ダイソンスフィアプログラムが現実に来たら   作:ワタハン

31 / 31
これでこの話は終わりです
続きはありません
でももしかすると新しい小説を書き始めるかもしれません
期待しないでください


最終話 ダイソンスフィアよ永遠に

最終話「球が閉じた日」

 

初代会長から、四百年あまりが過ぎた。

 

その日、勇払平野の小さな部屋には、十人ほどの人間しかいなかった。大きなホールも、式典も、カメラもない。机の上には、湯気の立つお茶と、古いモニターが一台あるだけだった。窓の外では、風車がいつものように回り、ソーラーパネルが朝の光を受けている。創業の地は、もうすっかりきれいになっていた。不法投棄の山があったことなど、若い社員は、資料でしか知らない。

 

私は、DSP社の最後の会長だ。初代会長の血を引いているわけではない。初代の意思は、血ではなく、会社の中で受け継がれてきた。会長が代わり、社長が代わり、技術者が代わっても、守られてきた約束が、一つだけある。目立たず、着実に。派手なことをしない。人の夜を、明るくする仕事だけをする。その約束が、四百年間、この会社を動かしてきた。

 

モニターには、隣の恒星系が映っていた。恒星の周りを、ソーラーセイルが何層にも回っている。その上に、フレームが組まれ、シェルが張られていく。ダイソンスフィア。それは、初代会長がゲームの中で夢見た、恒星を包む発電所だった。最初は、ただのセイルの群れだった。やがて、フレームができ、少しずつ球の形になっていった。私が生まれるずっと前から、工事は続いていた。私の父の代でも、祖父の代でも、終わらなかった。だから、私たちは、完成を見られるとは思っていなかった。いつも、そう言われてきた。完成までは、まだ何百年もかかる、と。

 

だが、その日は、来た。

 

管制室からの通信が、静かに入った。隣の恒星系の建設現場からだ。イカロス型の建設機が、最後の一枚を運んでいる。最後のシェルだ。それが固定されれば、球は閉じる。

 

誰も、カウントダウンをしなかった。誰も、拍手の準備をしなかった。技術者の一人が、モニターを見つめながら、言った。

「最後の一枚、固定されました」

もう一人が、続けた。

「球、閉じました。エネルギー回収、正常です」

 

それだけだった。部屋に、しばらく沈黙が流れた。恒星の光は、もう逃げない。球が、その光を集め、電力に変え、遠い地球へ、そして、VRの世界を動かす計算機へと送り始めた。何百年もかけて、少しずつ増えてきた電力が、その日、ついに完成形になった。だが、地球の明かりは、派手に瞬いたりはしなかった。もともと、球は部分的に動いていたからだ。最後の一枚は、欠けていたピースを埋めただけだった。それでも、私たちは知っていた。これで、もう足りない、という時代が、終わったのだと。

 

私は、机の引き出しから、封筒を取り出した。初代会長が残した、封印された手記だ。歴代の会長だけが、球が完成した日に開くことを許されていた。四百年間、誰も開かなかった。

 

手記は、短かった。達筆ではない、現場の人間の字だった。

 

「俺は、ただの工場労働者だった。三十五歳で、工場を辞めて、北海道の誰も欲しがらない土地を買った。趣味のPCゲームで覚えたことを、現実でやってみただけだ。最初は、スクラップを売って、百万円稼ぐことが目標だった。ダイソンスフィアなんて、生きている間には、絶対に終わらないと思っていた」

 

「だから、もしこの手記を読んでいる人間がいるなら、頼みがある。俺の名前で、 monument を作るな。球に、俺の名前を付けるな。DSP社も、球が完成したら、役目を終えたものとして、終わらせてくれ。会社が、永遠に残るための会社になってはいけない。球は、誰かのものじゃない。これから生まれる子どもたちの、明かりだ」

 

「俺の暮らしは、質素だった。軽自動車に乗って、インスタント食品を食べて、それで十分だった。金が目的じゃなかった。ただ、誰かの夜が、少しでも明るくなれば、それでよかった。ダークフォグが来たときも、国会に呼ばれたときも、同じ気持ちだった。守りたいのは、会社じゃない。人だ」

 

「ゲームのことは、もう話してもいい。ただし、飾るな。ただの工場労働者が、ゲームで覚えた生産ラインを、現実で回してみただけだ、と。それで、十分だ」

 

私は、手記を読み終えて、しばらく目を閉じた。初代会長は、とっくに死んでいる。妻も、子どもも、とっくにいない。だが、この手記の声は、まるで隣の部屋から聞こえてくるようだった。目立たず、着実に。その言葉が、四百年間、会社を支えてきた理由が、よく分かった。

 

