『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第12話 杖が覚えているもの――第三の継承

 翌朝。

 

 ホグワーツの大広間。

 

 いつもなら、朝食を楽しむ生徒たちの声で賑わっている。

 

 しかし――。

 

 レオニダスたち五人は、ほとんど会話をしていなかった。

 

 テーブルの上に置かれているのは、一枚の写真。

 

 昨日、第三の継承者の姿が写っていた写真だった。

 

 だが。

 

 今、その写真にはレオニダスとレオナしか写っていない。

 

「……本当に消えたんだ」

 

 スコーピウスが呟く。

 

「昨日は確かに三人だった」

 

 アルバスも頷いた。

 

「僕も見た」

 

 ローズは写真を何度も確認する。

 

「でも、魔法で加工された跡がない」

 

「じゃあ、どうやって消したんだ?」

 

 レオニダスが聞く。

 

「分からない」

 

 ローズは首を振った。

 

「普通の消去魔法とは違う」

 

 レオナは写真を見つめていた。

 

 昨日から、ずっと気になっていることがある。

 

「……ねえ」

 

「どうした?」

 

 レオニダスが妹を見る。

 

「昨日の声」

 

「ああ」

 

「私のことを呼んだ声」

 

 レオナは胸元に手を当てた。

 

「まだ聞こえる気がする」

 

「何て言ってた?」

 

「……」

 

 レオナは少し迷ってから答えた。

 

「『兄ちゃんを連れてきて』」

 

 レオニダスの表情が変わる。

 

「俺を?」

 

「うん」

 

「だったら、第三の継承者は俺たちを知ってる」

 

 ローズが考え込む。

 

「それだけじゃない」

 

「何?」

 

「その声は、レオナだけに聞こえた」

 

 全員が黙る。

 

「どうして?」

 

 アルバスが尋ねる。

 

「分からない」

 

 ローズは写真を見る。

 

「でも、双子の魔法的な繋がりと関係している可能性はある」

 

「また双子か」

 

 スコーピウスが苦笑した。

 

「この謎、何でも双子に繋がるね」

 

 そのとき。

 

 レオニダスが自分の杖を見た。

 

 オーク材。

 

 十一・五インチ。

 

 ドラゴン・ハートストリング。

 

「……杖」

 

「え?」

 

 レオナが見る。

 

「昨日、俺の杖が一瞬だけ光った」

 

「気づいてたの?」

 

「うん」

 

 レオニダスは杖を握った。

 

「第三の子どもが映ったとき」

 

 ローズが身を乗り出す。

 

「それ、本当?」

 

「ああ」

 

「どうして今まで言わなかったの?」

 

「忘れてた」

 

「忘れてたって……」

 

 スコーピウスが呆れる。

 

「大事なことじゃないか」

 

「だって、いろいろありすぎただろ」

 

 レオニダスは頭を掻いた。

 

 ローズはため息をつきながらも、杖を確認する。

 

「じゃあ、もう一度試してみよう」

 

「ここで?」

 

「ここでは無理」

 

 ローズが周囲を見る。

 

「先生たちに見つかったら説明が大変」

 

「じゃあ、どこへ?」

 

 レオナが聞く。

 

 ローズは少し考えた。

 

「杖の調査なら……」

 

「オリバンダー?」

 

 レオニダスが言った。

 

「それしかない」

 

 五人は顔を見合わせた。

 

 その日の午後。

 

 五人は、ホグワーツの許可を得てロンドンへ向かった。

 

 向かった先は――。

 

 オリバンダーの店。

 

 古びた店内に入ると。

 

「……おや」

 

 オリバンダーが顔を上げた。

 

「その杖は」

 

 レオニダスが杖を取り出す。

 

「これです」

 

 オリバンダーは、杖をじっと見つめた。

 

「君の杖だね」

 

「はい」

 

「以前より馴染んでいる」

 

「そうですか?」

 

