『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第18話「記憶の外にいる者――四人目の選択」

地下室の壁が崩れた。

 

その向こうに――

 

一本の道が続いている。

 

暗い。

 

しかし、完全な闇ではない。

 

道の奥から、淡い光が漏れている。

 

レオニダスが杖を構えた。

 

「……行こう」

 

レオナが頷く。

 

「うん」

 

第三の継承者も折れた杖を握る。

 

「僕も行く」

 

レオが三人を見る。

 

「待て」

 

三人が振り返る。

 

「この先は、何があるか分からない」

 

レオは静かに言った。

 

「だから僕が先に――」

 

「お父さん」

 

レオナが遮った。

 

「私たちも行く」

 

「レオナ……」

 

「ここまで来たのは、私たち自身だから」

 

レオニダスも頷く。

 

「父さんが全部守ってくれるのは嬉しい」

 

「でも――」

 

「これは俺たちの約束なんだ」

 

レオは黙った。

 

ハーマイオニーが隣に立つ。

 

「レオ」

 

「……うん」

 

「行かせてあげましょう」

 

レオがハーマイオニーを見る。

 

「危険だ」

 

「分かってる」

 

「それでも?」

 

ハーマイオニーは子供たちを見る。

 

「私たちが昔そうだったように」

 

「……」

 

「自分で選んで、自分で進まなければならない時がある」

 

レオはしばらく黙っていた。

 

そして――

 

微笑んだ。

 

「分かった」

 

レオニダスが笑う。

 

「ありがとう、父さん」

 

「ただし」

 

レオが杖を構える。

 

「無茶はするな」

 

レオナが笑った。

 

「それ、兄ちゃんに言って」

 

「おい」

 

三人の間に、小さな笑いが生まれた。

 

そして――

 

五人は道へ進んだ。

 

しばらく歩くと、壁に奇妙な文字が現れた。

 

『記憶を持つ者は、過去へ進めない』

 

レオナが読む。

 

「どういう意味?」

 

ハーマイオニーが考える。

 

「普通の魔法じゃないわ」

 

レオが壁に手を触れる。

 

「これは……記憶そのものを条件にしてる」

 

第三の継承者が呟いた。

 

「つまり、僕たちが知っていることが多いほど――」

 

「先へ進めない?」

 

レオニダスが聞く。

 

「そういうことだと思う」

 

レオは眉をひそめる。

 

「じゃあ、どうする?」

 

その瞬間。

 

レオナが前へ出た。

 

「私、分かったかも」

 

「レオナ?」

 

「記憶を捨てるんじゃない」

 

レオナは自分の杖を見る。

 

「記憶を、誰かに預ければいい」

 

ハーマイオニーが目を見開く。

 

「……そうか」

 

「記憶を一人で持つから、扉に拒まれる」

 

レオナが続ける。

 

「でも、私たちは四人で記憶を持ってる」

 

第三の継承者が微笑む。

 

「それなら――」

 

レオニダスが杖を掲げた。

 

「四人で進める」

 

三本の杖。

 

そして――

 

レオの黒檀の杖。

 

四本の杖が同時に光った。

 

壁の文字が消える。

 

そして、扉が開いた。

 

その向こうにあったのは――

 

巨大な部屋だった。

 

中央には、一つの椅子。

 

その周囲には、無数の光る球体。

 

ハーマイオニーが息を呑む。

 

「記憶……?」

 

一つの球体に触れる。

 

そこには――

 

若き日のハリー。

 

ロン。

 

ハーマイオニー。

 

そして――

 

レオ。

 

さらに、ジニー。

 

アステリア。

 

ドラコ。

 

パンジー。

 

親世代の記憶が、無数に保存されている。

 

レオが呟く。

 

「ここは……」

 

「記憶の保管庫」

 

第三の継承者が答えた。

 

「四人目が作ったんだ」

 

「四人目が?」

 

「うん」

 

彼は一つの光球を見る。

 

そこには幼い四人がいた。

 

「僕たちが忘れてしまう前に――」

 

「自分たちの記憶を残した」

 

レオニダスが光球を見る。

 

「じゃあ、四人目はここにいた?」

 

「たぶん」

 

レオナが周囲を見渡す。

 

「でも、今はいない」

 

その時。

 

部屋の奥から声がした。

 

『いるよ』

 

全員が振り返る。

 

『ずっと、ここにいた』

 

レオニダスが杖を構える。

 

「誰だ!」

 

『……兄ちゃん』

 

「!」

 

その呼び方。

 

レオニダスの表情が変わった。

 

「お前……」

 

『久しぶり』

 

暗闇から、一人の少年が姿を現した。

 

いや。

 

少年ではない。

 

レオニダスたちと同年代に見える青年。

 

黒い髪。

 

穏やかな目。

 

そして――

 

手には、一本の杖。

 

第17話で見つかった、四人目の杖。

 

レオナが震える声で言う。

 

「……あなた」

 

青年は微笑んだ。

 

「レオナ」

 

レオニダスが一歩前へ出る。

 

「……本当に、お前なのか?」

 

青年は答えなかった。

 

代わりに――

 

右手を差し出した。

 

そこには、幼い頃と同じ印。

 

三本の線と、一つの円。

 

レオニダスの目から涙が落ちた。

 

「……四人目」

 

青年が頷く。

 

「うん」

 

