『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
光が消えた。
地下の記憶保管庫には、静寂だけが残っていた。
レオ。
ハーマイオニー。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
そして――
四人目の継承者。
誰も口を開かなかった。
先ほど見えた記憶。
まだ幼いレオニダスとレオナ。
二人を抱くレオとハーマイオニー。
そして、その後ろに立っていた人物。
四人の継承者よりも前に――
すでに「継承」を知っていた誰か。
レオが静かに口を開く。
「……僕は、あの人を知っている」
ハーマイオニーが振り返る。
「本当に?」
「顔を見たことがある」
レオは目を閉じる。
「でも、どこで会ったのか……思い出せない」
四人目の青年が言った。
「それも、消されたんだと思う」
「君も?」
「うん」
青年は自分の杖を見る。
「僕たち四人の記憶だけじゃない」
「もっと前の記憶まで、消されている」
レオニダスが拳を握った。
「じゃあ、全部の始まりは――」
「その人だ」
青年が答える。
「僕たちが継承者になった理由も」
「この戦いが始まった理由も」
「全部、そこにつながっている」
レオナが一歩前へ出た。
「だったら、思い出そう」
「え?」
「お父さん」
レオを見る。
「私たちの記憶を、全部つなげればいい」
ハーマイオニーが目を見開いた。
「……そうね」
「記憶は一人では消せても――」
レオが続ける。
「複数の人間が共有すれば、完全には消せない」
四人目の青年が頷く。
「それが、僕たち四人の力だった」
「なら――」
レオニダスが杖を掲げる。
「今度は親世代も一緒だ」
レオも杖を構える。
ハーマイオニーも続く。
六本の杖が光った。
その瞬間――
地下室の中央に、一つの巨大な記憶が現れた。
古いホグワーツ。
まだレオたちが学生だった頃。
そして――
その中に、一人の青年が立っていた。
レオが息を呑む。
「……彼だ」
ハーマイオニーも気づく。
「レオ……」
記憶の中の青年は、四人の子供たちを見つめていた。
そして――
幼いレオニダスに向かって言った。
『力を持つ者は、力だけでは守れない』
次にレオナを見る。
『知恵を持つ者も、知恵だけでは守れない』
第三の子を見る。
『記憶を持つ者も、記憶だけでは守れない』
最後に四人目を見る。
『だから、四人が必要なんだ』
レオニダスが呟く。
「この人は……」
青年は微笑んだ。
『君たちは、誰かの代わりになる必要はない』
『君たちは、君たち自身になるんだ』
レオナの目が見開かれる。
「……お父さんが言ってたことと同じ」
レオが黙って記憶を見る。
青年は続けた。
『継承とは、古いものをそのまま受け取ることじゃない』
『受け取ったものを、自分の未来へ変えることだ』
その言葉に――
レオは目を閉じた。
「……そうだった」
ハーマイオニーが見る。
「思い出したの?」
「うん」
レオは静かに答える。
「僕は、彼からこの言葉を聞いた」
「いつ?」
「学生の頃だ」
そして――
レオの記憶が一つにつながった。
若き日のレオ。
その隣にハーマイオニー。
二人の前に立つ青年。
彼は、レオに一冊の本を渡していた。
『いつか、君たちに子供が生まれたら』
『この本を渡してほしい』
若きレオが聞く。
『何のために?』
青年は笑った。
『子供たちが、自分たちの道を選べるようにするためだ』
ハーマイオニーが尋ねる。
『あなたは、何者なんですか?』
青年は答えなかった。
ただ――
『名前は、まだ必要ない』
そう言った。
記憶が途切れる。
レオは目を開けた。
「……そうだ」
「彼は僕たちに――」
その時。
四人目の青年が突然、顔を上げた。
「待って」
「どうした?」
「この人……」
青年の表情が変わる。
「僕は知ってる」
「え?」
「この人の名前を」
全員が彼を見る。
青年は苦しそうに頭を押さえた。
「ずっと忘れていた」
「でも――」
記憶が戻ってくる。
幼い四人。
そして、青年。
青年が四人に告げる。
『僕の名前を覚えておいて』
四人が頷く。
『僕は――』
そこで記憶が黒く染まる。
「……っ!」
青年が膝をつく。
レオナが駆け寄る。
「大丈夫?」
「名前が……」
「思い出せない?」
「違う」
青年は震える声で言った。
「思い出した」
彼は顔を上げる。
「僕たちを最初に導いた人の名前は――」
一瞬の沈黙。
そして。
「エドガー・スキャマンダー」
レオが息を呑む。
