『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
九月一日。
キングス・クロス駅。
九と四分の三番線。
ホグワーツ特急の汽笛が、駅いっぱいに響いていた。
赤い列車。
白い蒸気。
そして――
たくさんの親子。
その中に、レオニダスとレオナの姿があった。
「……今年も来たな」
レオニダスが列車を見上げる。
隣では、レオナが静かに微笑んでいた。
「うん」
二人の手には、それぞれの杖がある。
レオニダスのオークの杖。
レオナの柳の杖。
二本の杖は、もうすっかり二人の手に馴染んでいた。
少し離れたところでは、アルバス、ローズ、スコーピウスも準備をしている。
「忘れ物はない?」
ハーマイオニーが尋ねる。
「大丈夫」
レオナが答える。
レオは二人を見つめる。
「本当に?」
「本当に」
レオニダスが笑う。
「父さん、心配しすぎ」
「そうか?」
「そうだよ」
ハーマイオニーが笑った。
「あなたも昔は同じだったでしょう?」
「……否定できないな」
レオが苦笑する。
その少し離れた場所では――
「アルバス、無理するなよ」
ハリーが息子に声をかけていた。
「分かってるよ、父さん」
ジニーが笑う。
「あなたも昔は無理してたでしょう?」
「……僕の話はいいだろ」
「ふふ」
その隣では、ロンがローズに話しかけていた。
「困ったことがあったら、ちゃんと誰かに相談するんだぞ」
「分かってる、お父さん」
アステリアも微笑んでいる。
「ローズなら大丈夫よ」
「そうだな」
ロンが頷く。
少し離れた場所では、ドラコとパンジーがスコーピウスを見送っていた。
「スコーピウス」
「何?」
「自分の名前を恥じる必要はない」
ドラコは静かに言った。
「だが、その名前に何を書き加えるかは、お前自身が決めろ」
スコーピウスは微笑んだ。
「分かったよ、父さん」
パンジーが息子の肩に手を置く。
「行ってらっしゃい」
「うん」
それぞれの家族が、それぞれの言葉を子供たちへ渡していく。
けれど――
誰も未来の答えを渡してはいなかった。
渡していたのは、
経験。
記憶。
愛情。
そして――
選ぶ権利。
レオニダスがレオを見る。
「父さん」
「ん?」
「昔、言ってたよね」
「何を?」
「杖は親から受け継ぐものじゃないって」
レオは頷いた。
「覚えてる」
「僕の杖は、父さんの杖とは違う」
「そうだな」
レオニダスは自分のオークの杖を見る。
「でも……父さんから受け継いだものはある」
レオは黙って息子を見る。
「何だ?」
レオニダスは少し考えた。
「守りたいと思ったら、守ること」
そしてレオナが続ける。
「知りたいと思ったら、知ろうとすること」
アルバスが笑う。
「自分で決めること」
ローズが続ける。
「過去を忘れないこと」
スコーピウスも言った。
「でも、過去に縛られないこと」
レオは静かに笑った。
「……そうか」
ハーマイオニーがレオの隣に立つ。
「ちゃんと受け継がれているわね」
レオは彼女を見る。
「いや」
「え?」
「受け継いだだけじゃない」
子供たちを見る。
「自分たちのものにしてる」
ハーマイオニーは微笑んだ。
「それが一番大切なのよ」
その時。
汽笛が鳴った。
「そろそろだ!」
レオニダスが言う。
子供たちが列車へ向かう。
レオナが一歩進んだところで、振り返る。
「お父さん」
「どうした?」
「……ありがとう」
レオは微笑んだ。
「何が?」
「私を、私のまま育ててくれて」
レオは一瞬だけ言葉を失った。
そして――
「こちらこそ」
そう答えた。
ハーマイオニーもレオナを見つめる。
「あなたは私じゃない」
「うん」
「だからこそ、あなたにしかなれない人になってね」
「……うん!」
レオニダスも両親を見る。
「僕も!」
レオが笑う。
「お前も、お前にしかなれない人になれ」
「分かった!」
二人が列車へ乗り込む。
レオニダスは窓から顔を出す。
「じゃあな!」
レオナも手を振る。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
親たちが手を振る。
ハリーとジニー。
ロンとアステリア。
ドラコとパンジー。
レオとハーマイオニー。
それぞれが、自分たちの子供を見送る。
汽笛が鳴る。
列車がゆっくり動き始めた。
「またね!」
「気をつけて!」
「手紙を書けよ!」
「分かってる!」
列車が少しずつ遠ざかる。
レオニダスとレオナは、窓から親たちを見ていた。
そして――
レオナが兄を見る。
「兄ちゃん」
「ん?」
「私たち、これからどうなるのかな」
レオニダスは少し考える。
「分からない」
「そっか」
「でも――」
彼は笑った。
「自分で決められる」
レオナも笑った。
「うん」
二人の杖が、ほんの少し光る。
「記」
「憶」
その光が重なる。
そして、新しい文字が浮かんだ。
「未来」
レオニダスは目を見開く。
「……未来」
レオナが頷く。
「私たちの未来」
列車は進んでいく。
ロンドンの街を抜ける。
そして――
ホグワーツへ向かって。
その頃。
駅に残った親世代は、静かに列車を見送っていた。
ロンがぽつりと言う。
「行っちまったな」
ハリーが笑う。
「ああ」
