『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第16話「奪われる記憶――親世代の継承」

ホグワーツの鐘が鳴り響いていた。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

レオニダス、レオナ、そして第三の継承者は、森を抜けて城へ向かって走っていた。

 

「急いで!」

 

レオナが叫ぶ。

 

「分かってる!」

 

レオニダスが答える。

 

その隣を、第三の継承者が走る。

 

しかし――

 

彼の足が突然止まった。

 

「……っ」

 

「どうした?」

 

レオニダスが振り返る。

 

第三の継承者は、自分の頭を押さえていた。

 

「また……」

 

「また記憶が?」

 

レオナが近づく。

 

「うん」

 

彼の視界が揺れる。

 

目の前にいたはずの二人が、ぼやけていく。

 

「兄ちゃん……」

 

「レオナ……」

 

二人の名前が――

 

消えかける。

 

「……違う」

 

第三の継承者は必死に首を振った。

 

「忘れない」

 

「絶対に……」

 

折れた杖を握り締める。

 

「僕は……君たちを……」

 

その瞬間。

 

レオニダスが彼の肩を掴んだ。

 

「俺たちが覚えてる」

 

レオナも手を重ねる。

 

「だから大丈夫」

 

第三の継承者が二人を見る。

 

「……ありがとう」

 

「三人で約束しただろ」

 

レオニダスが笑う。

 

「たとえ世界が俺たちを忘れても」

 

レオナが続ける。

 

「私たちは、私たちを覚えてる」

 

第三の継承者も頷いた。

 

「……うん」

 

三人は再び走り出した。

 

しかし。

 

その頃――

 

ホグワーツでは。

 

「……何?」

 

ハーマイオニーが、突然立ち止まった。

 

隣にいたレオが振り返る。

 

「どうした?」

 

「今……何か……」

 

ハーマイオニーは眉を寄せた。

 

「大事なことを忘れた気がする」

 

「大事なこと?」

 

「うん」

 

彼女は額に手を当てる。

 

「でも……思い出せない」

 

レオの表情が変わった。

 

「ハーマイオニー」

 

「何?」

 

「僕の名前を言って」

 

「……レオ」

 

即答だった。

 

「レオ・スキャマンダー」

 

「じゃあ――僕と最初に会った場所は?」

 

「……」

 

ハーマイオニーの顔から血の気が引いた。

 

「……どこ?」

 

レオは何も言わなかった。

 

「思い出せない……」

 

その瞬間。

 

レオのポケットに入っていた二本目の杖――

 

古代の黒檀の杖が、突然震えた。

 

「!」

 

レオが杖を取り出す。

 

杖の表面に、見たことのない文字が浮かび上がった。

 

『記憶、侵食中』

 

「……」

 

ハーマイオニーが杖を見つめる。

 

「レオ……」

 

「分かってる」

 

レオは杖を強く握った。

 

「始まったんだ」

 

「何が?」

 

「子供たちが見つけたものが、僕たちにも来た」

 

その瞬間――

 

校内の別の場所。

 

「ハリー!」

 

ジニーの声が響いた。

 

ハリーが振り返る。

 

「どうした?」

 

「アルバスのこと……」

 

「アルバス?」

 

「うん」

 

ジニーが困惑した顔をする。

 

「一瞬だけ……名前が出てこなかった」

 

ハリーの顔が固まる。

 

「……」

 

「おかしいよね」

 

「いや」

 

ハリーは静かに答えた。

 

「おかしくない」

 

「え?」

 

「僕も今、一瞬だけ――」

 

ハリーは言葉を止めた。

 

「アルバスが僕の息子だってことを、忘れかけた」

 

ジニーが息を呑む。

 

「……そんな」

 

ハリーは杖を抜いた。

 

「誰かが、僕たちの記憶を狙ってる」

 

さらに――

 

ロンも突然、胸を押さえた。

 

「……ハーマイオニー」

 

「どうしたの?」

 

「いや……」

 

ロンは眉をひそめる。

 

「なんで俺、ハーマイオニーの名前を思い出そうとしたんだ?」

 

ハーマイオニーが振り返った。

 

「ロン?」

 

「……」

 

ロンは彼女を見る。

 

そして――

 

ゆっくり笑った。

 

「……そうだ」

 

「私よ」

 

「ハーマイオニーだ」

 

「うん」

 

二人は互いの手を握る。

 

しかし、その瞬間。

 

ロンの脳裏に別の光景が浮かんだ。

 

小さな女の子。

 

金色の髪。

 

そして――

 

「……アステリア?」

 

ロンが呟く。

 

「どうしたの?」

 

ハーマイオニーが聞く。

 

「いや……」

 

ロンは胸を押さえた。

 

「今、誰かを忘れかけた気がした」

 

その頃。

 

別の場所では――

 

ドラコ・マルフォイが古い鏡を見つめていた。

 

その隣にはパンジー。

 

「ドラコ」

 

「何だ?」

 

「私のこと、覚えてる?」

 

「……当然だ」

 

ドラコは即答した。

 

「パンジー・パーキンソン」

 

パンジーは安心したように微笑む。

 

「ならいい」

 

しかし、鏡の表面に――

 

黒い文字が浮かんだ。

 

『一人目――記憶消去失敗』

 

『二人目――記憶消去失敗』

 

『三人目――侵食中』

 

ドラコが杖を抜く。

 

「誰だ!」

 

鏡が割れた。

 

その奥から、声が響く。

 

『親の記憶を消せば――』

 

『子供の継承も消える』

 

「……くだらん」

 

ドラコは冷たく言った。

 

「私たちが忘れると思うか?」

 

パンジーが隣に立つ。

 

「忘れないわ」

 

二人の杖が同時に向けられる。

 

「私たちは――」

 

ドラコが言う。

 

「忘れない」

 

しかし。

 

その瞬間だった。

 

パンジーの目から――

 

一粒の涙が落ちた。

 

「……え?」

 

彼女自身も理由が分からない。

 

「どうして……泣いてるの?」

 

ドラコが彼女を見る。

 

「パンジー?」

 

「分からない」

 

「何を忘れた?」

 

「……分からない」

 

その瞬間。

 

城の中央で――

 

ドンッ!

