『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第7話 動き始めた時計――隠された過去

「……また、時計が動き始めたのか……」

 

 教師の呟きが、静かな部屋に響いた。

 

 レオニダスは杖を構えたまま、教師を見つめていた。

 

「先生」

 

「……」

 

「今、『また』って言いましたよね?」

 

 教師は答えなかった。

 

 視線だけが、部屋の奥にある巨大な時計へ向けられている。

 

 カチ。

 

 時計の針が動いた。

 

 教師の顔が強張る。

 

「全員、そこから離れなさい」

 

 低い声だった。

 

 いつもの授業中に聞くような声ではない。

 

 明らかに何かを恐れている。

 

「でも――」

 

「今すぐだ!」

 

 レオナが驚いて兄を見る。

 

 レオニダスも一瞬迷った。

 

 だが、教師の表情を見て、杖を下ろした。

 

「……分かりました」

 

 レオニダスが一歩下がる。

 

 レオナも隣へ移動する。

 

 ローズ、アルバス、スコーピウスも続いた。

 

 教師は全員が離れたことを確認すると、時計へ近づいた。

 

 そして、杖を向ける。

 

「止まれ」

 

 魔法が放たれる。

 

 だが。

 

 時計は止まらない。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

 カチ。

 

「……そんな」

 

 教師が呟く。

 

 レオニダスが思わず前へ出た。

 

「止められないんですか?」

 

「普通の時計ならな」

 

「普通じゃない?」

 

 教師は答えなかった。

 

 その代わり、レオニダスたちを振り返った。

 

「君たち、ここで何をした?」

 

「僕たちは何も」

 

 アルバスが答える。

 

「本があって、それを開いたら……」

 

「本?」

 

 教師の表情が変わった。

 

「どんな本だ?」

 

 ローズが答える。

 

「『継承者の記録』です」

 

 教師が息を呑む。

 

「……まだ残っていたのか」

 

 レオナが聞き返す。

 

「先生は、あの本を知っているんですか?」

 

 教師はしばらく黙っていた。

 

 やがて、ゆっくり頷く。

 

「名前だけはな」

 

「名前だけ?」

 

「詳しいことを知っている者は、もうほとんどいない」

 

 レオニダスの眉が動く。

 

「じゃあ、先生は何を知ってるんです?」

 

 教師は四人の顔を順番に見た。

 

 そして、最後にレオニダスとレオナを見る。

 

「……君たち二人のことだ」

 

「俺たち?」

 

「そうだ」

 

 レオナが兄の袖を掴んだ。

 

「どうして私たちなんですか?」

 

「君たちが、あの本を開いたからだ」

 

「でも、開いたのは偶然――」

 

「違う」

 

 教師が遮った。

 

「この部屋は、誰にでも開く場所ではない」

 

 レオニダスが目を見開く。

 

「じゃあ……」

 

「君たちが選ばれたということだ」

 

 沈黙。

 

 レオナは兄を見る。

 

 レオニダスも妹を見る。

 

「……選ばれた」

 

 その言葉を、レオニダスは繰り返した。

 

「何に?」

 

 教師は答えなかった。

 

 代わりに、時計を見た。

 

「それを知る前に、君たちは知っておかなければならない」

 

 教師が杖を下ろす。

 

「この時計は、過去にも動いたことがある」

 

 ローズが息を呑んだ。

 

「過去にも?」

 

「ああ」

 

 教師は頷く。

 

「一度目は、何十年も前だ」

 

「何十年も……」

 

「そして二度目があるとすれば」

 

 教師の視線が、双子へ向く。

 

「今だ」

 

 レオニダスの胸がざわつく。

 

「何が起こったんですか?」

 

「時間が歪んだ」

 

 教師は静かに答えた。

 

「ある魔法使いが、過去へ干渉しようとした」

 

 アルバスが口を開く。

 

「過去を変えたんですか?」

 

「完全には変えられなかった」

 

「完全には?」

 

「時間は抵抗した」

 

 教師は時計を見つめる。

 

「過去を変えようとすれば、未来もまた変わる。だから、時間は簡単には書き換えられない」

 

 ローズが考え込む。

 

「じゃあ、どうやって?」

 

「強い魔法」

 

 教師が答える。

 

「そして、過去と現在をつなぐ『鍵』が必要になる」

 

 レオナが呟いた。

 

「鍵……」

 

 その瞬間。

 

 レオニダスの頭に、さっき見た箱が浮かんだ。

 

「あの箱……」

 

「何?」

 

 レオナが聞く。

 

「記憶の中に出てきた箱だ」

 

 教師の表情が変わる。

 

「……どんな箱だ?」

 

 レオニダスが獅子の紋章を説明する。

 

 教師は黙って聞いていた。

 

 そして。

 

