「――っ!」
目を開けた。
見慣れた天井。12月1日。
「…………」
右腕を動かす。折れていない。左脚も元に戻っている。
死んだ。
また。
「……あと四回」
ベッドから起き上がって、すぐにノートを開いた。
発電設備。送電。地熱。灰式設備の改造。必要な材料。地上で会うべき人。地下で調べなければならないこと。
前の時間で何日もかけて集めた情報が、全部残っている。
「…………」
今度は。
最初から分かってる。
◇◇
まずイチカに会った。
ノートのことと、これまでの時間で起きたことを話して、12月1日の魔女襲撃は任せる。
前の時間と違って、ユウには何も話さない。
それだけ決めると、私はすぐに地下の調査へ向かった。
前なら、何を調べればいいのかを知るだけで何日もかかった。
今回は違う。
灰式設備の動力部分。使われている材料。部品を作るための加工設備。地熱を使えそうな場所を探すために必要な地質の情報。
聞くことは、全部ノートに書いてある。
「この設備の動力部分について知りたいんですけど」
「そこ?」
「はい。それと使ってる材料も」
「ずいぶん細かいところ聞くね」
前の時間では、一つ分かるたびに次の質問を探していた。
今は違う。
質問の答えを受け取ったら、次へ行く。
必要な資料を集める。
また次へ。
前の時間で何日もかけて見つけた道を、今度は最初から走れる。
◇◇
地上へ出た。
前と同じ秘密基地で待って、前と同じようにミカゲが来た。
そして。
『ユウを殺されたくなかったら、私のお願いを聞いて』
二度目でも、嫌なものは嫌だった。
ミカゲの顔が変わるのも、腕を掴まれるのも知っていた。知っているからといって、慣れるわけじゃない。
でも今回は、その先も知っている。
「……電気に詳しい人に会わせてほしい」
「誰だ」
「前に会った人たちがいるの。発電設備に詳しい人と、送電や配線に詳しい人。それから機械の改造について分かる人」
「…………」
ミカゲの目がさらに険しくなった。
「なんで知ってる」
「言えない」
「名前は?」
前の時間で聞いた名前を順番に伝える。
ミカゲは途中から、明らかに気味の悪いものを見る顔になっていた。
「……お前、本当に何なんだ」
「ごめん。それも言えない」
でも。
これでいい。
前は一人ずつ紹介してもらった。
今は、最初から全員知ってる。
◇◇
「地下設備の構造が分からないと――」
「持ってきました」
「……は?」
資料を置く。
「動力部分はこれです。使ってる材料はここ。加工設備はこれだけあって、最初に電気へ変えたいのは水を循環させる大型設備です」
「…………」
「あと、地熱を使うなら地質と熱源と水を調べろって言ってましたよね。それも調べてきました」
「ちょっと待って」
「はい」
「俺、お前にそれ言ったか?」
「…………あ」
言ってない。
この時間では。
「色々あって」
「色々で済むか?」
「時間ないので、次お願いします」
「お、おう……」
前の時間。
私はここで止まった。
地下へ戻って、また調べなきゃいけないと思った。
でも今は。
もう持ってる。
「…………」
追い越した。
前の私が3日かけても辿り着けなかった、その先に。
12月1日のうちに。
◇◇
12月3日。
地下で地熱を使える可能性がある場所がいくつか見つかった。
ただし、候補が見つかればすぐ掘れるわけじゃない。熱源の位置や水の状態を詳しく調べなければならず、そこでまた時間を使った。
ノートに書く。
次。
◇◇
12月7日。
地上側で、小さな発電設備の試作が始まった。
必要な部品を揃えて、組んで、動かす。
動かなかった。
「なんで!?」
「ここ。合ってない」
「直せます?」
「直せる。ただ作り直しだな」
「何日?」
「急いでも二日は欲しい」
「…………」
書く。
失敗した原因。
交換する部品。
次は最初から間違えないように。
◇◇
12月10日。
「……動いた」
小さな音を立てて、試験用の設備が動き始めた。
「動いた……!」
初めてだった。
灰を使っていない。
電気だけで。
