『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第17話「四人目の継承者――消された約束」

ホグワーツから、すべての灯りが消えた。

 

闇。

 

完全な闇だった。

 

「……みんな、いる?」

 

ハーマイオニーの声が響く。

 

「いる!」

 

レオニダスが答える。

 

「私も!」

 

レオナも続く。

 

「僕もいる」

 

第三の継承者の声。

 

そして――

 

「俺もだ」

 

レオの声。

 

その声を聞いた瞬間。

 

レオナが少しだけ安心した。

 

「お父さん……」

 

「大丈夫だ」

 

レオが答える。

 

「ここにいる」

 

しかし――

 

その直後。

 

パッ。

 

一本の光が灯った。

 

それは魔法の灯りではなかった。

 

床に落ちていた、一枚の写真だった。

 

写真だけが白く光っている。

 

四人の子供。

 

レオニダス。

 

レオナ。

 

第三の継承者。

 

そして――

 

顔を黒く塗り潰された、四人目。

 

「……四人」

 

レオニダスが呟く。

 

「俺たちは、三人じゃなかった」

 

第三の継承者は写真を見つめていた。

 

「……違う」

 

「え?」

 

「僕たちは、最初から四人だった」

 

その言葉に、レオが振り返る。

 

「最初から……?」

 

第三の継承者は頷いた。

 

「でも、四人目だけが消された」

 

ハーマイオニーが写真を手に取る。

 

「誰かに?」

 

「たぶん」

 

「どうして?」

 

第三の継承者は答えなかった。

 

代わりに――

 

レオを見た。

 

「レオ・スキャマンダー」

 

「……何?」

 

「君は、何か思い出してる」

 

レオは黙った。

 

「さっき……三人の子供を見たと言っていた」

 

「うん」

 

「でも、本当は四人だったんじゃない?」

 

「……」

 

レオの表情が変わった。

 

「僕の記憶では……」

 

目を閉じる。

 

「四人いた」

 

ハーマイオニーが息を呑む。

 

「レオ……」

 

「僕は、四人を見ていた」

 

レオは頭を押さえた。

 

「でも、一人だけ……」

 

「顔が思い出せない」

 

第三の継承者が静かに言った。

 

「それが、四人目」

 

その瞬間。

 

レオニダスの杖が光った。

 

オークの杖。

 

ドラゴンの心臓の琴線。

 

その光の中に、一つの記号が浮かび上がる。

 

「……これ」

 

レオニダスが杖を見る。

 

レオナも自分の杖を確認する。

 

「私の杖にもある」

 

柳の杖。

 

ユニコーンの毛。

 

そこにも同じ記号が浮かんでいた。

 

第三の継承者の折れた杖にも――

 

同じ印。

 

そして。

 

レオの古代の黒檀の杖にも、その印が浮かび上がった。

 

「四つ……」

 

ハーマイオニーが呟く。

 

「四本の杖が、反応してる」

 

レオは自分の杖を見つめた。

 

「僕の杖まで……」

 

第三の継承者が呟く。

 

「違う」

 

「え?」

 

「レオの杖は、四人目の杖じゃない」

 

彼は杖の光を見つめる。

 

「これは――鍵だ」

 

「鍵?」

 

「四人目を呼び戻すための鍵」

 

その瞬間。

 

城のどこかで――

 

カチッ。

 

小さな音がした。

 

「……何?」

 

レオナが振り返る。

 

カチッ。

 

もう一度。

 

そして――

 

ガチャッ!

 

城の地下から、大きな音が響いた。

 

ハーマイオニーの顔色が変わる。

 

「地下……」

 

「何かあるの?」

 

レオニダスが聞く。

 

「ホグワーツの古い記録庫がある」

 

ハーマイオニーが答えた。

 

「でも、そこは何百年も封鎖されているはず」

 

レオが杖を構える。

 

「なら、行こう」

 

「レオ」

 

ハーマイオニーが止める。

 

「危険よ」

 

「分かってる」

 

レオは子供たちを見る。

 

「だからこそ、僕が行く」

 

レオニダスが一歩前に出た。

 

「俺も行く」

 

「私も」

 

レオナも続く。

 

第三の継承者も歩き出した。

 

「僕も行く」

 

レオが三人を見る。

 

「……お前たちは――」

 

「継承者だから?」

 

レオニダスが言う。

 

「違う」

 

レオナが続ける。

 

「私たち自身が知りたいから」

 

レオは黙った。

 

そして――

 

小さく笑った。

 

「そうか」

 

ハーマイオニーも微笑む。

 

「それなら、四人で行きましょう」

 

「四人?」

 

レオニダスが首を傾げる。

 

ハーマイオニーは自分を指差した。

 

「私は?」

 

「……あ」

 

レオナが笑った。

 

「お母さんも継承者みたい」

 

「私は違うわ」

 

ハーマイオニーが苦笑する。

 

「でも――」

 

レオの隣に立つ。

 

「あなたたちが進む道を、一緒に歩くことはできる」

 

レオニダスとレオナが笑う。

 

第三の継承者も、少しだけ笑った。

 

そして――

 

五人は地下へ向かった。

 

長い階段。

 

古い石壁。

 

壁には、何百年も前の肖像画が並んでいる。

 

しかし。

 

その肖像画の中に――

 

奇妙なものがあった。

 

「……これ」

 

レオナが立ち止まる。

 

一枚の肖像画。

 

そこには四人の子供が描かれている。

 

だが――

 

四人目だけが、白く塗り潰されている。

 

