『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

15 / 32
第14話 禁じられた森――三人の約束

 夜。

 

 ホグワーツの北側。

 

 禁じられた森の入口に、五人の姿があった。

 

「本当に入るの?」

 

 スコーピウスが森を見上げる。

 

「第三の継承者がいるかもしれない」

 

 レオニダスが答えた。

 

「それに、杖がここを指してる」

 

 レオナも自分の杖を見る。

 

 杖先には、まだ淡い光が残っていた。

 

「でも、先生たちに見つかったら大変だよ」

 

 アルバスが言う。

 

「だから見つからないようにする」

 

 ローズが即答した。

 

「……ローズ、最近レオニダスに似てきてない?」

 

 スコーピウスが呟く。

 

「誰が?」

 

「君」

 

「失礼ね」

 

「ほら」

 

 レオニダスが笑う。

 

「そういうところだよ」

 

「あなたまで!」

 

 少しだけ緊張がほぐれる。

 

 しかし。

 

 森の奥から、風が吹いた。

 

 木々がざわめく。

 

 レオナが杖を握り直した。

 

「……行こう」

 

「うん」

 

 五人は森へ入った。

 

 しばらく歩く。

 

 月明かりは木々に遮られ、ほとんど届かない。

 

 足元には枯れ葉。

 

 遠くから、動物の鳴き声が聞こえる。

 

「……静かすぎない?」

 

 アルバスが小声で言う。

 

「森だからね」

 

 ローズが答える。

 

「いや、そういう意味じゃなくて」

 

 スコーピウスが周囲を見る。

 

「さっきから、生き物の気配がない」

 

 レオニダスも気づいていた。

 

「確かに」

 

 レオナが突然、立ち止まる。

 

「……こっち」

 

「何?」

 

「杖が反応してる」

 

 彼女が杖を前に向ける。

 

 杖先の光が強くなる。

 

 森の奥。

 

 一つの大木が見えた。

 

「これ……」

 

 レオニダスが近づく。

 

 大木の根元には、古い傷跡がある。

 

 そして。

 

 そこに小さな文字が刻まれていた。

 

『三人で来た場所』

 

 レオニダスの呼吸が止まる。

 

「……ここだ」

 

「何を思い出した?」

 

 ローズが聞く。

 

「子どもの頃」

 

 レオニダスは木に触れる。

 

「俺たちは、この木のところに来た」

 

「三人で?」

 

「ああ」

 

 レオナも木に手を当てる。

 

 すると。

 

 頭の中に、記憶が流れ込んできた。

 

 幼い自分。

 

 幼いレオニダス。

 

 そして、第三の子。

 

 三人は木の根元に座っている。

 

『ここなら、誰にも見つからないね』

 

 第三の子が言う。

 

『何を隠すの?』

 

 レオナが尋ねる。

 

『秘密』

 

 少年が笑う。

 

『三人だけの秘密』

 

 幼いレオニダスが腕を組む。

 

『どんな秘密?』

 

 少年は、一本の杖を取り出した。

 

 折れてはいない。

 

 まだ完全な姿をしている。

 

『この杖』

 

『誰の?』

 

『僕たち三人の』

 

 レオナが首を傾げる。

 

『でも杖は一人しか使えないよ?』

 

 少年は笑う。

 

『そうじゃない』

 

 そして。

 

 三人の手を重ねる。

 

『この杖に、僕たちの記憶を残すんだ』

 

『記憶?』

 

『うん』

 

 少年は頷く。

 

『もし、いつか誰かが僕たちのことを忘れても』

 

 少し寂しそうに笑う。

 

『この杖だけは、忘れない』

 

 記憶が途切れた。

 

「……」

 

 レオナは目を開いた。

 

「思い出した」

 

 レオニダスも頷く。

 

「俺も」

 

 ローズが二人を見る。

 

「だから第三の継承者は『記憶』なんだ」

 

「うん」

 

 レオナが答える。

 

「この子は、私たちの記憶を守ってた」

 

