人類滅亡攻略ノート   作:花露あかね

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12月1日攻略完了

 扉が開いた。

 

 中にいる人を見る。

 

「…………」

 

 同じ人。

 

 前の時間で、タイムリープのことを話した人。

 

 もちろん向こうは、私たちのことなんて知らない。

 

「失礼します」

 

 ノノカが先に入る。私も後に続いた。

 

「突然申し訳ありません。緊急でお話ししたいことがあります」

 

「……ノノカか。どうした?」

 

 ノノカが私を見る。

 

 言わないと。

 

「今日、魔女が地下に来ます」

 

「…………何?」

 

「それと、地上には人がいます」

 

「……待ってくれ」

 

 すぐに止められた。

 

「魔女が地下に来る?」

 

「はい」

 

「地上には人がいる、とも言ったな」

 

「……はい」

 

 女性は少し黙った。

 

「すまない。一つずつ話してくれ。何の話をしている?」

 

「あ……はい」

 

 そりゃそうだ。

 

 いきなり全部言っても分かるわけがない。

 

「地上に、人が生きてるんです」

 

「…………」

 

「その人たちが、地下に何人か工作員を送り込んでます」

 

「工作員?」

 

「はい。それで……今日、地下に魔女を入れて、学校を襲わせようとしてます」

 

「…………」

 

 女性はすぐには何も言わなかった。

 

「つまり君は、地上に人間が生存していて、その人間が地下へ入り込んでいる、と言っているのか?」

 

「……はい」

 

「そのうえ、魔女を地下へ連れてくる?」

 

「はい」

 

「…………」

 

 信じてない。

 

 当たり前だ。

 

「ノノカ」

 

「はい」

 

「君も同じ話を?」

 

「はい。私も事実だと考えています」

 

「……そうか」

 

 女性は少し考えた。

 

「それで、その話をどこで知った?」

 

「…………」

 

 来た。

 

 分かってた。ここまで話せば、絶対に聞かれる。

 

 前の時間でも、私はここでタイムリープのことを話した。

 

 そのあと、死んだ。

 

「……私」

 

 ノートを抱える手に力が入る。

 

「今日を、何回もやり直してるんです」

 

「…………」

 

「死んだら12月1日に戻って……今日のことも、前に何回か経験してます」

 

「……何を言っている?」

 

「本当です」

 

「時間を戻っている、と?」

 

「……はい」

 

 女性がノノカを見る。

 

「ノノカ。君は?」

 

「私は戻っていません。記憶があるのはコトハちゃんだけです」

 

「…………」

 

「私も最初は信じられませんでした。ただ、コトハちゃんは通常なら知り得ないことを何度も知っています。それに――」

 

 ノノカがノートを見る。

 

「このノートに書かれた内容も、時間を越えて残っています」

 

「……見せてくれ」

 

 ノートを渡す。

 

 女性はしばらくページをめくった。

 

「…………」

 

 魔女。

 

 秘密施設。

 

 工作員。

 

 襲撃時刻。

 

 予定経路。

 

「これを、君が書いた?」

 

「私が書いたところもあります。ノノカや、他の人に聞いて書いたところもあります」

 

「……これだけで、時間を戻った証明にはならないな」

 

「はい」

 

「地上に人間がいる証明にもならない」

 

「……はい」

 

 やっぱり。

 

 でも。

 

「一つ、調べてほしいことがあります」

 

「何だ?」

 

「ここです」

 

 秘密施設の場所を指す。

 

「使われなくなった建物があります。その中に、魔女が閉じ込められてます」

 

「…………」

 

「場所だけでも調べてください」

 

「魔女がいる、と?」

 

「はい」

 

「なぜそこまで分かる?」

 

「前に行ったからです」

 

「…………」

 

「その時間では、そこで工作員にも会いました」

 

 女性はしばらく私を見ていた。

 信じてはいない。

 

 でも。

 

「……分かった」

 

 端末を取る。

 

「施設についてだけ確認する。ただし、今の話を事実だと認めたわけではない」

 

「はい。それでいいです」

 

◇◇

 

◇◇

 

 少しして。

 

「施設そのものは確認できた」

 

「……!」

 

「だが、それだけだ。内部に魔女がいることまでは確認できていない」

 

「……はい」

 

「それに、施設の存在を知っていたからといって、君の話がすべて事実になるわけでもない」

 

「分かってます」

 

 女性がノートを見る。

 

「他に、今確認できる情報は?」

 

「え?」

 

「君は工作員がいると言った。誰だ?」

 

「あ……」

 

 ページを開く。

 

「この人たちです」

 

「全員か?」

 

「私が知ってるのは、その人たちです」

 

「根拠は?」

 

「前の時間で……」

 

「いや」

 

 女性が止める。

 

「それでは確認できない。今、この場でこちらが確かめられる情報はないか?」

 

「…………」

 

 ノートを見る。

 

 工作員。

 

 通信機。

 

「あ」

 

「何だ?」

 

「通信機です」

 

「通信機?」

 

「工作員は、小さい通信機を持ってます。首元につけてる人もいて……旧文明のものに似てるって、ノノカが言ってました」

 

