『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』 作:夜幻
ホグワーツでの最初の夜が明けた。
しかし、その朝。
レオニダス・スキャマンダーは、目を覚ました瞬間から妙な違和感を覚えていた。
「……なんだ?」
ベッドから起き上がり、周囲を見回す。
グリフィンドール寮の男子部屋。
昨夜と何も変わっていない。
同室の生徒たちはまだ眠っている。
窓の外からは、朝のホグワーツを包む鳥の声が聞こえていた。
それなのに。
「……何か、変だ」
レオニダスは胸元を押さえた。
理由は分からない。
ただ、胸の奥が妙にざわついている。
まるで――何かが、自分を呼んでいるような感覚だった。
「レオニダス!」
突然、廊下から声が響いた。
「起きてる?」
レオニダスの顔が一気に明るくなる。
「レオナ!」
慌ててベッドから飛び降りると、扉へ駆け寄った。
扉を開ける。
そこには、すでに制服へ着替えたレオナが立っていた。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「おはよう!」
二人は顔を合わせた瞬間、同時に笑った。
「……って、どうしたの?」
レオナが兄の顔を覗き込む。
「え?」
「なんか変な顔してる」
「変な顔ってなんだよ!」
「だって、いつもより変」
「それ悪口だろ!」
二人が小声で言い合っていると、レオナがふと表情を変えた。
「でも……」
「?」
「私も、ちょっと変な感じがする」
レオニダスは目を見開いた。
「レオナも?」
「うん」
二人は顔を見合わせる。
さっきまでの笑顔が消えた。
「……同じ?」
「たぶん」
レオナが胸元へ手を当てる。
「なんだろう。昨日からじゃない。でも、今朝になって急に強くなった気がする」
「俺も同じだ」
二人の間に、短い沈黙が落ちた。
そのときだった。
廊下の向こうから、誰かが走ってくる音が聞こえた。
「レオニダス! レオナ!」
今度はローズの声だった。
「ローズ?」
二人が廊下へ出る。
そこには、息を切らしたローズ・グレンジャー=ウィーズリーが立っていた。
「大変なの!」
「何があった?」
「それが……」
ローズは二人を見て、一瞬だけ迷った。
そして声を落とした。
「図書館で、変なものが見つかったの」
「変なもの?」
「うん」
ローズは頷く。
「昨夜、図書館の奥で本を探していたら……古い本棚の裏に隠し扉を見つけたの」
レオニダスの目が輝いた。
「隠し扉!?」
「声、大きい!」
ローズが慌てて口元に指を当てる。
「ごめん」
レオニダスは声を抑えながら、それでも興奮を隠せなかった。
「それで? その先に何があったんだ?」
「それが分からないの」
「え?」
「扉が開かなかったから」
ローズは一枚の紙を取り出した。
「でも、その扉の前にこれが落ちてた」
紙には、古いインクで奇妙な文字が書かれていた。
『受け継がれし名を持つ者よ』
レオニダスの表情が変わった。
レオナも紙を覗き込む。
「……受け継がれし名?」
「その下に、もう一行ある」
ローズが指を動かす。
『過去を変える者は、未来を失う』
三人の間に沈黙が落ちた。
「……なんだよ、これ」
レオニダスが呟く。
レオナは紙から目を離さなかった。
「時間……なのかな」
「時間?」
「『過去を変える』って書いてあるから」
ローズも頷いた。
「私もそう思った」
そのとき。
「だったら、俺たちだけで行くのは危ないな」
背後から声がした。
三人が振り返る。
そこにいたのはアルバスだった。
その隣にはスコーピウスもいる。
「アルバス!」
レオニダスが声を上げる。
「なんでここに?」
「ローズが朝から妙に慌ててたから、気になって追いかけてきた」
「聞いてたの?」
「少しだけ」
アルバスは紙を見る。
そして、その表情が変わった。
「……これ」
「知ってるの?」
レオナが尋ねる。
「いや」
アルバスは首を横に振る。
「でも、昨日の組分けのときから、似たような文字を見た気がする」
