空の結び目   作:夕花

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 鞄の口を閉じてから、千綴は部屋の隅に置いた修学旅行の荷物へもう一度だけ目を向けた。昨日までに着替えや洗面道具、タオルを揃え、細かなものは透明な袋へ分けて入れてある。

 

 実家から送ってもらったものもあるから、全部を自分で揃える必要はなかった。それでも確認していくと、足りないものはいくつか出てくる。

 

 スマートフォンのメモを開くと、残っているのは使い切りそうな消耗品が二つほどで、今日の帰りに買えば間に合いそうだった。

 

「これでいいかな」

 

 小さく呟いて、画面を閉じる。明日の朝には、もう修学旅行へ出発する。栞をもらったときよりも、荷物が形になった今の方がその実感は強かった。

 

 部屋を出る前に窓を確認して暖房を切り、玄関で靴を履いて鞄を肩へ掛けた。扉を開けると、朝の冷気が入り込む。

 

「寒い」

 

 思わず声を漏らしつつ鍵をかけ、学校へ向かって住宅街を抜けた。いつもの坂へ差しかかったところで、後ろから声がした。

 

「ちづる、おはよ」

 

 振り返ると、綾乃が少し早足で近づいてくる。

 

「おはよう、綾乃」

 

 隣へ並んだ綾乃が、歩きながら鞄を持ち直した。

 

「準備、もう終わった?」

 

「ほとんど。あとちょっとだけ」

 

「まだ何かあるの?」

 

「消耗品。今日帰りに買っていくつもり」

 

「ああ。それなら間に合うね」

 

「綾乃は?」

 

「たぶん終わってる」

 

「たぶん?」

 

 千綴が見ると、綾乃が少し笑った。

 

「昨日、お母さんが一緒に確認してくれたから。帰ったら揃ってるはず」

 

「自分でも確認した?」

 

「したよ。一応」

 

「一応なんだ」

 

「大丈夫だって」

 

 綾乃が笑いながら答える。二人で坂を上っていく。

 

「でも、手伝ってもらえるのはいいね」

 

「ちづるは全部一人でやったの?」

 

「全部じゃないよ。家から送ってもらったのもあるし」

 

「そっか」

 

「だから思ってたほど大変じゃなかった」

 

 むしろ、何を持っていくか考える方が時間がかかった気がする。必要なものだけなら、それほど多くない。けれど二泊三日となると、念のためと思うものが少しずつ増えていく。

 

「荷物、多くなった?」

 

 綾乃が聞く。

 

「最初よりは」

 

「私も。これ要るかなって考えて入れてたら増えた」

 

「分かる」

 

「帰り、お土産入らなくなるかも」

 

「今から帰りの心配してるの?」

 

「だって増えるでしょ」

 

「それはそうだけど」

 

 千綴は少し笑った。

 

 学校へ近づくにつれ、前を歩く生徒の姿も増えていった。少し先から、荷物や明日の集合について話す声が聞こえてきた。

 

「明日なんだね」

 

 綾乃が言った。

 

「うん」

 

「なんか、昨日まではまだ先って感じだったのに」

 

「明日の今頃には、もう移動してるんじゃない?」

 

 千綴が言うと、綾乃が少し目を見開く。

 

「そう考えると近い」

 

「前日だからね」

 

「今日授業あるの、ちょっと変な感じ」

 

「学校なんだからあるでしょ」

 

「そうなんだけど」

 

 綾乃が苦笑し、二人でそのまま坂を上るにつれて周囲の話し声も増えていった。いつもの登校時間だが、今日はところどころで聞こえる言葉が少し違っていた。

 

 

 

 

 校門が見えてくる頃には、前を歩く生徒の数もずいぶん増えていた。

 

「それ、今日持ってくるやつ?」

 

「うん。帰ってまた来るの面倒だから」

 

 少し前を歩く男子が、大きめのバッグを指して話していた。その横を、キャリーケースを引いた女子生徒が通り過ぎていく。

 

「もう持ってきてる人いるね」

 

 綾乃が言う。

 

「朝から持ってくるって言ってた人もいたし」

 

