『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第13話 三つ目の影――記憶を継ぐ者

 オリバンダーの店を出たあと。

 

 レオニダスたちは、しばらく誰も話さなかった。

 

 頭の中に残っている。

 

 あの声。

 

『……ありがとう』

 

 そして――。

 

 三人分に分かれた杖の影。

 

「……見間違いじゃないよな?」

 

 アルバスが口を開いた。

 

「うん」

 

 スコーピウスも頷く。

 

「僕にも見えた」

 

 ローズは黙ったまま歩いている。

 

 やがて。

 

「第三の継承者は、生きている」

 

 ローズが言った。

 

 レオニダスとレオナが同時に振り返る。

 

「どうして?」

 

 レオナが聞く。

 

「杖の反応」

 

 ローズは答えた。

 

「記憶だけが残っているなら、あんな反応はしない」

 

「じゃあ……」

 

「第三の継承者本人が、どこかから魔法を送っている」

 

 レオニダスが拳を握った。

 

「近くにいるってこと?」

 

「分からない」

 

 ローズは首を振る。

 

「でも、少なくとも僕たちが探していることは知ってる」

 

「だったら早く見つけないと」

 

 レオナが言う。

 

 しかし。

 

 ローズは足を止めた。

 

「その前に、一つ確認したい」

 

「何?」

 

「レオニダス」

 

 ローズは彼の杖を見る。

 

「その杖、もう一度見せて」

 

「これ?」

 

「うん」

 

 レオニダスが杖を差し出す。

 

 ローズは杖をじっと観察した。

 

「やっぱり」

 

「何かある?」

 

「杖の表面に、薄い線がある」

 

「傷?」

 

「違う」

 

 ローズは指でなぞる。

 

「文字みたい」

 

 レオナも覗き込む。

 

「……本当だ」

 

 そこには、肉眼ではほとんど見えないほど細い刻印があった。

 

 ローズが杖を光にかざす。

 

 すると。

 

 一文字だけ浮かび上がった。

 

『記』

 

「記憶の『記』?」

 

 アルバスが尋ねる。

 

「たぶん」

 

 スコーピウスが眉を寄せる。

 

「でも、どうしてレオニダスの杖に?」

 

「分からない」

 

 ローズが答えた。

 

「ただ……」

 

 ローズは二本目の杖を見る。

 

 レオナのウィローの杖。

 

「レオナの杖にもある」

 

「え?」

 

 二本を並べる。

 

 すると。

 

 二つの刻印が淡く光った。

 

『記』

 

『憶』

 

「……!」

 

 レオニダスが息を呑む。

 

「合わせると――」

 

「『記憶』」

 

 レオナが答えた。

 

 その瞬間。

 

 二本の杖から光が伸びた。

 

 空中に、一枚の地図が浮かび上がる。

 

「地図?」

 

 スコーピウスが驚く。

 

 ホグワーツの地図だった。

 

 だが。

 

 普通の校内地図とは違う。

 

 いくつもの場所が光っている。

 

 図書館。

 

 継承者の部屋。

 

 そして――。

 

「ここは?」

 

 アルバスが指差す。

 

 地図の端。

 

 ホグワーツの敷地から少し離れた場所に、赤い光が灯っている。

 

 ローズが目を細めた。

 

「見たことない」

 

「僕も」

 

「私も」

 

 レオナが地図を見つめる。

 

「でも……」

 

「何?」

 

「なんとなく、知ってる」

 

 レオナの声が震えた。

 

「ここに行ったことがある気がする」

 

 レオニダスも地図を見る。

 

「俺も」

 

 五人は顔を見合わせた。

 

「行こう」

 

 レオニダスが言う。

 

 しかし。

 

 その瞬間だった。

 

 地図の赤い光が消えた。

 

「え?」

 

 次の瞬間。

 

 地図そのものが崩れ始める。

 

「待って!」

 

 ローズが杖を伸ばす。

 

 だが。

 

 地図は消えてしまった。

 

「また時間改変?」

 

 アルバスが聞く。

 

「違う」

 

 ローズが答えた。

 

「今回は……」

 

 ローズが顔を上げる。

 

「私たちの記憶そのものを狙ってる」

 

 レオナが胸を押さえる。

 

「……また?」

 

 突然。

 

 レオニダスの視界が揺れた。

 

「う……」

 

「お兄ちゃん?」

 

 レオナが支える。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫……」

 

 しかし。

 

 レオニダスの顔から血の気が引いていく。

 

「レオナ」

 

「何?」

 

「俺……」

 

 レオニダスは妹を見る。

 

「お前の杖って、何色だった?」

 

「え?」

 

「……」

 

「どうしてそんなこと聞くの?」

 

「分からない」

 

 レオニダスは頭を押さえた。

 

「急に……思い出せなくなった」

 

 レオナの顔が青ざめる。

 

「そんな……」

 

 ローズが叫ぶ。

 

「記憶消去が始まってる!」

 

「防げる?」

 

 アルバスが聞く。

 

「分からない!」

 

 ローズが杖を構える。

 

「でも、前より早い!」

 

 スコーピウスが周囲を見る。

 

「敵が近くにいるのか?」

 

「可能性が高い!」

 

