人類滅亡攻略ノート   作:花露あかね

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早すぎる

「君は誰だ?」

 

 一拍。

 

「ここで、一体何をしている?」

 

 少年は答えなかった。

 セナ先輩に床へ押さえ込まれたまま、私たちを睨んでいる。

 

 近づくのが怖い。

 

 この人に、私は一度殺されている。ノノカも。

 でも今は拳銃を落として、セナ先輩に押さえられている。

 

「……なんで」

 

 声が少し震えた。

 

「なんで魔女をここに閉じ込めてるの?」

 

 少年の目が私へ向く。

 

「あの魔女たちを学校に放ったのも、あなたなの?」

 

「…………」

 

 一瞬。

 

 本当に一瞬だけ、少年の表情が変わった。

 ノノカも気づいたらしい。

 

「やはり、学校襲撃について何か知っているんですね」

 

「……お前ら」

 

 少年が初めて口を開いた。

 

「どうやってここを見つけた」

 

「それは……」

 

 答えられない。

 

「誰から聞いた?」

 

「誰からって……」

 

「ここの場所を誰に聞いた。襲撃のことをどうして知ってる」

 

 さっきまで押さえ込まれて黙っていたのに、急に質問が飛んでくる。

 

「それは言えません」

 

 ノノカが答えた。

 

「……拳銃のことも知ってたな」

 

 少年の視線が、床に落ちている拳銃へ向く。

 

「俺がいることも、最初から知ってた」

 

「…………」

 

 何も言えない。

 私たちからしたら、前の時間で見たから。

 

 でも、この人からしたら。

 

「……どこまで知ってる」

 

 声が変わった。

 さっきまでより、明らかに焦っている。

 

「コトハクン」

 

「え?」

 

「少し下がっていた方がいい」

 

 セナ先輩に言われ、ノノカと一緒に数歩下がる。

 

「さて。質問しているのはこちらなんだけどね」

 

「……」

 

「この魔女たちは何だ? 君はここで何をしていた?」

 

 少年は答えない。

 

「ふむ。強情だねぇ」

 

 セナ先輩が困ったように笑う。

 

「まあ、ゆっくり話を――」

 

 少年が突然、首元へ顔を寄せた。

 

「――緊急連絡!」

 

「!」

 

 セナ先輩が動く。

 

「収容施設が露見した! 地下側に作戦が――」

 

「っと!」

 

 少年の首元から、小さな機械が引きちぎられた。

 

 セナ先輩がそれを床へ投げ、ステッキで叩き壊す。

 

 バキッ、と音が響いた。

 

「……危ない危ない。今、誰かと話してたね?」

 

 少年は答えない。

 でも、顔色が変わっている。

 

「……今の、何?」

 

「通信機でしょうね」

 

 ノノカが壊れた機械を見る。

 

「離れた相手と会話するための、旧文明の道具に似ています」

 

「また旧文明……」

 

 拳銃といい、通信機といい。

 この人、一体何なの?

 

「どこまで伝わったと思う?」

 

「分かりません」

 

 ノノカが首を横に振る。

 

「少なくとも、『収容施設が露見した』までは口にしていました」

 

「じゃあ……」

 

 間に合わなかった?

 

「いや」

 

 セナ先輩が壊れた通信機を拾い上げる。

 

「最後までは話せていない。これを調べれば、誰と連絡していたのか分かるかもしれないね」

 

「……うん」

 

 大丈夫。

 

 多分。

 全部は伝わってない。

 

「それで」

 

 ノノカが少年を見る。

 

「先ほど、何を伝えようとしていたんですか?」

 

「…………」

 

「『地下側に作戦が』。その続きです」

 

 少年は黙ったまま。

 

「作戦って、何?」

 

 私も聞く。

 

「魔女を学校に送ったこと?」

 

 答えない。

 

「それとも、もっと別の……?」

 

 少年の表情からは何も分からない。

 

 セナ先輩が小さく息を吐いた。

 

「まあ、ここで聞いても話してくれそうにはないね」

 

 少年の腕を掴んだまま立たせる。

 

「とりあえず、この子と拳銃は私が預かろう。通信機も持って帰って、調べられる人を探す」

 

「残りの魔女はどうしますか?」

 

「今すぐ全部倒す必要はないかな。閉じ込められてるなら、まずは外に出られないようにしておこう」

 

 セナ先輩が周囲を見る。

 

「それから応援を――」

 

 少年が突然、体を捻った。

 

「っ!」

 

 セナ先輩の手から抜けようとする。

 

「ちょっ!」

 

 少年が出口へ走る。

 

 でも。

 

「おっと」

 

 数歩も進まなかった。

 セナ先輩が追いつき、腕を取る。そのまま再び床へ押さえ込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

「元気だねぇ。悪いけど、逃がしてあげるわけにはいかないんだな、これが」

 

 少年は必死に抵抗している。

 さっきよりもずっと。

 

「……なんで」

 

 思わず口から出た。

 

「なんでそんなに逃げようとするの?」

 

 少年がこちらを見る。

 答えない。

 

 でも、その顔は怖いくらい真剣だった。

 

 この人も、何かしようとしている。

 何かを伝えようとしている。

 

 そこまでして。

 

「……さっきの連絡」

 

 ノノカが呟く。

 

「最後まで伝えられなかったから、でしょうか」

 

「何を?」

 

「それが分からないんです」

 

 少年はまた黙った。しばらくしても口を開かない。

 でも。

 

 捕まえた。

 

 拳銃もある。

 通信機もある。

 

 魔女が閉じ込められている場所も分かった。

 

 残っている魔女たちは、まだ柵の向こうにいる。

 

「……これで」

 

 柵の向こうを見る。

 

「これで、学校は襲われない?」

 

「少なくとも、ここにいる魔女たちが学校へ行くことはないだろうね」

 

 セナ先輩が答える。

 

「じゃあ……」

 

 やった?