「形は?」

 

「えっと……」

 

 覚えている範囲で説明する。

 

 女性はそれを聞きながら、何かを書いていた。

 

「他には?」

 

「秘密施設の中に魔女がいます。それと……拳銃」

 

「拳銃?」

 

「工作員の一人が持ってます」

 

 女性の手が止まった。

 

「旧文明の武器です」

 

「……それを見たのか?」

 

「はい。撃たれました」

 

「…………」

 

 女性が私を見る。

 

「死んだのも、その時です」

 

「……そうか」

 

 まだ、信じているわけじゃない。

 

 でも、最初とは明らかに違う。

 

「分かった。こちらで確認できる範囲は確認する」

 

「工作員は……?」

 

「まだ拘束はできない」

 

「……!」

 

「君の話だけで人を拘束するわけにはいかない。まず事実確認だ」

 

「でも、時間が――」

 

「分かっている」

 

 女性が時計を見る。

 

「だから急ぐ。確認が取れ次第、次を判断する」

 

「…………」

 

「それでいいな?」

 

「……はい」

 

「一つ、お願いがあります」

 

「何ですか?」

 

 ノノカが言った。

 

「今お話しした、コトハちゃんのタイムリープについて。他の方には話さないでください」

 

「……なぜです?」

 

「以前の時間でも、私たちはあなたに同じ話をしています」

 

「…………」

 

 相手の目が私へ向く。

 

「その時、あなたは『他の方にも共有する』とおっしゃったそうです。その後、私たちは突然死亡しました」

 

「死亡?」

 

「はい」

 

「原因は分かっていません」

 

 ノノカが続ける。

 

「ですが、タイムリープについて知る方が増えたことが原因だった可能性があります」

 

「……つまり、私がこの情報を共有すれば、君たちが死亡する可能性があると?」

 

「あります」

 

 しばらく沈黙。

 

「分かった」

 

「……!」

 

「少なくとも、原因が分かるまでは伏せよう。情報源については、こちらで処理する」

 

「ありがとうございます」

 

◇◇

 

 残りの確認を終えると、私たちも配置場所へ向かった。

 

 学校を出て、西側の一般市街地へ。

 

 ここは魔女が秘密施設から学校へ向かう途中に通る場所。前の時間では、逃げる人や怪我をした人でめちゃくちゃになっていた。

 

 でも今日は違う。

 

 普段より人が少ない。

 

 道の何か所かには、協力してくれる天使たちが何でもないふりをして待機している。

 

「……本当にいる」

 

「作戦ですからね」

 

 ノノカと一緒に、決めていた位置へ向かう。

 セナ先輩もすでに来ていた。

 

「コトハクン!」

 

「セナ先輩!」

 

「こっちは準備できてるよ!」

 

 周りを見る。

 

 迎撃。

 

 予備。

 

 避難誘導。

 

 全員じゃない。

 予定通りにいかなかったところもある。

 

 それでも、前とは全然違う。

 

「……うん」

 

 端末を見る。

 もうすぐだ。

 

「配置、全員ついた!?」

 

「全員じゃないけど、必要な人数はいるよ!」

 

 セナ先輩の声。

 

「避難は!?」

 

「準備してる!」

 

「予備は?」

 

「大丈夫!」

 

 時計を見る。

 

「…………」

 

 来る。

 

「もうすぐ……」

 

 秒針。

 

 進む。

 そして。

 

 ドォン!!

 

「――っ!」

 

 遠くから、大きな音が響いた。

 

「来た!」

 

◇◇

 

 黒い影が走る。

 魔女。

 

 でも。

 

「今!」

 

 天使がいる。

 待っていた。

 

 魔女が飛び込んできた瞬間、武器が振り抜かれる。

 

「……!」

 

 止まった。

 

 前は。

 

 逃げるしかなかった。

 活動可能時間を使い切って、変身できない人がたくさんいて。

 

 でも今は違う。

 

「次来る!」

 

「分かってる!」

 

 別の魔女。

 

 迎撃。

 その横。

 

 一体が予定していた道を外れる。

 

「あっ!」

 

「そっち行った!」

 

「大丈夫!」

 

 別の天使が動く。

 予備。

 

 PLAN B。

 

「…………」

 

 動いてる。

 作戦が。本当に。

 

「コトハクン!」

 

「はい!」

 

 ぼーっとしてる場合じゃない。

 

 私も飛ぶ。

 

◇◇

 

「そっち行かないで!」

 

 魔女の前へ回る。

 進路を変える。

 

 後ろから別の天使が攻撃。

 

 倒れる。

 

「次!」

 

「右!」

 

「はい!」

 

 声が飛ぶ。

 魔女が予定通り動くもの。動かないもの。思っていたより速いもの。倒すのに時間がかかるもの。

 

 少し先で、一人の天使の輪と翼が消えた。活動時間を使い切ったらしく、灰を残して後ろへ下がる。

 

「交代!」

 

「はい!」

 

 待機していた天使が、すぐにその場所へ入った。

 誰かが動けなくなったら、別の人が入る。道を外れたら、別の作戦へ変える。

 

 サチヤ先輩が言っていたこと。

 

 失敗した時の次の手。

 

 それがある。

 

 ドォン!!

