『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第3話「兄と妹――二本の杖の休日」

兄と妹――二本の杖の休日

 

ホグワーツの休日。

 

静かな午後の庭に、二人の子どもの声が響いていた。

 

「いくぞ、レオナ!」

 

レオニダスが杖を構える。

 

オークの杖。

 

十一・五インチ。

 

ドラゴンの心臓の琴線を芯に持つ、彼だけの杖。

 

「ちょっと待って、兄ちゃん!」

 

レオナが慌てて杖を構えた。

 

柳の杖。

 

十インチ。

 

ユニコーンの毛を芯に持つ、彼女だけの杖。

 

「今日は攻撃魔法の練習だからな!」

 

「だからって、いきなり始めないでよ!」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

「その『大丈夫』が一番危ないんだよ!」

 

レオニダスは笑った。

 

「じゃあ、いくぞ!」

 

「もう!」

 

レオニダスの杖から光が走る。

 

レオナはすぐに杖を振った。

 

「プロテゴ!」

 

光が弾かれる。

 

「おお!」

 

レオニダスの顔が輝いた。

 

「今の、かなり強かっただろ!」

 

「うん。でも――」

 

レオナは兄を見る。

 

「ちょっと力を入れすぎ」

 

「そうか?」

 

「そう」

 

「でも、うまくいったぞ?」

 

「結果だけ見ればね」

 

レオナは小さくため息をついた。

 

「兄ちゃんは、いつも先に動くんだから」

 

「考えてから動いてたら遅いだろ?」

 

「だから私が止めるんでしょ」

 

「……なるほど」

 

レオニダスは腕を組んだ。

 

「じゃあ、もう一回!」

 

「今度は加減してよ?」

 

「わかった!」

 

「本当に?」

 

「本当に!」

 

二人は再び杖を構えた。

 

「いくぞ!」

 

「うん!」

 

レオニダスが杖を振る。

 

しかし――。

 

「ちょっと強すぎ!」

 

「え?」

 

放たれた魔法が庭の木に当たった。

 

ドンッ!

 

木の枝が大きく揺れる。

 

「うわっ!」

 

「兄ちゃん!」

 

枝から大量の葉が落ちてくる。

 

二人は頭を抱えた。

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。

 

レオナが兄を見る。

 

「大丈夫?」

 

レオニダスは親指を立てた。

 

「大丈夫!」

 

「……本当に?」

 

「大丈夫!」

 

「絶対?」

 

「絶対!」

 

その瞬間。

 

頭上から大きな枝が一本、二人の前へ落ちてきた。

 

ドサッ。

 

レオナが無言で兄を見る。

 

「…………」

 

レオニダスは目をそらした。

 

「……ちょっとだけ、大丈夫じゃないかも」

 

「兄ちゃん!」

 

「ごめん!」

 

レオナはため息をつきながら杖を振った。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ」

 

落ちた枝がゆっくり浮かび上がる。

 

そのまま元の場所へ戻っていった。

 

レオニダスは感心したように妹を見る。

 

「すごいな、レオナ」

 

「普通だよ」

 

「いや、すごい」

 

「兄ちゃんが壊したから直してるだけ」

 

「……それはそうだな」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして、同時に笑った。

 

「ははは!」

 

「ふふっ」

 

しばらくして。

 

二人は木の下に座った。

 

レオニダスは自分の杖を見る。

 

「なあ、レオナ」

 

「なに?」

 

「俺の杖ってさ」

 

「うん」

 

「やっぱり、攻撃魔法とか得意なのかな」

 

「たぶんね」

 

「お父さんの杖と同じような感じなのかな?」

 

レオナは少し考えた。

 

「違うと思う」

 

「違う?」

 

「お父さんの杖は、お父さんの杖」

 

レオナは自分の柳の杖を見る。

 

「兄ちゃんの杖は、兄ちゃんの杖」

 

そして、自分の杖を軽く握り直した。

 

「私の杖も、私の杖」

 

レオニダスは少し笑った。

 

「前に父さんが言ってたな」

 

『杖は親から受け継ぐものじゃない』

 

『自分自身が選ばれるものだ』

 