「組分けで?」
「一瞬だけだ」
スコーピウスが腕を組む。
「大広間の壁に、古い紋章が浮かんでいただろ?」
「そんなのあった?」
レオニダスが首を傾げる。
「僕は見た」
スコーピウスが答えた。
「一瞬だったけどね」
レオナが紙を見る。
そこには、文字の下に小さな紋章が描かれていた。
獅子。
そして、その背後に杖のようなものが交差している。
レオニダスの胸が、再び強くざわめいた。
「……これ」
「どうしたの?」
レオナが兄を見る。
「俺……この紋章、知ってる気がする」
「どこで?」
「分からない」
レオニダスは眉を寄せた。
「でも、初めて見た気がしない」
すると。
突然、紙の文字が淡く光った。
「え?」
ローズが息を呑む。
紙が震える。
そして、一行だけだった文字がゆっくりと変化していく。
『双子が揃うとき、扉は開く』
レオニダスとレオナは同時に顔を見合わせた。
「……双子?」
「私たち?」
「たぶん」
レオニダスが一歩前へ出る。
「じゃあ、行こう」
「待って」
ローズが止める。
「何があるか分からないよ」
「だからこそだろ?」
レオニダスは笑った。
「ホグワーツに隠し扉があって、俺たち双子じゃないと開かないんだぞ?」
「それ、危険な理由を自分から増やしてるだけだよ」
スコーピウスが呆れたように言う。
レオナも兄の隣へ並んだ。
「でも、お兄ちゃん一人では行かせないよ」
「もちろん」
「私たち、双子だもんね」
「ああ」
二人は拳を軽くぶつけた。
「一緒に行こう!」
その瞬間。
紙が強く光った。
そして遠く――。
ホグワーツのどこかで、重い扉が開く音がした。
ゴゴゴゴゴ……。
全員が顔を見合わせる。
「……今の」
「図書館の方だ」
アルバスが言った。
レオニダスが走り出す。
「行こう!」
「ちょっと、待ってよ!」
レオナ、ローズ、アルバス、スコーピウスも続く。
廊下を駆け抜ける。
階段を下りる。
曲がり角を抜ける。
そして、図書館の奥へ。
そこには、昨日まで確かに存在しなかったはずの扉があった。
古びた石の扉。
中央には、あの獅子の紋章。
レオニダスが近づく。
レオナも隣へ立つ。
二人が同時に扉へ手を触れた。
――カチッ。
小さな音がした。
扉が震える。
そして。
ゆっくりと開いていく。
その向こうにあったのは、部屋ではなかった。
壁一面を埋め尽くす、無数の魔法陣。
そして、その中央には一冊の古い本が置かれていた。
表紙には、こう刻まれている。
『継承者の記録』
レオニダスは息を呑んだ。
レオナも言葉を失う。
ローズが小さく呟いた。
「……継承者?」
その瞬間。
本がひとりでに開いた。
ページが激しくめくれていく。
そして最後のページで止まる。
そこには、まだ何も書かれていなかった。
だが。
ゆっくりと文字が浮かび上がる。
『第一の継承者――レオニダス・スキャマンダー』
レオニダスの顔から笑顔が消えた。
続いて、その下にもう一つの名前が浮かぶ。
『第二の継承者――レオナ・スキャマンダー』
「……私たちの名前」
レオナが呟く。
そして最後に。
部屋の奥にある巨大な時計が動き始めた。
カチ。
カチ。
カチ。
針が、逆方向へ動いていく。
アルバスが息を呑む。
「……時間が、戻ってる」
レオニダスは時計を見つめた。
胸の奥のざわめきが、今までにないほど強くなる。
そのとき。
誰も触れていないのに、本のページがもう一度めくれた。
そこに、新たな文章が現れた。
『過去を変える者が現れたとき――』
文字が止まる。
『継承者たちは、選ばなければならない』
レオナが兄の手を握った。
レオニダスも握り返す。
まだ二人には、何が起きているのか分からない。
ただ一つだけ、はっきりしていた。
ホグワーツでの新しい生活は、もう始まっている。
そして同時に。
二人の知らないところで、過去と未来を巻き込む物語もまた、動き始めていた。
双子が受け継ぐもの。
そして――。
双子自身が選び取る未来。
その最初の扉が、今、開かれた。