 

巨大な魔力が爆発した。

 

「!」

 

レオが振り返る。

 

「始まった」

 

ハーマイオニーが杖を握る。

 

「レオ、行きましょう」

 

「うん」

 

二人が走り出す。

 

その先には――

 

ハリー、ジニー、ロン、アステリア、ドラコ、パンジー。

 

そして多くの親世代の魔法使いたちが集まり始めていた。

 

その中央に――

 

一つの黒い魔法陣。

 

「これは……」

 

ハーマイオニーが息を呑む。

 

レオが魔法陣を見る。

 

「時間魔法だ」

 

「でも、普通の時間魔法じゃない」

 

ハーマイオニーが答える。

 

「これは……」

 

彼女は魔法陣の文字を読み取る。

 

「記憶を歴史から切り離している」

 

「どういう意味?」

 

ハリーが聞く。

 

ハーマイオニーは震える声で答えた。

 

「私たちが覚えていることそのものを――」

 

「過去から消そうとしている」

 

その瞬間。

 

大扉が開いた。

 

「父さん!」

 

レオニダスが飛び込んでくる。

 

レオが振り返る。

 

「レオニダス!」

 

その後ろからレオナが入ってくる。

 

「お父さん!」

 

「二人とも!」

 

ハーマイオニーが駆け寄る。

 

レオニダスが息を切らしながら言った。

 

「父さん……」

 

「何があった?」

 

「敵は――」

 

レオニダスが言葉を止める。

 

そして――

 

第三の継承者を見る。

 

その姿を見た瞬間。

 

レオの表情が変わった。

 

「……お前は」

 

第三の継承者も、レオを見る。

 

「……」

 

何も言わない。

 

レオは一歩近づいた。

 

「その杖……」

 

折れた杖を見つめる。

 

「……知っている」

 

第三の継承者が驚く。

 

「本当に?」

 

「昔……見た」

 

レオは目を閉じる。

 

「まだ、子供だった頃だ」

 

「……」

 

「僕の記憶の中に――」

 

レオの声が震える。

 

「三人の子供がいる」

 

レオニダスとレオナが息を呑む。

 

「三人?」

 

ハーマイオニーが聞く。

 

レオは額を押さえる。

 

「でも……」

 

「顔が……」

 

思い出せない。

 

「誰だった?」

 

第三の継承者が呟く。

 

レオは必死に記憶を探す。

 

「……君だ」

 

第三の継承者が目を見開く。

 

「僕を?」

 

「いや……」

 

レオは首を振る。

 

「君だけじゃない」

 

「……」

 

「僕は――」

 

その瞬間。

 

黒い魔法陣が輝いた。

 

『親世代の記憶――接続』

 

「!」

 

レオの身体から、光が溢れ出す。

 

ハーマイオニーが叫ぶ。

 

「レオ!」

 

レオニダスが駆け寄る。

 

「父さん!」

 

しかし、レオは動けない。

 

その脳裏に――

 

一つの光景が浮かんだ。

 

幼いレオ。

 

その隣に――

 

幼いハーマイオニー。

 

そして――

 

もう一人。

 

三人の子供。

 

レオは、その子供の顔を見た。

 

「……!」

 

レオの目が大きく見開かれる。

 

「思い出した……」

 

第三の継承者が息を呑む。

 

「何を?」

 

レオは震える声で答えた。

 

「君の……」

 

しかし。

 

言葉が出ない。

 

名前だけが――

 

黒く塗り潰されている。

 

そして魔法陣から、最後の文字が浮かび上がった。

 

『第四の継承者――起動条件』

 

『親が子の記憶を取り戻したとき』

 

全員が凍りつく。

 

レオナが呟いた。

 

「……第四の継承者?」

 

第三の継承者は、静かに首を上げた。

 

「やっぱり……」

 

「知ってるの?」

 

レオニダスが聞く。

 

第三の継承者は答えない。

 

ただ、震える手で折れた杖を握り締めた。

 

「……僕たち三人だけじゃなかった」

 

その瞬間。

 

ホグワーツの鐘が――

 

四回鳴った。

 

ゴォォォン――。

 

ゴォォォン――。

 

ゴォォォン――。

 

ゴォォォン――。

 

四つ目の鐘の音が響いた瞬間。

 

城全体の灯りが――

 

一斉に消えた。

 

暗闇の中。

 

誰かの声だけが響く。

 

『――第四の継承者を、起こす』

 

そして――

 

レオの目の前に、一枚の古い写真が落ちた。

 

そこには――

 

四人の子供が写っていた。

 

レオニダス。

 

レオナ。

 

第三の継承者。

 

そして――

 

顔の部分だけが、完全に黒く塗り潰された――

 

「第四の子」。

 

――第16話・終――

 

 

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