「……スキャマンダー?」
ハーマイオニーも驚く。
「あなたの――」
「そう」
四人目の青年は頷く。
「僕たちの魔法の起源に関わる人」
レオは記憶をたどる。
「でも……」
「彼は、僕の祖先でもある」
青年は言った。
「そして、君の祖先でもある」
「……!」
レオは言葉を失う。
「つまり――」
レオニダスが呟く。
「継承は、俺たちの親から始まったんじゃない」
四人目の青年が答える。
「もっと前から始まっていた」
レオナが写真を見る。
四人の子供。
その裏側に――
新しい文字が浮かび上がる。
『第一の継承――力』
『第二の継承――知恵』
『第三の継承――記憶』
『第四の継承――選択』
そして――
『第五の継承――未来』
「……第五?」
ハーマイオニーが呟く。
レオニダスが振り返る。
「五人目なんて、いないだろ」
四人目の青年が首を横に振る。
「いる」
「誰?」
青年は――
レオニダスとレオナを見る。
「君たちだよ」
「……え?」
「僕たち四人が守ってきたものを――」
「次の時代へ持っていく人間」
レオナが息を呑む。
「私たち……?」
「うん」
青年は微笑んだ。
「君たちは、四人の継承者の次に来る」
レオニダスが自分の杖を見る。
「じゃあ……俺たちは」
「五人目の継承者じゃない」
青年は静かに言う。
「五人目の“継承”そのものなんだ」
レオナが考える。
「つまり……」
「私たちが何を選ぶかで、継承の意味が変わる?」
「そう」
その瞬間。
黒い霧が地下室に流れ込んできた。
「来る!」
レオが叫ぶ。
ハーマイオニーが杖を構える。
「プロテゴ!」
巨大な盾が広がる。
しかし――
黒い霧は止まらない。
『継承を終わらせる』
声が響く。
『過去を消す』
『親を消す』
『子を消す』
『記憶を消す』
レオニダスが前へ出る。
「させるか!」
杖を振る。
「プロテゴ・マキシマ!」
レオナも続く。
「私も!」
二人の魔法が重なる。
第三の継承者。
四人目の青年。
レオ。
ハーマイオニー。
六人の魔力が一つになる。
黒い霧が押し返される。
しかし――
敵の声が笑う。
『六人では足りない』
レオが叫ぶ。
「何だと?」
『お前たちが守ろうとしている未来には――』
『すでに、私が手を伸ばしている』
その瞬間。
黒い霧の中に、巨大な映像が浮かんだ。
そこに映ったのは――
ホグワーツ特急。
そして――
レオニダス。
レオナ。
ローズ。
アルバス。
スコーピウス。
次世代の子供たち。
「……!」
ハーマイオニーが息を呑む。
「子供たちが……」
レオが杖を握り締める。
「狙われている」
第三の継承者が叫ぶ。
「違う!」
「え?」
「狙われているのは――」
彼は映像を見る。
「子供たちの“未来”だ」
黒い霧が一気に広がる。
そして――
映像の中のレオニダスが消えた。
「兄ちゃん!」
レオナが叫ぶ。
続いて――
レオナの姿も消える。
「レオナ!」
レオニダスが叫ぶ。
さらにローズ。
アルバス。
スコーピウス。
一人ずつ、映像から消えていく。
四人目の青年が震える。
「これは……」
「未来そのものを削っている」
ハーマイオニーが言った。
レオは杖を握り直す。
「なら、止める」
「レオ」
「今度は――」
レオは子供たちを見る。
「僕たち親世代が、未来を守る番だ」
レオニダスの姿が一瞬だけ戻る。
その目が――
父を見た。
「父さん!」
レオが叫ぶ。
「絶対に忘れない!」
「……!」
レオニダスも叫ぶ。
「俺たちも!」
レオナが続く。
「お父さんと、お母さんが守ってきたものを――」
「私たちが受け継ぐ!」
その瞬間。
六本の杖が――
一本の巨大な光へ変わった。
黒い霧を切り裂く。
そして、その先に――
最後の扉が現れた。
扉には、ただ一つ。
『継承戦――最終段階』
その下に、文字が浮かぶ。
『過去を守る者』
『現在を生きる者』
『未来を選ぶ者』
レオは静かに言った。
「行こう」
ハーマイオニーが頷く。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
四人目の青年。
全員が扉の前に立つ。
そして――
扉が開いた。
その向こうには――
ホグワーツ特急。
2017年9月1日。
すべてが始まった日。
そして。
その列車の中に――
本来なら存在しないはずの、
「もう一人の子供」が座っていた。
その子供が、ゆっくり振り返る。
「……遅かったね」
レオニダスが息を呑む。
レオナが呟く。
「あなたは……」
子供は笑った。
「僕が――」
「最後の継承者だよ」
――第19話・終――