 そのとき。

 

 森の奥から音がした。

 

 パキッ。

 

 枝を踏む音。

 

 五人が一斉に杖を構える。

 

「誰?」

 

 ローズが叫ぶ。

 

 返事はない。

 

 もう一度。

 

 パキッ。

 

 今度は近い。

 

 レオニダスが前に出る。

 

「出てこい!」

 

 暗闇から、一人の人物が現れた。

 

 黒いローブ。

 

 顔はフードで隠されている。

 

「……」

 

 レオナが杖を握る。

 

「第三の継承者?」

 

 人物は答えない。

 

 代わりに。

 

 手に持っていた杖を見せた。

 

 折れた杖。

 

「……!」

 

 レオニダスが息を呑む。

 

「あの杖……」

 

 人物が一歩近づく。

 

「久しぶり」

 

 その声。

 

 レオナの目が大きくなる。

 

「……この声」

 

 レオニダスも動けない。

 

「まさか……」

 

 人物がフードを外す。

 

 そこにいたのは――。

 

 若い魔法使いだった。

 

 レオニダスやレオナより少し年上に見える。

 

 髪は暗い色。

 

 目は優しい。

 

 しかし。

 

 その顔を見ても、二人には名前が出てこない。

 

「……誰?」

 

 レオナが呟く。

 

 人物は少し悲しそうに笑った。

 

「やっぱり」

 

「何が?」

 

「まだ、名前だけは思い出せないんだね」

 

 レオニダスが一歩前へ出る。

 

「お前は誰だ?」

 

 人物は答えようとして――。

 

 突然、顔をしかめた。

 

「……っ」

 

 杖を落とす。

 

「どうした!?」

 

 レオナが駆け寄ろうとする。

 

「来ないで!」

 

 人物が叫んだ。

 

「……え?」

 

「近づいたら……」

 

 その身体から黒い魔力が漏れ始める。

 

「君たちまで巻き込まれる」

 

 ローズが杖を構える。

 

「何に?」

 

「時間改変に」

 

 アルバスが息を呑む。

 

「やっぱり、君が第三の継承者なんだ」

 

 人物は黙っていた。

 

 そして。

 

 ゆっくり頷く。

 

「そう」

 

「名前は?」

 

 レオニダスが尋ねる。

 

 人物は答えない。

 

「名前を言えないの?」

 

「違う」

 

「じゃあ、なぜ?」

 

「名前を口にした瞬間」

 

 人物は自分の胸元を押さえた。

 

「僕の存在を追跡できる」

 

「誰に?」

 

 沈黙。

 

 そして。

 

「君たちを消そうとしている者に」

 

 レオナが前へ出る。

 

「だったら一緒に戦おう」

 

「駄目だ」

 

「どうして?」

 

「君たちは、僕のせいで狙われてる」

 

「違う!」

 

 レオニダスが叫んだ。

 

「俺たちが勝手に来たんだ!」

 

「……」

 

「お前が第三の継承者だからじゃない」

 

 レオニダスは杖を握る。

 

「俺たちが、お前を忘れたくないから来た」

 

 人物の目が揺れる。

 

 レオナが続ける。

 

「私も」

 

「……」

 

「名前は思い出せない」

 

 レオナは涙を浮かべながら笑った。

 

「でも、あなたと一緒にいたことは思い出した」

 

 人物が顔を伏せる。

 

「……レオナ」

 

 その名前を口にした瞬間。

 

 彼の杖が光った。

 

「!」

 

 折れていたはずの杖。

 

 その先端に、小さな光が灯る。

 

 レオニダスの杖も反応した。

 

 レオナの杖も。

 

 三本の杖が、同時に光を放つ。

 

 森の中が明るくなる。

 

 そして。

 

 第三の継承者の胸元に、三つの光が浮かんだ。

 

「……これは」

 

 ローズが呟く。

 

「継承の印?」

 

 人物が自分の胸を見る。

 

「違う」

 

