千綴はスマートフォンを手に取った。
いつものグループチャットを開くと、綾乃から短いメッセージが届いていた。
『環いる?』
千綴は眉を寄せた。
『どういうこと?』
送ってから、少し待つ。
環から何か返ってくるかと思ったが、既読は増えない。代わりに、悠司とヴァシリオスが順に反応した。
『何かあった?』
『環なら今日はもう帰ったんじゃないのか?』
千綴もそう思った。
『寝てるんじゃない?』
普段の環なら、家に帰ってそのまま寝ていても不思議ではない。
しばらくして、綾乃から返事が来た。
『環のお母さんから、うちに連絡があったみたい』
千綴は画面を見直した。
『まだ帰ってないって』
『電話もしてるけど、環が出ないらしい』
さっきまで軽く返していた空気が、少し変わった。
『私もさっきかけたけど出なかった』
綾乃の次のメッセージを見て、千綴も環との個別チャットを開く。
今日のやり取りはない。
通話をかけてみると、呼び出し音だけが続いた。何度か鳴ったあとも、環は出なかった。
『こっちも出ない』
グループへ戻って送る。
『学校には?』
悠司が聞いた。
『お母さんが確認したみたい。もう残ってないって』
千綴はスマートフォンを持ったまま、今日の放課後を思い返した。
最後の授業が終わったあと、自分は生徒会へ向かうため先に教室を出た。環がそのまま帰ったのか、弓道部へ行ったのかは見ていない。
特に変わった様子もなかったと思う。
昼休みも、いつも通りだった。
午後の体調不良騒ぎで教室全体が落ち着かなかったとはいえ、環だけが何かおかしかった記憶はない。
『部活は?』
千綴が送る。
『今日は来てないって』
綾乃から返ってくる。
『そこも学校に聞いてもらったみたい』
「部活にも行ってないのか……」
千綴は小さく呟いた。
帰宅が遅れること自体なら、いくらでも理由はある。寄り道をしているかもしれないし、誰かと話しているのかもしれない。スマートフォンを見られないだけということもある。
ただ、家にも学校にも部活にもいないとなると、少し気になる。
『今日、放課後の環を見た人いる?』
送ると、すぐには返事が来なかった。
やがて悠司が、
『俺は見てない。生徒会行ってたし』
と返す。
『私も文芸部だったから分からない』
綾乃も続いた。
ヴァシリオスも同じだった。
千綴はもう一度、昼間のことを思い返す。
昼には、部活の友人の穂乃香が最近来たり休んだりしているという話もしていた。環はいつも通りの調子で答えて、そのあとは文化祭の話に移っていた。
千綴もそれ以上は考えず、グループチャットへ戻った。
しばらくの間、それぞれが思い当たる相手へ連絡を取っていた。
返ってくるのは、知らない、見ていない、というものばかりだった。
千綴は椅子へ深く座り直した。
画面を閉じかけて、指を止める。
何となく落ち着かない。
もう少し何かできないかと考えた時、頼れる大人として真っ先に浮かんだ顔があった。
千綴は連絡先を開き、朝倉直嗣の名前で指を止めた。
異能のことだけではない。
直嗣は警察関係の仕事をしている。今の段階で事件だと決めつける気はないが、友人が帰ってこない時にどう動けばいいのか、相談する相手としては思い浮かびやすかった。
そこまで考えたところで、もう一つ、昼間から頭に残っていたことが浮かぶ。
市内で相次いだ体調不良。
そして、その直前に自分が感じた、説明のつかない感覚。
環のこととは別だ。
ただ、せっかく直嗣へ連絡するなら、あれも一応伝えておいた方がいいかもしれない。
千綴はメッセージを開いた。
『朝倉さん、今大丈夫ですか? ちょっと相談したいことがあります』
少し迷ってから、そのまま送信した。
返事が来るまでの間、千綴はグループチャットを何度か確認した。
環からは相変わらず反応がない。