「杖というものは、時間とともに持ち主を知る」

 

 オリバンダーが杖を受け取る。

 

 その瞬間。

 

 杖先から、小さな光が弾けた。

 

「……!」

 

 オリバンダーの表情が変わった。

 

「これは……」

 

「何ですか?」

 

「少し待ちなさい」

 

 老人は店の奥へ消えていく。

 

 しばらくして。

 

 一冊の古い記録帳を持って戻ってきた。

 

「杖には、持ち主との関係だけでなく、魔力の痕跡が残る場合がある」

 

 記録帳を開く。

 

「特に、強い魔法的な結びつきがある場合はね」

 

 ローズが尋ねる。

 

「双子のような?」

 

「そう」

 

 オリバンダーは頷く。

 

「だが、それだけではない」

 

「他にも?」

 

「三人の魔力が、長期間にわたって共鳴していた場合だ」

 

 全員が固まった。

 

「三人……」

 

 レオナが呟く。

 

 オリバンダーはレオニダスの杖を見つめた。

 

「君の杖には、君自身とは異なる魔力の痕跡が残っている」

 

「……誰の?」

 

「それは分からない」

 

 オリバンダーは首を振る。

 

「だが、非常に古い」

 

 レオニダスが杖を握り直す。

 

「第三の継承者?」

 

「可能性はある」

 

 オリバンダーが答える。

 

「ただし、もっと重要なのは――」

 

 杖先が再び光った。

 

 今度は、レオナの杖も反応する。

 

「……!」

 

 二本の杖が同時に光り始める。

 

 オーク。

 

 ウィロー。

 

 性質の異なる二本の杖。

 

 しかし。

 

 その光は一つの場所へ向かって伸びていく。

 

 店の奥。

 

 古い棚。

 

 そこにあったのは、一つの木箱だった。

 

「これは?」

 

 スコーピウスが尋ねる。

 

 オリバンダーの顔から笑みが消える。

 

「……私も長い間、開けていない」

 

「中には何が?」

 

「分からない」

 

「じゃあ、開けましょう」

 

 レオニダスが近づく。

 

 しかし、オリバンダーが手を上げた。

 

「待ちなさい」

 

「え?」

 

「この箱は、私にも開けられなかった」

 

「……」

 

「誰かが開ける日まで、ここに置いておけとだけ言われた」

 

 ローズが尋ねる。

 

「誰に?」

 

 オリバンダーは答えなかった。

 

 ただ。

 

 箱の側面に刻まれた文字を指差した。

 

『二本の杖が選ばれしとき、扉は開く』

 

 レオナが目を見開く。

 

「二本の杖……」

 

 レオニダスとレオナが顔を見合わせる。

 

「俺たち?」

 

「たぶん」

 

 レオナが頷いた。

 

 二人が同時に杖を箱へ向ける。

 

 オークの杖。

 

 ウィローの杖。

 

 光が重なった。

 

 カチッ。

 

 箱の鍵が開いた。

 

 ゆっくりと蓋が開いていく。

 

 中に入っていたのは――。

 

 一冊の古い手帳。

 

 そして。

 

 一本の折れた杖だった。

 

「……杖?」

 

 アルバスが覗き込む。

 

 折れている。

 

 しかし、完全には壊れていない。

 

 杖の中央には、見覚えのある紋章が刻まれていた。

 

 獅子。

 

 そして、その下に三つの小さな線。

 

 ローズが息を呑む。

 

「これ……」

 

「どうした?」

 

「レオの杖にある傷と似てる」

 

 レオニダスが父親の杖を思い出す。

 

 神秘部で壊れた、レオの一本目。

 

 イングリッシュ・オーク。

 

 火竜の心臓の琴線。

 

 そして、ヌンディのたてがみ。

 

「まさか……」

 

 レオナが折れた杖を見る。

 

「この杖も、神秘部にあったの?」

 

