人類滅亡攻略ノート   作:花露あかね

31 / 32
人類滅亡攻略ノート

 イチカは、いた。

 

 教室に入ってすぐ、いつもの席に座っている姿が見えた。

 

「…………」

 

 本当にいる。

 今日は12月1日。まだ何も起きていない。

 

 イチカも消えていないし、ユウもいる。

 

 少し緊張しながら、イチカの席へ向かった。

 

「あの」

 

「?」

 

 イチカが顔を上げる。

 

「イチカ……さん、だよね?」

 

「そうだけど」

 

「私、コトハ。同じクラスの」

 

「うん。知ってる」

 

「あ、知ってるんだ」

 

「クラスメイトの名前くらいは」

 

「…………」

 

 ほとんど話したことないから、知られてないと思ってた。

 

「それで、何?」

 

「あ……えっと」

 

 どう切り出そう。

 いきなりノートの話をして大丈夫なのかな。

 

 でも、そのために来た。

 

「家宝のノート、探してる?」

 

「…………」

 

 イチカの顔が変わった。

 

「なんで知ってるの?」

 

「あ……」

 

 そうだった。

 それを教えてくれたのは、前の時間のカレン先輩だ。

 

「それは……ちょっと説明しにくいんだけど」

 

「…………」

 

「でも、探してるんだよね?」

 

「……うん」

 

「どんなノート?」

 

 鞄に手を入れる。

 ノートを取り出して、机の上へ置いた。

 

 イチカが固まる。

 

「イチカ?」

 

 返事がない。

 

 イチカはノートを手に取り、表紙や背表紙を確かめるように見る。それから私の顔を見て、またノートへ視線を戻した。

 

「……なるほど」

 

「?」

 

「あなただったんだ」

 

「……何が?」

 

「…………」

 

 イチカが周囲を見る。

 

 教室には普通に人がいる。近くで話している人もいるし、誰かがこっちを見ていてもおかしくない。

 

 急に立ち上がった。

 

「場所変えるよ」

 

「え?」

 

「ノートしまって」

 

「なんで?」

 

「ここでは話せない」

 

「…………?」

 

「早く」

 

「う、うん」

 

 よく分からないままノートを鞄へ戻し、私はイチカの後を追った。

 

◇◇

 

 連れてこられたのは、人のいない場所だった。

 イチカは周囲を確認してから、ようやくこっちを見る。

 

「さっきのノート、もう一回見せて」

 

「うん」

 

 鞄から取り出して渡す。

 イチカは少しだけ眺めてから、私へ返した。

 

「間違いない」

 

「……何が?」

 

「うちに伝わってるノート」

 

「やっぱり家宝なの?」

 

「そう」

 

「じゃあ、なんで私が持ってるの?」

 

「それを説明する前に確認したいんだけど」

 

「何?」

 

「コトハ、このノートを持ってから死んだことある?」

 

「…………」

 

 何。

 その質問。

 

「なんでそんなこと聞くの?」

 

「いいから。ある?」

 

「…………ある」

 

 答えながら、嫌な感じがした。

 

「何回?」

 

「何回って……」

 

「死んだあと、時間が戻らなかった?」

 

「…………」

 

 今度こそ、言葉が止まった。

 

「なんで」

 

 ノートを握る。

 

「なんで、それ知ってるの?」

 

「やっぱり」

 

「やっぱりって何!?」

 

「落ち着いて」

 

「無理だよ! なんでイチカがタイムリープのこと知ってるの!?」

 

「そのノートが、そういうものだから」

 

「…………え?」

 

「時間をやり直すためのノートなの」

 

「…………」

 

 何を言われたのか、一瞬分からなかった。

 

「これが?」

 

「うん」

 

「イチカ、どこまで知ってるの?」

 

「家に伝わってる範囲なら、大体」

 

「なんで?」

 

「だから、うちの家宝なんだって」

 

「でも、私が持ってるよ?」

 

「今日なくなったから」

 

「…………今日?」

 

「朝までは家にあった」

 

「え?」

 

 今日。

 12月1日の朝。

 

「じゃあ……今日なくなって、私のところに来たってこと?」

 

「そうみたいだね」

 

「なんで?」

 

「んー……」

 

 イチカが少し考える。

 

「説明が難しいな……。えっと、まずね。どうやったらタイムリープが始まるかから話そうか」

 

「うん」

 

「最初にこのノートを使ってタイムリープしたい! って人が、表紙に『開始』って書くの」

 

「開始?」

 

「そう。それでタイムリープが始まって、『開始』って書いた人が最初の所有者になる」

 

「…………」

 

「その人が最初にタイムリープする人ってこと?」

 

「うん」

 

「でも私、『開始』なんて書いてないよ?」

 

「そうだね。コトハは最初の所有者じゃないから」

 

「…………?」

 

 どういうこと?