嬉しくて、しばらくその場から動けなかった。
でも、これで終わりじゃない。
作った電気を地下へ持っていく。
そして。
地下の設備を動かす。
◇◇
12月13日。
「合わない」
「…………え?」
地上で作った部品と、地下の設備。
繋がらなかった。
「なんで!?」
「規格が違う。このままじゃ無理だ」
「そんな……」
また。
作り直す。測る。地上へ持っていく。直す。ノートに書く。
前には進んでる。
でも、一つ進むたびに。
やることが増える。
◇◇
12月16日。
今度は、別の問題が起きた。
「……壊された?」
地下全体へ水を送る大型設備。
電気化の試験に使うため、構造を調べていたものだった。
その一部が壊されていた。
「事故じゃないの?」
「違う。人為的に壊されてる」
「…………」
調べて分かった。
地上の工作員。
終幕作戦の準備。
地下の生活を支える設備を、事前に潰していた。
「そんな……」
よりによって。
今。
ここを。
修理しないと試験ができない。
予定が、また遅れる。
「…………」
ノートを開いた。
日付を書く。
『12月16日。水循環設備の一部が工作員に破壊される。事前に防ぐ』
この時間では。
もう遅い。
でも次は。
壊される前から知ってる。
◇◇
12月20日。
修理。
12月23日。
改造した部品を取り付ける。
12月26日。
試験でまた問題が見つかり、直す。
日付だけが進んでいく。
でも設備も、少しずつ完成に近づいていた。
あと少し。
本当に。
あと少し。
◇◇
12月三十日。
「……いくぞ」
「はい」
地下の大型水循環設備。
今までずっと灰を使って動いていたもの。
そこへ。
電気を通す。
「…………」
音がした。
一つ。
また一つ。
止まっていた機械が動き始める。
「…………」
水が流れる。
「動いた」
誰かが言った。
「…………」
動いてる。
灰を使ってない。
それでも。ちゃんと。
「動いた……!」
できた。本当に。
灰がなくても。
地下の設備は動かせる。
「できた……」
ずっと無理だと思ってた。
地下が灰を使う限り、地上は苦しむ。
でも灰をなくしたら、地下が生きられない。
どっちかしか助からないと思ってた。
違った。
できる。
両方とも。
「これを増やせば……」
「ああ」
担当していた人が設備を見る。
「同じ方式で、他にも広げられる」
「じゃあ!」
「だが」
「…………」
「今日中には無理だ」
止まった。
「え?」
「これは一基だけだ。必要なところ全部に広げるなら、まだ時間がいる」
「どれくらい?」
「今の人員と設備なら……」
計算する。私は待つ。
お願い。
「最低でも、あと3日」
「…………」
時計を見る。
12月30日。
「三日……」
間に合わない。
◇◇
12月31日。
終幕作戦は始まった。
あと三日あれば。
灰の使用量を、地上が地下を滅ぼさなければならないと思うほどの量から減らせたかもしれない。
せめて三日。
いや。
一日でも早く進められていたら。
でも。
時間は待ってくれなかった。
地上からの攻撃で地下が揺れる。
遠くで何かが崩れる音がした。逃げる人たちの声が重なり、その直後、今までとは比べものにならない衝撃が来た。
「――っ!」
身体が吹き飛ばされる。
痛い。
息ができない。
「…………」
あと。
三日。
そこで、意識が途切れた。
◇◇
「――っ!」
目を開ける。
12月1日。
「…………」
すぐにノートを開いた。
地熱を使える場所。必要な設備。必要な材料。
灰式設備を電気で動かすための改造方法。
試作で失敗した原因。
規格が合わなかった部品。
12月16日に、水循環設備が破壊されること。
そして。
今の手順では。
12月31日に、ようやく最初の大型設備が動く。
「…………」
全部。
残ってる。
前の時間では、一か月かけた。
でも今は。12月1日。
最初から全部知ってる。
「…………」
残り。
今回を含めて、あと三回。
ノートを見る。
やることは、もう分かってる。
できないわけじゃない。
あと。
「……三日」
三日縮めれば。
間に合う。