「うん」

 

レオナが頷く。

 

「だから、兄ちゃんが私みたいな杖を持つ必要もないし」

 

「レオナが俺みたいな杖を持つ必要もない」

 

「そういうこと」

 

二人はそれぞれの杖を見た。

 

オーク。

 

柳。

 

力。

 

知恵。

 

まったく違う二本。

 

けれど――。

 

「でも」

 

レオニダスが言った。

 

「二本あると、なんか安心するな」

 

「どうして?」

 

「俺が突っ走ったら、レオナが止めてくれるから」

 

「……」

 

レオナは少しだけ笑った。

 

「兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「それって、私がずっと兄ちゃんの面倒を見るってこと?」

 

「そう!」

 

「嫌だよ」

 

「ええっ!?」

 

レオニダスが驚く。

 

レオナは笑いながら立ち上がった。

 

「兄ちゃんがもう少し考えてから動けばいいんだよ」

 

「でも――」

 

レオニダスも立ち上がる。

 

「俺はレオナがいると安心する」

 

「……」

 

レオナが振り返る。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

レオニダスは真っ直ぐ妹を見る。

 

「一人だったら、たぶん俺はもっと無茶する」

 

「それは自覚してるんだ」

 

「うん」

 

「じゃあ、少しは直してよ」

 

「努力する」

 

「努力だけ?」

 

「……頑張る」

 

「ふふっ」

 

レオナは笑った。

 

「じゃあ、私も兄ちゃんが無茶しそうになったら止める」

 

「頼む」

 

二人が杖を並べる。

 

その瞬間だった。

 

二本の杖が、淡く光った。

 

「……え?」

 

レオニダスが自分の杖を見る。

 

そこには、以前から現れていた一文字。

 

「記」

 

そして、レオナの杖には――。

 

「憶」

 

二人は顔を見合わせた。

 

「『記』と……」

 

「『憶』」

 

二人の杖を近づける。

 

淡い光が重なった。

 

――記憶。

 

レオニダスが小さく呟く。

 

「俺たちが覚えているもの」

 

レオナも続ける。

 

「私たちが、これから覚えていくもの」

 

「兄妹だから、かな」

 

「うん」

 

レオニダスは杖をしまった。

 

「なあ、レオナ」

 

「なに?」

 

「俺たち、これからもずっと一緒なのかな?」

 

レオナは少し考えた。

 

そして、当たり前のように答えた。

 

「兄妹だからね」

 

「……そっか」

 

レオニダスは笑った。

 

「じゃあ、安心だ」

 

「何が?」

 

「俺が無茶しても止めてくれる」

 

「そこ?」

 

「そこ!」

 

「もう……」

 

レオナは笑いながら歩き出した。

 

「兄ちゃん!」

 

「ん?」

 

「夕食までに戻らないと、お母さんに怒られるよ!」

 

「やばい!」

 

レオニダスが走り出す。

 

「待って!」

 

レオナも追いかける。

 

「兄ちゃん、走る方向違う!」

 

「えっ!?」

 

「そっちは湖!」

 

「うわっ!」

 

二人の笑い声が、庭いっぱいに響いた。

 

少し離れた場所。

 

窓からその様子を見ていたレオとハーマイオニーが、静かに顔を見合わせる。

 

ハーマイオニーが微笑む。

 

「……本当に、兄妹ね」

 

レオも笑った。

 

「ああ」

 

そして二人は、庭を走る子どもたちを見つめる。

 

父の力を、そのまま受け継ぐ必要はない。

 

母の知恵を、そのまま受け継ぐ必要もない。

 

それでも――。

 

互いの足りないところを補いながら。

 

互いの存在を覚えていく。

 

それもまた、継承なのだろう。

 

庭の向こうで、二本の杖がもう一度だけ淡く光った。

 

「記」。

 

「憶」。

 

二つの文字が重なり――。

 

「記憶」

 

となった。

 

兄と妹。

 

二人の休日は、今日も続いていく。

 

そしていつか。

 

この何気ない一日さえも――。

 

二人にとって、大切な記憶になるのだろう。

 

 

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