扉が開いた。
中にいる人を見る。
「…………」
同じ人。
前の時間で、タイムリープのことを話した人。
もちろん向こうは、私たちのことなんて知らない。
「失礼します」
ノノカが先に入る。私も後に続いた。
「突然申し訳ありません。緊急でお話ししたいことがあります」
「……ノノカか。どうした?」
ノノカが私を見る。
言わないと。
「今日、魔女が地下に来ます」
「…………何?」
「それと、地上には人がいます」
「……待ってくれ」
すぐに止められた。
「魔女が地下に来る?」
「はい」
「地上には人がいる、とも言ったな」
「……はい」
女性は少し黙った。
「すまない。一つずつ話してくれ。何の話をしている?」
「あ……はい」
そりゃそうだ。
いきなり全部言っても分かるわけがない。
「地上に、人が生きてるんです」
「…………」
「その人たちが、地下に何人か工作員を送り込んでます」
「工作員?」
「はい。それで……今日、地下に魔女を入れて、学校を襲わせようとしてます」
「…………」
女性はすぐには何も言わなかった。
「つまり君は、地上に人間が生存していて、その人間が地下へ入り込んでいる、と言っているのか?」
「……はい」
「そのうえ、魔女を地下へ連れてくる?」
「はい」
「…………」
信じてない。
当たり前だ。
「ノノカ」
「はい」
「君も同じ話を?」
「はい。私も事実だと考えています」
「……そうか」
女性は少し考えた。
「それで、その話をどこで知った?」
「…………」
来た。
分かってた。ここまで話せば、絶対に聞かれる。
前の時間でも、私はここでタイムリープのことを話した。
そのあと、死んだ。
「……私」
ノートを抱える手に力が入る。
「今日を、何回もやり直してるんです」
「…………」
「死んだら12月1日に戻って……今日のことも、前に何回か経験してます」
「……何を言っている?」
「本当です」
「時間を戻っている、と?」
「……はい」
女性がノノカを見る。
「ノノカ。君は?」
「私は戻っていません。記憶があるのはコトハちゃんだけです」
「…………」
「私も最初は信じられませんでした。ただ、コトハちゃんは通常なら知り得ないことを何度も知っています。それに――」
ノノカがノートを見る。
「このノートに書かれた内容も、時間を越えて残っています」
「……見せてくれ」
ノートを渡す。
女性はしばらくページをめくった。
「…………」
魔女。
秘密施設。
工作員。
襲撃時刻。
予定経路。
「これを、君が書いた?」
「私が書いたところもあります。ノノカや、他の人に聞いて書いたところもあります」
「……これだけで、時間を戻った証明にはならないな」
「はい」
「地上に人間がいる証明にもならない」
「……はい」
やっぱり。
でも。
「一つ、調べてほしいことがあります」
「何だ?」
「ここです」
秘密施設の場所を指す。
「使われなくなった建物があります。その中に、魔女が閉じ込められてます」
「…………」
「場所だけでも調べてください」
「魔女がいる、と?」
「はい」
「なぜそこまで分かる?」
「前に行ったからです」
「…………」
「その時間では、そこで工作員にも会いました」
女性はしばらく私を見ていた。
信じてはいない。
でも。
「……分かった」
端末を取る。
「施設についてだけ確認する。ただし、今の話を事実だと認めたわけではない」
「はい。それでいいです」
◇◇
◇◇
少しして。
「施設そのものは確認できた」
「……!」
「だが、それだけだ。内部に魔女がいることまでは確認できていない」
「……はい」
「それに、施設の存在を知っていたからといって、君の話がすべて事実になるわけでもない」
「分かってます」
女性がノートを見る。
「他に、今確認できる情報は?」
「え?」
「君は工作員がいると言った。誰だ?」
「あ……」
ページを開く。
「この人たちです」
「全員か?」
「私が知ってるのは、その人たちです」
「根拠は?」
「前の時間で……」
「いや」
女性が止める。
「それでは確認できない。今、この場でこちらが確かめられる情報はないか?」
「…………」
ノートを見る。
工作員。
通信機。
「あ」
「何だ?」
「通信機です」
「通信機?」
