人の通わぬ山奥に、打ち捨てられる一体の地蔵があった。

カクヨム様、小説家になろう様にも投稿させていただいております。

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第1話

 今は昔の話。

 とある人気のない山奥に、ぽつねんと置かれる一体の地蔵があった。

 誰がそこに置いたものか、その素性はとんと知れぬ。

 しかしこんなところに地蔵を置いたところで、わざわざ通う人があるわけもなく、地蔵の姿は蔦苔の編む覆いにすっかり埋もれてしまっていた。

 

 ◇

 

 ある時、山奥に足を延ばしたひとりの木こりが、偶然にもその地蔵を見つけた。

 打ち捨てられたその姿。

 放っておくには忍びない。

 木こりは持っていたまさかりで表を覆った蔦を払うと、首にかけていた手ぬぐいで苔だるまになっていた地蔵の面を、すっかり綺麗になるまで磨いてやった。

 

「由縁が知れぬといえども、仏様は大切にせねばな」

 

 一日がかりで磨かれて、すっかり姿の綺麗になった地蔵の前で木こりは一度手を合わせ、すぐにその場を後にした。

 そのまこと行状正しき振る舞い。

 徳心篤き木こりである。

 しかしこの後、木こりが何かこの報いに与ったという話は、特に聞こえてこない。

 

 ◇

 

 またある時、山奥に足を延ばしたひとりの大工が、偶然にもその地蔵を見つけた。

 野ざらしに佇むその姿。

 放っておくには忍びない。

 大工は持っていた道具で辺りの細木を刈りると、作った木切れを使って小さな社をこしらえた。

 

「由縁が知れぬといえども、仏様は大切にせねばな」

 

 一日がかりで素朴な社を組み上げて、屋根に入った地蔵の前で大工は一度手を合わせ、すぐにその場を後にした。

 そのまこと行状正しき振る舞い。

 徳心篤き大工である。

 しかしこの後、大工が何かこの報いに与ったという話は、特に聞こえてこない。

 

 ◇

 

 またある時、その素行で家から追放された女が放浪中に迷い込んだ山奥で、偶然にもその地蔵を見つけた。

 誰かが世話したその様子。

 奇特な者もいたものだ。

 女は地蔵の社の前で少しばかり思案顔になった後、おもむろに社から地蔵を引っ張り出して、代わりに自分がそこにすっぽり納まってしまった。

 

「少し窮屈だけど、今日のねぐらが見つかったわラッキー!」

 

 翌日、寝癖の爆発した頭で社から顔を出した女は、ごく自然な流れで転がした地蔵に蹴りを見舞い、それきり振り返りもせず大股でその場を後にした。

 なんたる蛮行。

 仏に対する敬意の欠片も感じられない。

 まことに罰当たり極まる振る舞い。

 蔦草に足を掬われろ。隠れた石に蹴躓け。

 

 

 ところがこの後。

 何か困難に見舞われた時、女は必ず奇妙な幸運に恵まれるようになったという。

 

 仏意は測り難し。

 御仏の御心は摩訶不思議。

 

 結論。仏はほっとけ。


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