「私はあとで持ってくるけど」

 

「私も」

 

 二人で校門を抜けて校舎へ入ると、昇降口ではいつも通り靴を履き替える生徒が並んでいた。

 

 ただ、その間にも聞こえてくるのは明日の話ばかりだった。

 

「集合何時だっけ」

 

「栞見ろって」

 

「飛行機で何持ち込めないんだっけ?」

 

「それも書いてあるって」

 

 別のところでは、自由行動の予定らしい話もしている。

 

「そこ入れたら時間きつくない?」

 

「朝早めに出ればいけるって」

 

「戻る時間は?」

 

「それ今見てる」

 

 綾乃が靴を履き替えながら、小さく笑った。

 

「みんな同じこと話してるね」

 

「明日だからね」

 

 千綴も上履きへ履き替えた。近くの一年生たちは部活や授業の話をしていて、二年生だけ少し空気が違う。

 

 廊下へ出ると、行き先や持ち物、土産を買う相手の話がすれ違うたびに耳へ入ってきた。その違いは、昇降口よりも分かりやすかった。

 

「昨日までよりすごくない?」

 

 綾乃が言った。

 

「前日だからじゃない?」

 

「やっぱりみんな浮かれてるんだ」

 

「綾乃もでしょ」

 

「ちづるもでしょ」

 

「否定はしない」

 

 そんな話をしながら教室へ向かい、戸を開けると、中も似たようなものだった。何人かが机を囲んで栞を広げ、別のところでは鞄の大きさについて話していた。

 

「それ絶対入りきらないって」

 

「帰り増えるから余裕ある方がいいんだよ」

 

「最初からそんなに入れてたら意味ないだろ」

 

 笑い声が上がり、千綴は窓側へ目を向けた。ヴァシリオスはすでに席にいて、机の上に見覚えのある黒い表紙のノートを開いていた。後ろの席の環も、そのページを見ている。

 

「まだ見てるの?」

 

「最終確認」

 

 ヴァシリオスが答えた。千綴と綾乃もそのまま二人のところへ寄る。

 

「もう決まった?」

 

 綾乃が聞く。

 

「大体な。みんなの希望も入れた」

 

 ヴァシリオスが開いたノートを千綴たちの方へ寄せた。前に見たときより書き込みは整理され、場所の横には時間が並び、移動に余裕を持たせた箇所もあった。

 

「私たちが言ったところも入ってる?」

 

「入ってる。近いところはまとめた」

 

「ちゃんと変わってる」

 

 綾乃が言う。

 

「そのときはまだ班決まってなかったからな」

 

 ヴァシリオスは別のページを開いた。

 

「今は四人で回る前提にしてる」

 

「前より余裕あるね」

 

 環が言う。

 

「現地でずれるだろうし、詰めすぎても仕方ないから」

 

「それなら安心」

 

 環が少し笑う。千綴もノートへ目を落とした。前に喫茶店で見たときは、行きたい場所と食べたいものがずらりと並んでいた。今はその中から、実際に回る順番が見える形になっている。

 

「ほとんど決まり?」

 

 千綴が聞く。

 

「ああ。細かいところは現地で見て変える」

 

「それがよさそう」

 

 綾乃が頷き、ヴァシリオスはノートを閉じた。

 

 話が一段落したところで、千綴は自分の席へ向かった。綾乃もそのまま前の席へ戻る。

 

 教室のあちこちでは、明日の集合に自由行動、荷物や土産と、まだ始まっていない修学旅行の話が続いていた。

 

 

 

 

 午前の授業がいくつか終わっても、次の時間を待つ教室には修学旅行の話が残っていた。

 

 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、国語の教師が答案の束を抱えて前の扉から入ってきた。それを教卓へ置くと、教室のあちこちから声が上がった。

 

「うわ」

 

「今?」

 

「最後にそれ?」

 

「最後だから今日なんだよ」

 

 教師は答案を揃え直した。

 

「これで期末は全部返るはずだ。明日のことで頭いっぱいなのは分かるけど、その前に現実見とけ」

 

「先生、明日なんですけど」

 

「知ってる」

 

