『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
夜。
ホグワーツの北側。
禁じられた森の入口に、五人の姿があった。
「本当に入るの?」
スコーピウスが森を見上げる。
「第三の継承者がいるかもしれない」
レオニダスが答えた。
「それに、杖がここを指してる」
レオナも自分の杖を見る。
杖先には、まだ淡い光が残っていた。
「でも、先生たちに見つかったら大変だよ」
アルバスが言う。
「だから見つからないようにする」
ローズが即答した。
「……ローズ、最近レオニダスに似てきてない?」
スコーピウスが呟く。
「誰が?」
「君」
「失礼ね」
「ほら」
レオニダスが笑う。
「そういうところだよ」
「あなたまで!」
少しだけ緊張がほぐれる。
しかし。
森の奥から、風が吹いた。
木々がざわめく。
レオナが杖を握り直した。
「……行こう」
「うん」
五人は森へ入った。
しばらく歩く。
月明かりは木々に遮られ、ほとんど届かない。
足元には枯れ葉。
遠くから、動物の鳴き声が聞こえる。
「……静かすぎない?」
アルバスが小声で言う。
「森だからね」
ローズが答える。
「いや、そういう意味じゃなくて」
スコーピウスが周囲を見る。
「さっきから、生き物の気配がない」
レオニダスも気づいていた。
「確かに」
レオナが突然、立ち止まる。
「……こっち」
「何?」
「杖が反応してる」
彼女が杖を前に向ける。
杖先の光が強くなる。
森の奥。
一つの大木が見えた。
「これ……」
レオニダスが近づく。
大木の根元には、古い傷跡がある。
そして。
そこに小さな文字が刻まれていた。
『三人で来た場所』
レオニダスの呼吸が止まる。
「……ここだ」
「何を思い出した?」
ローズが聞く。
「子どもの頃」
レオニダスは木に触れる。
「俺たちは、この木のところに来た」
「三人で?」
「ああ」
レオナも木に手を当てる。
すると。
頭の中に、記憶が流れ込んできた。
幼い自分。
幼いレオニダス。
そして、第三の子。
三人は木の根元に座っている。
『ここなら、誰にも見つからないね』
第三の子が言う。
『何を隠すの?』
レオナが尋ねる。
『秘密』
少年が笑う。
『三人だけの秘密』
幼いレオニダスが腕を組む。
『どんな秘密?』
少年は、一本の杖を取り出した。
折れてはいない。
まだ完全な姿をしている。
『この杖』
『誰の?』
『僕たち三人の』
レオナが首を傾げる。
『でも杖は一人しか使えないよ?』
少年は笑う。
『そうじゃない』
そして。
三人の手を重ねる。
『この杖に、僕たちの記憶を残すんだ』
『記憶?』
『うん』
少年は頷く。
『もし、いつか誰かが僕たちのことを忘れても』
少し寂しそうに笑う。
『この杖だけは、忘れない』
記憶が途切れた。
「……」
レオナは目を開いた。
「思い出した」
レオニダスも頷く。
「俺も」
ローズが二人を見る。
「だから第三の継承者は『記憶』なんだ」
「うん」
レオナが答える。
「この子は、私たちの記憶を守ってた」
そのとき。
森の奥から音がした。
パキッ。
枝を踏む音。
五人が一斉に杖を構える。
「誰?」
ローズが叫ぶ。
返事はない。
もう一度。
パキッ。
今度は近い。
レオニダスが前に出る。
「出てこい!」
暗闇から、一人の人物が現れた。
黒いローブ。
顔はフードで隠されている。
「……」
レオナが杖を握る。
「第三の継承者?」
人物は答えない。
代わりに。
手に持っていた杖を見せた。
折れた杖。
「……!」
レオニダスが息を呑む。
「あの杖……」
人物が一歩近づく。
「久しぶり」
その声。
レオナの目が大きくなる。
「……この声」
レオニダスも動けない。
「まさか……」
人物がフードを外す。
そこにいたのは――。
若い魔法使いだった。
レオニダスやレオナより少し年上に見える。
髪は暗い色。
目は優しい。
しかし。
その顔を見ても、二人には名前が出てこない。
「……誰?」
レオナが呟く。
人物は少し悲しそうに笑った。
「やっぱり」
「何が?」
「まだ、名前だけは思い出せないんだね」
レオニダスが一歩前へ出る。
「お前は誰だ?」
人物は答えようとして――。
突然、顔をしかめた。
「……っ」
杖を落とす。
「どうした!?」
レオナが駆け寄ろうとする。
「来ないで!」
人物が叫んだ。
「……え?」
「近づいたら……」
