『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
ホグワーツの鐘が鳴り響いていた。
一度。
二度。
三度。
レオニダス、レオナ、そして第三の継承者は、森を抜けて城へ向かって走っていた。
「急いで!」
レオナが叫ぶ。
「分かってる!」
レオニダスが答える。
その隣を、第三の継承者が走る。
しかし――
彼の足が突然止まった。
「……っ」
「どうした?」
レオニダスが振り返る。
第三の継承者は、自分の頭を押さえていた。
「また……」
「また記憶が?」
レオナが近づく。
「うん」
彼の視界が揺れる。
目の前にいたはずの二人が、ぼやけていく。
「兄ちゃん……」
「レオナ……」
二人の名前が――
消えかける。
「……違う」
第三の継承者は必死に首を振った。
「忘れない」
「絶対に……」
折れた杖を握り締める。
「僕は……君たちを……」
その瞬間。
レオニダスが彼の肩を掴んだ。
「俺たちが覚えてる」
レオナも手を重ねる。
「だから大丈夫」
第三の継承者が二人を見る。
「……ありがとう」
「三人で約束しただろ」
レオニダスが笑う。
「たとえ世界が俺たちを忘れても」
レオナが続ける。
「私たちは、私たちを覚えてる」
第三の継承者も頷いた。
「……うん」
三人は再び走り出した。
しかし。
その頃――
ホグワーツでは。
「……何?」
ハーマイオニーが、突然立ち止まった。
隣にいたレオが振り返る。
「どうした?」
「今……何か……」
ハーマイオニーは眉を寄せた。
「大事なことを忘れた気がする」
「大事なこと?」
「うん」
彼女は額に手を当てる。
「でも……思い出せない」
レオの表情が変わった。
「ハーマイオニー」
「何?」
「僕の名前を言って」
「……レオ」
即答だった。
「レオ・スキャマンダー」
「じゃあ――僕と最初に会った場所は?」
「……」
ハーマイオニーの顔から血の気が引いた。
「……どこ?」
レオは何も言わなかった。
「思い出せない……」
その瞬間。
レオのポケットに入っていた二本目の杖――
古代の黒檀の杖が、突然震えた。
「!」
レオが杖を取り出す。
杖の表面に、見たことのない文字が浮かび上がった。
『記憶、侵食中』
「……」
ハーマイオニーが杖を見つめる。
「レオ……」
「分かってる」
レオは杖を強く握った。
「始まったんだ」
「何が?」
「子供たちが見つけたものが、僕たちにも来た」
その瞬間――
校内の別の場所。
「ハリー!」
ジニーの声が響いた。
ハリーが振り返る。
「どうした?」
「アルバスのこと……」
「アルバス?」
「うん」
ジニーが困惑した顔をする。
「一瞬だけ……名前が出てこなかった」
ハリーの顔が固まる。
「……」
「おかしいよね」
「いや」
ハリーは静かに答えた。
「おかしくない」
「え?」
「僕も今、一瞬だけ――」
ハリーは言葉を止めた。
「アルバスが僕の息子だってことを、忘れかけた」
ジニーが息を呑む。
「……そんな」
ハリーは杖を抜いた。
「誰かが、僕たちの記憶を狙ってる」
さらに――
ロンも突然、胸を押さえた。
「……ハーマイオニー」
「どうしたの?」
「いや……」
ロンは眉をひそめる。
「なんで俺、ハーマイオニーの名前を思い出そうとしたんだ?」
ハーマイオニーが振り返った。
「ロン?」
「……」
ロンは彼女を見る。
そして――
ゆっくり笑った。
「……そうだ」
「私よ」
「ハーマイオニーだ」
「うん」
二人は互いの手を握る。
しかし、その瞬間。
ロンの脳裏に別の光景が浮かんだ。
小さな女の子。
金色の髪。
そして――
「……アステリア?」
ロンが呟く。
「どうしたの?」
ハーマイオニーが聞く。
「いや……」
ロンは胸を押さえた。
「今、誰かを忘れかけた気がした」
その頃。
別の場所では――
ドラコ・マルフォイが古い鏡を見つめていた。
その隣にはパンジー。
「ドラコ」
「何だ?」
「私のこと、覚えてる?」
「……当然だ」
ドラコは即答した。
「パンジー・パーキンソン」
パンジーは安心したように微笑む。
「ならいい」
しかし、鏡の表面に――
黒い文字が浮かんだ。
『一人目――記憶消去失敗』
『二人目――記憶消去失敗』
『三人目――侵食中』
ドラコが杖を抜く。
「誰だ!」
鏡が割れた。
その奥から、声が響く。
『親の記憶を消せば――』
『子供の継承も消える』
「……くだらん」
ドラコは冷たく言った。
「私たちが忘れると思うか?」
パンジーが隣に立つ。
「忘れないわ」
二人の杖が同時に向けられる。
「私たちは――」
ドラコが言う。
「忘れない」
しかし。
その瞬間だった。
パンジーの目から――
一粒の涙が落ちた。
「……え?」
彼女自身も理由が分からない。
「どうして……泣いてるの?」
ドラコが彼女を見る。
「パンジー?」
「分からない」
「何を忘れた?」
「……分からない」
その瞬間。
城の中央で――
ドンッ!
