『獅子と魔法動物学者の継承者たち ―スキャマンダー家の双子とホグワーツ―』   作:夜幻

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第8話 消された記録――双子を狙う影

翌朝。

 

 ホグワーツの図書館には、まだ生徒の姿が少なかった。

 

 レオニダスは一冊の分厚い本を机の上に置いた。

 

 ドンッ。

 

「……重い」

 

 向かいに座っていたローズが呆れた顔をする。

 

「それ、自分で持ってきたんでしょ」

 

「だって、必要そうだったから」

 

 レオニダスの隣では、レオナが別の本を開いていた。

 

「こっちは魔法史」

 

「そっちは?」

 

「ホグワーツの創立史」

 

「じゃあ俺はこっち」

 

 レオニダスが表紙を見る。

 

『魔法界における時間魔法の記録』

 

「……難しそう」

 

「今さら?」

 

 スコーピウスが向かいから言った。

 

「昨日、自分から調べるって言っただろ」

 

「言ったけどさ」

 

 レオニダスは本を開く。

 

「思ってたより文字が多い」

 

 アルバスが笑った。

 

「本なんだから当たり前だよ」

 

「アルバスまで!」

 

 レオナが吹き出す。

 

「お兄ちゃん、頑張って」

 

「レオナまで!」

 

 小さな笑い声が図書館に響いた。

 

 だが、すぐにローズが真剣な顔へ戻った。

 

「遊んでる場合じゃないよ」

 

「分かってる」

 

 レオニダスも表情を変える。

 

「昨日の肖像画……」

 

 全員が黙った。

 

『彼らは、あなたたちを過去から消そうとしている』

 

 あの言葉。

 

 頭から離れない。

 

「まず、何を調べる?」

 

 アルバスが尋ねる。

 

 ローズは紙に書き出した。

 

「一つ。継承者とは何なのか」

 

 二本目の線。

 

「二つ。時間魔法が過去に使われた記録」

 

 三本目。

 

「三つ。あの獅子の紋章」

 

 そして最後に。

 

「四つ。レオニダスとレオナの名前が、なぜあの本に書かれたのか」

 

「四つ目が一番重要だな」

 

 レオニダスが言った。

 

「うん」

 

 レオナも頷く。

 

「私たちが狙われているなら、理由があるはず」

 

 四人は、それぞれ本を開いた。

 

 しばらくの間、紙をめくる音だけが続く。

 

「……ない」

 

 ローズが呟いた。

 

「何が?」

 

「時間魔法の記録に、昨日の時計と似たものが載ってない」

 

 スコーピウスも首を振る。

 

「こっちもだ」

 

 アルバスが本を閉じる。

 

「もしかして、記録そのものが消されてるんじゃない?」

 

「そんなことできるの?」

 

 レオナが尋ねる。

 

「魔法なら可能かもしれない」

 

 ローズが答えた。

 

「でも、記録を消したなら、痕跡が残るはず」

 

「痕跡?」

 

「完全に消すのは難しいから」

 

 ローズがページをめくる。

 

「書き換えられた文章には、古い魔法の跡が残ることがある」

 

「じゃあ、それを探そう」

 

 レオニダスが身を乗り出す。

 

「どこ?」

 

「……ここ」

 

 ローズが一冊の本を指差した。

 

『ホグワーツ秘史・改訂版』

 

 ページの一部だけ、文字が妙に薄い。

 

「これ」

 

 ローズが杖を取り出した。

 

「Specialis Revelio」

 

 淡い光がページを走る。

 

 すると。

 

 消えていたはずの文字が浮かび上がった。

 

「……!」

 

 全員が息を呑んだ。

 

 そこには、古い記録が残されていた。

 

『第一記録』

 

『時間魔法による歴史改変未遂』

 

『実行者――不明』

 

『対象――継承者二名』

 

 レオニダスの顔から笑顔が消えた。

 

「……二名?」

 

 レオナも文字を見つめる。

 

「私たちと同じ……?」

 

 さらに下に文字が浮かび上がった。

 

『改変条件』

 

『継承者が二人とも同一時代に存在すること』

 

 ローズが息を呑む。

 

「待って」

 

「どうした?」

 

「これ……」

 

 ローズは次の行を指差した。

 

『双子の場合、時間への干渉力が増幅する』

 

 レオニダスとレオナが同時に顔を上げる。

 

「双子……」

 

「だから、私たちなの?」

 

 答えは書かれていない。

 

 しかし。

 

 その可能性だけは、はっきり示されていた。

 

「じゃあ、誰かが俺たちを狙ってるのは……」

 

「双子だからかもしれない」

 

 アルバスが答えた。

 

 レオニダスは拳を握る。

 

「でも、それだけじゃない」

 

「え?」

 

「俺たちは、ただの双子じゃない」

 

 レオニダスは自分の姓を思い浮かべた。

 

「スキャマンダー家の子どもだ」

 

 レオナも続ける。

 

「お父さんとお母さんの子どもでもある」

 

 ローズが二人を見る。

 

「それが関係してる?」

 

「分からない」

 

 レオニダスは首を振る。

 

「でも、昨日の先生は言ってた」

 

「何を?」

 

「俺たちが、あの二人の子どもだって」

 

 その瞬間。

 

 レオナが何かに気づいた。

 

「……待って」

 

「どうした?」

 

「このページ」

 

 レオナが指を差した。

 

「ここだけ、文章が違う」

 

 ページの端。

 

 他の文章とは違う色のインクで、一行だけ書かれていた。

 

『スキャマンダーの血を持つ双子は、記録を継承する器となる』

 

 レオニダスが目を見開く。

 

「スキャマンダー……」

 

 その文字を見つめる。

 

 そのとき。

 

 図書館の奥から、本が一冊落ちた。

 

 バサッ!