「え?」

 

「これは……」

 

 彼は驚いたように笑った。

 

「約束の印だ」

 

 光の中に、幼い三人の姿が浮かぶ。

 

 幼いレオニダス。

 

 幼いレオナ。

 

 そして、第三の子。

 

 三人が手を重ねている。

 

『絶対に忘れない』

 

 幼いレオニダス。

 

『ずっと一緒』

 

 幼いレオナ。

 

『たとえ、世界が僕たちを忘れても』

 

 三人目の子。

 

『僕たちは、僕たちを覚えてる』

 

 映像が消える。

 

 レオナの頬を涙が伝う。

 

「……約束」

 

 レオニダスも頷いた。

 

「思い出した」

 

 第三の継承者が二人を見る。

 

「僕も」

 

 そして。

 

「でも、まだ全部は戻ってない」

 

「どういうこと?」

 

 ローズが聞く。

 

「僕の記憶も、かなり消されている」

 

 彼は折れた杖を見る。

 

「だから、この杖だけが覚えてる」

 

「じゃあ、その杖を直せば――」

 

 スコーピウスが言いかける。

 

「僕たちの記憶も戻るかもしれない」

 

 第三の継承者が答えた。

 

 その瞬間。

 

 森の奥から轟音が響いた。

 

 ドンッ!

 

 地面が揺れる。

 

「何!?」

 

 アルバスが振り返る。

 

 黒い霧が森の奥から流れてくる。

 

 ローズが杖を構えた。

 

「時間魔法……!」

 

「追ってきた」

 

 第三の継承者が言う。

 

「誰が?」

 

 レオニダスが尋ねる。

 

 彼は答えなかった。

 

 ただ。

 

 三人の杖を見た。

 

「僕を見つけたんじゃない」

 

「じゃあ?」

 

「君たちが僕を見つけたことで――」

 

 黒い霧が迫ってくる。

 

「三人の継承が繋がったことを、向こうに知られた」

 

 レオニダスが杖を構える。

 

「だったら、戦おう」

 

 レオナも隣に並ぶ。

 

「三人で」

 

 第三の継承者は一瞬だけ驚いた。

 

 そして。

 

 小さく笑った。

 

「……うん」

 

 三本の杖が並ぶ。

 

 オーク。

 

 ウィロー。

 

 そして、折れた古い杖。

 

 異なる三本。

 

 けれど。

 

 同じ光を放っている。

 

 黒い霧が森を覆う。

 

 レオニダスが叫んだ。

 

「レオナ!」

 

「分かってる!」

 

「第三の継承者!」

 

「僕も行く!」

 

 三人が同時に杖を掲げる。

 

「Protego!」

 

 三つの光が重なった。

 

 巨大な盾が森を包む。

 

 黒い霧がぶつかる。

 

 バチィッ!

 

 大きな衝撃。

 

 しかし。

 

 三人の足は動かなかった。

 

 ローズが目を見開く。

 

「三人の魔力が……」

 

 アルバスが続ける。

 

「一つになってる」

 

 スコーピウスが笑った。

 

「やっと三人揃ったな」

 

 その言葉を聞いて。

 

 第三の継承者が、少しだけ笑った。

 

「……そうだね」

 

 だが。

 

 黒い霧の奥から。

 

 誰かの声が響いた。

 

『第三の継承者を確認』

 

 三人の表情が変わる。

 

『継承結合を確認』

 

 そして。

 

『次の対象を――』

 

 声が一瞬、途切れた。

 

 次に告げられた名前は――。

 

『レオ・スキャマンダー』

 

 レオニダスの顔から笑みが消えた。

 

「……父さん?」

 

 レオナも息を呑む。

 

 第三の継承者が杖を握り直す。

 

「始まった」

 

「何が?」

 

 レオニダスが聞く。

 

 第三の継承者は、森の奥を見つめた。

 

「本当の継承戦が」

 

 そして。

 

 三人の杖の光が、さらに強く輝いた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。