 オリバンダーが静かに答える。

 

「違う」

 

「じゃあ……」

 

「この杖が作られたのは」

 

 老人は記録帳を閉じた。

 

「君たちの父親が、ホグワーツへ入学するよりずっと前だ」

 

 五人が息を呑む。

 

「そんな昔から?」

 

「そう」

 

 オリバンダーは折れた杖を見つめる。

 

「そして、この杖の持ち主についての記録は――」

 

 そこで言葉を止める。

 

「残っていない」

 

「また……」

 

 ローズが呟いた。

 

「名前が消されてる」

 

 レオナが手帳を開く。

 

 最初のページ。

 

 そこには、たった一行だけ書かれていた。

 

『この杖は、三人目のために残す』

 

 レオニダスの目が大きくなる。

 

「三人目……」

 

 レオナがページをめくる。

 

 次のページには、さらに文字があった。

 

『第一の継承者――力』

 

『第二の継承者――知恵』

 

『第三の継承者――記憶』

 

 ローズが息を呑む。

 

「記憶……」

 

 アルバスが呟いた。

 

「第三の継承者は、記憶を受け継ぐ者?」

 

 スコーピウスが折れた杖を見る。

 

「だから消されている?」

 

 レオナが首を振る。

 

「違う」

 

「え?」

 

「だから、消せないんだと思う」

 

 レオニダスが妹を見る。

 

「どういうこと?」

 

「記憶を持っている人がいる限り、その人は消えない」

 

 レオナは手帳を握りしめる。

 

「私たちが思い出せなくても」

 

 そして。

 

 折れた杖を見る。

 

「この杖が覚えてる」

 

 その瞬間。

 

 折れた杖が淡く光った。

 

 店内に、声が響く。

 

『……やっと、見つけた』

 

 レオナが振り返る。

 

「この声……!」

 

 レオニダスも杖を構える。

 

「第三の継承者?」

 

 声は答えない。

 

 ただ。

 

 折れた杖の先から、一つの光景が浮かび上がった。

 

 三人の子ども。

 

 幼いレオニダス。

 

 幼いレオナ。

 

 そして――。

 

 顔の見えない第三の子。

 

 三人は一本の杖を囲んでいる。

 

 幼いレオニダスが言った。

 

『俺たち三人で守ろう』

 

 幼いレオナが続ける。

 

『約束ね』

 

 そして。

 

 三人目の子どもが笑う。

 

『うん』

 

 映像が消える。

 

 レオニダスは動けなかった。

 

「……三人で」

 

 レオナの目から涙が落ちる。

 

「私たち……本当に三人だったんだ」

 

 ローズが静かに頷く。

 

「そうみたい」

 

 そのとき。

 

 手帳の最後のページが勝手に開いた。

 

 そこには新しい文字が浮かび上がっていた。

 

『継承は、血ではない』

 

『杖でもない』

 

『記憶である』

 

 最後の一行。

 

『そして、第三の継承者は――』

 

 文字が途中で途切れた。

 

「え?」

 

 レオニダスがページを覗き込む。

 

 名前は出てこない。

 

 だが。

 

 ページの隅に、小さな印があった。

 

 獅子の紋章。

 

 その中央に――。

 

 三つ目の光。

 

 レオナが呟く。

 

「……まだ終わってない」

 

 レオニダスは杖を握りしめた。

 

「ああ」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

「今度は、俺たちが見つける」

 

「うん」

 

「誰かに消される前に」

 

「私たちが覚えてる」

 

 二本の杖が、同時に光った。

 

 そして。

 

 店の奥。

 

 誰もいないはずの暗闇から。

 

 小さな声が聞こえた。

 

『……ありがとう』

 

 五人が振り返る。

 

 そこには誰もいない。

 

 ただ。

 

 床に落ちていた一本の古い杖の影だけが――。

 

 三人分に分かれていた。

 

 

 

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