その日の午後、私は、最後の会長として、社員に告げた。DSP社は、解散しない。だが、役目を終える。会社としてのDSP社は、ダイソンスフィアの維持を担う、小さな財団に姿を変える。球の所有権は、特定の企業や、特定の国のものにはしない。地球と、隣の恒星系と、そこに暮らす人々の、共有のインフラとして、公開する。社員は、財団に残ってもいいし、新しい仕事に移ってもいい。誰も、置いていかない。

 

社員たちは、驚かなかった。むしろ、ほっとした顔をしている人もいた。四百年間、ずっと「いつか終わる」ことを前提に働いてきたのだから。終わることが、敗北ではないことを、私たちは知っていた。

 

夕方、勇払平野の施設の前で、一人の子どもが、母親に聞いていた。見学に来た、地元の子だ。

「ダイソンスフィアって、誰が作ったの」

母親は、答えに困って、私を見た。私は、笑って答えた。

「たくさんの人と、一人の、目立たない人だよ」

 

子どもは、納得したのか、していないのか、風車を見上げていた。風車は、今日も回っている。初代会長が、夜勤の合間に建てたわけではない。だが、その風車の系譜は、初代の風車から、ずっとつながっている。

 

夜、部屋に戻ると、モニターには、球が映っていた。恒星を包む、巨大な球。華々しい、と言えば、華々しい。だが、その光は、静かだった。爆発も、歓声もない。ただ、光を集め、電力を送り続けている。

 

イカロスの役目は、そこで静かに終わった。DSP社の役目も、そこで静かに終わった。

 

だが、その光は、これから生まれる子どもたちの夜を、ずっと照らし続けるだろう。誰の名前も付いていない、ただの明かりとして。

 

それで、十分だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜(作者:オカノヒカル)(オリジナル:SF/戦記)

魔力がない?▼なら、宇宙に満ちているものを使えばいい。▼撃てない旧式主砲?▼なら、砲身そのものを巨大な魔導杖として使えばいい。▼退役寸前の旧式戦艦?▼使えるものは残して、魔法で組み直せばまだ戦える。▼魔力が枯れゆく世界で生涯を終えた大魔道士レオンは、宇宙戦艦が星々を渡る銀河世界へ転生した。▼そこは恒星間航行も艦載AIも当たり前の、高度な科学文明の世界。▼ただ…


総合評価:301/評価:7.4/連載:48話/更新日時:2026年10月27日(火) 20:13 小説情報

日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた(作者:御影 智人)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

ある日、なぜか日本にだけダンジョンが発生した。▼政府が対応を「検討」している間にも、魔物は出るし、魔石は売れるし、一般人は勝手にダンジョンへ入っていく。▼ゲームの仕様検証が趣味の大学生・御厨アキラもその一人だった。▼自宅の庭に現れたダンジョンをきっかけに非公式攻略Wikiを作り、全国の報告を集めながら、レベルや魔法の仕組みを検証していく。▼そんな日本を、海外…


総合評価:1094/評価:7.56/連載:32話/更新日時:2026年10月29日(木) 18:30 小説情報

ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった(作者:Hiruandon)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

転生した上野ソラは、平安時代の陰陽師だ。▼現代の陰陽師は詐欺師と呼ばれ、イメージを変えるためにダンジョン配信者を始めた。▼「俺、才能ないわ……」▼どれだけやっても視聴者は伸びず低迷、陰陽師の技もCG、合成だと呼ばれ馬鹿にされていた。▼そんなある日、ダンジョン内部で人気配信者である大神リカを偶然にもイレギュラーから助ける。▼その手捌きの速さ、動きから常人ではな…


総合評価:101/評価:-.--/連載:10話/更新日時:2026年10月21日(水) 13:44 小説情報

科(化)学系チート持ち転生者のお話 Re:オタクルート(作者:金属粘性生命体)(原作:多重クロスオーバー)

▼ 作品説明▼ 神様から転生特典を貰い、やることは──創作をリアルに引っ張りあげることだった。▼ 会話できる初音ミクを作り、ポケモンのAR作品を作り、ロボットも作ったり?▼ 夢のために動き続けるオタクの話。▼ お久しぶりの人はお久しぶり、初めましての人は初めまして。▼ 元々投稿されていた作品のリメイクとなります。▼ 本作はあくまでifルートであって、本編は↓…


総合評価:1534/評価:8.55/連載:6話/更新日時:2026年09月22日(火) 15:24 小説情報

転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある(作者:1番道路)(原作:実況パワフルプロ野球)

AI作品▼自分用▼野球好きの青年が、神様から『パワプロ育成システム』を転生特典として授かり、現代日本に生まれ変わった。▼練習や試合で経験点を獲得し、能力値の強化や特殊能力の習得ができるチートシステム。▼前世の野球経験と育成システムを武器に、少年野球から甲子園、NPB、そしてメジャーリーグへ。▼目指すは、投打ともに世界の頂点に立つ史上最強の二刀流選手!▼これは…


総合評価:117/評価:-.--/連載:30話/更新日時:2026年10月18日(日) 14:29 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>