 

「最初に『開始』って書いた人がね、まずタイムリープするの。でも、一人がずっと何回でもやり直せるわけじゃない」

 

 一拍。

 

「その人が十三回タイムリープしたら、そこでその人の番は終わり」

 

「終わり……」

 

「でも、タイムリープそのものが終わるわけじゃないよ」

 

「……どういうこと?」

 

「ノートが、次の人に渡るの」

 

「…………へ?」

 

 ノートを見る。

 

「例えば、今日からタイムリープが始まったとするでしょ?」

 

「うん」

 

「最初の人が十三回タイムリープする。その十三回を使い切ったら、その人はもうタイムリープしない」

 

「うん……」

 

「代わりに、次の人がまた12月1日にタイムリープするようになる。その人も同じところからやり直して、また十三回」

 

「…………」

 

 ちょっと待って。

 

「じゃあ……最初の人が終わっても、次の人が続きをやるってこと?」

 

「そう」

 

「その次の人が終わったら?」

 

「また次の人」

 

「…………」

 

 やっと少し分かってきた。

 

「それが、所有者?」

 

「うん。今その十三回を使ってタイムリープする人が、ノートの所有者」

 

「…………」

 

「じゃあ私も」

 

 ノートを見る。

 

「誰かの次ってこと?」

 

「そうなるね」

 

「…………」

 

 私より前に、このノートで時間をやり直していた人がいる。

 

 その人が十三回を使い切ったから、今度は私が。

 

「…………あれ?」

 

「何?」

 

 何か引っかかった。

 

 前の人。

 次の人。

 

 ノートが渡る。

 

「……もしかしてなんだけど」

 

「うん」

 

「これって、前の所有者と関係ある?」

 

 ノートを開いて、裏表紙を見せる。

 

「ここ」

 

「…………」

 

「最初から文字が書いてあったの」

 

 イチカが覗き込む。

 

『コトハちゃん。このような役目を押し付けてしまって、ごめんなさい。――』

 

「これ、ノノカの字なの」

 

「ノノカ?」

 

「友達。絶対この子の字」

 

「…………」

 

 イチカの表情が変わった。

 

「……なるほど」

 

「何?」

 

「そのノノカって人が、コトハの前の所有者だよ」

 

「…………」

 

「え?」

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 

「ノノカが?」

 

「うん」

 

「でも、ノノカはこのノートのこと知らないよ?」

 

「今のノノカは、でしょ?」

 

「…………」

 

 止まる。

 

「時間が戻ったら、所有者以外は前の時間のことを覚えてない。だったら、今のその子が知らないのは普通だよ」

 

「…………」

 

 今のノノカ。

 

 その言葉が、変な感じだった。

 

「じゃあ……前のノノカは」

 

「コトハと同じように、タイムリープしてたんだと思う」

 

「…………」

 

 ノノカが。

 

 何度も

 私の知らない時間を。

 

「でも、なんでこの文字があるだけで前の所有者って分かるの?」

 

「次の所有者を指定するときに使う場所だから」

 

「指定?」

 

「十三回を使い切る前、所有者は自分で次の人を決められるの。ノートの決められた場所、背表紙の裏面に、次の所有者の名前を書く」

 

「…………」

 

「名前だけじゃ駄目。その名前の人をちゃんと思い浮かべながら書く。そうすれば、次はその人に所有権が移る」

 

「じゃあ、ノートもそのまま次の人に渡るの?」

 

「ノート自体はね。でも、書いた内容は全部消えるよ」

 

「……え?」

 

「所有者が変わった時点で、中のページは全部まっさらになるの。前の所有者が何を書いてても、次の人には残らない」

 

「全部?」

 

「うん。残るのは、背表紙の裏に書いたものだけ」

 

「…………」

 

 それなら。

 

「ここって、次の人にメッセージ残すための場所ってこと?」

 

「そう。ただ、引き継がれた後は場所が変わるんだけどね」

 

「場所?」

 

「前の所有者が背表紙の裏に書いたものが、次の所有者に渡った時には裏表紙に移るの」

 

「…………なんで?」

 

「そういう仕組み」

 

「そこは分かんないんだ……」

 

