『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

6 / 32
第5話 最初の異変――双子が見つけたもの

ホグワーツでの最初の夜が明けた。

 

 しかし、その朝。

 

 レオニダス・スキャマンダーは、目を覚ました瞬間から妙な違和感を覚えていた。

 

「……なんだ?」

 

 ベッドから起き上がり、周囲を見回す。

 

 グリフィンドール寮の男子部屋。

 

 昨夜と何も変わっていない。

 

 同室の生徒たちはまだ眠っている。

 

 窓の外からは、朝のホグワーツを包む鳥の声が聞こえていた。

 

 それなのに。

 

「……何か、変だ」

 

 レオニダスは胸元を押さえた。

 

 理由は分からない。

 

 ただ、胸の奥が妙にざわついている。

 

 まるで――何かが、自分を呼んでいるような感覚だった。

 

「レオニダス!」

 

 突然、廊下から声が響いた。

 

「起きてる?」

 

 レオニダスの顔が一気に明るくなる。

 

「レオナ!」

 

 慌ててベッドから飛び降りると、扉へ駆け寄った。

 

 扉を開ける。

 

 そこには、すでに制服へ着替えたレオナが立っていた。

 

「おはよう、お兄ちゃん!」

 

「おはよう!」

 

 二人は顔を合わせた瞬間、同時に笑った。

 

「……って、どうしたの?」

 

 レオナが兄の顔を覗き込む。

 

「え?」

 

「なんか変な顔してる」

 

「変な顔ってなんだよ!」

 

「だって、いつもより変」

 

「それ悪口だろ!」

 

 二人が小声で言い合っていると、レオナがふと表情を変えた。

 

「でも……」

 

「?」

 

「私も、ちょっと変な感じがする」

 

 レオニダスは目を見開いた。

 

「レオナも?」

 

「うん」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 さっきまでの笑顔が消えた。

 

「……同じ?」

 

「たぶん」

 

 レオナが胸元へ手を当てる。

 

「なんだろう。昨日からじゃない。でも、今朝になって急に強くなった気がする」

 

「俺も同じだ」

 

 二人の間に、短い沈黙が落ちた。

 

 そのときだった。

 

 廊下の向こうから、誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

「レオニダス! レオナ!」

 

 今度はローズの声だった。

 

「ローズ?」

 

 二人が廊下へ出る。

 

 そこには、息を切らしたローズ・グレンジャー=ウィーズリーが立っていた。

 

「大変なの!」

 

「何があった?」

 

「それが……」

 

 ローズは二人を見て、一瞬だけ迷った。

 

 そして声を落とした。

 

「図書館で、変なものが見つかったの」

 

「変なもの?」

 

「うん」

 

 ローズは頷く。

 

「昨夜、図書館の奥で本を探していたら……古い本棚の裏に隠し扉を見つけたの」

 

 レオニダスの目が輝いた。

 

「隠し扉!?」

 

「声、大きい!」

 

 ローズが慌てて口元に指を当てる。

 

「ごめん」

 

 レオニダスは声を抑えながら、それでも興奮を隠せなかった。

 

「それで? その先に何があったんだ?」

 

「それが分からないの」

 

「え?」

 

「扉が開かなかったから」

 

 ローズは一枚の紙を取り出した。

 

「でも、その扉の前にこれが落ちてた」

 

 紙には、古いインクで奇妙な文字が書かれていた。

 

『受け継がれし名を持つ者よ』

 

 レオニダスの表情が変わった。

 

 レオナも紙を覗き込む。

 

「……受け継がれし名?」

 

「その下に、もう一行ある」

 

 ローズが指を動かす。

 

『過去を変える者は、未来を失う』

 

 三人の間に沈黙が落ちた。

 

「……なんだよ、これ」

 

 レオニダスが呟く。

 

 レオナは紙から目を離さなかった。

 

「時間……なのかな」

 

「時間?」

 

「『過去を変える』って書いてあるから」

 

 ローズも頷いた。

 

「私もそう思った」

 

 そのとき。

 

「だったら、俺たちだけで行くのは危ないな」

 

 背後から声がした。

 

 三人が振り返る。

 

 そこにいたのはアルバスだった。

 

 その隣にはスコーピウスもいる。

 

「アルバス!」

 

 レオニダスが声を上げる。

 

「なんでここに?」

 

「ローズが朝から妙に慌ててたから、気になって追いかけてきた」

 

「聞いてたの?」

 

「少しだけ」

 

 アルバスは紙を見る。

 

 そして、その表情が変わった。

 

「……これ」

 

「知ってるの?」

 

 レオナが尋ねる。

 

「いや」

 

 アルバスは首を横に振る。

 

「でも、昨日の組分けのときから、似たような文字を見た気がする」

 

「組分けで?」

 

「一瞬だけだ」

 

 スコーピウスが腕を組む。

 

「大広間の壁に、古い紋章が浮かんでいただろ?」

 