第三の継承者が震える声で尋ねる。

 

「どうして……」

 

青年は静かに答える。

 

「僕は、みんなを守るために消えた」

 

「……」

 

「僕の記憶を追えば、敵は三人を見つける」

 

「だから、自分から記憶の外へ出た」

 

レオナが首を振る。

 

「でも……」

 

「私たちは、ずっと探してた」

 

青年は悲しそうに笑う。

 

「知ってる」

 

「じゃあ、どうして戻ってこなかったの?」

 

「戻れなかったんだ」

 

「どうして?」

 

青年は自分の杖を見る。

 

「僕自身が、僕の名前を封印したから」

 

全員が息を呑む。

 

「名前を?」

 

ハーマイオニーが聞く。

 

「名前は、記憶とつながってる」

 

青年は答える。

 

「僕の名前を思い出した瞬間、敵に僕の居場所が伝わる」

 

レオが口を開く。

 

「だから、名前を捨てたのか」

 

「そう」

 

「それほどまでして――」

 

レオは青年を見る。

 

「子供たちを守ろうとしたのか」

 

青年は少しだけ笑う。

 

「子供たち?」

 

レオニダスが答える。

 

「俺たちのことだ」

 

青年は二人を見る。

 

「……昔の君たちは、僕にとって弟と妹だった」

 

レオナの目に涙が浮かぶ。

 

「今も?」

 

青年は少し考えた。

 

そして――

 

「今も」

 

レオナが駆け寄る。

 

「……!」

 

青年は一瞬驚いたが――

 

レオナを抱きしめた。

 

「……遅くなって、ごめん」

 

「ううん」

 

レオナは首を振る。

 

「帰ってきてくれたから」

 

その横で、レオニダスも拳を握っている。

 

青年が手を伸ばす。

 

「兄ちゃん」

 

「……」

 

レオニダスはその手を握った。

 

「おかえり」

 

青年の目から、涙が落ちた。

 

「……ただいま」

 

第三の継承者も二人に近づく。

 

四人が並ぶ。

 

その瞬間。

 

四本の杖が輝いた。

 

部屋いっぱいに光が広がる。

 

そして――

 

無数の記憶が一つにつながっていく。

 

レオ。

 

ハーマイオニー。

 

ハリー。

 

ジニー。

 

ロン。

 

アステリア。

 

ドラコ。

 

パンジー。

 

そして――

 

四人の子供。

 

「これが……継承」

 

ハーマイオニーが呟く。

 

「血だけじゃない」

 

レオが続ける。

 

「記憶だけでもない」

 

青年が言った。

 

「約束だよ」

 

レオニダスが頷く。

 

「自分で選んで――」

 

レオナが続ける。

 

「次の人に渡す」

 

第三の継承者が微笑む。

 

「それが、僕たちの継承」

 

しかし――

 

突然。

 

部屋の全ての光球が黒く染まった。

 

青年の顔が険しくなる。

 

「……来た」

 

レオが杖を構える。

 

「敵か?」

 

「違う」

 

青年は首を振った。

 

「もっと危険なもの」

 

黒い光球の中から――

 

無数の声が響く。

 

『記憶を返せ』

 

『歴史を返せ』

 

『奪われた時間を返せ』

 

ハーマイオニーが息を呑む。

 

「これは……」

 

青年が答える。

 

「消された記憶そのものだ」

 

「……!」

 

「今まで消されたすべての記憶が、逆流してる」

 

レオニダスが杖を握る。

 

「止められる?」

 

青年は四人を見る。

 

「四人なら」

 

「またそれか」

 

レオニダスが笑う。

 

「だったら、やろう」

 

レオナも頷く。

 

「今度は、誰も消させない」

 

第三の継承者が杖を構える。

 

「約束だからね」

 

四人の杖が重なる。

 

その中央に――

 

巨大な光が生まれた。

 

しかし。

 

その光の中に――

 

一つだけ、見覚えのない記憶が混じっていた。

 

青年がそれを見た瞬間。

 

顔色が変わる。

 

「……そんな」

 

「どうした?」

 

レオが聞く。

 

青年は震える声で言った。

 

「この記憶は……」

 

「僕たち四人のものじゃない」

 

光の中に浮かんだのは――

 

まだ生まれる前の、レオニダスとレオナ。

 

そして――

 

その二人を抱いている、若き日のレオとハーマイオニー。

 

その後ろに立っている――

 

もう一人の人物。

 

顔は見えない。

 

しかし、その人物が言った。

 

『この子たちが、次の継承者になる』

 

青年が呟く。

 

「……僕たちより前に」

 

レオが振り返る。

 

「何?」

 

青年は光を見つめた。

 

「継承は、僕たちから始まったんじゃない」

 

「……」

 

「僕たちより前に――」

 

「誰かが、四人の継承を準備していた」

 

そして。

 

光の中の人物が振り返った。

 

その顔が――

 

一瞬だけ見えた。

 

「……!」

 

レオの目が見開かれる。

 

「そんな……」

 

ハーマイオニーも息を呑む。

 

「知ってるの?」

 

レオは答えられなかった。

 

ただ一言。

 

「……僕たちの過去にいた人だ」

 

光が消える。

 

部屋が暗闇に戻る。

 

そして――

 

四人目の青年が静かに言った。

 

「本当の継承は、ここからだ」

 

――第18話・終――

 

 

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