人類滅亡攻略ノート   作:花露あかね

44 / 44
終幕作戦は中止できません

「無理です」

 

 

「…………」

 

 

何を言われたのか、分からなかった。

 

 

大きな机。その向こうに座っている、何人もの地上人類。

隣にはミカゲがいて、私の手元には、地下の電気化についてまとめた資料が置かれている。

 

 

「…………なんで?」

 

 

やっと出たのは、それだけだった。

 

 

◇◇

 

 

時は巻き戻る。

 

 

12月1日。

残り、三回。

 

 

ノートには、前の時間で一か月かけて集めた情報が全部残っていた。

 

 

地熱を使える場所。必要な設備と材料。正しい部品の規格。灰式設備を電気で動かすための改造方法。試作で失敗した原因。会うべき技術者。

 

 

そして、12月6日に水循環設備が工作員に破壊されることまで。

 

 

前の時間では、12月30日にようやく最初の大型設備が動いた。

 

 

あと三日。

 

 

それだけ縮めれば、間に合う。

 

 

「…………」

 

 

今度は。

 

 

最初から全部、分かってる。

 

 

◇◇

 

 

イチカには、ノートのことと今までの時間で起きたことを話した。12月1日の魔女襲撃は任せて、ユウにはタイムリープのことを教えない。

 

 

地下で集める資料も、もう分かっていた。

 

 

どの設備を調べればいいのか。どこを測ればいいのか。どんな材料が使われているのか。

 

 

前は、必要な情報が何なのかを知るところから始めた。

 

 

今回は違う。

必要なものだけを集めて、次へ行く。

 

 

地上へ出た。

ミカゲには、また同じ嘘をついた。

 

 

『ユウを殺されたくなかったら、私のお願いを聞いて』

 

 

何度言っても、嫌なものは嫌だった。

 

 

でも、その先はもう迷わない。

 

 

会う人も。

聞くことも。

 

 

全部、ノートに書いてある。

 

 

◇◇

 

 

「まず、この部品を――」

 

 

「それ、前のやつだと合わないです」

 

 

「……何?」

 

 

「こっちで作ってください」

 

 

正しい寸法を書いた紙を渡す。

 

 

「なんで知ってる?」

 

 

「色々あって」

 

 

「またそれか……」

 

 

前の時間では、試作して。

 

 

失敗して。

原因を調べて。

 

 

作り直すまでに二日かかった。

 

 

今回は。

最初から正しいものを作る。

 

 

二日。

 

 

消えた。

 

 

◇◇

 

 

「地上側で作った部品を、そのまま地下の設備に――」

 

 

「繋がらないです」

 

 

「…………」

 

 

「規格が違うので、最初から地下側に合わせてください」

 

 

「お前、本当に何で知ってるんだ?」

 

 

「色々あって」

 

 

前の時間で、一度作り直した。

 

 

今回は。

最初から合わせる。

 

 

また。

 

 

時間が縮む。

 

 

◇◇

 

 

十二月十六日。

 

 

前の時間では、この日に水循環設備を壊された。

 

 

だから今回は、破壊に使われる場所だけ事前に使えない状態にして、重要な部品も別の場所へ移しておいた。

 

 

工作員そのものには手を出さない。

捕まえれば、また何が起こるか分からないから。

 

 

結果。

 

 

設備は壊れなかった。

 

 

「…………」

 

 

また。

 

 

前の時間で失った日数が消える。

 

 

二日。

 

 

一日。

 

 

半日。

 

 

少しずつ。

 

 

12月31日から、遠ざかっていく。

 

 

◇◇

 

 

12月37日。

 

 

「いける」

 

 

「…………」

 

 

「流すぞ」

 

 

「はい」

 

 

電気が通る。

地下全体へ水を送る設備が動き始めた。

 

 

でも、今回はそれだけじゃない。

 

 

空調。

 

 

工場。

 

 

農業設備。

 

 

灰の消費量が特に大きいものから、順番に切り替えてきた。

 

 

一つ。

また一つ。

 

 

灰の供給を止める。

それでも、設備は止まらない。

 

 

「…………」

 

 

動いてる。

 

 

灰を使ってないのに。

 

 

地下は。

ちゃんと動いてる。

 

 

「……できた」

 

 

前の時間では、12月30日にようやく一基。

 

 

今回は。

 

 

12月37日。

 

 

灰の使用量は、地上への影響を大きく減らせるところまで落ちていた。

 

 

「…………」

 

 

三日。

縮めた。

 

 

「間に合った……」

 

 

やっと。

 

 

本当に。

 

 

◇◇

 

 

これなら。

 

 

地下は、灰を使わなくても生きていける。

 

 

全部を一度に電気へ変えたわけじゃない。でも、このまま切り替えを続ければ、地上へ出る灰は大幅に減らせる。

 

 

だったら。

 

 

もう。

 

 

戦う必要はない。

 

 

「上に話を持っていける」

 

 

データを確認したミカゲが言った。

 

 

「本当?」

 

 

「ああ。ここまで数字が出てるなら、無視はできない」

 

 

「じゃあ……!」

 

 

終幕作戦を。

止められる。

 

 

◇◇

 

 

12月28日。

 

 

初めて入る場所だった。

今まで会ってきた技術者とも、ミカゲとも違う。

 

 

終幕作戦そのものについて判断できる人たち。

 

 

大きな机を挟んで、何人もの地上人類が座っていた。

 

 

私は、その前で全部話した。

地下で何に灰が使われていたのか。

 

 

それを、どこまで電気へ変えたのか。

 

 

実際に灰の使用量がどれだけ減ったのか。

今後、どの設備を切り替えていくのか。

 

 

資料も。

 

 

数字も。

 

 

全部見せた。

 

 

「地下は、灰を使わなくても生活できます」

 

 

誰も口を挟まない。

 

 

「全部を今すぐゼロにはできません。でも、このまま切り替えれば、地上に影響が出ないところまで減らせます」

 

 

ここまで。

 

 

何回死んだ?