巨大な魔力が爆発した。
「!」
レオが振り返る。
「始まった」
ハーマイオニーが杖を握る。
「レオ、行きましょう」
「うん」
二人が走り出す。
その先には――
ハリー、ジニー、ロン、アステリア、ドラコ、パンジー。
そして多くの親世代の魔法使いたちが集まり始めていた。
その中央に――
一つの黒い魔法陣。
「これは……」
ハーマイオニーが息を呑む。
レオが魔法陣を見る。
「時間魔法だ」
「でも、普通の時間魔法じゃない」
ハーマイオニーが答える。
「これは……」
彼女は魔法陣の文字を読み取る。
「記憶を歴史から切り離している」
「どういう意味?」
ハリーが聞く。
ハーマイオニーは震える声で答えた。
「私たちが覚えていることそのものを――」
「過去から消そうとしている」
その瞬間。
大扉が開いた。
「父さん!」
レオニダスが飛び込んでくる。
レオが振り返る。
「レオニダス!」
その後ろからレオナが入ってくる。
「お父さん!」
「二人とも!」
ハーマイオニーが駆け寄る。
レオニダスが息を切らしながら言った。
「父さん……」
「何があった?」
「敵は――」
レオニダスが言葉を止める。
そして――
第三の継承者を見る。
その姿を見た瞬間。
レオの表情が変わった。
「……お前は」
第三の継承者も、レオを見る。
「……」
何も言わない。
レオは一歩近づいた。
「その杖……」
折れた杖を見つめる。
「……知っている」
第三の継承者が驚く。
「本当に?」
「昔……見た」
レオは目を閉じる。
「まだ、子供だった頃だ」
「……」
「僕の記憶の中に――」
レオの声が震える。
「三人の子供がいる」
レオニダスとレオナが息を呑む。
「三人?」
ハーマイオニーが聞く。
レオは額を押さえる。
「でも……」
「顔が……」
思い出せない。
「誰だった?」
第三の継承者が呟く。
レオは必死に記憶を探す。
「……君だ」
第三の継承者が目を見開く。
「僕を?」
「いや……」
レオは首を振る。
「君だけじゃない」
「……」
「僕は――」
その瞬間。
黒い魔法陣が輝いた。
『親世代の記憶――接続』
「!」
レオの身体から、光が溢れ出す。
ハーマイオニーが叫ぶ。
「レオ!」
レオニダスが駆け寄る。
「父さん!」
しかし、レオは動けない。
その脳裏に――
一つの光景が浮かんだ。
幼いレオ。
その隣に――
幼いハーマイオニー。
そして――
もう一人。
三人の子供。
レオは、その子供の顔を見た。
「……!」
レオの目が大きく見開かれる。
「思い出した……」
第三の継承者が息を呑む。
「何を?」
レオは震える声で答えた。
「君の……」
しかし。
言葉が出ない。
名前だけが――
黒く塗り潰されている。
そして魔法陣から、最後の文字が浮かび上がった。
『第四の継承者――起動条件』
『親が子の記憶を取り戻したとき』
全員が凍りつく。
レオナが呟いた。
「……第四の継承者?」
第三の継承者は、静かに首を上げた。
「やっぱり……」
「知ってるの?」
レオニダスが聞く。
第三の継承者は答えない。
ただ、震える手で折れた杖を握り締めた。
「……僕たち三人だけじゃなかった」
その瞬間。
ホグワーツの鐘が――
四回鳴った。
ゴォォォン――。
ゴォォォン――。
ゴォォォン――。
ゴォォォン――。
四つ目の鐘の音が響いた瞬間。
城全体の灯りが――
一斉に消えた。
暗闇の中。
誰かの声だけが響く。
『――第四の継承者を、起こす』
そして――
レオの目の前に、一枚の古い写真が落ちた。
そこには――
四人の子供が写っていた。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
そして――
顔の部分だけが、完全に黒く塗り潰された――
「第四の子」。
――第16話・終――