その身体から黒い魔力が漏れ始める。
「君たちまで巻き込まれる」
ローズが杖を構える。
「何に?」
「時間改変に」
アルバスが息を呑む。
「やっぱり、君が第三の継承者なんだ」
人物は黙っていた。
そして。
ゆっくり頷く。
「そう」
「名前は?」
レオニダスが尋ねる。
人物は答えない。
「名前を言えないの?」
「違う」
「じゃあ、なぜ?」
「名前を口にした瞬間」
人物は自分の胸元を押さえた。
「僕の存在を追跡できる」
「誰に?」
沈黙。
そして。
「君たちを消そうとしている者に」
レオナが前へ出る。
「だったら一緒に戦おう」
「駄目だ」
「どうして?」
「君たちは、僕のせいで狙われてる」
「違う!」
レオニダスが叫んだ。
「俺たちが勝手に来たんだ!」
「……」
「お前が第三の継承者だからじゃない」
レオニダスは杖を握る。
「俺たちが、お前を忘れたくないから来た」
人物の目が揺れる。
レオナが続ける。
「私も」
「……」
「名前は思い出せない」
レオナは涙を浮かべながら笑った。
「でも、あなたと一緒にいたことは思い出した」
人物が顔を伏せる。
「……レオナ」
その名前を口にした瞬間。
彼の杖が光った。
「!」
折れていたはずの杖。
その先端に、小さな光が灯る。
レオニダスの杖も反応した。
レオナの杖も。
三本の杖が、同時に光を放つ。
森の中が明るくなる。
そして。
第三の継承者の胸元に、三つの光が浮かんだ。
「……これは」
ローズが呟く。
「継承の印?」
人物が自分の胸を見る。
「違う」
「え?」
「これは……」
彼は驚いたように笑った。
「約束の印だ」
光の中に、幼い三人の姿が浮かぶ。
幼いレオニダス。
幼いレオナ。
そして、第三の子。
三人が手を重ねている。
『絶対に忘れない』
幼いレオニダス。
『ずっと一緒』
幼いレオナ。
『たとえ、世界が僕たちを忘れても』
三人目の子。
『僕たちは、僕たちを覚えてる』
映像が消える。
レオナの頬を涙が伝う。
「……約束」
レオニダスも頷いた。
「思い出した」
第三の継承者が二人を見る。
「僕も」
そして。
「でも、まだ全部は戻ってない」
「どういうこと?」
ローズが聞く。
「僕の記憶も、かなり消されている」
彼は折れた杖を見る。
「だから、この杖だけが覚えてる」
「じゃあ、その杖を直せば――」
スコーピウスが言いかける。
「僕たちの記憶も戻るかもしれない」
第三の継承者が答えた。
その瞬間。
森の奥から轟音が響いた。
ドンッ!
地面が揺れる。
「何!?」
アルバスが振り返る。
黒い霧が森の奥から流れてくる。
ローズが杖を構えた。
「時間魔法……!」
「追ってきた」
第三の継承者が言う。
「誰が?」
レオニダスが尋ねる。
彼は答えなかった。
ただ。
三人の杖を見た。
「僕を見つけたんじゃない」
「じゃあ?」
「君たちが僕を見つけたことで――」
黒い霧が迫ってくる。
「三人の継承が繋がったことを、向こうに知られた」
レオニダスが杖を構える。
「だったら、戦おう」
レオナも隣に並ぶ。
「三人で」
第三の継承者は一瞬だけ驚いた。
そして。
小さく笑った。
「……うん」
三本の杖が並ぶ。
オーク。
ウィロー。
そして、折れた古い杖。
異なる三本。
けれど。
同じ光を放っている。
黒い霧が森を覆う。
レオニダスが叫んだ。
「レオナ!」
「分かってる!」
「第三の継承者!」
「僕も行く!」
三人が同時に杖を掲げる。
「Protego!」
三つの光が重なった。
巨大な盾が森を包む。
黒い霧がぶつかる。
バチィッ!
大きな衝撃。
しかし。
三人の足は動かなかった。
ローズが目を見開く。
「三人の魔力が……」
アルバスが続ける。
「一つになってる」
スコーピウスが笑った。
「やっと三人揃ったな」
その言葉を聞いて。
第三の継承者が、少しだけ笑った。
「……そうだね」
だが。
黒い霧の奥から。
誰かの声が響いた。
『第三の継承者を確認』
三人の表情が変わる。
『継承結合を確認』
そして。
『次の対象を――』
声が一瞬、途切れた。
次に告げられた名前は――。
『レオ・スキャマンダー』
レオニダスの顔から笑みが消えた。
「……父さん?」
レオナも息を呑む。
第三の継承者が杖を握り直す。
「始まった」
「何が?」
レオニダスが聞く。
第三の継承者は、森の奥を見つめた。
「本当の継承戦が」
そして。
三人の杖の光が、さらに強く輝いた。