『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
ホグワーツ特急の中。
2017年9月1日。
窓の外には、キングズ・クロス駅。
本来なら――
新しい一年が始まるだけの日だった。
しかし。
誰もいないはずの車両に、一人の子供が座っていた。
レオニダス。
レオナ。
第三の継承者。
四人目の青年。
そしてレオとハーマイオニー。
全員が、その子供を見つめている。
「……君は誰?」
レオニダスが尋ねた。
子供は答えなかった。
ただ、窓の外を見ている。
「ここは……」
レオナが呟く。
「私たちがホグワーツへ行った日の……」
「そう」
子供が初めて口を開いた。
「全部の始まりの日」
四人目の青年が一歩前へ出る。
「君は、本当に最後の継承者なの?」
子供は首を横に振った。
「違う」
「じゃあ――」
「僕は、継承者じゃない」
全員が息を呑む。
子供は静かに続けた。
「僕は――」
「継承される前の存在」
「……?」
レオが眉をひそめる。
子供は胸に手を当てた。
「みんなが忘れた未来」
「未来……?」
「うん」
子供はレオニダスを見る。
「君たちが生まれる前に、たくさんの未来があった」
「その中には――」
「選ばれなかった未来もあった」
ハーマイオニーが気づく。
「時間改変……」
子供が頷く。
「この世界は、一度だけじゃない」
「何度も、未来を変えられている」
レオニダスが拳を握る。
「じゃあ、敵は――」
「時間を変えているんじゃない」
子供は答えた。
「未来を選ぶ権利を奪っている」
沈黙。
その言葉が、全員の胸に響いた。
第三の継承者が呟く。
「だから、記憶を消していたのか」
「そう」
「過去を消せば――」
四人目の青年が続ける。
「未来を選べなくなる」
「その通り」
子供は微笑んだ。
「敵は、誰かを殺したいんじゃない」
「みんなに『この未来しかない』と思わせたいんだ」
レオニダスが杖を握る。
「そんなの――」
レオナが続けた。
「継承じゃない」
「うん」
子供は二人を見る。
「だから、君たちが必要だった」
「私たちが?」
「そう」
子供はレオナを見る。
「兄を守ること」
次にレオニダスを見る。
「妹を守ること」
そして第三の継承者へ。
「記憶を守ること」
四人目の青年へ。
「選択を守ること」
最後に――
レオとハーマイオニーを見る。
「そして、親が子供に未来を押しつけないこと」
レオとハーマイオニーは顔を見合わせた。
ハーマイオニーが静かに頷く。
「……そういうことなのね」
レオも笑う。
「継承は、命令じゃない」
「うん」
「子供たちが、自分で選ぶものだ」
その瞬間。
列車が揺れた。
ドンッ!
窓の外が真っ黒になる。
「来た!」
第三の継承者が叫ぶ。
車両の奥から――
黒い霧が流れ込んでくる。
『未来を選ぶ必要はない』
声が響く。
『すでに決まっている』
『親が歩いた道を、子も歩けばいい』
レオニダスが叫ぶ。
「違う!」
『父の力を継げ』
『母の知恵を継げ』
『先祖の血を継げ』
『過去を繰り返せ』
レオニダスの目が鋭くなる。
「俺は――」
オークの杖を握る。
「父さんと同じになるために生まれたんじゃない!」
レオナも杖を構える。
「私も、お母さんの代わりになるためじゃない!」
ハーマイオニーの目に涙が浮かぶ。
「レオナ……」
「私は私の魔法を選ぶ」
レオニダスが続く。
「俺は俺の道を選ぶ!」
第三の継承者が杖を掲げる。
「僕は、忘れない!」
四人目の青年も続く。
「僕は、自分の名前を取り戻す!」
黒い霧が揺らぐ。
『ならば――』
『継承を捨てろ』
レオが一歩前に出る。
「それも違う」
黒い霧が止まる。
「継承は、捨てるものでもない」
レオは自分の二本の杖を見る。
古いオークの杖。
そして古代の黒檀の杖。
「僕も、昔の自分を捨てたわけじゃない」
「過去も、傷も、守れなかったものも――」
「全部、今の僕につながっている」
ハーマイオニーが隣に立つ。
「でも、それをそのまま子供たちに背負わせる必要はない」
「そう」
レオが頷く。
「僕たちが渡すのは――」
「力そのものじゃない」
ハーマイオニーが言う。
「選ぶ権利よ」
その瞬間。
レオニダスの杖が光った。
レオナの杖も光る。
第三の継承者の折れた杖。
四人目の杖。
そして――
レオの二本の杖。
六本の杖が、一つの光になる。
黒い霧が押し返される。
『なぜ……』
『なぜ未来を決められない……』
レオニダスが叫ぶ。
「未来は――」
レオナが続ける。
「誰かに決められるものじゃない!」
第三の継承者。
「記憶する!」
四人目。
「選ぶ!」
ハーマイオニー。
「考える!」
そしてレオ。
「生きる!」
六人の声が重なった。
「それが――」
「僕たちの継承だ!」
光が弾けた。
黒い霧が消える。
そして――