 

 今度こそ。

 

 前は学校が襲われた。

 だから襲撃される前に、魔女がいる場所を見つけた。

 

 ここに来た。

 

 魔女も倒した。

 あの男の子も捕まえた。

 

「……よかった」

 

 力が抜ける。

 

「まだ全部解決したわけではありませんよ」

 

「分かってる。でも……」

 

 それでも。

 

 一歩進んだ。

 今度こそ、ちゃんと。

 

「コトハクン」

 

「はい?」

 

「帰ったら少し休んだ方がいいね。さっきから顔が――」

 

 ドン。

 

「……え?」

 

 足元が揺れた。

 小さく。

 

「地震?」

 

 セナ先輩が周囲を見る。

 

 少年の動きが止まった。

 その顔から、血の気が引いていく。

 

 ドォン!!

 

「きゃっ!?」

 

 今度は大きい。

 

 壁が揺れる。天井から細かい埃が落ちてきた。

 

 この音。

 この揺れ。

 

 知ってる。

 

「……嘘」

 

「コトハちゃん?」

 

「嘘……」

 

 そんなわけない。

 だって今日は。

 

「外へ出よう」

 

 セナ先輩が少年を引っ張って走り出す。

 

 私とノノカも後を追った。

 

◇◇

 

 外へ出る。

 

 誰もいない。使われなくなった建物が並ぶ、静かな区画

 私たちは、揃って上を見ていた。

 

「…………嘘」

 

 天井に、亀裂が入っている。

 地下世界を覆う、巨大な天井。

 

 そこに黒い線が走り、少しずつ広がっていく。

 

 知ってる。

 私はこれを見た。

 

「なんで……?」

 

 亀裂が枝分かれする。

 

 そして。崩れた。

 巨大な瓦礫が、遠くの街へ降り注ぐ。

 

 穴から、黒い影が落ちてくる。

 

 1つ。

 

 2つ。

 

 そんな数じゃない。

 

「魔女……」

 

 遠くの街で、建物が崩れていく。

 黒い煙が上がる。

 

 同じ。

 

 12月31日に見た光景と。

 

「……でも」

 

 震える手で端末を取り出す。

 画面を見る。

 

『12月1日』

 

「……なんで」

 

 何度見ても変わらない。

 12月1日。

 

「これ……30日後の……」

 

「コトハちゃん?」

 

 ノノカが私を見る。

 違う。

 

 今日じゃない。

 

 これは今日起きるはずじゃない。

 

「Xデイ……」

 

「Xデイ?」

 

 セナ先輩が聞き返す。

 

 答えられない。

 頭が追いつかない。

 

 どうして。

 

 なんで30日後のことが、今――。

 

「……早すぎる」

 

「え?」

 

 声がした。

 

 少年。

 セナ先輩に腕を掴まれたまま、崩れていく天井を見上げている。

 

 その顔は笑っていなかった。

 

 むしろ、青ざめている。

 

「……もう始めたのか」

 

「何の話?」

 

 少年は答えない。

 

 でも、小さく。本当に小さな声で。

 

「……緊急終幕作戦」

 

「…………え?」

 

 その時。

 

 ドォン!!

 また、遠くで大きな音がした。

 

「っ……!」

 

 今度は、さっき天井が崩れた方じゃない。

 もっと離れた場所。

 

 建物の向こうで、天井の一部が崩れていくのが見えた。

 

「……え?」

 

 さっきの穴を見る。

 

 ある。

 じゃあ、今崩れたのは。

 

「……穴、一つじゃないの?」

 

 12月31日に、私が見たのはあの大きな穴だけだった。

 

 でも。

 

 もしかして、見えていない場所にも――。

 

 また、遠くで何かが崩れる音がした。

 頭が追いつかない。

 

 穴が一つじゃない?

 

 それに、今この人、何て言った?

 

「今、なんて言ったの?」

 

 少年は口を閉ざす。

 

「終幕作戦って何?」

 

 答えない。

 

「ねえ!」

 

 さっきの通信が頭に浮かぶ。

 

『収容施設が露見した! 地下側に作戦が――』

 

 収容施設が露見した。

 私たちが見つけた。

 

 だから連絡した。その直後。

 30日後に起きるはずだったXデイが始まった。

 

「……まさか」

 

 遠くの街へ、今も魔女が落ちていく。

 また、建物が崩れる。目の前には、捕まえた少年。

 

「……私たちが」

 

 喉が震える。

 

「私たちがここを見つけたから、Xデイが始まったの……?」

 

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