『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第15話「狙われた継承者――父の記憶」

三本の杖が、同時に光った。

 

レオニダスのオークの杖。

 

レオナの柳の杖。

 

そして――第三の継承者が握る、折れた杖。

 

三つの光は絡み合い、巨大な光の輪となって森の中を照らした。

 

「……っ!」

 

黒い霧が、その光に触れた瞬間――

 

ジジジジッ……!

 

まるで焼かれたような音を立てて消えていく。

 

「効いてる!」

 

レオナが叫んだ。

 

「でも、長くは持たない!」

 

第三の継承者が杖を構える。

 

「三人の魔力を合わせてるんだ。誰か一人でも離れたら――」

 

「分かってる!」

 

レオニダスが答えた。

 

「離れない!」

 

レオナも強く頷いた。

 

「うん!」

 

三人の杖がさらに強く輝く。

 

その瞬間だった。

 

黒い霧の奥から、声が響いた。

 

『――レオ・スキャマンダー』

 

三人の動きが止まった。

 

「……父さん?」

 

レオニダスが呟く。

 

『継承者を守る者』

 

『記憶を残す者』

 

『そして――過去を変えた者』

 

第三の継承者が、表情を変えた。

 

「……違う」

 

「何が?」

 

レオナが尋ねる。

 

第三の継承者は、黒い霧を睨んだ。

 

「奴らは、レオを殺そうとしているんじゃない」

 

「じゃあ……何を?」

 

「消そうとしている」

 

「……!」

 

レオニダスが息を呑む。

 

第三の継承者は続けた。

 

「レオ・スキャマンダーという人間そのものを、歴史から消すつもりなんだ」

 

「そんなこと……」

 

レオナが呟く。

 

「できるの?」

 

「普通ならできない」

 

第三の継承者は折れた杖を握り締めた。

 

「でも、今の敵は普通じゃない」

 

その言葉と同時に――

 

森の奥で、何かが弾けた。

 

ドンッ!

 

三人の結界が大きく揺れる。

 

「きゃっ!」

 

レオナの身体がよろめいた。

 

「レオナ!」

 

レオニダスがすぐに腕を掴む。

 

「大丈夫!」

 

「本当に?」

 

「大丈夫!」

 

レオニダスはレオナの手を離さなかった。

 

第三の継承者が二人を見る。

 

その表情には、どこか懐かしそうな色があった。

 

「……昔も、そうだった」

 

「え?」

 

「君たちは、いつもそうだった」

 

「俺たちが?」

 

「うん」

 

第三の継承者は微笑んだ。

 

「レオニダスは、レオナが危なくなると必ず先に動く」

 

「……」

 

「レオナは、レオニダスが無茶をすると必ず止める」

 

レオナが少しだけ頬を膨らませた。

 

「兄ちゃん、昔から無茶してたの?」

 

「……してたらしい」

 

「してたよ」

 

第三の継承者が即答した。

 

「やっぱり」

 

「おい」

 

思わず三人の間に、小さな笑いが生まれた。

 

だが――

 

その直後。

 

第三の継承者の表情が曇った。

 

「……だからこそ、奴らは僕たちを分けた」

 

「僕たちを?」

 

レオナが聞き返す。

 

「三人を一緒にしておけば、記憶を消しても意味がない」

 

第三の継承者は静かに言った。

 

「誰か一人が忘れても、残りの二人が覚えているから」

 

「……」

 

「だから、三人を別々にした」

 

レオニダスが拳を握る。

 

「俺たちが離れていたのは……敵のせいだったのか」

 

「たぶんね」

 

「じゃあ、今度は離れない」

 

レオニダスが言った。

 

「絶対に」

 

レオナも頷いた。

 

「私も」

 

第三の継承者は二人を見つめた。

 

「……ありがとう」

 

「何でお礼を言うんだ?」

 

「ずっと、一人だったから」

 

その言葉に、二人は何も言えなかった。

 

第三の継承者は、自分の折れた杖を見つめる。

 

「僕の記憶は、もうほとんど残ってない」

 

「……」

 

「家族のことも」

 

「……」

 

「昔のことも」

 

「……」

 

「自分の名前さえ、何度も忘れた」

 

レオナが一歩近づく。

 

「でも……私たちのことは覚えてる」

 

第三の継承者は顔を上げた。

 

「うん」

 

「どうして?」

 

「約束したから」

 

三人の杖が再び輝いた。

 

そこに浮かび上がったのは――

 

三本の光が重なった紋章。

 