綾乃たちも、それぞれ知り合いへ連絡を取っているようだったが、新しい手掛かりは出ていなかった。
しばらくして、スマートフォンが震えた。
画面には朝倉直嗣の名前が表示されている。
「はい」
『千綴。今なら大丈夫だ』
「朝倉さん。すみません、遅い時間に」
『構わない。それで?』
「友達が、まだ家に帰ってないみたいで」
『友達?』
「西園寺環という友人です。同じクラスの。家族が探してるんですけど、連絡もつかなくて」
『学校には確認したか』
「もう帰ってるって。部活にも行ってないみたいです」
直嗣は少し黙った。
『家族は警察には?』
「そこまでは分かりません。今、学校とか知り合いに確認してるみたいで」
『そうか』
「こういう時って、どうしたらいいのかなと思って」
千綴は正直に言った。
「まだ何かあったって決まったわけじゃないんですけど、時間も遅いし」
『家族が動いてるなら、まずはそっちが中心でいい。連絡が取れない状態が続くなら、家族から警察へ相談するのが一番早い』
「分かりました」
『お前たちだけで無理に探し回るなよ』
「……はい」
返事をしながら、少しだけ間が空いた。
『他にもあるのか』
直嗣に聞かれ、千綴は「あ」と声を漏らした。
「そうだ。もう一つ、念のため言っておきたいことがあって」
『何だ』
「今日の午後、学校で急に具合悪くなった人が何人か出たんです。あとでニュースを見たら、市内の他の場所でも似たことが起きてたみたいで」
『そうなのか』
「はい。それで――」
そこで千綴は、どう説明するか少し迷った。
「その少し前に、変な感じがあったんです」
『変な感じ?』
「自分が見てない場所のことが、一瞬だけ分かったような……」
言葉にしても、やはり曖昧だった。
「知らない天井とか、道路とか、そういうのがいくつか重なった感じで。見えたっていうのとも、ちょっと違うんですけど」
『どれくらい続いた』
「本当に一瞬です。そのあと、すぐ周りで具合悪くなる人が出ました」
『お前自身に症状は?』
「私は大丈夫です。頭痛とか吐き気もありません」
電話の向こうで、直嗣が考えるように黙る。
『前にエレディトを追った時みたいに、意識して何かを探したわけじゃないんだな』
「はい。何もしてません。急にです」
以前、エレディトを追った時には、自分から意識を向けた。
今回は違う。
何かを確かめようとしたわけでもないのに、向こうから入り込んできたような感覚だった。
『分かった。そっちはこっちでも確認してみる』
「お願いします」
『学校以外でも同じような話が出てるなら、報告が上がってないか当たってみる。お前が感じたことも含めてな』
「はい」
『俺は今、すぐそっちへは動けない』
「分かりました」
『何か分かったら連絡する』
「ありがとうございます」
『千綴』
「はい」
『遅い時間だ。自分まで連絡が取れなくなるようなことはするなよ』
少しだけ強い口調だった。
「……気をつけます」
通話が切れた。
千綴はスマートフォンを耳から離し、息を吐いた。
話したからといって、環の居場所が分かったわけではない。それでも、昼間から頭に残っていたことを一人で抱えたままではなくなっただけ、少しだけ考えやすくなった気がした。
しばらく画面を見る。
環のことは家族が探している。
昼間のことは直嗣が確認してくれる。
自分が今できることは、そう多くない。
それでも、ただ部屋で待っているだけでは落ち着かなかった。
グループチャットへ戻っても、新しい情報はない。
千綴は少し考えたあと、別の連絡先を開いた。
エレディト。
その名前を見て、今度はすぐに指を動かした。
『今、少し話せる?』
既読はすぐについた。
『大丈夫です』
返事を確認して、千綴は通話をかけた。
『もしもし、千綴さん』
「ごめん、遅い時間に」
『大丈夫です。どうしました?』
