『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第8話「レオとハーマイオニー――二人だけの夜」

 

 

レオとハーマイオニー――二人だけの夜

 

夜。

 

子どもたちは、それぞれ自分の部屋に戻っていた。

 

家の中が静かになる。

 

リビングには、レオとハーマイオニーだけが残っていた。

 

暖炉の火が静かに揺れている。

 

ハーマイオニーはソファに座りながら、一冊の古いアルバムを開いた。

 

「……懐かしいわね」

 

「何を見てるの?」

 

レオが隣に座る。

 

「昔の写真」

 

「今日、ずいぶん昔の話をしたからな」

 

「ええ」

 

ハーマイオニーは一枚の写真を取り出した。

 

そこには、まだ幼い二人が写っている。

 

「これ……」

 

レオが笑う。

 

「小さいな」

 

「当たり前でしょう」

 

「いや、僕の髪型がすごい」

 

「そこ?」

 

ハーマイオニーが笑った。

 

「でも、覚えてる?」

 

「何を?」

 

「この頃のこと」

 

レオは写真を見る。

 

しばらく黙った。

 

「覚えてるよ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

レオは微笑んだ。

 

「僕たち、将来の話をした」

 

「……結婚の約束ね」

 

「うん」

 

ハーマイオニーは少し照れたように笑う。

 

「子どもの頃は、あんなに簡単に約束できたのに」

 

「大人になると難しい?」

 

「ええ」

 

「僕は、あの約束を忘れたことはなかったけど」

 

ハーマイオニーが顔を上げる。

 

「私も」

 

二人の間に、静かな時間が流れる。

 

「でも」

 

ハーマイオニーが言った。

 

「ホグワーツで再会したとき、少し怖かったの」

 

「怖かった?」

 

「昔の約束が、本当に残っているのか分からなかったから」

 

レオは静かに聞いている。

 

「子どもの頃の私は、未来なんて簡単に決められると思っていた」

 

「うん」

 

「でも、ホグワーツに入ってから、いろんなことを知った」

 

ハーマイオニーはアルバムを閉じる。

 

「魔法。

 

友情。

 

戦い。

 

別れ。

 

そして、自分で選ばなければならないこと」

 

レオは頷いた。

 

「僕も同じだった」

 

「だから、再会したときは――」

 

「昔の約束をそのまま続けるんじゃなくて」

 

レオが続ける。

 

「もう一度、お互いを選ぶ必要があった」

 

ハーマイオニーは微笑んだ。

 

「そう」

 

「それが、僕には嬉しかった」

 

「どうして?」

 

「ハーマイオニーが、子どもの頃の約束だけで僕と一緒にいるんじゃなかったから」

 

ハーマイオニーの目が少し潤む。

 

「……レオ」

 

「僕もそうだった」

 

レオは彼女を見る。

 

「昔の約束があったからじゃない」

 

「うん」

 

「ホグワーツで、もう一度君を好きになったから」

 

ハーマイオニーは静かに笑った。

 

「私も」

 

しばらくして。

 

ハーマイオニーが別の写真を取り出した。

 

「これも覚えてる?」

 

レオが見る。

 

クィディッチの試合。

 

空を飛ぶ選手たち。

 

そして――。

 

「……ああ」

 

「このとき」

 

ハーマイオニーが笑う。

 

「あなたが怪我をしたのよね」

 

「そうだった」

 

「本当に心配したんだから」

 

「ごめん」

 

「謝れば済むと思ってる?」

 

「思ってない」

 

「なら、いいわ」

 

レオが笑う。

 

「でも、あのとき君に手当てしてもらった」

 

「ええ」

 

「嬉しかった」

 

「怪我して嬉しいなんて変よ」

 

「そういう意味じゃない」

 

「分かってる」

 

二人は笑う。

 

ハーマイオニーは写真を見ながら言った。

 

「あのとき、あなたを見ていて思ったの」

 

「何を?」

 

「この人は、いつか大切な人を守るために、自分を犠牲にするんじゃないかって」

 

レオは黙る。

 

「そして――」

 

ハーマイオニーは彼を見る。

 

「本当にそうなった」

 

「不死鳥の騎士団のときか」

 

「ええ」

 

部屋の空気が少し変わった。

 

「あの戦いは、今でも忘れられない」

 

ハーマイオニーの声は静かだった。

 

「シリウスがいた」

 

「うん」

 

「ハリーもいた」

 

「そう」

 

「そして、私もいた」

 

レオは頷く。

 

「あのとき」

 

ハーマイオニーはレオを見る。

 

「あなたが私たちの前に立った」

 

「覚えてる」

 

「杖を構えて」

 

「うん」

 

「攻撃を受けた」

 

レオは自分の右手を見る。

 

「そして、杖が壊れた」

 

「そう」

 

ハーマイオニーは目を伏せる。

 

「私は怖かった」

 

「……」

 

「あなたが死ぬんじゃないかと思った」

 

「ハーマイオニー」

 

「でも、あなたは下がらなかった」

 

「僕には、君とシリウスを守る理由があった」

 

「どうして?」

 

レオは少し笑った。

 

「大切だったから」

 