「全部の原理まで伝わってるわけじゃないから」

 

「じゃあ、前の人が知ったことをそこに全部書けばいいんじゃないの?」

 

 十三回もやり直したなら、その間に分かったことはいっぱいあるはずだ。

 何が起きるのか。誰が死ぬのか。何をすれば失敗するのか。

 

 それを全部次の人に渡せたら――。

 

「それはできない」

 

「なんで?」

 

「背表紙の裏には、タイムリープして知った情報を書けないの」

 

「…………え?」

 

「前の時間で起きたこととか、未来で知ったこととか。そういう、タイムリープしたからこそ知ってる情報は残せない」

 

「じゃあ何なら書けるの?」

 

「元から知っていたこととか、自分の気持ちとか。次の人への言葉とか」

 

「…………」

 

 だから。

 もう一度、裏表紙を見る。

 

『コトハちゃん。このような役目を押し付けてしまって、ごめんなさい。――』

 

 ノノカは、ここに攻略方法を書かなかったんじゃない。

 書けなかったんだ。

 

「じゃあ……」

 

 もう一度、自分の名前を見る。

 

『コトハちゃん』

 

「ノノカが、私を選んだってこと?」

 

「そういうことになる」

 

「…………」

 

 ずっと分からなかった。

 どうして、最初からノノカの字があるのか。

 

 まだ何も知らないはずのノノカが、どうして私に向けた言葉を書いているのか。

 

 答えは。

 知らなかったんじゃない。

 

 今のノノカが、覚えていないだけ。

 

「……ノノカ」

 

 タイムリープしてる時に、何があったんだろう。

 何を思ったんだろう。

 

 そして。

 

 どうして最後に。

 

「なんで……私を選んだの?」

 

「それは私には分からないよ」

 

「…………」

 

「そのノノカって人が、コトハに託そうって決めた理由まではね」

 

「…………」

 

 もう一度、文字を見る。

 

『コトハちゃん。このような役目を押し付けてしまって、ごめんなさい。――』

 

「…………」

 

 この言葉を書いた時のノノカは。

 十三回のことも。

 

 何度死んでもやり直すことも。

 このノートが何のためにあるのかも。

 

 全部、知っていた。

 

 その上で。

 

 

 最後に、私を選んだ。

 

「…………」

 

 もう一つ気になったことがあった。

 

「でもさ」

 

「何?」

 

「十三回使ったら、次の人に代わるんだよね?」

 

「うん」

 

「その人も十三回使ったら、また次の人?」

 

「そう」

 

「じゃあ、その次も?」

 

「何もしなければね」

 

「…………」

 

 じゃあ。

 

「それ、いつ終わるの?」

 

「終わらせる方法はあるよ」

 

「あるの?」

 

「背表紙に『達成』って書く」

 

「…………達成?」

 

「うん。所有者がそう書いたら、そこでタイムリープは終了する」

 

「じゃあ、もう次の人には行かない?」

 

「行かない。時間も、それ以上は戻らない」

 

「…………」

 

 開始。

 

 そこから何度も時間をやり直して、所有者が代わっても続いていく。

 でも、いつか目的を果たせたら。

 

 達成。

 

 そこで終わる。

 

「……じゃあ」

 

 背表紙を見る。

 

「何を達成したら書くの?」

 

「それは所有者が決めることだよ」

 

「私が?」

 

「うん。何のためにやり直して、どこまでできたら終わりにするのか。それをノートが決めてくれるわけじゃないから」

 

「…………」

 

 開始。

 

 十三回ずつ、何人もの所有者がやり直して。

 目的を果たしたら、達成で終わる。

 

「…………」

 

 なんというか。

 

 ここまで聞いて、改めて変なものだと思った。

 時間を戻すだけじゃない。

 

 書いたものは次の時間にも残って、所有者を代えながら何度もやり直せて、終わらせる方法まで最初から用意されている。

 

「……そもそもさ」

 

「何?」

 

「これ、何なの?」

 

「何って?」

 

「なんでこんなノートがあるの? タイムリープできる技術なんて、聞いたことないんだけど」

 

「ああ」

 

 イチカがノートを見る。

 

「このノートはね、旧文明のものなの」

 

「旧文明?」

 

「うん。人類が地下へ移るより、ずっと前に作られたもの」

 

「…………」

 

 旧文明。

 

 地上に残っている建物や道具は何度も見てきた。

 地下でも、使えそうなものを回収して利用している。

 

 でも。

 