ドラコは腕を組む。
「これで、少しは静かになる」
パンジーが笑った。
「本当にそう思ってる?」
「……思っている」
ジニーが笑う。
アステリアも微笑む。
そして、ハーマイオニーがレオを見る。
「寂しい?」
「少し」
「私も」
レオは遠ざかる列車を見つめた。
「でも――」
ハーマイオニーが言葉を続ける。
「嬉しい」
二人は頷いた。
親ができることは、
子供の未来を決めることではない。
道を示すこと。
必要な時に手を差し伸べること。
そして――
最後には、自分の足で歩かせること。
それが、親世代から次世代への本当の継承だった。
一方。
ホグワーツ特急の中。
レオニダスたちは、新しい席を囲んでいた。
アルバス。
スコーピウス。
ローズ。
そしてレオナ。
誰もが、親たちの名前を背負っている。
英雄の息子。
偉大な魔女の娘。
名門の後継者。
伝説の家系。
けれど――
もう、それだけではない。
レオニダスが言う。
「俺たちは、俺たちだ」
レオナが頷く。
「うん」
アルバスも笑う。
「僕たちの話を始めよう」
ローズが窓の外を見る。
「親たちの物語の続きじゃなくて――」
スコーピウスが言った。
「僕たち自身の物語を」
四人は顔を見合わせた。
そして笑った。
窓の外には、遠く青い空が広がっている。
その先にあるのは――
まだ誰にも分からない未来。
だからこそ。
自分たちで選ぶことができる。
レオニダスが杖を握る。
レオナも杖を握る。
二本の杖に浮かぶ文字。
「記」
「憶」
そして――
「未来」
レオニダスが笑った。
「行こう、レオナ」
「うん、兄ちゃん」
ホグワーツ特急は走り続ける。
親世代から受け継いだものを胸に抱きながら。
けれど、親世代と同じ道を歩くのではなく。
自分たち自身の未来へ。
そして――
新しい世代の物語へ。
――完。
ここまで「アナザーストーリー」全10話を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語では、レオとハーマイオニーをはじめとする親世代の過去と、レオニダス、レオナ、アルバス、ローズ、スコーピウスたち次世代の姿を描きました。
第1話では、レオの二本の杖を通して「過去」と「現在」を描きました。
そして、レオニダスのオークの杖とレオナの柳の杖。
二人は父親や母親と同じ杖を選ぶ必要はありません。
なぜなら、二人は親のコピーではなく、それぞれ一人の人間だからです。
レオニダスは兄として前へ進み、レオナは妹として兄を支え、時には止める。
違う二人だからこそ、一緒に歩いていける兄妹として描きました。
第2話から第6話では、ハーマイオニーの知識、アルバスの「英雄の息子」という立場、ローズとロン・アステリアの親子関係、そしてスコーピウスとドラコの「名前」を通して、親子がそれぞれの過去と向き合う姿を描きました。
第7話と第8話では、レオとハーマイオニーの馴れ初めと二人の愛情を描きました。
幼い頃の「いつか結婚しよう」という約束。
ホグワーツでの再会。
レオがハーマイオニーを守った神秘部での戦い。
そして、大人になった二人が改めて互いを選んだこと。
二人の関係は、子供の頃の約束だけで続いているのではありません。
何度も互いを選び、支え合ってきたからこそ、今の家族があります。
第9話では、「名前を取り戻す」という物語を描きました。
名前を失っても、誰かが覚えている限り、その人の存在は消えません。
けれど最後に自分の名前を取り戻すのは、その本人です。
そして、この10話を通して描きたかったテーマは、
「受け継いだものに、自分自身の意味を加える」
ということです。
親から受け取るものは、知識、経験、記憶、愛情、名前、家族の歴史など、たくさんあります。
しかし、それをそのまま繰り返す必要はありません。
レオニダスはレオではない。
レオナはハーマイオニーではない。
アルバスはハリーではない。
ローズも、スコーピウスも、それぞれの親とは違う人生を歩いていきます。
親から受け取ったものを胸に抱きながら、自分自身の未来を選ぶ。
それが、この作品で描きたかった「継承」です。
だからこそ、最終話の舞台をホグワーツ特急にしました。
親世代が子供たちを見送り、次の世代が未来へ向かって走り出す。
親たちは、子供たちの未来を決めるのではなく、ただ願います。
自分の人生を、自分自身で選んでほしい、と。
そして列車の中で、レオニダスたちは言います。
「僕たちの話を始めよう」
親世代から受け取った物語を胸に抱きながら、今度は自分たちの物語を書いていく。
その瞬間こそが、このアナザーストーリーの結末です。
レオニダスとレオナ。
アルバス、ローズ、スコーピウス。
そして、これから出会う次の世代。
彼らがどんな未来を選ぶのかは、まだ誰にも分かりません。
だからこそ、物語は続いていきます。
「たとえ世界が僕たちを忘れても。
僕たちは、僕たちを覚えている。」
その記憶を胸に、子供たちはホグワーツ特急とともに、自分たちの未来へ進んでいきます。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
――アナザーストーリー、完。
そして、次の物語へ。