 

「うわっ……!」

 

 建物の一部が崩れた。

 瓦礫が道路へ落ちる。

 

「人は!?」

 

「もう移動させてる!」

 

 よかった。

 でも全部じゃない。

 

「誰かいる!」

 

「避難担当!」

 

「了解!」

 

 人が走る。誘導される。別の道へ。

 魔女がそちらへ向かおうとする。

 

「行かせない!」

 

 天使が前に入った。

 止める。

 

 また建物が壊れる。

 

 店。

 

 道路。

 

 住宅。

 

 街はどんどん酷くなっていく。

 それでも。

 

 人は逃げている。

 

 今までとは違う。

 

◇◇

 

 どれくらい経ったんだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息が苦しい。

 翼も重い。

 

 でも。

 

「……魔女は?」

 

「見える範囲にはもういない!」

 

 周りを見る。

 いない。

 

 さっきまで聞こえていた音も、少しずつ減っている。

 

「……終わった?」

 

「まだ分からない!」

 

 セナ先輩が周囲を見る。

 しばらく待つ。

 

 魔女は来ない。

 

 別の場所からも、戦闘が終わったという連絡が入り始めた。

 

「…………」

 

 終わった?

 

 本当に?

 

 地面へ降りる。

 街を見る。

 

「……ひどい」

 

 建物が壊れている。道路には瓦礫。煙も上がってる。

 前と同じ。

 

 嫌な感じがした。

 

「……人は?」

 

 返事がない。

 

「怪我した人は?」

 

「いるよ」

 

「死んだ人は?」

 

「…………」

 

 怖い。

 聞きたくない。

 

 でも。

 

「確認しよう」

 

 ノノカが言った。

 

「……うん」

 

◇◇

 

 学校。

 

 死者なし。負傷者あり。一般市街地。

 死者の報告なし。

 

 避難担当。全員無事。

 戦った天使。

 

 怪我をした人はいる。

 

 でも。

 

「……コトハちゃん」

 

「何?」

 

 ノノカが端末を見る。

 

「今のところ、死亡者の報告はありません」

 

「…………」

 

 意味が分からなかった。

 

「……ゼロ?」

 

「はい」

 

「学校も?」

 

「はい」

 

「街も?」

 

「確認できている範囲では」

 

「…………」

 

 待つ。

 まだ。

 

 まだどこかから来るかもしれない。

 誰かが見つかってないだけかもしれない。

 

 少しして、また連絡。

 

 死者なし。

 別の場所。

 

 死者なし。

 

 何度確認しても。

 

 増えない。

 

「…………ゼロ?」

 

「ゼロです」

 

 ノノカが言った。

 

 本当に。

 

「…………」

 

 力が抜けた。

 

「……できた?」

 

「できましたね」

 

「…………」

 

 ノノカを見る。

 

 街を見る。壊れてる。

 めちゃくちゃ。

 

 怪我した人もいる。完璧じゃない。

 

 でも。

 生きてる。

 

「……やった」

 

 声が震えた。

 

「やった……」

 

 なんか、涙が出てきた。

 

「やった!!」

 

 ノノカに抱きつく。

 

「わっ」

 

「ノノカ! ゼロ! ゼロだって!」

 

「はい、ゼロです」

 

「誰も死んでない!」

 

「はい」

 

「やったぁ……!」

 

 泣きながら笑う。

 何回失敗した?

 

 何人死んだ?

 

 ノノカも。

 

 エルも。

 

 知らない人も。私も。

 でも今回は。

 

 みんな生きてる。

 

「街めちゃくちゃだけどね」

 

 声。振り返る。

 サチヤ先輩。

 

「でもみんな生きてます!」

 

「まあ……それはそうだけど」

 

「サチヤ先輩もありがとうございます!」

 

「……何急に」

 

「ありがとうございます!」

 

「分かったって」

 

 少し離れたところでは、セナ先輩が座り込んでいる。

 

「つっかれたぁ〜……」

 

「セナ先輩も!」

 

「はいはい。どういたしまして〜」

 

 笑ってる。

 みんな生きてる。

 

「…………」

 

 ノート。

 

 鞄から取り出す。

 ページを開く。

 

『12月1日 魔女襲撃完全攻略』

 

 その下には。

 

 何周もかけて集めた情報。

 エルから聞いたこと。

 

 ノノカと考えたこと。

 カレン先輩が出してくれた案。

 

 サチヤ先輩が見つけた穴。セナ先輩が集めてくれた人たち。

 

 私一人じゃ、絶対できなかった。

 

 ペンを持つ。

 その一番下。

 

『攻略完了!』

 

「…………」

 

 書いた。

 

 やっと。

 

「これで……攻略できたんだ」

 

 笑う。

 

 その時。

 

 ピコン。

 

「?」

 

 端末が震えた。

 

 何気なく取り出す。

 画面を見る。

 

「…………え?」

 

「コトハちゃん?」

 

 もう一度、画面を見る。

 

 

 

「……何、これ」

 

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