「ちょっと相談があるんだけど」
『はい』
千綴は一度、言葉を整えた。
「環が、まだ家に帰ってないみたいで」
『環さんが?』
「家の人も探してるんだけど、学校にはもういないし、部活にも行ってないみたい。電話も出ないって」
電話の向こうで、エレディトが黙った。
「まだ何かあったって決まったわけじゃないんだけど、時間も遅いし、私も少し探してみようと思ってる」
『一人で行くんですか?』
「それはやめとこうと思って」
自分で口にすると、前よりはちゃんと考えて動けている気がした。
「だから、もし大丈夫なら付き合ってほしい」
『分かりました』
返事は早かった。
「いいの?」
『もちろんです。環さんは僕の友達でもありますから』
その言葉に、千綴は少しだけ肩の力を抜いた。
「ありがとう」
『どこを探しますか?』
「まだ分からない。でも、試してみたいことがある」
『何ですか?』
「私の力のこと、エレディトはどのくらい知ってる?」
今度は少し間が空く。
『人のことを、普通とは違う感じで分かることがある、くらいです』
「うん。私も自分でそこまで分かってるわけじゃないんだけど」
千綴は机の上へ視線を落とした。
「前にエレディトがいなくなった時、居場所が見えたわけじゃないけど、そっちへ進めばいいっていう感じはあったんだ」
『あの時ですか』
「そう。環にも、何か似たように辿れないかなって」
『やってみるんですね』
「うん。何も分からなかったら、その時は普通に探す」
『分かりました』
「朝倉さんにも連絡はしてある」
『そうですか』
「じゃあ、合流しよう。場所送るね」
『はい』
通話を切り、千綴は待ち合わせ場所を送った。
上着を羽織り、財布とスマートフォンを鞄へ入れる。戸締まりを確認してから、部屋を出た。
エレディトはスマートフォンをポケットへ入れ、自室を出た。
玄関で靴を履いていると、廊下の奥から巴の声がした。
「エレディト?」
振り返ると、巴がこちらを見ている。
「はい」
「こんな時間に?」
「少し外に出てきます」
いつもの朝よりずっと遅い。
巴は一度エレディトの格好を見て、それから手元のスマートフォンへ視線を移した。
「……そう」
何か聞かれるかと思ったが、巴はそれ以上踏み込まなかった。
「遅いから、気をつけなよ」
「はい」
「無茶はしないこと」
「気をつけます」
エレディトは靴を履き終える。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉を開けると、夜の冷たい空気が入ってきた。
千綴が待ち合わせ場所へ着いて少しすると、エレディトがやってきた。
「千綴さん」
「エレディト」
「何か分かりました?」
「まだ。環からも返事ない」
エレディトが頷く。
駅前から少し離れただけでも、人通りはだいぶ落ち着いていた。遅い時間ではあるが、まだ道路を走る車や帰宅途中らしい人影はある。
千綴は周囲を見てから、エレディトへ向き直った。
「じゃあ、さっき言ってたの、試してみる」
「はい」
エレディトは少し離れて立った。
千綴は目を閉じる。
環の顔を思い浮かべた。
環。
同じ教室で顔を合わせること。
昼休みに机を寄せて食事をすること。
眠そうに頬杖をついている顔。
何でもない話の途中で、急に妙なことを言い出す声。
体育祭でパンをくわえて走っていた姿。
文化祭で死体役をやると言っていた時の、妙に乗り気な顔。
今日の昼休みもそうだった。
特別な出来事ではない。
むしろ、普段ならいちいち覚えていないようなことばかりだ。
けれど、環とは毎日のように顔を合わせている。思い返そうとすれば、一つの出来事よりも、そういう細かなものの方が次々と出てきた。
千綴はそれを無理にまとめず、一つずつ意識の中へ置いていった。
前にエレディトを追った時も、何かの映像が見えたわけではなかった。
