『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
ホグワーツから、すべての灯りが消えた。
闇。
完全な闇だった。
「……みんな、いる?」
ハーマイオニーの声が響く。
「いる!」
レオニダスが答える。
「私も!」
レオナも続く。
「僕もいる」
第三の継承者の声。
そして――
「俺もだ」
レオの声。
その声を聞いた瞬間。
レオナが少しだけ安心した。
「お父さん……」
「大丈夫だ」
レオが答える。
「ここにいる」
しかし――
その直後。
パッ。
一本の光が灯った。
それは魔法の灯りではなかった。
床に落ちていた、一枚の写真だった。
写真だけが白く光っている。
四人の子供。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
そして――
顔を黒く塗り潰された、四人目。
「……四人」
レオニダスが呟く。
「俺たちは、三人じゃなかった」
第三の継承者は写真を見つめていた。
「……違う」
「え?」
「僕たちは、最初から四人だった」
その言葉に、レオが振り返る。
「最初から……?」
第三の継承者は頷いた。
「でも、四人目だけが消された」
ハーマイオニーが写真を手に取る。
「誰かに?」
「たぶん」
「どうして?」
第三の継承者は答えなかった。
代わりに――
レオを見た。
「レオ・スキャマンダー」
「……何?」
「君は、何か思い出してる」
レオは黙った。
「さっき……三人の子供を見たと言っていた」
「うん」
「でも、本当は四人だったんじゃない?」
「……」
レオの表情が変わった。
「僕の記憶では……」
目を閉じる。
「四人いた」
ハーマイオニーが息を呑む。
「レオ……」
「僕は、四人を見ていた」
レオは頭を押さえた。
「でも、一人だけ……」
「顔が思い出せない」
第三の継承者が静かに言った。
「それが、四人目」
その瞬間。
レオニダスの杖が光った。
オークの杖。
ドラゴンの心臓の琴線。
その光の中に、一つの記号が浮かび上がる。
「……これ」
レオニダスが杖を見る。
レオナも自分の杖を確認する。
「私の杖にもある」
柳の杖。
ユニコーンの毛。
そこにも同じ記号が浮かんでいた。
第三の継承者の折れた杖にも――
同じ印。
そして。
レオの古代の黒檀の杖にも、その印が浮かび上がった。
「四つ……」
ハーマイオニーが呟く。
「四本の杖が、反応してる」
レオは自分の杖を見つめた。
「僕の杖まで……」
第三の継承者が呟く。
「違う」
「え?」
「レオの杖は、四人目の杖じゃない」
彼は杖の光を見つめる。
「これは――鍵だ」
「鍵?」
「四人目を呼び戻すための鍵」
その瞬間。
城のどこかで――
カチッ。
小さな音がした。
「……何?」
レオナが振り返る。
カチッ。
もう一度。
そして――
ガチャッ!
城の地下から、大きな音が響いた。
ハーマイオニーの顔色が変わる。
「地下……」
「何かあるの?」
レオニダスが聞く。
「ホグワーツの古い記録庫がある」
ハーマイオニーが答えた。
「でも、そこは何百年も封鎖されているはず」
レオが杖を構える。
「なら、行こう」
「レオ」
ハーマイオニーが止める。
「危険よ」
「分かってる」
レオは子供たちを見る。
「だからこそ、僕が行く」
レオニダスが一歩前に出た。
「俺も行く」
「私も」
レオナも続く。
第三の継承者も歩き出した。
「僕も行く」
レオが三人を見る。
「……お前たちは――」
「継承者だから?」
レオニダスが言う。
「違う」
レオナが続ける。
「私たち自身が知りたいから」
レオは黙った。
そして――
小さく笑った。
「そうか」
ハーマイオニーも微笑む。
「それなら、四人で行きましょう」
「四人?」
レオニダスが首を傾げる。
ハーマイオニーは自分を指差した。
「私は?」
「……あ」
レオナが笑った。
「お母さんも継承者みたい」
「私は違うわ」
ハーマイオニーが苦笑する。
「でも――」
レオの隣に立つ。
「あなたたちが進む道を、一緒に歩くことはできる」
レオニダスとレオナが笑う。
第三の継承者も、少しだけ笑った。
そして――
五人は地下へ向かった。
長い階段。
古い石壁。
壁には、何百年も前の肖像画が並んでいる。
しかし。
その肖像画の中に――
奇妙なものがあった。
「……これ」
レオナが立ち止まる。
一枚の肖像画。
そこには四人の子供が描かれている。
だが――
