話を聞き終わっても、私はその場を動けなかった。
Zデイを止める方法は、この人たちにも分からない。
でも。
分からないなら。
「……原鉱を」
「?」
「別の場所に移すのは駄目なんですか?」
「現実的ではありません。量が多すぎる上、移動させるには現在の封印を解かなければならない。その時点で原鉱の反応が始まります」
「じゃあ、封印を直すとか」
「可能な補修は既に行っています。それでもZデイそのものを防げるほどの延命はできません」
「もっと頑丈にするのは?」
「同じです」
「原鉱を……壊すとか」
「刺激を与えれば、反応を早める危険があります」
「じゃあ……」
考える。
何か。
何かないの。
「全部、エネルギーとして使っちゃうのは?」
「残されている原鉱を一度に反応させれば、自分たちでZデイを起こすのと変わりません」
「……そっか」
駄目。
次。
「じゃあ――」
思いついたことを、片っ端から聞いた。
原鉱をもっと深い場所へ移す。駄目。封印を別の方法に変える。駄目。少しずつ外へ出す。危険。灰が地上へ行かないように地下だけに閉じ込める。それだけの量を閉じ込める方
法がない。
私が思いつく程度のことは、この人たちもとっくに考えていた。
「……他には?」
「何を聞きたいのです?」
「分かんないです。分かんないけど……何か」
何でもいい。
一個くらい。
「原鉱をなくせる方法とか。灰が出なくなる方法とか」
「それが分かっていれば、終幕作戦を実行する必要はありません」
「……ですよね」
分かってる。
でも。
聞かずにはいられなかった。
◇◇
地上に答えがないなら、地下にも聞いた。
灰を扱う施設へ行って、使い終わった灰をどうしているのか聞いた。研究者には、灰を無害にする方法がないか聞いた。旧文明の資料も探したし、以前行った工場にも足を運んだ。
「原鉱って知ってますか?」
「何それ?」
知らない。
また別の人には、古い資料を何冊も出してもらった。
「旧文明のエネルギー技術なら、この辺りかな」
「ありがとうございます」
一枚ずつ見る。
分からないところは聞く。別の名前が出れば、その人を探す。
でも。
「……ない」
欲しい答えだけが、どこにもなかった。
◇◇
それからも、地上と地下を行き来した。
灰を扱う施設へ行った。研究者にも聞いた。旧文明の資料も探した。
それでも、原鉱そのものをどうにかする方法は見つからない。
私は、もう一度地上の上層部を訪ねた。
「封印って、あと何年か延ばせませんか?」
「難しいでしょう」
「一年は?」
「保証できません」
「一か月だけでも」
「仮に一か月延ばせたとして、その間に何をするのです?」
「……方法を探します」
「その方法が、現在見つかっていないのですが」
「……そうですけど」
また駄目。
「じゃあ……」
Zデイを止めるんじゃなくて。
その時、そこに人がいなかったら。
「逃げるのは?」
「逃げる?」
「Zデイが起きる前に、みんな別の場所へ逃げるんです。灰が来ないところに」
「そのような場所が存在するなら、既に避難計画を立てています」
「あ……」
「Zデイで発生する灰は地下だけには留まりません。先日説明した通り、最終的には地上にも広がります」
「じゃあ……」
地下から逃げても。
地上へ行っても。
そこにも灰が来る。
「地上じゃなくて、もっと遠くとか……」
「どこへ?」
「……」
答えられなかった。
地下でも駄目。
地上でも駄目。
逃げる場所そのものがない。
◇◇
時間がない。
今日は、12月30日。
Zデイのことを知った時点で、12月はもうほとんど残っていなかった。
そこから地上と地下を行き来して、思いつく限りの場所を回った。研究者に聞き、資料を探し、上層部のところへも何度も戻った。
それでも。
答えは見つからない。
「……あと、何があるの」
ノートをめくる。
できない。
危険。
間に合わない。
そんな情報ばかりが増えていく。
そこで。
まだ一つだけ、やっていないことに気づいた。
原鉱そのものを。
私はまだ、一度も見ていない。
◇◇
「原鉱が封印されている場所を教えてください」
もう一度地上へ戻ってそう言うと、当然、すぐには頷いてもらえなかった。
「何をするつもりです?」
「分かりません」
「……分からない?」
「はい。でも、ここで話を聞いてるだけじゃ、もう何も思いつかないから」
自分でも、無茶を言っていると思う。
「実際に見たら、何か分かるかもしれない」
「何も分からない可能性の方が高いでしょう」
「それでもいいです」
しばらく考えたあと、その人は場所を教えてくれた。
ただし。
「封印区域まで辿り着ける保証はありません」
「なんでですか?」
「周辺には《灰まみれ》が存在します」
「……灰まみれ?」
「複数確認されています。原鉱そのものを見る以前に、接触する可能性が高い」
「どうしてそんなところに……」
「旧文明時代の人間です」
「え?」
「元は、原鉱の封印作業に従事していた作業員だと記録されています」
一瞬、意味が分からなかった。
「旧文明って……数百年前ですよね?」
「そうです」
「じゃあ、その人たち……」
まだ。
いるの?