「じゃあ今日くらい気分よく行かせてくださいよ」

 

「点がよければ気分よく行けるだろ」

 

 教室から笑いが起きた。

 

「悪かったら?」

 

「旅行は楽しんでこい」

 

 一拍置いてから、教師が続ける。

 

「帰ってきたら国語ともう一回仲良くしてもらうかもしれないけどな」

 

「嫌だー」

 

「それが嫌なら答案ちゃんと見とけ」

 

 教師が順に名前を呼び、生徒たちが教卓へ答案を受け取りに行く。席へ戻った生徒が点数や赤の入ったところを見るたび、教室のあちこちから小さな声が上がった。

 

「よし」

 

「ここ違うの?」

 

「記述削られてる」

 

 千綴も名前を呼ばれて教卓へ行き、自分の答案を受け取った。席へ戻って全体を見ると、大きく崩れてはいなかった。いくつか赤が入ったところも、思っていた範囲だった。

 

 前の綾乃も答案へ目を落としている。少しして、窓側からヴァシリオスの声が聞こえた。

 

「長文、結構引かれてるな」

 

 続いて環の声が聞こえる。

 

「でも部分点はあるじゃん」

 

「意味は外してないと思ったんだけどな」

 

「聞かれてるところより、ちょっと広く書いてるんじゃない?」

 

 少し間が空いた。

 

「ああ……そっちをはっきり書けばよかったのか」

 

 納得した声だった。

 

「漢字は普通に間違えた」

 

「そこは仕方ないね」

 

「もったいないけどな」

 

 短いやり取りのあと、窓側が静かになり、千綴も自分の答案を見直した。

 

 しばらくして、またヴァシリオスの小さな声がした。

 

「日本語、細かいな」

 

 綾乃がそちらを見る。

 

「中村くん、それ先生いるとこで言う?」

 

「聞こえてるぞ、中村」

 

 教卓から飛んできた声に、ヴァシリオスが顔を上げた。教室に笑いが起きる。

 

「すみません」

 

「その細かいところまで書けるようになったら、もう少し点になるからな」

 

「はい」

 

 教師は教卓の前に立った。

 

「はい、見るのはそこまで。よく間違えてたところだけやるぞ」

 

 教室のあちこちで答案が机へ置かれる。

 

「明日旅行だからって、この時間まで旅行にはしないからな」

 

「えー」

 

「当たり前だ」

 

 教科書と答案を開く音に千綴も前へ向き直ると、さっきまで明日の話ばかりだった教室は、ようやく少しだけ普段の授業へ戻っていた。

 

 

 

 

 午前の授業が終わり、国語の答案を鞄へしまう頃には、周囲の話題も明日の修学旅行へ戻っていた。

 

 千綴たちは机を寄せ、悠司の分も場所を空けた。廊下へ目を向けると、向こうに悠司の姿が見えた。

 

「こっち」

 

 手を上げた千綴に気づいた悠司は、そのまま教室へ入り、千綴たちの方へ向かってきた。

 

「今日はここなんだな」

 

「午後は結団式だし、今日は教室でいいかなって」

 

「なるほど」

 

 悠司は空いていた椅子を一つ借りて、机の横へ置いた。

 

「そっちも全部返った?」

 

 綾乃が聞く。

 

「ああ。今日ので最後」

 

「こっちは、今日の国語で全部返ったよ」

 

 環が答える。綾乃がヴァシリオスを見る。

 

「国語、結局どうだった?」

 

「前よりは取れてた。記述で細かく落としたけど」

 

「さっき見てた記述?」

 

「ああ。見直したら理由は分かった」

 

 ヴァシリオスはそれだけ言って弁当を開いた。

 

「私は数学、思ってたより点取れてた」

 

 綾乃が続ける。

 

「微妙って言ってたよね」

 

 千綴が言う。

 

「うん。途中点が結構あった」

 

「ならよかったじゃん」

 

「ほんとに」

 

 環はいつもと大きく変わらなかったらしい。悠司も、特に崩れた教科はないという。

 

「千綴は?」

 

 悠司に聞かれ、千綴は少し考える。

 