何日使った?

 

 

何人に話を聞いた?

 

 

やっと。

 

 

ここまで来た。

 

 

「だから」

 

 

息を吸う。

 

 

「終幕作戦を止めてください」

 

 

沈黙。

返事を待つ。

 

 

そして。

 

 

「無理です」

 

 

「…………」

 

 

何を言われたのか、分からなかった。

 

 

「…………なんで?」

 

 

なんで。

 

 

「灰は減らせます」

 

 

「承知しています」

 

 

「だったら!」

 

 

「あなた方が灰を使用しなくなったとしても、終幕作戦は中止できません」

 

 

「…………?」

 

 

意味が分からない。

 

 

「なんで……?」

 

 

資料を見る。

間違ってない。

 

 

ちゃんと減ってる。

 

 

「だって、地下が灰を使ってるから、地上の人が生きられなくなるんですよね?」

 

 

「はい」

 

 

「じゃあ!」

 

 

「地下から排出される灰が、地上人類に被害を与えている。それは事実です」

 

 

「…………」

 

 

「あなた方が灰の使用量を減らしたことにも、大きな意味があります」

 

 

「だったら、なんで……」

 

 

「ですが」

 

 

静かな声だった。

 

 

「それは、終幕作戦を実行する最大の理由ではありません」

 

 

「…………」

 

 

何を。

言ってるの。

 

 

「では」

 

 

机の向こうにいる一人が、私を見る。

 

 

「Zデイをご存じですか?」

 

 

「…………」

 

 

初めて聞いた。

 

 

「Z……デイ?」

 

 

「はい」

 

 

「終幕作戦の日……?」

 

 

「違います」

 

 

即答だった。

 

 

「終幕作戦とZデイは、別のものです」

 

 

「…………?」

 

 

分からない。

 

 

何の話。

 

 

「Zデイって……何?」

 

 

少しだけ。

間があった。

 

 

「Zデイが発生すれば」

 

 

その人は。

何でもないことを説明するみたいに、静かに言った。

 

 

「地下も、地上も関係ありません」

 

 

「…………」

 

 

「ほぼ全ての人間が」

 

 

続く言葉を。

私はまだ知らない。

 

 

「最終的には、灰まみれになります」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TSボクッ娘は完璧な王子様系怪盗を演じたいようです。(作者:最高司祭アドミニストレータ)(オリジナル:現代/日常)

病室で短い生涯を終えたはずの少年が、銀髪の少女として生まれ変わり、念願の健康な体で趣味の怪盗活動を満喫するお話です。▼【挿絵表示】▼※AI本文は、作者が書いた原文を拡張したものとなります。


総合評価:308/評価:7.57/連載:25話/更新日時:2026年10月25日(日) 00:01 小説情報

崩壊世界でルートシューター(作者:穴熊拾弐)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

ルートシューターってジャンルのゲームがある。広大な廃墟に放り出されてゴミを漁って持ち帰る。それを売ったり、施設を改良したりして成長していくってゲームだ。俺はそれをやらされている。何故か人を喰う怪物が闊歩し、滅亡寸前の現実世界で。▼金が尽きれば命が尽きる。崩壊世界で生きる1人の傭兵の話。▼


総合評価:5062/評価:8.46/連載:68話/更新日時:2026年10月10日(土) 11:00 小説情報

アステロイド・ベルトの残骸漁り(作者:七つ葉なずな)(オリジナル:SF/ノンジャンル)

西暦2162年、小惑星帯。人類の9割はまだ地球にいて、残りは企業が実効支配する岩の上で暮らしている。▼ケレスに生まれた17歳のマユルは、戸籍を持たない「不法移民の子」。財産はローンで買った中古のサルベージリグ一機と、月額課金のAIアシスタント、それから己の技と知識だけ。▼戦争が撒き散らした宇宙船の残骸から、ポンプ一個、ハッチ一枚を剥ぎ取って生計を立てる日々。…


総合評価:1762/評価:8.89/連載:29話/更新日時:2026年11月03日(火) 20:12 小説情報

非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?(作者:色付きカルテ)(オリジナル:現代/ミステリー)

とある少女が異能犯罪を解決する話▼少女は犯人を追い詰めるが、自分は過去に追い詰められていく▼書籍第一巻発売されました!▼何時も応援ありがとうございます!▼イラストを描いて頂けました▼本編のネタバレ要素もあるのでご注意ください▼〇 あまくしらさん▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼〇 ねこやさん▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼また、他の方からのイラストも…


総合評価:35165/評価:9.41/連載:145話/更新日時:2024年04月22日(月) 21:13 小説情報

余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~(作者:富士伸太)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

俺、小津翔一は日本のごく平凡なサラリーマンだったはずなのだが、気付いたら宇宙生物と戦う巨大ロボに転生していた。▼そんな俺のコックピットに乗り込んできたのは戦闘知識以外はなんにもしらない、情緒も体もペラッペラのうすほそ幼女(遺伝子強化済)。▼地獄のような戦場に理由もわからずブチ込まれ、自分が不幸だということさえ理解できないこの子をほんの少しでも幸せにしようと思…


総合評価:4119/評価:8.69/連載:47話/更新日時:2026年11月03日(火) 21:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>