『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第9話「四人の継承者――名前を取り戻す日」

四人の継承者――名前を取り戻す日

 

朝のホグワーツ。

 

大広間には、いつもと変わらない朝の喧騒が広がっていた。

 

けれど、レオニダスはどこか落ち着かなかった。

 

隣では、レオナが静かに朝食を食べている。

 

「……レオナ」

 

「なに?」

 

「昨日の話、覚えてる?」

 

レオナは顔を上げた。

 

「四人の継承者のこと?」

 

「うん」

 

レオナは少しだけ考えてから、頷いた。

 

「忘れてないよ」

 

「……よかった」

 

レオニダスは小さく笑った。

 

すると――。

 

「何を忘れないって?」

 

声をかけてきたのは、アルバスだった。

 

その後ろにはローズとスコーピウスもいる。

 

「また何か見つけたの?」

 

ローズが尋ねる。

 

レオニダスは首を振った。

 

「まだ何も」

 

「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」

 

「……名前だよ」

 

「名前?」

 

レオナが続けた。

 

「第三の継承者と、第四の継承者」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

スコーピウスの表情が変わった。

 

「……名前を失った二人」

 

「うん」

 

レオナは静かに答えた。

 

「名前を取り戻さないと、本当の意味で帰ってきたことにならない気がする」

 

四人は顔を見合わせた。

 

そして、その日の放課後。

 

四人は再び、ホグワーツの古い地下書庫へ向かった。

 

そこには、誰も使っていない古い本棚が並んでいる。

 

レオニダスが杖を取り出した。

 

「何か反応するかも」

 

「待って」

 

レオナが手を伸ばす。

 

「二人でやろう」

 

「……ああ」

 

兄と妹。

 

二本の杖が並んだ。

 

レオニダスの杖に――

 

「記」

 

レオナの杖に――

 

「憶」

 

二つの文字が光る。

 

「記憶……」

 

アルバスが呟いた。

 

その瞬間。

 

地下書庫の奥から、

 

カチッ。

 

という音がした。

 

古い本棚が動く。

 

その奥に、小さな扉が現れた。

 

扉には四つの印が刻まれていた。

 

「力」

 

「知恵」

 

「記憶」

 

そして――

 

「選択」

 

レオナが息を呑む。

 

「これ……」

 

「四人の継承者だ」

 

レオニダスが答えた。

 

四人が扉に手を触れる。

 

すると、扉が開いた。

 

中には、一冊の古い本が置かれていた。

 

表紙には何も書かれていない。

 

レオナがそっと開く。

 

最初のページ。

 

そこには四つの空白があった。

 

「名前が……ない」

 

ローズが呟く。

 

「最初から消されてる」

 

スコーピウスがページをめくる。

 

次のページにも、名前はない。

 

その代わり、短い文章だけが残されていた。

 

『名前を奪われた者は、存在を失う』

 

レオニダスが眉をひそめた。

 

「……だから敵は名前を消したのか」

 

「名前を忘れさせれば、その人がいたことまで忘れられる」

 

レオナが答える。

 

「でも……」

 

レオナはページを見つめた。

 

「名前って、本当にそれだけなのかな」

 

その瞬間。

 

本が光った。

 

四人の前に、古い記憶が浮かび上がる。

 

幼い四人の子供たち。

 

一人はレオニダス。

 

一人はレオナ。

 

そして――

 

顔が隠された二人。

 

幼いレオニダスが言う。

 

『名前がなくなっても、僕たちは忘れない』

 

幼いレオナも頷く。

 

『名前を呼べなくなっても、覚えてる』

 

三人目の子供が笑った。

 

『じゃあ、約束ね』

 

四人目の子供が続ける。

 

『いつか、僕たちは自分の名前を取り戻す』

 

記憶が消える。

 

静寂が戻った。

 

「……約束」

 

レオナが呟いた。

 

「そうだよ」

 

背後から声がした。

 

四人が振り返る。

 

そこに――

 

第三の継承者と第四の継承者が立っていた。

 

第三の継承者は、まだ自分の名前を完全には思い出せていない。

 

第四の継承者も、長い間、自分の名前を記憶の外へ隠していた。

 

レオニダスが二人を見る。

 

「来てくれたんだな」

 

第三の継承者は頷いた。

 

「うん」

 

第四の継承者も笑った。

 

「今日は、逃げないことにした」

 

レオナが一歩近づく。

 

「名前……思い出せそう?」

 

第三の継承者は胸に手を当てた。

 