「私も悪くなかったよ。英語、前より上がってた」

 

「この前言ってた長文?」

 

 綾乃が聞く。

 

「たぶん。前より取れてた」

 

 試験中、分からない単語があってもそこで止まらず、前後の流れを追った。手応えだけでは分からなかったが、答案を見る限り、それは少し結果にも出ていたらしい。

 

「勉強した分じゃない?」

 

 環が言う。

 

「なら嬉しいけどね」

 

「ヴァシリオスは全体だと?」

 

 千綴が聞く。

 

「悪くなかった。国語と社会で落とした分は、数学と理科で戻せたし」

 

「英語は?」

 

 綾乃が聞く。

 

「いつも通り」

 

「そこは心配してない」

 

 悠司が言う。

 

 話を聞く限り、五人とも大きく崩れた教科はなかった。

 

「結局、補習もなかったね」

 

 綾乃が言う。

 

「最初は、補習だと旅行に行けないって噂を聞いて焦ったけどな」

 

 ヴァシリオスが言う。

 

「結局違ったし、何もなくてよかったじゃん」

 

 千綴が返す。

 

「ああ。それで十分」

 

 そこで試験の話は自然に切れた。

 

「班も希望通りになってよかったよね」

 

 綾乃が言う。

 

「うん」

 

 千綴も頷いた。千綴と綾乃、環、ヴァシリオスの四人は、希望していた通り同じ班になった。

 

「悠司の班はどの辺回るの?」

 

 千綴が聞く。

 

「今のところ、こっち側を回る予定」

 

 悠司が大まかな経路を話す。千綴たちとは別の回り方だが、時間帯によっては近くを通りそうだった。

 

「その時間なら、私たちも近くにいるかも」

 

 綾乃が言う。

 

「そうなの?」

 

「この前見せてたノートだと、その辺り通るよね」

 

 悠司がヴァシリオスを見る。

 

「ああ。今もそこは変わってない」

 

「じゃあ現地で会うかもしれないな」

 

「いたら声かける」

 

 悠司が答える。

 

 話題はそのまま、明日の荷物へ移った。

 

「朝、大きい荷物持ってきてる人結構いたよ」

 

 千綴が言う。

 

「私もあとで持ってくる」

 

 綾乃が答える。

 

「私も」

 

 環も続いた。

 

「俺はもう持ってきた」

 

 ヴァシリオスが言う。

 

「朝?」

 

「そのまま預けるつもりだったから」

 

「準備終わってたんだ」

 

「昨日のうちに確認した」

 

「夜に使うものも?」

 

 環が聞く。

 

「カードと携帯ゲーム機。充電器も入れた」

 

「それなら十分だね」

 

「ああ。部屋で何するかは、そのとき決める」

 

 綾乃が笑う。

 

「私、荷物そんなに多くないと思ってたんだけど、最後に入れたら結構いっぱいだった」

 

「帰りはもっと増えるよ」

 

 千綴が返す。

 

「お土産?」

 

「うん」

 

「誰に買うの?」

 

 環が聞く。

 

「家。あと部活にも何か買おうかな」

 

「私は家かな」

 

 環は短く答える。

 

 千綴も少し考える。

 

「私も家と、店長には何か買おうかな」

 

「丘平商店?」

 

 綾乃が聞く。

 

「うん。何か一つくらい」

 

「いいんじゃない?」

 

 悠司も家族に買うつもりらしい。

 

「ヴァシリオスは?」

 

 千綴が聞く。

 

「家と、じいちゃんかな」

 

「どっちも海外だよね」

 

 綾乃が言う。

 

「ああ。空港から送れるなら、その方が楽かもな」

 

「荷物も増えなくて済むしね」

 

「それも調べとく」

 

「何にするかはまだ決めてないけどな」

 

 ヴァシリオスはそう言って、少し考えるように箸を止めた。

 

 周囲からも、土産や荷物、飛行機、自由行動と似たような話が聞こえてくる。試験の答案はもう鞄の中だった。さっきまで気になっていた点数の話も、いつの間にか修学旅行の話に変わっていた。

 

「ほんとに明日なんだね」

 