離れているのに、完全には切れていない。
あの時は、そんな感覚だった。
しばらく待つ。
夜風が頬を撫でる。
遠くを走る車の音が聞こえる。
エレディトが少し離れたところに立っている。
それ以外は、いつも通りだった。
やっぱり何も起きないかもしれない。
そう思いかけた時、環のことを考えている間だけ、意識の端に薄い引っ掛かりが残っていることに気づいた。
「……何か、あるかも」
「環さんですか?」
「分からない。でも、環のこと考えてる時だけ、ちょっと違う」
千綴は目を開けた。
見えるものは何も変わっていない。
それでも、歩き出そうとした時、自然に足を向けたい側があった。
「少し動いてみる」
「はい」
二人は歩き出した。
最初の角を曲がる。
しばらく進んでから、千綴は足を止めた。
環を思い浮かべる。
さっきの引っ掛かりは消えていない。
「たぶん、まだこっち」
「前の時も、こんな感じだったんですか?」
「うん。でも、あの時はもっと必死だったから、こんなに考えてなかったかも」
千綴は少しだけ苦笑した。
また歩く。
道を一本選ぶたび、意識を環へ向け直す。進んでから妙に感覚が薄くなる時は引き返し、まだ残っている方へ戻る。
それを何度か繰り返した。
千綴はスマートフォンで現在地を確かめた。
地図と見比べると、自分たちが新辺側へ進んでいるのが分かる。
「このまま行くと、新辺の方だね」
「新辺ですか」
「うん。たぶん、このままでいいと思う」
駅へ戻るより、このまま歩いた方が早そうだった。
二人はそのまま歩いた。
住宅の明かりを横目に、何度か細い道を抜ける。
しばらくすると、方向とは別に、ふっと何かが混じった。
暗い。
千綴は足を止めた。
「……今、ちょっと変なのあった」
「何ですか?」
「暗い感じ」
「環さんがいる場所が?」
「そこまでは分かんない」
千綴は首を振った。
「ただ、環のこと考えた時に、そういう感じがしただけ」
自分でも、何を拾っているのかは分からない。
エレディトの時にも、こんなふうに断片を言葉へ置き換えながら進んだわけではなかった。
今回は意識して試している分、一つ一つを確かめようとしている。
二人はまた歩き出した。
新辺方面へ進んでも、環を意識した時の引っ掛かりは消えなかった。
新辺側へ入る頃には、周囲の景色も少し変わっていた。
新しい住宅や比較的大きな建物が増え、丘平とは違う街並みになる。
千綴は歩きながら、時々スマートフォンの地図を確認した。
環を意識した時の感覚は、まだ続いている。
ただ、そこから先が分からない。
新辺といっても広い。
このまま感覚だけを頼りに歩いていては、どこまで行けばいいのか見当もつかなかった。
しばらくして、千綴はまた足を止めた。
環のことを思い浮かべる。
すると、さっきの暗さに続いて、別の感覚が混じった。
窮屈さ。
身体を動かそうとしても、うまく動かせないような感じ。
千綴は眉を寄せた。
「どうしました?」
「……動けてないのかも」
「環さんが?」
「分からない。そういう感じがするだけ」
怪我なのか。
どこか狭い場所にいるのか。
それとも、まったく別のことなのか。
そこまでは分からない。
ただ、家に連絡するのを忘れて遊んでいるだけ、という想像からは少しずつ離れていく。
千綴はスマートフォンを持ち直した。
ここから先は、何か別の手掛かりも必要だった。
そう考えているうちに、少し前の雑談が頭へ浮かんだ。
新辺の、使われていない建物。
夜だけ明かりがつくという噂。
「何か思い出しました?」
「前にヴァシリオスが、新辺に使われてない建物があるって話してたの。夜だけ明かりがつくとかで」
「そんな話があったんですか?」
「うん。前に雑談でね」
千綴は歩道の端で一度立ち止まり、検索画面を開く。
