに文字が現れる。

 

『隠された』

 

 レオニダスが呟いた。

 

「消されたんじゃない……?」

 

 そして最後の一行。

 

『探すな』

 

『見つけられる前に、こちらから迎えに行く』

 

 文字が黒く染まった。

 

 同時に。

 

 ホグワーツのどこかで、鐘が鳴った。

 

 深夜を告げる鐘。

 

 一度。

 

 二度。

 

 三度。

 

 そして――。

 

 四度目の鐘が鳴った瞬間。

 

 レオナの頭の中に、誰かの声が響いた。

 

『……レオナ』

 

「……!」

 

 レオナが振り返る。

 

「今……」

 

「どうした?」

 

 レオニダスが尋ねる。

 

 レオナは答えなかった。

 

 ただ、廊下の先を見つめている。

 

 そこには誰もいない。

 

 しかし。

 

 確かに聞こえた。

 

『レオナ』

 

 もう一度。

 

 優しい声。

 

 懐かしい声。

 

 そして最後に。

 

『兄ちゃんを連れてきて』

 

 レオナの顔から血の気が引いた。

 

「……お兄ちゃん」

 

「何?」

 

「第三の継承者……」

 

 レオナは震える手で、レオニダスの腕を掴んだ。

 

「私たちを探してるんじゃない」

 

「……」

 

「向こうが、私たちを呼んでる」

 

 その瞬間。

 

 写真の中から、三人目の子どもの姿だけが消えた。

 

 そして写真には。

 

 レオニダスとレオナの二人だけが残った。

 

 まるで最初から――。

 

 三人目など存在しなかったかのように。

 

 だが。

 

 レオナだけは知っていた。

 

 確かに、そこにいた。

 

 ずっと昔。

 

 二人の隣に。

 

 そして今も。

 

 どこかで生きている。

 

 第三の継承者は――。

 

 二人を待っている。

 

 

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