「旧文明って、タイムリープまでできたの?」

 

「普通にできたわけじゃないよ。少なくとも、こういうものがたくさんあったって話は聞いてない」

 

「じゃあ、なんでこれだけ?」

 

「必要だったから」

 

「……必要?」

 

 イチカが頷く。

 

「当時、人類は灰のせいで滅びかけてたの」

 

「…………え?」

 

「今みたいに地上と地下で争ってたとかじゃない。もっと前。灰そのものが原因で、人類が存続できなくなりかけてた」

 

「…………」

 

「どうすれば生き残れるのか、一度じゃ答えを見つけられなかった。だから、失敗した情報を次の時間へ持ち越して、何度も試せるものを作った」

 

 イチカの視線が、私の手元のノートへ落ちる。

 

「それが、これ」

 

「…………」

 

 人類が滅びる。

 

 失敗する。

 何が駄目だったのかを書き残して、またやり直す。

 

 次は違う方法を試す。

 

「じゃあこれ……」

 

「うん」

 

「最初から、人類滅亡を止めるために作られたの?」

 

「そう伝わってる」

 

「…………」

 

 偶然、私がそう使っていたんじゃない。

 このノートは最初から。

 

 人類が滅びる未来を、何度もやり直して攻略するために作られた。

 

「でも、なんでイチカがそんなことまで知ってるの?」

 

「それは」

 

 イチカが少しだけ言いにくそうに間を置いた。

 

「このノートを作った人が、私の先祖だから」

 

「…………」

 

「え?」

 

「正確には、開発に関わった人の子孫ってことになるけど」

 

「…………」

 

 ノートを見る。

 

 それから、イチカを見る。

 

「イチカのご先祖が……これ作ったの?」

 

「うん」

 

「…………」

 

 だから。

 家宝。

 

 だからイチカは、所有者のことも、十三回のことも、継承の仕方も知っている。

 

 ようやく、その部分まで繋がった。

 

 すると、イチカが、何か思い出したように私を見る。

 

「……あ」

 

「?」

 

「コトハ、タイムリープのこと誰かに話した?」

 

「え?」

 

「今まで。自分が時間をやり直してるって」

 

「…………」

 

 なんで急に。

 

「話したことは、あるけど」

 

「誰に?」

 

「えっと……」

 

 ノノカ。セナ先輩。そのほかにも、時間によっては。

 

「何人くらい?」

 

「その時によるかな……」

 

「一番多い時は?」

 

「…………」

 

 数えようとして、イチカの顔を見る。

 

「なんで?」

 

「大事なことだから」

 

 さっきまでより、少し声が固い。

 

「……四人以上に話したことある?」

 

「ある、と思う」

 

「…………」

 

 イチカが黙った。

 

「何?」

 

「その時、何も起きなかった?」

 

「何かって?」

 

「急に人が死んだり」

 

「…………」

 

 ぞくっとした。

 

「なんで」

 

「やっぱりあった?」

 

「…………」

 

 思い出す。

 何が起きたのか分からなかった。

 

 突然。

 

 目の前で、ノノカがぐちゃぐちゃになって。

 それから、私も。

 

「……あった」

 

「何人?」

 

「分かんない。でも……タイムリープのこと知ってる人が増えたあとだった」

 

「…………」

 

「あれ、何だったの?」

 

 イチカが少し息を吐いた。

 

「このノートには、もう一つ制限があるの」

 

「制限?」

 

「タイムリープを認識していいのは、三人まで」

 

「…………三人?」

 

「四人目が知った時点で、強制的にリープが起きる」

 

「…………」

 

「まず、タイムリープを認識している人たちが死ぬ。そのあと数秒遅れて、所有者も死ぬ」

 

「…………」

 

 言葉が出なかった。

 あの時。

 

 何に襲われたわけでもないのに。

 

 突然、人が死んで。

 そのあと私も死んだ。

 

「……あれ」

 

「うん」

 

「人数が増えたから……?」

 

「そうだと思う」

 

 ずっと分からなかった。

 敵がいたわけでもない。魔女に襲われたわけでもない。

 

 なのに、突然死んだ

 あれも。

 

 ノートの機能だった。

 

「コトハ、じゃあ今は?」

 

「今?」

 

「この時間で、タイムリープのこと知ってる人」

 

「あ……」

 

 考えるまでもなかった。

 まだ誰にも話していない。

 

「イチカだけ」

 

「なら、今は大丈夫」

 

「…………」

 

「でも、これから誰かに話すなら気をつけて。あと二人までだから」

 