覚えている言葉をいくつか入れる。
新辺。
使われていない建物。
夜だけ明かり。
廃工場。
古い倉庫。
言葉を変えながら探していく。
閉店した店の記事。
取り壊された建物。
何年も前の肝試しの書き込み。
関係のなさそうなものもいくつも出てくる。
「思ってたより多いね」
「こういう場所って、そんなにあるんですね」
「全部が本当に使われてないかも分からないけど」
千綴は一つずつ画面を閉じていく。
噂だけでは、場所までは分からない。
千綴は地図を見直し、ここまで歩いてきた方向と、検索で出てきた古い建物の位置を重ねていく。
そのうち、検索結果の中に、古い事業所跡らしい記述が出てきた。
途中、地図上では候補に見えた場所の前を通る。
けれど、門にはまだ新しい看板が掛かり、敷地の奥には車も停まっていた。事務所らしい窓には明かりまで残っている。
「ここじゃないね」
「まだ使われてるみたいですね」
「うん。次行こう」
その先にも古い建物はあったが、道路から全体が見える小さな一棟だけだった。
「これでもないかな」
千綴は歩調を緩めただけで、そのまま通り過ぎた。
画面で見るより、実際に来た方が分かることは多い。
さらに進むにつれ、住宅は減り、道路沿いの建物もまばらになっていった。
千綴は一度だけ環へ意識を向けた。
引っ掛かりはまだ残っている。
むしろ、さっきより近い気がした。
「たぶん、この辺だと思う」
「近い感じがするんですか?」
「うん。さっきより近い気がする」
地図で見ていた辺りと、自分の中に残る感覚が、ようやく同じ方向へ重なってきた。
二人はそのまま、地図に残っている古い事業所跡の方へ向かった。
さらに歩いていくと、道路沿いの建物がまばらになってきた。
住宅の明かりも少ない。
千綴は地図を確認しながら進み、やがて画面から目を上げた。
少し先で、二人は足を止めた。
道路の先に、高いフェンスが横たわっている。
その向こうには、灯りの落ちた倉庫や作業棟がいくつも並び、さらに奥には二階建ての古い建物が黒い影のように浮かんでいた。
千綴は自然と顔を上げる。
近くまで来ると、夜の中に沈んだ敷地は思っていたよりずっと広かった。
隣では、エレディトも黙ってその奥を見ている。
二人だけで、その前に立っていた。
「ここ……ですか?」
エレディトが声を落とす。
「まだ分からない」
千綴はそう答え、周囲を見る。
以前ヴァシリオスに見せてもらった写真とは違う。
あの時の写真に写っていた建物と、目の前の建物は一致しない。
けれど、最初から同じ写真の場所を探し当てたわけでもなかった。
新辺の使われていない建物という話。
検索で見つけた古い事業所跡。
地図。
そして、環を意識した時に残る感覚。
それらを重ねて、ここまで来ただけだ。
「もう一回、確かめる」
千綴はフェンスから少し離れ、目を閉じた。
環を思い浮かべる。
教室で眠そうにしている姿。
昼休みに聞いた声。
文化祭で死体役をやると言っていた時の顔。
いつもと変わらない、友人としての環。
そのことだけを意識する。
今度は、すぐに引っ掛かりが返ってきた。
さっきまで遠くにあったものが、今は妙に近い。
暗い。
動けない。
その感覚も、まだ残っている。
千綴は目を開けた。
「……いる」
「環さんが?」
「うん。この中にいる」
自分でも驚くほど、その言葉には迷いがなかった。
エレディトもフェンスの向こうを見る。
「どの建物かは?」
「そこまでは分かんない」
千綴は首を振った。
目の前には複数の建物がある。
少なくとも、この敷地まで来て感覚が消えたわけではない。
その先までは、まだ分からない。
二人はしばらく、暗い敷地を見ていた。
写真で見た場所ではない。
検索で答えを見つけたわけでもない。
それでも、千綴には一つだけ分かっていた。
環は、この先にいる。