『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
地下室の壁が崩れた。
その向こうに――
一本の道が続いている。
暗い。
しかし、完全な闇ではない。
道の奥から、淡い光が漏れている。
レオニダスが杖を構えた。
「……行こう」
レオナが頷く。
「うん」
第三の継承者も折れた杖を握る。
「僕も行く」
レオが三人を見る。
「待て」
三人が振り返る。
「この先は、何があるか分からない」
レオは静かに言った。
「だから僕が先に――」
「お父さん」
レオナが遮った。
「私たちも行く」
「レオナ……」
「ここまで来たのは、私たち自身だから」
レオニダスも頷く。
「父さんが全部守ってくれるのは嬉しい」
「でも――」
「これは俺たちの約束なんだ」
レオは黙った。
ハーマイオニーが隣に立つ。
「レオ」
「……うん」
「行かせてあげましょう」
レオがハーマイオニーを見る。
「危険だ」
「分かってる」
「それでも?」
ハーマイオニーは子供たちを見る。
「私たちが昔そうだったように」
「……」
「自分で選んで、自分で進まなければならない時がある」
レオはしばらく黙っていた。
そして――
微笑んだ。
「分かった」
レオニダスが笑う。
「ありがとう、父さん」
「ただし」
レオが杖を構える。
「無茶はするな」
レオナが笑った。
「それ、兄ちゃんに言って」
「おい」
三人の間に、小さな笑いが生まれた。
そして――
五人は道へ進んだ。
しばらく歩くと、壁に奇妙な文字が現れた。
『記憶を持つ者は、過去へ進めない』
レオナが読む。
「どういう意味?」
ハーマイオニーが考える。
「普通の魔法じゃないわ」
レオが壁に手を触れる。
「これは……記憶そのものを条件にしてる」
第三の継承者が呟いた。
「つまり、僕たちが知っていることが多いほど――」
「先へ進めない?」
レオニダスが聞く。
「そういうことだと思う」
レオは眉をひそめる。
「じゃあ、どうする?」
その瞬間。
レオナが前へ出た。
「私、分かったかも」
「レオナ?」
「記憶を捨てるんじゃない」
レオナは自分の杖を見る。
「記憶を、誰かに預ければいい」
ハーマイオニーが目を見開く。
「……そうか」
「記憶を一人で持つから、扉に拒まれる」
レオナが続ける。
「でも、私たちは四人で記憶を持ってる」
第三の継承者が微笑む。
「それなら――」
レオニダスが杖を掲げた。
「四人で進める」
三本の杖。
そして――
レオの黒檀の杖。
四本の杖が同時に光った。
壁の文字が消える。
そして、扉が開いた。
その向こうにあったのは――
巨大な部屋だった。
中央には、一つの椅子。
その周囲には、無数の光る球体。
ハーマイオニーが息を呑む。
「記憶……?」
一つの球体に触れる。
そこには――
若き日のハリー。
ロン。
ハーマイオニー。
そして――
レオ。
さらに、ジニー。
アステリア。
ドラコ。
パンジー。
親世代の記憶が、無数に保存されている。
レオが呟く。
「ここは……」
「記憶の保管庫」
第三の継承者が答えた。
「四人目が作ったんだ」
「四人目が?」
「うん」
彼は一つの光球を見る。
そこには幼い四人がいた。
「僕たちが忘れてしまう前に――」
「自分たちの記憶を残した」
レオニダスが光球を見る。
「じゃあ、四人目はここにいた?」
「たぶん」
レオナが周囲を見渡す。
「でも、今はいない」
その時。
部屋の奥から声がした。
『いるよ』
全員が振り返る。
『ずっと、ここにいた』
レオニダスが杖を構える。
「誰だ!」
『……兄ちゃん』
「!」
その呼び方。
レオニダスの表情が変わった。
「お前……」
『久しぶり』
暗闇から、一人の少年が姿を現した。
いや。
少年ではない。
レオニダスたちと同年代に見える青年。
黒い髪。
穏やかな目。
そして――
手には、一本の杖。
第17話で見つかった、四人目の杖。
レオナが震える声で言う。
「……あなた」
青年は微笑んだ。
「レオナ」
レオニダスが一歩前へ出る。
「……本当に、お前なのか?」
青年は答えなかった。
代わりに――
右手を差し出した。
そこには、幼い頃と同じ印。
三本の線と、一つの円。
レオニダスの目から涙が落ちた。
「……四人目」
青年が頷く。