「灰まみれになった後も、現在まで生存している個体が確認されています」
「数百年前の人間です」
「……そんなに生きるんですか」
「少なくとも、確認されている個体は」
また一つ。
知らなかったことが増えた。
「経路は今渡した通りです。こちらから同行者を出す予定はありません」
「……はい」
元から、一人で行くつもりだった。
◇◇
教えられた道を、一人で進んだ。
地下の街より、さらに下。
人が生活するために整えられた場所を抜けると、景色は一気に変わった。壁も床も旧文明のものらしく、ところどころ崩れ、長い間誰も手を入れていない設備がそのまま残っている。
奥へ進むほど、灰が増えた。
「……ここ?」
まだ封印区域には着いていない。
なのに。
いた。
遠くに、人影みたいなものが立っている。
「…………」
人じゃない。
形が違う。
灰まみれ。
しかも、一体だけじゃなかった。
「これ、通らないといけないの……?」
原鉱をどうすればいいのか分からない。
やっと場所を知ったと思ったら、そこへ行く道に数百年前から生きている灰まみれがいる。
「……問題が増えた」
思わず口から出た。
でも、帰れなかった。
ここまで来て。
何も見ないで帰るなんて。
少しでも先へ。
見つからないように、壁際を進む。
一歩。
また一歩。
灰まみれは、まだこっちを見ていない。
いける。
もう少し――
その時。音がした。
「……え?」
振り返る。
さっきまで遠くにいたはずの灰まみれが、こっちを向いていた。
「あ」
まずい。
翼を出す。
逃げようとした。
でも。
遅かった。
◇◇
「――っ!」
目を開けた。
見慣れた天井。
「…………」
身体を起こす。
腕がある。脚も。
さっきまでの痛みも、全部消えている。
12月1日。
「……また」
戻った。
ノートを開く。
原鉱について調べたこと。試して駄目だったこと。封印区域までの道。そこに灰まみれがいること。元作業員。
全部。残ってる。
でも。
答えはない。
「…………」
あと一回しか、タイムリープは出来ない。
◇◇
ノートを持って、学校へ向かった。
もう。
自分で考えても分からなかった。
地上の偉い人に聞いても駄目だった。研究者に聞いても資料を探しても。実際に原鉱のところへ行こうとしても。駄目だった。
学校に着いて、探す。教室。廊下。
そして。
「コトハちゃん?」
声がした。振り返る。
ノノカ。
いつものノノカだった。
何も知らない。
今まで私が何回死んだのかも。
ノノカが何回死んだのかも。
人類があと少しで滅ぶことも。
「どうしたのですか?」
顔を見たら。
急に。
もう、駄目だった。
「ノノカぁ……」
「……コトハちゃん?」
そのまま抱きついた。
「助けて……」
「…………」
ノノカは驚いたように少し身体を固くした。
「どうしたんですか、コトハちゃん」
「私、もう分かんない……」
「…………」
服をぎゅっと掴む。
「どうやったら人類滅亡を止められるのか……分かんなくなった……」
「人類滅亡……?」
「もう、私一人じゃ分かんない……」
涙が止まらない。
「お願い……」
ノノカの服に顔を埋めたまま言う。
「一緒に考えて……」