「……うん」

 

 今までみたいに。

 

 困ったら、とりあえず誰かに話す。

 みんなに事情を説明して、一緒に考えてもらう。

 

 もう、それはできない。

 

 誰に話すのか。

 

 その三人を、ちゃんと選ばないといけない。

 

「……あれ?」

 

「何?」

 

「さっき、一人十三回って言ってたよね?」

 

「言ったよ」

 

「その十三回って、何をしたら一回なの?」

 

「タイムリープしたら一回」

 

「それは分かるけど……タイムリープって、いつ起きるの?」

 

「所有者が死んだ時」

 

「…………」

 

「やっぱり?」

 

「やっぱり?」

 

「私、今まで毎回死んだあとに戻ってたから。もしかしてって思って」

 

「なら、それで合ってるよ。所有者が死んだら、一回分を使って時間が戻る」

 

「じゃあ、自分で戻りたいって思っても?」

 

「戻れない。死なない限りは」

 

「…………」

 

 そこまで聞いて。

 嫌なことに気づいた。

 

「待って」

 

「何?」

 

「じゃあ私、もう何回使ってるの?」

 

「それは私には分からないよ。コトハが何回死んだか知らないし」

 

「…………」

 

 私が。

 何回死んだか。

 

「ちょっと待って。数える」

 

「うん」

 

 最初。12月31日。

 

 学校に魔女が来て、ノノカを助けようとして――首を飛ばされた。

 

 

 一回。

 

「…………」

 

 次。タイムリープのことを上の人に話したあと。

 

 隣にいたノノカの体が、突然ぐしゃぐしゃになった。その直後、私の腕と脚も勝手にねじれて――死んだ。

 

 二回。

 

 その次。

 地下に魔女が閉じ込められている施設を見つけた時。

 

 エルに拳銃を向けられて、額を撃たれた。

 

 三回。

 

 次は、地上から人が降りてきた時間。

 

 銃を持った女の子を殴れなくて。肩を撃たれて、腹も撃たれて、最後にもう一発。

 

 四回。

 

「…………」

 

 それから。

 

 次の時間のエルに会って、たくさん情報を教えてもらった。

 帰ろうとしたところで、またエルに撃たれた。

 

 五回。

 

 そして、さっき。地上へ行って。

 ミカゲに会って。

 

 地下へ戻ってきたあと、Xデイが始まって。

 

 学校へ向かう途中で、瓦礫に潰された。

 

「…………六回」

 

 口に出したら、急に重くなった。

 

 六回。

 

 私。

 六回も死んでる。

 

「今が七周目だ」

 

「最初の時間をゼロ周目として?」

 

「うん」

 

「なら合ってる。今までに六回タイムリープしてる」

 

「…………」

 

 十三回のうち、六回。

 

 もう半分近く使ってる。

 

「……残りは?」

 

「七回」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あと七回しかないの!?」

 

「声大きい! 他の生徒が来ちゃう!」

 

 慌てて口を押さえる。

 

 七回。

 

 今までは、死んだら戻ると思っていた。

 

 失敗しても、次がある。もちろん死ぬのは怖かったけど、それでも、やり直せることだけは変わらないと思っていた。

 

 でも違う。

 最初に魔女に殺された時から、さっき瓦礫に潰された時まで。

 

 死ぬたびに、一回ずつ減っていた。

 

「…………」

 

 あと七回。

 

 その七回で。

 

 人類滅亡を、どうにかしないといけない。

 

 

 さっきまで聞きたいことが山ほどあったはずなのに、急に何も浮かばなくなった。

 

 十三回。

 そのうち、もう六回。

 

 数字にすると、思っていたよりずっと少ない。

 

「……コトハ」

 

「ん?」

 

 顔を上げる。

 イチカが、こっちを見ていた。

 

「何?」

 

「…………」

 

 返事がない。

 さっきまでノートのことを普通に説明していたのに、急に何か言いづらそうにしている。

 

「イチカ?」

 

「……お願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「うん」

 

「何?」

 

 イチカはすぐには答えなかった。

 一度視線を落として、それから私の正面に立つ。

 

「…………?」

 

 そして。

 深く、頭を下げた。

 

「え」

 

 思わず固まる。

 

「ちょ、ちょっと、何!?」

 

「お願い」

 

 顔は見えない。

 でも、声はさっきまでと全然違った。

 

「弟と――」

 

 一度、言葉が止まる。

 

「地下を」

 

「…………」

 

「助けてください」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。