『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
ホグワーツの大広間。
かつて何度も戦場となったその場所に、今夜は穏やかな笑い声が響いていた。
長いテーブルの上には、料理と酒、そして大量のデザート。
壁には派手な装飾もなければ、記念碑もない。
ただ、かつてホグワーツで青春を過ごした者たちが集まっている。
「……なんだか、不思議ね」
グラスを手にしたハーマイオニーが、大広間を見渡した。
「昔は、ここに集まると必ず何か事件が起きてた気がするわ」
「それ、気のせいじゃないだろ」
向かい側からハリーが笑った。
「大体、君たち三人が集まると事件が起きてた」
「僕のせいじゃない」
「俺もだ」
ロンが即座に反論する。
その隣でアステリアが笑った。
「二人とも、自覚がないのが一番怖いわね」
「アステリアまで!」
「事実でしょう?」
ロンは言葉に詰まった。
ジニーが吹き出す。
「変わらないわね、みんな」
「変わってないように見えるだけだよ」
ハリーがグラスを傾けた。
「実際には、ずいぶん変わった」
その言葉に、一瞬だけ全員が黙った。
確かに。
あの頃とは、何もかもが違う。
制服を着ていた少年少女たちは、今では父親や母親になっている。
守られる側だった彼らは、今では子どもを守る側だ。
そして――
「子どもたちが、私たちの昔を知ってるっていうのが……まだ変な感じなのよね」
ジニーが苦笑した。
「アルバスなんて、昔の僕の話を聞くと、妙に複雑そうな顔をするんだ」
「ローズもよ」
ロンがため息をつく。
「『お父さんって、本当にそんなに無茶してたの?』って」
「実際、してたでしょう?」
「アステリアまで!」
再び笑いが起きた。
その輪の少し離れた場所で、ドラコ・マルフォイは黙ってグラスを眺めていた。
「……随分と騒がしいな」
パンジーが隣で笑う。
「あなたが言う?」
「私は静かだ」
「昔から?」
「……」
ドラコは答えなかった。
ハーマイオニーがそれを見て笑う。
「ドラコも丸くなったわね」
「グレンジャー」
「何?」
「その言葉、褒めているつもりなら撤回してくれ」
「嫌よ」
パンジーが声を上げて笑った。
「ほら、やっぱり丸くなったじゃない」
「パンジーまで……」
ドラコは深いため息をついた。
そんな光景を見て、レオ・スキャマンダーは静かに笑っていた。
隣にはハーマイオニー。
彼女の手には、結婚指輪が光っている。
「レオ」
「ん?」
「何を笑ってるの?」
「いや」
レオは昔の仲間たちを見渡した。
「こうして見ると……みんな、生き残ったんだなって」
その一言で、空気が少し変わった。
ハリーが静かに頷く。
「……そうだな」
ロンもグラスを置いた。
「昔は、こんな日が来るなんて思わなかった」
「私も」
アステリアが言う。
「戦いが終わっても、また別の何かが起きると思ってた」
「実際、起きたけどね」
ハーマイオニーが苦笑した。
「時間の改変とか、記憶の消去とか……」
「子どもたちが全部解決してくれたけどな」
ハリーが笑う。
「僕たちよりずっと立派だった」
「それはどうかしら」
ハーマイオニーが少し困ったように笑った。
「レオニダスは、あなたに似て無茶をするところがあるもの」
「そこは僕じゃない」
「あなたでしょう?」
「……」
レオが黙る。
ジニーが笑った。
「レオナはハーマイオニーに似てるわね」
「そう?」
「考えて、見て、最後に一番大事なところを突く」
ハーマイオニーは少し嬉しそうに笑った。
「でも、あの二人は私たちとは違うわ」
「うん」
レオが答えた。
「それでいい」
ハリーがレオを見る。
「……いい顔するようになったな」
「昔は?」
「怖かった」
「ハリー?」
「いや、今のは忘れてくれ」
「覚えておく」
レオが笑った。
再び、大広間に笑い声が戻る。
しばらくして、ロンがふと口を開いた。
「なあ」
「何?」
「俺たちってさ」
ロンは少し照れたように笑った。
「ちゃんと、大人になったのかな」
誰もすぐには答えなかった。
やがてハーマイオニーが言った。