 レオニダスは必死に記憶を掴もうとする。

 

 自分の杖。

 

 父親の杖。

 

 母親。

 

 妹。

 

 そして――。

 

 三人目。

 

「……俺は」

 

 レオニダスが呟く。

 

「誰かを忘れたくない」

 

 レオナが兄の手を握った。

 

「忘れないよ」

 

「レオナ……」

 

「私が覚えてる」

 

 その瞬間。

 

 二人の杖が同時に光った。

 

 強い光が、周囲を包み込む。

 

 ローズが目を見開く。

 

「記憶が……戻ってる!」

 

 レオニダスが息を吐く。

 

「……思い出した」

 

「何を?」

 

 レオナが聞く。

 

 レオニダスは答えようとして――。

 

 止まった。

 

「……第三の子」

 

「何か思い出したの?」

 

「ああ」

 

 レオニダスは目を閉じる。

 

「名前は分からない」

 

「でも?」

 

「俺たちは昔、あの子と一緒に森へ行った」

 

 ローズがすぐに尋ねる。

 

「どこの森?」

 

「分からない」

 

「何をしに?」

 

「……杖を探してた」

 

 レオナが息を呑む。

 

「杖?」

 

「ああ」

 

 レオニダスは続ける。

 

「三人で一本の杖を探してた」

 

「それが、あの折れた杖?」

 

「たぶん」

 

 スコーピウスが考え込む。

 

「じゃあ、第三の継承者は、その杖の持ち主だった?」

 

「分からない」

 

 レオニダスは首を振る。

 

「でも、あの子が言ってた」

 

「何を?」

 

「『この杖は、三人で守るんだ』って」

 

 レオナが静かに頷く。

 

「……覚えてる」

 

「レオナも?」

 

「うん」

 

 その瞬間。

 

 レオナの頭の中に、別の記憶が蘇った。

 

 幼い自分。

 

 幼いレオニダス。

 

 そして、第三の子。

 

 三人で森を歩いている。

 

『こっちだよ』

 

 第三の子が先頭を歩いている。

 

『待ってよ!』

 

 レオニダスが追いかける。

 

『お兄ちゃん、転ぶよ』

 

 レオナが笑う。

 

 そして。

 

 三人は大きな木の前に立つ。

 

 その根元に――。

 

 一つの杖が埋まっている。

 

 第三の子が杖を取り出す。

 

『見つけた』

 

 幼いレオニダスが聞く。

 

『誰の杖?』

 

 第三の子は笑った。

 

『僕たちの』

 

『三人で使うの?』

 

『違う』

 

 第三の子が首を振る。

 

『これは、三人を覚えておくための杖』

 

 レオナが目を見開く。

 

「……思い出した」

 

「何を?」

 

「この杖は……」

 

 レオナは震える声で言った。

 

「誰か一人のための杖じゃなかった」

 

 ローズが聞く。

 

「じゃあ、何のため?」

 

「三人の記憶を、残すため」

 

 その瞬間。

 

 レオニダスの杖が強く光った。

 

 レオナの杖も続く。

 

 二本の光が重なり――。

 

 第三の光が生まれた。

 

「……三つ目」

 

 アルバスが呟く。

 

 光の中に、一人の少年の姿が浮かび上がる。

 

 まだ幼い。

 

 顔は見えない。

 

 しかし。

 

 その手には――。

 

 あの折れた杖が握られている。

 

「第三の継承者……」

 

 レオニダスが一歩前へ出る。

 

 少年が振り返った。

 

 今度は顔が消されていない。

 

 だが、名前だけが分からない。

 

 少年は笑っている。

 

 そして。

 

 唇が動いた。

 

『僕は、忘れてない』

 

 映像が消える。

 

 レオナが呟いた。

 

「……私たちを?」

 

 返事はない。

 

 しかし。

 

 二本の杖が同時に、同じ方向を指した。

 

 ホグワーツの北側。

 

 禁じられた森。

 

「……あそこ」

 

 レオニダスが言う。

 

「第三の継承者は、禁じられた森にいる?」

 

 ローズが地図を取り出す。

 

「さっきの赤い光も、あの方向だった」

 

 スコーピウスが息を呑む。

 

「だったら、今度こそ――」

 

「待って」

 

 レオナが言った。

 

「どうした?」

 

「これ」

 

 彼女は自分の杖を見る。

 

 杖先に、小さな文字が浮かんでいる。

 

『急ぐな』

 

 レオニダスの杖にも文字が現れる。

 

『信じろ』

 

 二つを合わせる。

 

 そこに最後の言葉が浮かび上がった。

 

『三人目は、敵ではない』

 

 五人は黙った。

 

 そして。

 

 禁じられた森の奥。

 

 誰かが静かに目を開いた。

 

 手元には、一本の古い折れた杖。

 

 少年――いや。

 

 もう少年とは呼べないほど成長したその人物は、遠くにあるホグワーツを見つめていた。

 

「……やっと」

 

 その手に、杖の光が灯る。

 

「思い出してくれた」

 

 そして。

 

 その人物は小さく笑った。

 

「レオニダス」

 

「レオナ」

 

「……待ってるよ」

 

 森の奥に。

 

 三つ目の光が灯った。

 

 

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