人類滅亡攻略ノート   作:花露あかね

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知らないことを知っていく

 次の日。

 

「…………」

 

 昨日、決めた。

 地下も。地上も。どっちも救う。

 

 人類滅亡そのものを攻略する。

 

 やる。

 やるんだけど。

 

「……何から?」

 

 誰も答えてくれない。

 12月1日の時は、まだ分かりやすかった。

 

 魔女が来る。学校が襲われる。いつ起こるのかも分かっている。

 だから、どうすれば防げるのかを考えればよかった。

 

 でも今度は。

 

 戦争。灰。地上人類。魔女。工作員。人類滅亡。

 

「…………」

 

 でかすぎる。

 どこから手をつければいいのかすら分からない。

 

「……とりあえず」

 

 少し考える。

 

「知らないことから、調べよう」

 

 分からないなら聞けばいい。

 12月1日の時だって、そうやって進めた。

 

 そして今、一番引っかかっていること。

 

「…………」

 

 魔女は、元々地上人類。

 

 だったら。

 あれは何だったんだろう。

 

◇◇

 

「ミカゲ、聞きたいことある」

 

「何だ?」

 

「地下に、魔女がいっぱい閉じ込められてる施設があったんだけど」

 

「…………」

 

 ミカゲの表情が変わった。

 

「なぜ知っている?」

 

「え?」

 

「その施設は、一般の地下人類が知っている場所ではないはずだ」

 

「…………」

 

 そうだった。

 あそこを知ったのも、前の時間。

 

 ノノカと二人で見つけた。

 

「……言えない」

 

「では、なぜ俺が答える必要がある?」

 

「うっ」

 

 正論。

 

「で、でも!」

 

「何だ?」

 

「私がいなくなったら、ミカゲ地下で困るでしょ!」

 

「…………」

 

「私、案内できるし。地下のことも教えられるし!」

 

「それで?」

 

「だから……等価交換!」

 

「…………」

 

 ミカゲが少し黙った。

 

「一つ訂正していいか?」

 

「何?」

 

「お前がいなければ地下へ行けない、というわけではない」

 

「……え?」

 

「極端な話、お前を殺して、別の地下人類を捕らえるという選択肢もある」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………え?」

 

「するつもりはない」

 

「先に言ってよ!!」

 

「可能な選択肢の話をしただけだ」

 

「怖すぎるよ!」

 

「すまない」

 

「全然すまなそうじゃない!」

 

「謝っている」

 

「…………」

 

 この人、たまに本当に怖い。

 

「ただ、現時点でわざわざ別の人間を捕らえる理由もない。お前とは既にある程度情報を共有しているし、地下への案内もできる。新しく捕虜を確保する方が危険も大きい」

 

「じゃあ……」

 

「ああ。交渉材料として成立はしている」

 

「…………」

 

 成立した。

 全然嬉しくないけど。

 

「じゃあ教えて」

 

「少し待て」

 

「?」

 

 ミカゲは何か考えている。

 

「……いや。そもそも、地下側はあの施設を既に把握しているのか」

 

「え?」

 

「こちらから送った工作員との連絡が、12月1日以降ほぼ途絶えている。地下政府が地上側の存在や事情を把握した上で戦争を始めたことも考えれば、工作員が拘束されたと見るのが自然だ」

 

「…………」

 

 なんか一人で全部納得してる。

 

「つまり、施設についても既に情報が渡っている可能性が高い。隠す意味は薄いな」

 

「じゃあ?」

 

「ああ。話してもいい」

 

「……もっと断られるかと思った」

 

「知られて困るようなことでもない。それに、こちらもお前から情報を得ている」

 

「…………」

 

 ミカゲは少し間を置いてから続けた。

 

「助けてもらったら、助け返す。それだけだ」

 

「……それ」

 

「何だ?」

 

「地上の人って、みんなそうなの?」

 

「知らない」

 

「知らないんだ」

 

「地上人類全員の考え方を把握しているわけじゃない。ただ、少なくとも俺の周りでは珍しくない」

 

「…………」

 

「次に困るのが自分かもしれないからな」

 

 昨日のことを思い出した。

 食事を持ってきてくれた人。

 