「また……」

 

レオニダスが拳を握る。

 

第三の継承者が絵に近づく。

 

「違う」

 

「何が?」

 

「これは、消されたんじゃない」

 

彼は絵を指差した。

 

「隠されている」

 

ハーマイオニーが目を凝らす。

 

「……確かに」

 

肖像画の魔法そのものは残っている。

 

四人目の輪郭だけが、別の魔法によって覆われている。

 

「つまり――」

 

レオが呟く。

 

「誰かが、存在そのものを消したんじゃない」

 

「見えなくした?」

 

レオナが聞く。

 

「そう」

 

第三の継承者が頷く。

 

「だから、僕はずっと違和感があった」

 

「違和感?」

 

「記憶を消された人間なら、自分が何者だったのかすら分からない」

 

彼は自分の胸に手を当てた。

 

「でも僕は……」

 

「四人目がいたことだけは、ずっと覚えていた」

 

全員が沈黙した。

 

「……どうして?」

 

レオニダスが聞く。

 

第三の継承者は、ゆっくり答えた。

 

「約束したから」

 

「また約束?」

 

「うん」

 

彼は目を閉じる。

 

「四人目と、最後にした約束」

 

その瞬間。

 

彼の折れた杖が光った。

 

そして――

 

記憶が映し出された。

 

幼い四人。

 

森の中。

 

レオニダス。

 

レオナ。

 

第三の継承者。

 

そして、顔の見えない四人目。

 

四人は手を重ねている。

 

幼いレオニダスが言う。

 

『四人で守ろう』

 

レオナが続ける。

 

『絶対に忘れない』

 

第三の子が言う。

 

『誰かが忘れても、残った人が覚えてる』

 

そして――

 

四人目の子供が言った。

 

『もし、僕がいなくなったら――』

 

三人が振り返る。

 

『僕を探さないで』

 

「……!」

 

レオナが息を呑む。

 

「どうして?」

 

記憶の中で、四人目は悲しそうに笑っていた。

 

『僕を探すと、みんなまで消されるから』

 

レオニダスが叫ぶ。

 

『嫌だ!』

 

『兄ちゃん!』

 

『約束だよ』

 

四人目は笑う。

 

『僕が消えたら――』

 

『三人で生きて』

 

そこで記憶が途切れた。

 

「……」

 

誰も言葉を出せなかった。

 

第三の継承者は拳を握った。

 

「僕は、この約束を忘れていた」

 

「……」

 

「でも、今思い出した」

 

彼の目から涙が落ちた。

 

「だから、僕は――」

 

レオナがそっと手を握る。

 

「一人にしないよ」

 

第三の継承者が顔を上げる。

 

「レオナ……」

 

「約束を破ったんじゃない」

 

レオナは微笑む。

 

「今度は、約束を守りに行こう」

 

レオニダスも頷いた。

 

「四人目を探そう」

 

しかし――

 

レオが突然、二人の前に立った。

 

「待って」

 

「父さん?」

 

レオは地下の奥を見ていた。

 

「何かいる」

 

全員が杖を構える。

 

暗闇の奥。

 

誰かの足音。

 

一歩。

 

また一歩。

 

そして――

 

人影が現れた。

 

黒いローブ。

 

顔は見えない。

 

第三の継承者が息を呑む。

 

「……まさか」

 

レオニダスが叫ぶ。

 

「誰だ!」

 

人影は答えない。

 

ただ、手に持っていたものを床へ落とした。

 

カラン。

 

それは――

 

一本の杖だった。

 

折れていない。

 

古くもない。

 

四人目のために作られた――

 

完全な杖。

 

レオナが呟く。

 

「……あの杖」

 

第三の継承者が震える。

 

「僕は……知ってる」

 

「誰の杖?」

 

「四人目の……」

 

人影が初めて口を開いた。

 

「そう」

 

低い声。

 

「これは、あの子の杖」

 

レオが一歩前に出る。

 

「お前は誰だ」

 

人影は答えた。

 

「私は――」

 

その瞬間。

 

人影の姿が、黒い霧へ変わった。

 

「四人目を守る者」

 

そして消える。

 

残された杖が――

 

ひとりでに浮かび上がった。

 

杖の先から、一筋の光が伸びる。

 

それは地下室の壁を照らした。

 

そこに浮かび上がった文字。

 

『四人目の継承者は、消えたのではない』

 

『自ら、記憶の外へ出た』

 

さらに――

 

最後の一文。

 

『そして、彼は今も――』

 

文字が途切れる。

 

レオナが息を呑む。

 

「今も……?」

 

その瞬間。

 

四人目の杖が、レオナの柳の杖に触れた。

 

光が弾ける。

 

そして――

 

レオナの頭の中に、知らない声が響いた。

 

『……レオナ』

 

「……!」

 

『兄ちゃんを連れてきて』

 

『今度は――』

 

『四人で、帰ろう』

 

レオナの目から涙がこぼれた。

 

レオニダスが彼女の肩を掴む。

 

「レオナ!」

 

レオナは顔を上げる。

 

そして――

 

初めて、確信を持って言った。

 

「生きてる」

 

「……え?」

 

「四人目は――」

 

レオナは杖を握り締める。

 

「生きてるよ」

 

その瞬間。

 

地下室の壁が崩れ――

 

その向こうに、一本の道が現れた。

 

道の先から――

 

誰かの声が響く。

 

『待ってる』

 

『ずっと――』

 

『四人で帰る日を』

 

――第17話・終――

 

 

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