 綾乃が言う。

 

「朝もそれ言ってたよ」

 

 千綴が返す。

 

「だって、学校にいるとまだ普通の日みたいだから」

 

「午後は結団式あるけどね」

 

 環が言う。

 

「それ終わったら、もっと実感出るんじゃない?」

 

「荷物も預けるしな」

 

 ヴァシリオスが頷く。

 

 昼休み終了まで、五人の話題はそのまま、明日の修学旅行から離れなかった。

 

 

 

 

 昼休みが終わると、二年生はクラスごとに体育館へ移動した。

 

 前方には教員が並び、クラスごとの列が順に整っていく。

 

 千綴たちも自分のクラスの列へ入った。

 

 校長の短い挨拶が終わると、続いて学年主任が前へ出る。

 

「明日の集合について、最後に確認します」

 

 体育館が少し静かになった。

 

 集合時刻や手荷物、貴重品について、栞にも書かれている内容が順に確認されていく。

 

 千綴も手元の栞を開き、集合時刻だけもう一度確認した。

 

 説明が終わると、最後に引率の教員が紹介され、結団式はそのまま終わった。

 

 

 

 

 教室へ戻ると、山田先生が黒板の前に立った。

 

「今のでほとんど終わりだけど、クラスでも確認するぞ」

 

 生徒たちが席につく。

 

「集合時間と場所。帰ったらもう一回見とけ。目覚ましも忘れるな」

 

 何人かが笑う。

 

「あと、今日預ける荷物に貴重品入れない。明日の朝使うものまで入れたら困るのは自分だからな」

 

 山田先生はそこで一度教室を見回した。

 

「体調も。今日は早めに寝ろ。前日に夜更かしして朝つらいです、はなし」

 

「先生、寝られないかもしれません」

 

 前の方から声が上がる。

 

「横になっとけ」

 

 すぐに返されて、教室に笑いが起きた。

 

「朝から荷物預けたやつはそれで終わり。これから持ってくるやつは、決められた時間までに体育館な。以上」

 

 山田先生がそう言うと、教室の空気が一気に動いた。椅子が引かれ、鞄が閉じられていく。

 

「私は一回帰って持ってくる」

 

 綾乃が言う。

 

「私も」

 

 環が続く。

 

「ちづるも?」

 

「うん。その前に買い物だけして帰る」

 

 ヴァシリオスはすでに朝のうちに荷物を預けている。

 

「俺はもう終わってるから、そのまま帰る」

 

「早いね」

 

 綾乃が言う。

 

「朝持ってきたからな」

 

 四人は昇降口まで一緒に下り、そこでそれぞれ帰る方向へ分かれた。

 

 

 

 

 千綴は帰り道で、朝のうちにメモしていた消耗品を買った。

 

 部屋へ戻ると、それを大きな鞄へ入れる。

 

 中身を軽く見直してから、鞄を持ってもう一度学校へ向かった。

 

 同じように荷物を運んできた生徒が何人かいて、体育館の入口では教員がクラスごとに置き場所を案内していた。

 

 すでにいくつもの鞄やキャリーケースが並ぶ中、千綴も自分のクラスの場所を確認し、荷物を置いた。

 

 自分の荷物もその中へ加わると、本当に出発前なのだと改めて感じた。明日の朝は、もうこれを持ってくる必要はない。千綴はタグを確認してから体育館を出た。

 

 

 

 

 再び部屋へ戻った頃には、外はもう暗くなり始めていた。

 

 必要なものを確認し、机の上には明日持っていく手荷物だけを置いた。

 

 最後に栞を開き、何度も見たはずの集合時刻と場所をもう一度だけ確認した。

 

「大丈夫」

 

 栞を閉じ、鞄へ入れた。

 

 スマートフォンのアラームも、普段より少し早い時間に設定する。

 

 画面に表示された時刻を見てから、千綴はベッドの横へスマートフォンを置いた。

 

 大きな荷物はもう学校に預けた。

 

 明日の朝は、この鞄だけを持って出ればいい。

 

 試験も終わり、班も決まり、準備も済んだ。あとは、明日を待つだけだった。

 

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