「少しだけ」

 

「どんな名前?」

 

「……まだ分からない」

 

悔しそうに俯く。

 

するとレオニダスが言った。

 

「無理に思い出さなくていい」

 

「え?」

 

「名前を思い出せないからって、お前が消えるわけじゃない」

 

レオナも続ける。

 

「私たちは、あなたを覚えてる」

 

第三の継承者が顔を上げた。

 

第四の継承者も黙って二人を見る。

 

レオニダスは笑った。

 

「名前を取り戻すのは、一人じゃなくていい」

 

その言葉に。

 

四本の杖が同時に光った。

 

「……!」

 

空中に文字が浮かぶ。

 

『力』

 

『知恵』

 

『記憶』

 

『選択』

 

そして、その中央に新しい言葉が現れた。

 

『名前』

 

レオナが目を見開く。

 

「名前も……継承なんだ」

 

第四の継承者が静かに答える。

 

「違う」

 

「え?」

 

「名前は、誰かから継承するものじゃない」

 

彼は自分の胸に手を当てた。

 

「自分で取り戻すものだよ」

 

レオニダスはその言葉を聞いて、微笑んだ。

 

「……それなら」

 

彼は一歩前に出る。

 

「俺たちも一緒に探す」

 

レオナも隣に立つ。

 

「私も」

 

アルバスが笑った。

 

「僕も手伝うよ」

 

ローズも頷く。

 

「もちろん」

 

スコーピウスも続く。

 

「名前を失ったままにはさせない」

 

第三の継承者の目に、涙が浮かんだ。

 

「……ありがとう」

 

第四の継承者が小さく笑う。

 

「やっぱり、四人じゃなかったんだな」

 

「え?」

 

「今は、もっといる」

 

その言葉に、レオナが笑った。

 

「そうだね」

 

その時。

 

地下書庫の本が、最後のページを開いた。

 

そこには、今まで存在しなかった文字が浮かび上がっていた。

 

『継承とは、名前を受け取ることではない』

 

一行目。

 

『誰かの記憶を、自分の未来へ繋ぐこと』

 

二行目。

 

そして最後に――

 

『だから、名前を取り戻した者は、新しい未来を選べる』

 

四人は、その文字を見つめた。

 

レオニダスが拳を握る。

 

「じゃあ……」

 

レオナが続ける。

 

「これで終わりじゃない」

 

第三の継承者が頷く。

 

「うん」

 

第四の継承者も笑った。

 

「ここからだ」

 

四本の杖が重なる。

 

「力」

 

「知恵」

 

「記憶」

 

「選択」

 

四つの光が一つになる。

 

その光は、地下書庫の天井を抜け――

 

ホグワーツの空へ昇っていった。

 

その夜。

 

レオニダスとレオナは、自宅へ戻った。

 

玄関にはレオがいた。

 

「おかえり」

 

「ただいま、父さん」

 

レオは二人の顔を見る。

 

「何かあった?」

 

レオニダスは少し考えてから答えた。

 

「うん」

 

レオナも微笑む。

 

「名前を取り戻すんだ」

 

レオは静かに頷いた。

 

「そうか」

 

その後ろから、ハーマイオニーが現れる。

 

「二人なら、きっとできるわ」

 

レオニダスが尋ねる。

 

「母さん」

 

「なに?」

 

「もし……誰かが、自分の名前を忘れたら」

 

ハーマイオニーは少しだけ考えた。

 

そして、優しく答えた。

 

「その人が自分で思い出せるまで、誰かが覚えていてあげればいいのよ」

 

レオナが笑った。

 

「私たちが、覚えてる」

 

レオも頷く。

 

「それが、記憶だからな」

 

ハーマイオニーは二人を見つめた。

 

「そして、いつか自分の名前を取り戻した時には――」

 

「?」

 

「その名前を、今度は自分自身で未来へ連れていくの」

 

レオニダスとレオナは顔を見合わせた。

 

兄と妹。

 

二人は同時に頷いた。

 

「うん」

 

その夜。

 

二人の杖には、新しい文字が浮かんでいた。

 

レオニダスの杖には――

 

『記』

 

レオナの杖には――

 

『憶』

 

そして、その下に小さく。

 

『名前』

 

と刻まれていた。

 

名前は、過去を証明するためだけにあるのではない。

 

名前は――

 

自分がこれから何者になるのか。

 

自分自身で選ぶためにある。

 

そして。

 

四人の継承者たちの物語は――

 

まだ、終わらない。

 

――続く。

 

 

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