「なったんじゃない?」
「どうして?」
「昔の私たちなら、こんなふうに昔話をして笑えなかったと思うから」
ハリーが静かに頷く。
「確かに」
「それに」
ハーマイオニーは続けた。
「今は、子どもたちの未来を心配してる」
「昔は自分たちの未来すら考える余裕がなかった」
ジニーが言った。
「それだけでも、変わったってことじゃない?」
ロンは少し考えた。
「……そうか」
そして笑う。
「じゃあ、俺たちも少しくらい成長したってことだな」
「少しくらい?」
アステリアが首を傾げた。
「そこは『かなり』と言うところじゃない?」
「アステリア」
「何?」
「俺を持ち上げすぎると怖いぞ」
「じゃあ、少しでいいわ」
「それもひどい!」
笑い声が響いた。
そのとき。
大広間の扉が開いた。
「まだやってるの?」
聞き覚えのある声。
全員が振り向く。
そこには――
子どもたちの姿はなかった。
代わりに、年を重ねたネビルが立っていた。
「遅いぞ、ネビル!」
ハリーが声を上げる。
「ごめんごめん。学校の仕事が長引いてね」
「相変わらずだな」
ロンが笑った。
ネビルは席につきながら、懐かしそうに大広間を見回した。
「……変わらないね」
「変わったわよ」
ハーマイオニーが言う。
「椅子も、机も、壁も少しずつ新しくなってる」
「そうじゃなくて」
ネビルは微笑んだ。
「ここで笑ってる人たちが、変わらない」
その言葉に、全員が静かになった。
ハリーは大広間を見渡す。
かつて、ここで戦った。
泣いた。
失った。
そして――
笑った。
「なあ、みんな」
ハリーがグラスを持ち上げた。
「今日は昔の話をするために集まったんだろ?」
「そうね」
「だったら――」
ハリーは笑った。
「一番恥ずかしい話をしよう」
「却下」
ハーマイオニーが即答した。
「賛成!」
ロンが手を挙げる。
「お前は黙ってろ!」
「なんでだよ!」
また笑い声が広がる。
ドラコまで、ほんの少しだけ口元を緩めていた。
パンジーがそれに気づく。
「ドラコ」
「何だ」
「笑った?」
「笑っていない」
「笑ったわよ」
「気のせいだ」
「昔から素直じゃないわね」
「……うるさい」
そして、レオはその光景を見ながら思った。
自分たちは、過去を背負っている。
英雄だった者。
戦った者。
失った者。
そして、子どもたちに何かを残した者。
けれど――
継承とは、過去に縛ることではない。
子どもたちが自分たちと同じ道を歩く必要などない。
自分たちが守った未来を、自分たちのやり方で生きてくれればいい。
「レオ?」
ハーマイオニーが隣から声をかける。
「何を考えてるの?」
「……子どもたちのこと」
「やっぱり?」
「うん」
レオは笑った。
「僕たちの同窓会なのに、結局あいつらの話になるな」
「親なんて、そんなものよ」
ハーマイオニーも笑う。
その瞬間。
遠くで鐘が鳴った。
ホグワーツの夜を告げる鐘。
全員が、自然とそちらを見た。
昔と同じ音。
けれど――
聞いている自分たちは、もう昔の少年少女ではない。
ハリーが立ち上がった。
「じゃあ、最後に一つだけ」
「何?」
ジニーが聞く。
ハリーはグラスを掲げた。
「僕たちの過去と――」
そして。
「僕たちの子どもたちの未来に」
全員がグラスを掲げる。
「乾杯」
グラスが触れ合う。
小さな音が、大広間に響いた。
かつての仲間たち。
今は、それぞれの人生を生きている。
そして、その先には――
彼らが託した次の世代がいる。
過去は消えない。
記憶も消えない。
けれど、未来はまだ決まっていない。
それを決めるのは、次の世代自身だ。
だからこそ。
今夜だけは、親たちは昔の仲間に戻っていい。
英雄でもなく。
伝説でもなく。
ただ――
ホグワーツで出会った、あの日の少年少女として。
笑い合い。
昔話をして。
そして、明日の子どもたちを思いながら。
夜は静かに更けていった。
――彼らの物語は、まだ終わっていない。
けれど。
次の物語を紡ぐのは、もう彼らだけではない。
それが、継承ということなのだから。
――番外編・親世代同窓会 完――