ハーマイオニーの目に涙が浮かぶ。

 

「あなたは、昔からそうだったわね」

 

「何が?」

 

「自分が傷つくことより、誰かが傷つくことを怖がる」

 

「……そうかな」

 

「そうよ」

 

ハーマイオニーはレオの手を取った。

 

「でもね」

 

「うん」

 

「私はあのとき、決めたの」

 

「何を?」

 

「あなたを守る側にもなろうって」

 

レオが彼女を見る。

 

「僕を?」

 

「ええ」

 

「僕は守る側だと思ってた」

 

「一人では守れないでしょう?」

 

「……」

 

「だから、私も一緒にいる」

 

ハーマイオニーは笑う。

 

「あなたが誰かを守るなら、私はあなたを守る」

 

レオはしばらく何も言わなかった。

 

やがて。

 

「それって……」

 

「何?」

 

「僕たちが子どもの頃に約束したことより、ずっと大きな約束だな」

 

ハーマイオニーは微笑む。

 

「そうね」

 

二人は手を重ねた。

 

暖炉の火が、二人の影を壁に映す。

 

「ねえ、レオ」

 

「ん?」

 

「もし、あの頃に戻れたら」

 

「うん」

 

「もう一度、私と結婚する?」

 

レオは笑った。

 

「何度でも」

 

「……即答なのね」

 

「当然だろ」

 

「ふふっ」

 

ハーマイオニーが笑う。

 

「じゃあ、私も」

 

「何度でも?」

 

「何度でも」

 

二人は顔を見合わせた。

 

幼い頃に交わした約束。

 

ホグワーツでの再会。

 

クィディッチでの傷。

 

神秘部で壊れた杖。

 

そして、今。

 

そのすべてが一本の線になっている。

 

レオは立ち上がった。

 

棚から、古い杖箱を取り出す。

 

蓋を開く。

 

そこには――。

 

傷の残ったイングリッシュオークの杖。

 

十五インチ。

 

ドラゴンの心臓の琴線と、ヌンドゥのたてがみの毛。

 

「まだ大切にしてるのね」

 

「ああ」

 

「杖が壊れても?」

 

「だからこそ」

 

レオは杖を見る。

 

「これは僕が守ろうとしたものを覚えている」

 

ハーマイオニーは静かに微笑む。

 

「私も覚えているわ」

 

「何を?」

 

「あの日、あなたが私たちを守ったこと」

 

レオは首を横に振る。

 

「僕だけじゃない」

 

「え?」

 

「君も僕を支えてくれた」

 

「……」

 

「怪我をしたときも」

 

「うん」

 

「杖を失ったときも」

 

「うん」

 

「そして今も」

 

レオは笑う。

 

「だから、僕たちは二人なんだと思う」

 

ハーマイオニーは頷いた。

 

「そうね」

 

しばらくして。

 

廊下から小さな物音がした。

 

二人が同時に振り返る。

 

「……誰?」

 

ハーマイオニーが尋ねる。

 

「……」

 

返事がない。

 

レオが扉を開ける。

 

そこには――。

 

「レオニダス?」

 

「……」

 

「レオナも?」

 

「……」

 

二人の子どもが立っていた。

 

ハーマイオニーが笑う。

 

「どうしたの?」

 

レオニダスが少し照れながら言った。

 

「……水、飲みに来た」

 

「二人とも?」

 

「うん」

 

レオナが小さく答える。

 

レオは苦笑する。

 

「聞いてた?」

 

「……ちょっとだけ」

 

「どこから?」

 

「結婚の話くらいから」

 

レオニダスが答える。

 

ハーマイオニーが顔を赤くする。

 

「もう……」

 

レオナが笑った。

 

「でも、いい話だった」

 

「そう?」

 

「うん」

 

レオニダスが父を見る。

 

「父さんと母さん、ずっと仲良しなんだな」

 

レオは笑う。

 

「まあな」

 

ハーマイオニーも頷く。

 

「あなたたちが大きくなっても、きっとね」

 

「約束?」

 

レオナが尋ねる。

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして――。

 

「約束」

 

そう答えた。

 

子どもたちが部屋へ戻っていく。

 

再び静かな夜が戻る。

 

ハーマイオニーはレオの隣に座った。

 

「……幸せね」

 

「ああ」

 

「昔は、こんな未来になるなんて分からなかった」

 

「僕も」

 

レオは暖炉を見る。

 

「でも、分からなかったからこそ、ここまで歩いてこられたんだと思う」

 

ハーマイオニーは彼の肩に寄り添う。

 

「これからも?」

 

「これからも」

 

二人は静かに笑った。

 

幼い頃の約束は、今日まで続いている。

 

けれど、その約束だけが二人を結んでいるわけではない。

 

何度も出会い。

 

何度も選び。

 

何度も互いを守り。

 

何度も未来を選び直してきた。

 

それが――。

 

レオとハーマイオニー。

 

「獅子」と「賢者」が歩いてきた道だった。

 

暖炉の火が静かに揺れる。

 

二人の夜は、まだ終わらない。

 

そして明日もまた。

 

二人は新しい一日を、一緒に歩いていく。

 

 

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