「そんなのあった?」

 

 レオニダスが首を傾げる。

 

「僕は見た」

 

 スコーピウスが答えた。

 

「一瞬だったけどね」

 

 レオナが紙を見る。

 

 そこには、文字の下に小さな紋章が描かれていた。

 

 獅子。

 

 そして、その背後に杖のようなものが交差している。

 

 レオニダスの胸が、再び強くざわめいた。

 

「……これ」

 

「どうしたの?」

 

 レオナが兄を見る。

 

「俺……この紋章、知ってる気がする」

 

「どこで?」

 

「分からない」

 

 レオニダスは眉を寄せた。

 

「でも、初めて見た気がしない」

 

 すると。

 

 突然、紙の文字が淡く光った。

 

「え?」

 

 ローズが息を呑む。

 

 紙が震える。

 

 そして、一行だけだった文字がゆっくりと変化していく。

 

『双子が揃うとき、扉は開く』

 

 レオニダスとレオナは同時に顔を見合わせた。

 

「……双子?」

 

「私たち?」

 

「たぶん」

 

 レオニダスが一歩前へ出る。

 

「じゃあ、行こう」

 

「待って」

 

 ローズが止める。

 

「何があるか分からないよ」

 

「だからこそだろ?」

 

 レオニダスは笑った。

 

「ホグワーツに隠し扉があって、俺たち双子じゃないと開かないんだぞ?」

 

「それ、危険な理由を自分から増やしてるだけだよ」

 

 スコーピウスが呆れたように言う。

 

 レオナも兄の隣へ並んだ。

 

「でも、お兄ちゃん一人では行かせないよ」

 

「もちろん」

 

「私たち、双子だもんね」

 

「ああ」

 

 二人は拳を軽くぶつけた。

 

「一緒に行こう!」

 

 その瞬間。

 

 紙が強く光った。

 

 そして遠く――。

 

 ホグワーツのどこかで、重い扉が開く音がした。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 全員が顔を見合わせる。

 

「……今の」

 

「図書館の方だ」

 

 アルバスが言った。

 

 レオニダスが走り出す。

 

「行こう!」

 

「ちょっと、待ってよ!」

 

 レオナ、ローズ、アルバス、スコーピウスも続く。

 

 廊下を駆け抜ける。

 

 階段を下りる。

 

 曲がり角を抜ける。

 

 そして、図書館の奥へ。

 

 そこには、昨日まで確かに存在しなかったはずの扉があった。

 

 古びた石の扉。

 

 中央には、あの獅子の紋章。

 

 レオニダスが近づく。

 

 レオナも隣へ立つ。

 

 二人が同時に扉へ手を触れた。

 

 ――カチッ。

 

 小さな音がした。

 

 扉が震える。

 

 そして。

 

 ゆっくりと開いていく。

 

 その向こうにあったのは、部屋ではなかった。

 

 壁一面を埋め尽くす、無数の魔法陣。

 

 そして、その中央には一冊の古い本が置かれていた。

 

 表紙には、こう刻まれている。

 

『継承者の記録』

 

 レオニダスは息を呑んだ。

 

 レオナも言葉を失う。

 

 ローズが小さく呟いた。

 

「……継承者?」

 

 その瞬間。

 

 本がひとりでに開いた。

 

 ページが激しくめくれていく。

 

 そして最後のページで止まる。

 

 そこには、まだ何も書かれていなかった。

 

 だが。

 

 ゆっくりと文字が浮かび上がる。

 

『第一の継承者――レオニダス・スキャマンダー』

 

 レオニダスの顔から笑顔が消えた。

 

 続いて、その下にもう一つの名前が浮かぶ。

 

『第二の継承者――レオナ・スキャマンダー』

 

「……私たちの名前」

 

 レオナが呟く。

 

 そして最後に。

 

 部屋の奥にある巨大な時計が動き始めた。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

 針が、逆方向へ動いていく。

 

 アルバスが息を呑む。

 

「……時間が、戻ってる」

 

 レオニダスは時計を見つめた。

 

 胸の奥のざわめきが、今までにないほど強くなる。

 

 そのとき。

 

 誰も触れていないのに、本のページがもう一度めくれた。

 

 そこに、新たな文章が現れた。

 

『過去を変える者が現れたとき――』

 

 文字が止まる。

 

『継承者たちは、選ばなければならない』

 

 レオナが兄の手を握った。

 

 レオニダスも握り返す。

 

 まだ二人には、何が起きているのか分からない。

 

 ただ一つだけ、はっきりしていた。

 

 ホグワーツでの新しい生活は、もう始まっている。

 

 そして同時に。

 

 二人の知らないところで、過去と未来を巻き込む物語もまた、動き始めていた。

 

 双子が受け継ぐもの。

 

 そして――。

 

 双子自身が選び取る未来。

 

 その最初の扉が、今、開かれた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。