 

「誰?」

 

 全員が振り返る。

 

 誰もいない。

 

 レオニダスが立ち上がった。

 

「見てくる」

 

「待って!」

 

 ローズが止める。

 

「一人で行かないで」

 

「じゃあ、みんなで」

 

 四人で奥へ進む。

 

 本棚の向こう側。

 

 床に一冊の本が落ちていた。

 

 レオニダスが拾い上げる。

 

「これ……」

 

 表紙には題名がない。

 

 開く。

 

 中身も白紙だった。

 

「何も書いてない」

 

 レオナが近づく。

 

「本当に?」

 

「うん」

 

「じゃあ、魔法で――」

 

 その瞬間。

 

 ページに黒い文字が浮かび上がった。

 

『探しすぎるな』

 

 レオニダスの表情が固まる。

 

 次の一行。

 

『次に消されるのは、記録ではない』

 

 さらに文字が現れる。

 

『人間だ』

 

 レオナが息を呑む。

 

「……!」

 

 その直後。

 

 本が突然燃え上がった。

 

「危ない!」

 

 レオニダスがレオナを抱えて後ろへ下がる。

 

 ローズが杖を振る。

 

「Aguamenti!」

 

 水が飛び、本の炎を消す。

 

 床には、黒く焦げた紙だけが残った。

 

 スコーピウスがそれを拾う。

 

「これだけ残ってる」

 

 紙には、一つの文字があった。

 

『R』

 

「R……?」

 

 アルバスが呟く。

 

 レオニダスは紙を見つめた。

 

「誰かの名前?」

 

「分からない」

 

 ローズが首を振る。

 

「でも、さっきの本は誰かが私たちに見せたんだと思う」

 

「警告?」

 

「たぶん」

 

 レオナが兄の袖を握る。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「私たち、今までずっと誰かに見られてたのかな」

 

 レオニダスは答えられなかった。

 

 そのとき。

 

 図書館の入口から声が響いた。

 

「――そこで何をしている?」

 

 四人が振り返る。

 

 そこには、別の教師が立っていた。

 

 教師は床に落ちた紙を見る。

 

 そして。

 

 その一文字を見た瞬間、明らかに顔色を変えた。

 

「……R」

 

 教師が呟く。

 

 レオニダスが聞き返す。

 

「先生、この『R』を知ってるんですか?」

 

 教師は答えなかった。

 

 ただ、四人へ近づく。

 

「その紙を渡しなさい」

 

「どうして?」

 

「いいから」

 

 強い口調だった。

 

 レオニダスは紙を握ったまま動かない。

 

「嫌です」

 

「レオニダス!」

 

 ローズが驚く。

 

 教師の表情が険しくなる。

 

「君は何も分かっていない」

 

「だから知りたいんです!」

 

 レオニダスが言い返した。

 

「俺たちの名前が本に書かれてた!」

 

「……」

 

「誰かが時間を変えようとしてる!」

 

「……」

 

「だったら、俺たちにも知る権利があるだろ!」

 

 静寂。

 

 教師は長くレオニダスを見つめた。

 

 やがて。

 

「……その通りだ」

 

 意外な言葉だった。

 

 教師は杖を下ろした。

 

「だが、君たちが知るには早すぎる」

 

「また、それですか」

 

 レオナが言った。

 

「大人はいつもそう言う」

 

 教師がレオナを見る。

 

「危険だから教えない」

 

 レオナは兄の隣へ立った。

 

「でも、何も知らないままなら、守ることもできない」

 

 教師は黙った。

 

 やがて、小さく息を吐く。

 

「……君たちは、本当に似ているな」

 

「誰に?」

 

 レオニダスが聞く。

 

 教師は答えなかった。

 

 代わりに、焦げた紙を見つめる。

 

「その『R』は、かつてこの学校に存在した記録保管者の印だ」

 

「記録保管者?」

 

「過去の出来事を記録し、未来へ残す役目を持った者たちだ」

 

 教師は続ける。

 

「だが、その一族は――」

 

 そこで言葉を止めた。

 

「……何ですか?」

 

「数年前に、記録から消えた」

 

 レオニダスが目を見開く。

 

「記録から……消えた?」

 

「ああ」

 

 教師は四人を見る。

 

「名前も、家系も、存在した証拠さえも」

 

 そして最後に。

 

「まるで、最初から存在しなかったかのように」

 

 レオナの背筋を冷たいものが走った。

 

 昨日の肖像画の言葉が蘇る。

 

『過去から消そうとしている』

 

 双子は顔を見合わせた。

 

 これは偶然ではない。

 

 誰かが過去を消している。

 

 そして今。

 

 その「消す力」が、自分たちの時代へ近づいている。

 

 レオニダスは焦げた紙を強く握った。

 

「……俺たちは、絶対に消えない」

 

 レオナが隣で笑う。

 

「うん」

 

「私たちは双子だから」

 

「一緒なら、誰にも消せないよ」

 

 二人の手が重なる。

 

 その瞬間。

 

 遠く離れた場所で。

 

 誰かが、静かに本を閉じた。

 

「……見つかったか」

 

 暗い部屋。

 

 その人物の指には、獅子の紋章が刻まれた指輪。

 

「ならば、次は――」

 

 小さく笑う。

 

「双子そのものを、記録から消す」

 

 そして。

 

 ホグワーツのどこかで、時計の針が一つだけ逆に動いた。

 

 

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