 リオ。

 

「……そっか」

 

◇◇

 

「それで、あの魔女は何なの?」

 

「あの施設に収容されている魔女は、元工作員だ」

 

「…………」

 

「工作員?」

 

「ああ。地上から地下へ送られた人間だ」

 

「じゃあ……ユウと同じ?」

 

「そうだ」

 

「…………」

 

 檻の中。

 

 何十体もいた魔女。

 あれが全部。

 

「地下は灰を大量に利用しているんだろう?」

 

「……うん」

 

「俺たちにとっては、地上より危険な環境だ。長期間潜伏すれば、それだけ早く灰が蓄積する」

 

「それで……魔女になったの?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 また少し気持ち悪くなる。

 

 あの魔女たちも。

 元は、人だった。

 

「でも」

 

「何だ?」

 

「魔女になったら、もう工作員はできないんだよね?」

 

「できない」

 

「じゃあ、なんであそこに閉じ込めてるの?」

 

「使うためだ」

 

「…………何に?」

 

「作戦に」

 

「…………」

 

 嫌な答えだった。

 

「魔女を……?」

 

「ああ」

 

「でも、魔女って言うこと聞かないでしょ?」

 

「完全にはな」

 

「じゃあどうやって」

 

「誘導するための機械がある。魔女に装着して、ある程度行動する方向を変える」

 

「…………」

 

「細かい指示はできない。特定の人間を狙わせることも難しい。ただ、一ヶ所に集めたり、一定方向へ移動させたりする程度なら可能だ」

 

「…………」

 

 聞いたことがある。

 

 前の時間。エルが言っていた。

 魔女を完全に操れるわけじゃない。

 

 だから予定した経路から外れることもある。

 

「……そういうことだったんだ」

 

「何が?」

 

「いや……」

 

 今はいい。

 

「待って」

 

「何だ?」

 

「その人たち、地上のために地下まで来たんだよね?」

 

「ああ」

 

「それで、地下で灰をいっぱい吸って魔女になった」

 

「そうだ」

 

「…………」

 

 なのに。

 

「それでもまだ、戦わせるの?」

 

「…………」

 

「もう人間じゃなくなって、工作員もできなくなったのに。今度は魔女として使うの?」

 

「ああ」

 

「それ、おかしくない?」

 

 声が少し強くなる。

 

「地上のために働いてた人たちなんでしょ?」

 

「そうだ」

 

「だったら――」

 

「俺が正しいと決めたわけではない」

 

「…………」

 

 言葉が止まった。

 

「俺が説明しているのは、地上側がそうしているという事実だ」

 

「……ミカゲは、どう思ってるの?」

 

「…………」

 

 少し間があった。

 

「好きではない」

 

「じゃあ」

 

「だが、地上には天使がいない」

 

「…………」

 

「魔女とまともに戦える人間も限られている。使える戦力を使わなければ、地上側が生き残れない場面もある」

 

「だからって……」

 

「納得しろとは言っていない」

 

「…………」

 

 納得なんてできない。

 

 でも。

 

 地上には地上の事情がある。

 それだけは、少しずつ分かってきた。

 

◇◇

 

「…………」

 

 魔女。

 

 集められる。

 

 ある程度なら、行く方向も変えられる。

 何かが引っかかった。

 

 前にも。

 大量の魔女。

 

 どこかで。

 

「……ミカゲ」

 

「何だ?」

 

「もう一個聞いていい?」

 

「内容による」

 

「12月31日に、地上側が地下を襲う作戦ってあった?」

 

「…………」

 

 ミカゲが私を見る。

 

「なぜお前がそれを知っている?」

 

「……工作員から聞いた」

 

「それは分かる。地下側がこちらの作戦についてある程度把握していること自体は、不思議ではない」

 

「じゃあ……」

 

「俺が聞いているのは、なぜお前個人が知っているのかだ」

 

「…………」

 

「政府や天使本部ならともかく、お前は学生なんだろう?」

 

「それは……」

 

 言えない。

 ノノカと約束した。タイムリープのことは、これ以上簡単に人へ話さないって。

 

「い、言えない。約束だから」

 

「…………」

 