「工作員は、小さい通信機を持ってます。首元につけてる人もいて……旧文明のものに似てるって、ノノカが言ってました」
「形は?」
「えっと……」
覚えている範囲で説明する。
女性はそれを聞きながら、何かを書いていた。
「他には?」
「秘密施設の中に魔女がいます。それと……拳銃」
「拳銃?」
「工作員の一人が持ってます」
女性の手が止まった。
「旧文明の武器です」
「……それを見たのか?」
「はい。撃たれました」
「…………」
女性が私を見る。
「死んだのも、その時です」
「……そうか」
まだ、信じているわけじゃない。
でも、最初とは明らかに違う。
「分かった。こちらで確認できる範囲は確認する」
「工作員は……?」
「まだ拘束はできない」
「……!」
「君の話だけで人を拘束するわけにはいかない。まず事実確認だ」
「でも、時間が――」
「分かっている」
女性が時計を見る。
「だから急ぐ。確認が取れ次第、次を判断する」
「…………」
「それでいいな?」
「……はい」
「一つ、お願いがあります」
「何ですか?」
ノノカが言った。
「今お話しした、コトハちゃんのタイムリープについて。他の方には話さないでください」
「……なぜです?」
「以前の時間でも、私たちはあなたに同じ話をしています」
「…………」
相手の目が私へ向く。
「その時、あなたは『他の方にも共有する』とおっしゃったそうです。その後、私たちは突然死亡しました」
「死亡?」
「はい」
「原因は分かっていません」
ノノカが続ける。
「ですが、タイムリープについて知る方が増えたことが原因だった可能性があります」
「……つまり、私がこの情報を共有すれば、君たちが死亡する可能性があると?」
「あります」
しばらく沈黙。
「分かった」
「……!」
「少なくとも、原因が分かるまでは伏せよう。情報源については、こちらで処理する」
「ありがとうございます」
◇◇
残りの確認を終えると、私たちも配置場所へ向かった。
学校を出て、西側の一般市街地へ。
ここは魔女が秘密施設から学校へ向かう途中に通る場所。前の時間では、逃げる人や怪我をした人でめちゃくちゃになっていた。
でも今日は違う。
普段より人が少ない。
道の何か所かには、協力してくれる天使たちが何でもないふりをして待機している。
「……本当にいる」
「作戦ですからね」
ノノカと一緒に、決めていた位置へ向かう。
セナ先輩もすでに来ていた。
「コトハクン!」
「セナ先輩!」
「こっちは準備できてるよ!」
周りを見る。
迎撃。
予備。
避難誘導。
全員じゃない。
予定通りにいかなかったところもある。
それでも、前とは全然違う。
「……うん」
端末を見る。
もうすぐだ。
「配置、全員ついた!?」
「全員じゃないけど、必要な人数はいるよ!」
セナ先輩の声。
「避難は!?」
「準備してる!」
「予備は?」
「大丈夫!」
時計を見る。
「…………」
来る。
「もうすぐ……」
秒針。
進む。
そして。
ドォン!!
「――っ!」
遠くから、大きな音が響いた。
「来た!」
◇◇
黒い影が走る。
魔女。
でも。
「今!」
天使がいる。
待っていた。
魔女が飛び込んできた瞬間、武器が振り抜かれる。
「……!」
止まった。
前は。
逃げるしかなかった。
活動可能時間を使い切って、変身できない人がたくさんいて。
でも今は違う。
「次来る!」
「分かってる!」
別の魔女。
迎撃。
その横。
一体が予定していた道を外れる。
「あっ!」
「そっち行った!」
「大丈夫!」
別の天使が動く。
予備。
PLAN B。
「…………」
動いてる。
作戦が。本当に。
「コトハクン!」
「はい!」
ぼーっとしてる場合じゃない。
私も飛ぶ。
◇◇
「そっち行かないで!」
魔女の前へ回る。
進路を変える。
後ろから別の天使が攻撃。
倒れる。
「次!」
「右!」
「はい!」
声が飛ぶ。
魔女が予定通り動くもの。動かないもの。思っていたより速いもの。倒すのに時間がかかるもの。
少し先で、一人の天使の輪と翼が消えた。活動時間を使い切ったらしく、灰を残して後ろへ下がる。
「交代!」
「はい!」
待機していた天使が、すぐにその場所へ入った。
誰かが動けなくなったら、別の人が入る。道を外れたら、別の作戦へ変える。
サチヤ先輩が言っていたこと。
失敗した時の次の手。
それがある。
ドォン!!