「うん」
第三の継承者が震える声で尋ねる。
「どうして……」
青年は静かに答える。
「僕は、みんなを守るために消えた」
「……」
「僕の記憶を追えば、敵は三人を見つける」
「だから、自分から記憶の外へ出た」
レオナが首を振る。
「でも……」
「私たちは、ずっと探してた」
青年は悲しそうに笑う。
「知ってる」
「じゃあ、どうして戻ってこなかったの?」
「戻れなかったんだ」
「どうして?」
青年は自分の杖を見る。
「僕自身が、僕の名前を封印したから」
全員が息を呑む。
「名前を?」
ハーマイオニーが聞く。
「名前は、記憶とつながってる」
青年は答える。
「僕の名前を思い出した瞬間、敵に僕の居場所が伝わる」
レオが口を開く。
「だから、名前を捨てたのか」
「そう」
「それほどまでして――」
レオは青年を見る。
「子供たちを守ろうとしたのか」
青年は少しだけ笑う。
「子供たち?」
レオニダスが答える。
「俺たちのことだ」
青年は二人を見る。
「……昔の君たちは、僕にとって弟と妹だった」
レオナの目に涙が浮かぶ。
「今も?」
青年は少し考えた。
そして――
「今も」
レオナが駆け寄る。
「……!」
青年は一瞬驚いたが――
レオナを抱きしめた。
「……遅くなって、ごめん」
「ううん」
レオナは首を振る。
「帰ってきてくれたから」
その横で、レオニダスも拳を握っている。
青年が手を伸ばす。
「兄ちゃん」
「……」
レオニダスはその手を握った。
「おかえり」
青年の目から、涙が落ちた。
「……ただいま」
第三の継承者も二人に近づく。
四人が並ぶ。
その瞬間。
四本の杖が輝いた。
部屋いっぱいに光が広がる。
そして――
無数の記憶が一つにつながっていく。
レオ。
ハーマイオニー。
ハリー。
ジニー。
ロン。
アステリア。
ドラコ。
パンジー。
そして――
四人の子供。
「これが……継承」
ハーマイオニーが呟く。
「血だけじゃない」
レオが続ける。
「記憶だけでもない」
青年が言った。
「約束だよ」
レオニダスが頷く。
「自分で選んで――」
レオナが続ける。
「次の人に渡す」
第三の継承者が微笑む。
「それが、僕たちの継承」
しかし――
突然。
部屋の全ての光球が黒く染まった。
青年の顔が険しくなる。
「……来た」
レオが杖を構える。
「敵か?」
「違う」
青年は首を振った。
「もっと危険なもの」
黒い光球の中から――
無数の声が響く。
『記憶を返せ』
『歴史を返せ』
『奪われた時間を返せ』
ハーマイオニーが息を呑む。
「これは……」
青年が答える。
「消された記憶そのものだ」
「……!」
「今まで消されたすべての記憶が、逆流してる」
レオニダスが杖を握る。
「止められる?」
青年は四人を見る。
「四人なら」
「またそれか」
レオニダスが笑う。
「だったら、やろう」
レオナも頷く。
「今度は、誰も消させない」
第三の継承者が杖を構える。
「約束だからね」
四人の杖が重なる。
その中央に――
巨大な光が生まれた。
しかし。
その光の中に――
一つだけ、見覚えのない記憶が混じっていた。
青年がそれを見た瞬間。
顔色が変わる。
「……そんな」
「どうした?」
レオが聞く。
青年は震える声で言った。
「この記憶は……」
「僕たち四人のものじゃない」
光の中に浮かんだのは――
まだ生まれる前の、レオニダスとレオナ。
そして――
その二人を抱いている、若き日のレオとハーマイオニー。
その後ろに立っている――
もう一人の人物。
顔は見えない。
しかし、その人物が言った。
『この子たちが、次の継承者になる』
青年が呟く。
「……僕たちより前に」
レオが振り返る。
「何?」
青年は光を見つめた。
「継承は、僕たちから始まったんじゃない」
「……」
「僕たちより前に――」
「誰かが、四人の継承を準備していた」
そして。
光の中の人物が振り返った。
その顔が――
一瞬だけ見えた。
「……!」
レオの目が見開かれる。
「そんな……」
ハーマイオニーも息を呑む。
「知ってるの?」
レオは答えられなかった。
ただ一言。
「……僕たちの過去にいた人だ」
光が消える。
部屋が暗闇に戻る。
そして――
四人目の青年が静かに言った。
「本当の継承は、ここからだ」
――第18話・終――