「ごめん」

 

 ミカゲは少し考えたあと、私を見る。

 

「……なるほど。工作員との約束か」

 

「…………」

 

「地下側へ情報を渡した人間がいたんだな」

 

「…………」

 

 違う。

 全然違う。

 

 でも、否定したら今度は「誰との約束だ」と聞かれる。

 

 私は何も言わなかった。

 

「分かった。それ以上は聞かない」

 

「……うん」

 

「それで、何が知りたい?」

 

「……あの日、地上にいた天使が全然戻ってこなかったの」

 

「…………」

 

 ミカゲが黙った。

 

「地下が襲われてるのに、誰も来なかった。地上にはいっぱい天使がいたはずなのに」

 

「待て」

 

「え?」

 

「『あの日』?」

 

「…………」

 

「まるで、自分で見たような言い方だな」

 

「…………」

 

 まずい。

 

「工作員から聞いたのか?」

 

「それは……」

 

「いや」

 

 ミカゲが考え込む。

 

「終幕作戦について知っている。地下が襲撃されたことも知っている。地上に天使が残っていて、地下へ戻らなかったことまで知っている」

 

「…………」

 

「なのに、なぜ戻らなかったのかは知らない?」

 

「…………」

 

 言われてみれば。

 すごく変だ。

 

「情報を聞いただけなら、妙な欠け方をしている」

 

「…………」

 

「お前は、どこまで知っている?」

 

「……言えない」

 

「また約束か?」

 

「…………うん」

 

 嘘ではない。

 ミカゲはしばらく私を見ていた。

 

「…………分かった」

 

「いいの?」

 

「答えない人間に同じ質問を続けても仕方ない。ただ――」

 

「?」

 

「お前については、分からないことが多すぎる」

 

「…………」

 

 怖いこと言わないでほしい。

 

「日付は?」

 

「……12月31日」

 

「…………ああ」

 

 ミカゲは何か思い当たったようだった。

 

「それなら、戻らなかったんじゃない」

 

「え?」

 

「戻れなかったんだ」

 

「…………」

 

「地上側が大量の魔女を複数の地点へ誘導していた。地上任務中の天使を、地下から引き離しておくためにな」

 

「…………」

 

 頭の中に、あの日が浮かんだ。

 壊れた街。魔女から逃げる人たち。どれだけ待っても、誰も助けに来なかった。

 

 なんで。

 

 地下がこんなことになってるのに、なんで誰も来ないの。

 

 ずっと、そう思ってた。

 

「…………」

 

 違った。

 

 来なかったんじゃない。

 最初から。

 

「……来られないように、されてたんだ」

 

 最初から。

 

 地下を襲う前に、地上にいる天使を動けなくしていた。

 

「…………」

 

 なんか。

 変な感じがした。

 

 地上側は、天使がどこで何をしているのか知っていた。

 地下に工作員を送り込んでいた。

 

 秘密施設を作って、魔女を何十体も溜めていた。

 

 地下がどう動くのかを知っていたから、天使が戻れないようにする作戦まで立てられた。

 

「…………待って」

 

「何だ?」

 

「あの施設にいた魔女って、みんな元工作員なんだよね?」

 

「ああ」

 

「何十体もいた」

 

「そうだな」

 

「…………」

 

 ユウは二年前から地下にいる。

 でも、あの魔女たちが全部元工作員なら。

 

 もっと前から。

 

 ずっと前から。

 

「私たち……」

 

「?」

 

「地上に人がいることすら、知らなかった」

 

「…………」

 

 魔女しかいないと思ってた。

 人類は地下にしか残っていないって。

 

 ずっと、そう教えられてきた。

 

「でも地上は……」

 

 地下に人を送り込んで。

 こっちのことを調べて。

 

 天使のことも。街のことも。地下を滅ぼす作戦を立てられるくらい。

 

「ずっと、地下のこと知ってたんだよね?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

 なんで、こっちは何も知らないのに。

 向こうは、こんなに知ってるの。

 

「……ミカゲ」

 

「何だ?」

 

 聞く。

 

「地上は――」

 

 一度、言葉が止まった。

 

 

「いつから、地下のこと知ってたの?」

 

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