「それは『継承箱』だ」

 

「継承箱?」

 

「ああ」

 

 教師が頷く。

 

「過去から未来へ、あるものを受け渡すための魔法具だ」

 

 スコーピウスが眉をひそめる。

 

「あるものって?」

 

「記憶、魔法、情報――場合によっては、もっと危険なものもな」

 

 レオナの顔が曇る。

 

「じゃあ、誰かがその箱を使って過去を変えようとしてる?」

 

「可能性はある」

 

 教師は答えた。

 

「だが、まだ分からない」

 

 レオニダスは拳を握る。

 

「だったら、調べます」

 

「駄目だ」

 

「どうして!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

「だって、誰かが時間を変えようとしてるなら――」

 

「君たちが関われば、取り返しのつかないことになる」

 

 教師の声は厳しかった。

 

「時間魔法は、普通の呪文とは違う。一度触れれば、自分自身の記憶さえ変わる可能性がある」

 

 レオナが息を呑む。

 

「……記憶まで?」

 

「そうだ」

 

 教師は頷いた。

 

「昨日まで知っていた友人を、今日には知らなくなることだってある」

 

 その言葉に、レオニダスの表情が変わった。

 

「そんなの……」

 

 レオナを見る。

 

「絶対に嫌だ」

 

 レオナも兄を見る。

 

「私も」

 

 二人の手が自然に重なった。

 

 その様子を、教師は黙って見ていた。

 

「……だからこそ」

 

 教師が静かに言う。

 

「君たちには関わってほしくない」

 

「でも」

 

 レオナが口を開く。

 

「もう関わってしまってます」

 

 教師が黙る。

 

「私たちの名前が本に出ました」

 

 レオナは続けた。

 

「時計も動きました」

 

 そして兄を見る。

 

「だったら、知らないふりはできない」

 

 レオニダスが頷く。

 

「俺たちが選ばれた理由を知りたい」

 

 教師はしばらく二人を見つめた。

 

 やがて、小さく息を吐いた。

 

「……君たちは、本当にあの二人の子どもなんだな」

 

「え?」

 

 レオニダスが首を傾げる。

 

 教師はそれ以上言わなかった。

 

「今の言葉は忘れなさい」

 

「無理です」

 

 レオナが即答する。

 

「聞いちゃいました」

 

「……そうか」

 

 教師は苦笑した。

 

 そして、杖を振る。

 

 壁の一部が開いた。

 

 そこには、古い肖像画が掛かっていた。

 

「これを見なさい」

 

 レオニダスたちが近づく。

 

 肖像画には、二人の魔法使いが描かれていた。

 

 片方は若い男性。

 

 もう片方は若い女性。

 

 そして、その二人の間には――小さな箱。

 

 獅子の紋章が刻まれている。

 

 レオニダスの目が見開かれた。

 

「……この人」

 

 レオナも驚く。

 

「知ってるの?」

 

「いや……」

 

 レオニダスは首を振る。

 

「でも、どこかで見た気がする」

 

 教師が呟いた。

 

「それは当然だ」

 

「え?」

 

「その二人は――」

 

 その瞬間。

 

 時計が激しく鳴った。

 

 ゴーン!

 

 ゴーン!

 

 ゴーン!

 

 部屋全体が揺れる。

 

「何!?」

 

 ローズが叫ぶ。

 

 肖像画の中の二人が突然振り返った。

 

 そして。

 

 女性の肖像画が、こちらを見て口を動かした。

 

「――継承者を、守って」

 

 レオニダスが息を呑む。

 

「今、喋った……?」

 

 肖像画の女性は続けた。

 

「彼らは、あなたたちを――」

 

 そこで画像が激しく歪んだ。

 

 そして最後に。

 

「――過去から消そうとしている」

 

 バンッ!

 

 肖像画が黒く染まった。

 

 時計が止まる。

 

 部屋に静寂が戻った。

 

 誰も口を開けなかった。

 

 やがてレオナが、小さな声で言った。

 

「……私たちを?」

 

 レオニダスは答えられなかった。

 

 ただ、妹の手を強く握った。

 

 教師もまた、顔を強張らせている。

 

 そして。

 

 教師は初めて、二人に告げた。

 

「レオニダス・スキャマンダー」

 

「レオナ・スキャマンダー」

 

「君たちの両親が、なぜこのことを知らないのか――」

 

 教師は言葉を切った。

 

「それこそが、最初に調べなければならないことだ」

 

 双子は顔を見合わせた。

 

 親たちが知らない過去。

 

 自分たちに受け継がれた謎。

 

 そして、自分たちを過去から消そうとしている何者か。

 

 ホグワーツに入学して、まだ二日目。

 

 それなのに。

 

 二人の物語は、すでに自分たちの知らない場所まで繋がり始めていた。

 

 

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