四人目だけが、白く塗り潰されている。
「また……」
レオニダスが拳を握る。
第三の継承者が絵に近づく。
「違う」
「何が?」
「これは、消されたんじゃない」
彼は絵を指差した。
「隠されている」
ハーマイオニーが目を凝らす。
「……確かに」
肖像画の魔法そのものは残っている。
四人目の輪郭だけが、別の魔法によって覆われている。
「つまり――」
レオが呟く。
「誰かが、存在そのものを消したんじゃない」
「見えなくした?」
レオナが聞く。
「そう」
第三の継承者が頷く。
「だから、僕はずっと違和感があった」
「違和感?」
「記憶を消された人間なら、自分が何者だったのかすら分からない」
彼は自分の胸に手を当てた。
「でも僕は……」
「四人目がいたことだけは、ずっと覚えていた」
全員が沈黙した。
「……どうして?」
レオニダスが聞く。
第三の継承者は、ゆっくり答えた。
「約束したから」
「また約束?」
「うん」
彼は目を閉じる。
「四人目と、最後にした約束」
その瞬間。
彼の折れた杖が光った。
そして――
記憶が映し出された。
幼い四人。
森の中。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
そして、顔の見えない四人目。
四人は手を重ねている。
幼いレオニダスが言う。
『四人で守ろう』
レオナが続ける。
『絶対に忘れない』
第三の子が言う。
『誰かが忘れても、残った人が覚えてる』
そして――
四人目の子供が言った。
『もし、僕がいなくなったら――』
三人が振り返る。
『僕を探さないで』
「……!」
レオナが息を呑む。
「どうして?」
記憶の中で、四人目は悲しそうに笑っていた。
『僕を探すと、みんなまで消されるから』
レオニダスが叫ぶ。
『嫌だ!』
『兄ちゃん!』
『約束だよ』
四人目は笑う。
『僕が消えたら――』
『三人で生きて』
そこで記憶が途切れた。
「……」
誰も言葉を出せなかった。
第三の継承者は拳を握った。
「僕は、この約束を忘れていた」
「……」
「でも、今思い出した」
彼の目から涙が落ちた。
「だから、僕は――」
レオナがそっと手を握る。
「一人にしないよ」
第三の継承者が顔を上げる。
「レオナ……」
「約束を破ったんじゃない」
レオナは微笑む。
「今度は、約束を守りに行こう」
レオニダスも頷いた。
「四人目を探そう」
しかし――
レオが突然、二人の前に立った。
「待って」
「父さん?」
レオは地下の奥を見ていた。
「何かいる」
全員が杖を構える。
暗闇の奥。
誰かの足音。
一歩。
また一歩。
そして――
人影が現れた。
黒いローブ。
顔は見えない。
第三の継承者が息を呑む。
「……まさか」
レオニダスが叫ぶ。
「誰だ!」
人影は答えない。
ただ、手に持っていたものを床へ落とした。
カラン。
それは――
一本の杖だった。
折れていない。
古くもない。
四人目のために作られた――
完全な杖。
レオナが呟く。
「……あの杖」
第三の継承者が震える。
「僕は……知ってる」
「誰の杖?」
「四人目の……」
人影が初めて口を開いた。
「そう」
低い声。
「これは、あの子の杖」
レオが一歩前に出る。
「お前は誰だ」
人影は答えた。
「私は――」
その瞬間。
人影の姿が、黒い霧へ変わった。
「四人目を守る者」
そして消える。
残された杖が――
ひとりでに浮かび上がった。
杖の先から、一筋の光が伸びる。
それは地下室の壁を照らした。
そこに浮かび上がった文字。
『四人目の継承者は、消えたのではない』
『自ら、記憶の外へ出た』
さらに――
最後の一文。
『そして、彼は今も――』
文字が途切れる。
レオナが息を呑む。
「今も……?」
その瞬間。
四人目の杖が、レオナの柳の杖に触れた。
光が弾ける。
そして――
レオナの頭の中に、知らない声が響いた。
『……レオナ』
「……!」
『兄ちゃんを連れてきて』
『今度は――』
『四人で、帰ろう』
レオナの目から涙がこぼれた。
レオニダスが彼女の肩を掴む。
「レオナ!」
レオナは顔を上げる。
そして――
初めて、確信を持って言った。
「生きてる」
「……え?」
「四人目は――」
レオナは杖を握り締める。
「生きてるよ」
その瞬間。
地下室の壁が崩れ――
その向こうに、一本の道が現れた。
道の先から――
誰かの声が響く。
『待ってる』
『ずっと――』
『四人で帰る日を』
――第17話・終――