「約束は、記憶より強い」

 

第三の継承者が言った。

 

「忘れても、思い出せる」

 

「……」

 

「消されても、残る」

 

レオニダスは自分の杖を見る。

 

オーク。

 

ドラゴンの心臓の琴線。

 

自分自身が選んだ杖。

 

そして隣には――

 

レオナの柳の杖。

 

ユニコーンの毛。

 

優しく、しかし決して折れない光。

 

レオニダスはふと思った。

 

「……俺たちの杖も、父さんの杖とは違う」

 

「そうだね」

 

レオナが答えた。

 

「でも、どこか似てる」

 

「それが継承ってことなのかな」

 

第三の継承者が呟いた。

 

「似ていることじゃない」

 

「え?」

 

「受け取ったものを、自分の形に変えることだよ」

 

レオニダスが目を見開いた。

 

第三の継承者は続ける。

 

「レオ・スキャマンダーの力を、そのまま受け継ぐ必要はない」

 

「……」

 

「彼の記憶も、彼の戦い方も、彼の杖も」

 

三人の杖を見ながら言う。

 

「君たちは君たちの魔法を持っている」

 

レオナが静かに微笑んだ。

 

「……それ、お父さんも言ってた」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

レオニダスも頷く。

 

「杖は親から受け継ぐものじゃない。自分で選ぶものだって」

 

第三の継承者は、少し驚いた顔をした。

 

そして――笑った。

 

「やっぱり、レオらしいね」

 

その瞬間。

 

森全体が揺れた。

 

「!」

 

黒い霧が一斉に後退していく。

 

だが、消えたわけではない。

 

むしろ――

 

森の奥に集まり始めていた。

 

第三の継承者の顔から笑みが消える。

 

「……まずい」

 

「どうした?」

 

「奴ら、ここを直接狙うつもりだ」

 

「ここを?」

 

「違う」

 

第三の継承者はレオニダスとレオナを見る。

 

「君たちじゃない」

 

そして――

 

「ホグワーツだ」

 

「!」

 

レオナが振り返る。

 

遠くに、城の塔が見える。

 

その上空に――

 

黒い亀裂が走っていた。

 

「時間の裂け目……?」

 

レオナが呟く。

 

第三の継承者は首を横に振る。

 

「違う」

 

「じゃあ、何?」

 

「過去と現在をつなぐ扉だ」

 

レオニダスが杖を握り直す。

 

「閉じられるのか?」

 

「三人なら」

 

「なら行こう!」

 

レオニダスが走り出そうとする。

 

しかし――

 

レオナが腕を掴んだ。

 

「兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

「今度は一人で先に行かないで」

 

レオニダスは一瞬だけ黙った。

 

そして笑った。

 

「……分かった」

 

第三の継承者も頷く。

 

「三人で行こう」

 

三本の杖が重なる。

 

「力」

 

レオニダス。

 

「知恵」

 

レオナ。

 

「記憶」

 

第三の継承者。

 

三つの光が、一本の道を作った。

 

その道の先に――

 

ホグワーツがある。

 

しかし。

 

誰も気づいていなかった。

 

森のさらに奥。

 

黒いローブを着た何者かが、三人を見ていた。

 

その手には――

 

古い写真。

 

そこには、三人の子供。

 

そして、その後ろには――

 

若き日のレオ。

 

その写真の端には、黒く塗り潰された文字があった。

 

『第四の――』

 

そこで文字は途切れている。

 

黒いローブの人物が、静かに呟いた。

 

「まだ、気づいていない」

 

「継承者は三人ではない」

 

風が吹く。

 

写真が裏返る。

 

そこには、たった一つの言葉。

 

――「親世代」。

 

そして男は、笑った。

 

「次は、彼らの父母の記憶を消す」

 

「そうすれば――」

 

「子供たちは、自分たちが何を継いだのかすら分からなくなる」

 

遠くで、三本の杖が輝く。

 

その光を見つめながら、男は最後に呟いた。

 

「継承とは、記憶から始まる」

 

「ならば――」

 

「記憶を奪えばいい」

 

森に、黒い霧が広がっていく。

 

そして――

 

ホグワーツの鐘が鳴った。

 

三人の継承者が、城へ向かって走り出す。

 

まだ彼らは知らない。

 

次に始まる戦いが――

 

「子供たち」だけの戦いではないことを。

 

親から子へ。

 

子から次の世代へ。

 

受け継がれてきた、すべての記憶を懸けた戦いになることを。

 

――第15話・終――

 

 

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