「うわっ……!」
建物の一部が崩れた。
瓦礫が道路へ落ちる。
「人は!?」
「もう移動させてる!」
よかった。
でも全部じゃない。
「誰かいる!」
「避難担当!」
「了解!」
人が走る。誘導される。別の道へ。
魔女がそちらへ向かおうとする。
「行かせない!」
天使が前に入った。
止める。
また建物が壊れる。
店。
道路。
住宅。
街はどんどん酷くなっていく。
それでも。
人は逃げている。
今までとは違う。
◇◇
どれくらい経ったんだろう。
「はぁ……はぁ……」
息が苦しい。
翼も重い。
でも。
「……魔女は?」
「見える範囲にはもういない!」
周りを見る。
いない。
さっきまで聞こえていた音も、少しずつ減っている。
「……終わった?」
「まだ分からない!」
セナ先輩が周囲を見る。
しばらく待つ。
魔女は来ない。
別の場所からも、戦闘が終わったという連絡が入り始めた。
「…………」
終わった?
本当に?
地面へ降りる。
街を見る。
「……ひどい」
建物が壊れている。道路には瓦礫。煙も上がってる。
前と同じ。
嫌な感じがした。
「……人は?」
返事がない。
「怪我した人は?」
「いるよ」
「死んだ人は?」
「…………」
怖い。
聞きたくない。
でも。
「確認しよう」
ノノカが言った。
「……うん」
◇◇
学校。
死者なし。負傷者あり。一般市街地。
死者の報告なし。
避難担当。全員無事。
戦った天使。
怪我をした人はいる。
でも。
「……コトハちゃん」
「何?」
ノノカが端末を見る。
「今のところ、死亡者の報告はありません」
「…………」
意味が分からなかった。
「……ゼロ?」
「はい」
「学校も?」
「はい」
「街も?」
「確認できている範囲では」
「…………」
待つ。
まだ。
まだどこかから来るかもしれない。
誰かが見つかってないだけかもしれない。
少しして、また連絡。
死者なし。
別の場所。
死者なし。
何度確認しても。
増えない。
「…………ゼロ?」
「ゼロです」
ノノカが言った。
本当に。
「…………」
力が抜けた。
「……できた?」
「できましたね」
「…………」
ノノカを見る。
街を見る。壊れてる。
めちゃくちゃ。
怪我した人もいる。完璧じゃない。
でも。
生きてる。
「……やった」
声が震えた。
「やった……」
なんか、涙が出てきた。
「やった!!」
ノノカに抱きつく。
「わっ」
「ノノカ! ゼロ! ゼロだって!」
「はい、ゼロです」
「誰も死んでない!」
「はい」
「やったぁ……!」
泣きながら笑う。
何回失敗した?
何人死んだ?
ノノカも。
エルも。
知らない人も。私も。
でも今回は。
みんな生きてる。
「街めちゃくちゃだけどね」
声。振り返る。
サチヤ先輩。
「でもみんな生きてます!」
「まあ……それはそうだけど」
「サチヤ先輩もありがとうございます!」
「……何急に」
「ありがとうございます!」
「分かったって」
少し離れたところでは、セナ先輩が座り込んでいる。
「つっかれたぁ〜……」
「セナ先輩も!」
「はいはい。どういたしまして〜」
笑ってる。
みんな生きてる。
「…………」
ノート。
鞄から取り出す。
ページを開く。
『12月1日 魔女襲撃完全攻略』
その下には。
何周もかけて集めた情報。
エルから聞いたこと。
ノノカと考えたこと。
カレン先輩が出してくれた案。
サチヤ先輩が見つけた穴。セナ先輩が集めてくれた人たち。
私一人じゃ、絶対できなかった。
ペンを持つ。
その一番下。
『攻略完了!』
「…………」
書いた。
やっと。
「これで……攻略できたんだ」
笑う。
その時。
ピコン。
「?」
端末が震えた。
何気なく取り出す。
画面を見る。
「…………え?」
「コトハちゃん?」
もう一度、画面を見る。
「……何、これ」