列車の窓から、朝の光が差し込んだ。
静かだった。
あれほど激しかった時間魔法も――
完全に止まっている。
レオニダスは自分の杖を見る。
「……終わった?」
レオナも杖を見る。
「たぶん」
第三の継承者が笑う。
「うん」
四人目の青年も笑った。
「終わったんじゃない」
「え?」
「始まったんだよ」
四人は顔を見合わせた。
子供が立ち上がる。
「僕は、もう行く」
レオナが尋ねる。
「どこへ?」
「未来へ」
「……」
「僕は、まだ誰にも選ばれていない未来だから」
子供は笑った。
「だから、自分で選びに行く」
そう言って――
光の中へ消えていった。
レオニダスはその姿を見送る。
「……あいつも、継承者だったのかな」
レオナが首を横に振る。
「違うと思う」
「じゃあ?」
「未来そのもの」
第三の継承者が頷いた。
「だから、誰にも縛れなかったんだ」
四人目の青年が微笑む。
「僕たちが守ったのは、未来じゃない」
「未来を選べる世界だよ」
その言葉に、レオは静かに笑った。
そして――
列車の扉が開く。
駅のホーム。
そこには――
ハリー。
ジニー。
ロン。
アステリア。
ドラコ。
パンジー。
そして多くの親世代の仲間たちがいた。
「レオ!」
ハリーが叫ぶ。
レオが手を上げる。
「ハリー」
ハリーは子供たちを見る。
「終わったのか?」
レオは首を横に振った。
「終わったんじゃない」
「始まったんだ」
ハリーが笑う。
「なるほど」
ジニーがレオナを抱きしめる。
「怖かったでしょう?」
「うん」
「でも――」
レオナは笑った。
「大丈夫」
レオニダスも笑う。
「俺たち、四人で約束したから」
ハリーが驚く。
「四人?」
レオニダスが振り返る。
そこには――
第三の継承者。
四人目の青年。
そしてレオナ。
四人が並んでいる。
レオニダスが言った。
「これからも、忘れない」
レオナが続く。
「でも、過去に縛られない」
第三の継承者。
「覚えているからこそ――」
四人目。
「新しい未来を選べる」
ハーマイオニーが微笑んだ。
「それが、あなたたちの答えなのね」
レオニダスは頷く。
「うん」
レオナも頷く。
「私たちの答え」
その瞬間。
レオが二人の肩に手を置いた。
「なら、もう僕たちから教えることはない」
レオニダスが驚く。
「え?」
レオは笑う。
「自分で選べ」
ハーマイオニーも笑った。
「失敗してもいい」
「迷ってもいい」
「立ち止まってもいい」
「でも――」
二人の親が、子供たちを見る。
「自分の未来だけは、自分で選んで」
レオニダスとレオナは、互いを見る。
そして――
同時に笑った。
「うん!」
その瞬間。
ホグワーツ特急の汽笛が鳴った。
ポォォォ――!
次の世代の子供たちが、列車へ乗り込んでいく。
ローズ。
アルバス。
スコーピウス。
そして――
レオニダス。
レオナ。
二人が列車の入り口で振り返る。
レオが手を振る。
ハーマイオニーも手を振る。
「行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
二人は列車へ乗り込んだ。
扉が閉まる。
列車が動き始める。
窓から見える親たちの姿が、少しずつ遠くなる。
レオナが言う。
「兄ちゃん」
「ん?」
「これから、どんな未来になるかな」
レオニダスは少し考えた。
そして――
笑った。
「分からない」
「……うん」
「でも、それでいいんじゃないか?」
レオナも笑う。
「うん」
二人は窓の外を見る。
ホグワーツへ向かう線路。
その先には――
まだ誰も知らない未来。
レオニダスは杖を握る。
レオナも杖を握る。
二人の杖が、ほんの少しだけ光った。
兄と妹。
力と知恵。
そして――
その二つをつなぐ記憶。
それは、誰かから押しつけられた運命ではない。
受け取ったものを、自分たちの形に変えていく。
それこそが――
「継承」だった。
そして、物語の最後。
遠ざかる列車を見ながら、レオが静かに呟いた。
「……行ったね」
ハーマイオニーが隣に立つ。
「ええ」
「僕たちの子供たちが」
「次の世代へ」
レオは微笑んだ。
「僕たちが残したものを――」
ハーマイオニーが続ける。
「彼らが、自分たちの未来へ変えていく」
二人は走り去る列車を見つめた。
そして――
ホグワーツ特急は、朝日の中へ消えていった。
その先に待つのは――
まだ誰も知らない未来。
誰かが決めた未来ではない。
誰かの伝説を繰り返す未来でもない。
自分たち自身で選ぶ未来。
それが――
「獅子と賢者の継承者たち」
最後に残された、たった一つの約束だった。
――たとえ世界が僕たちを忘れても。
――僕たちは、僕たちを覚えている。
そして――
「自分たちの未来を、自分たちで選ぶ」
物語は、ここで一度幕を閉じる。
しかし。
次の物語は――
もう、始まっている。
――完――