正史ではトランクスが乗っ取られるが、これはパンが乗っ取られていたらというもしものお話。
惑星ピタル。
林の中でパンがシカと戯れている。
「本当に可愛いね」
そこに緑髪の少年がやってくる。
「え?」
振り返るパン。
「あ、いいの? こんなところ歩いてて」
「えへへ。僕、注射嫌いなんだ。だから抜け出してきちゃった」
「どこかの誰かさんと同じね」
少年は訊ねる。
「あのー、悟空さんたちは?」
「ん? あ、今ね、食べ物探しに行ってる」
シカがパンのお尻をツノで押す。
パンは振り返って。
「あ、もう、こら」
少年は不気味な笑みを浮かべ。
(ということは、こいつ一人か)
少年はゆっくりとパンに迫る。
(まずはお前のサイヤパワーをいただくぞ)
少年はパンに手を伸ばす。
気配に気づいて振り返るパンだったが、首を強い力で絞められてしまう。
「やめ……て……」
少年の腹部からベビーが顔を覗かせる。
「お前の体で悟空とトランクスを襲ったらどうなるだろうな?」
ベビーは少年の体から完全に飛び出すとジェル状になってパンに覆い被さった。
「きゃああああ!」
悲鳴を上げるパン。
「おーい、パーン!」
と、そこに悟空とトランクスが現れるが、ベビーはすでにパンの体内に入り込んでいた。
「あ、おじいちゃん、トランクス」
「なんだ、こんなとこいたんか、捜したぞー」
悟空が少年に気づく。
「あれ? おめえ勝手に病院抜け出したらダメじゃねえか。お医者が捜してたぞ」
「よく言うわよ、おじいちゃんったら」
そこに医者がやってくる。
「おーい、こんなところにいたか。捜したよ君」
医者が少年を掴む。
「さあ、病室に戻りなさい」
「ああ、僕もう大丈夫ですから」
「何を言ってるんだね。大丈夫なわけないだろ? まだ検査も充分じゃないんだから」
医者は少年を連れて行く。
パンベビーは思った。
(クククク、少し来るのが遅かったな。こいつの体は俺がいただいた。あとはどこかのタイミングで抜け出して、残った二人のサイヤパワーもいただくとしよう)
「あ、私ちょっとトイレに行ってくるわね」
パンベビーはそう言って、少年を連れて行った医者を追う。
「すみません」
振り返る医者。
ベビーはパンの体からジェル状になって飛び出し、医者の顔に覆い被さる。
「うわああああ!」
苦痛に叫ぶ医者の体内に、ベビーは入り込む。
「パン、適当に時間を潰して二人と合流しろ」
「わかりました」
医者ベビーは少年の車椅子を押して去って行く。
パンは適当にぶらぶらと時間を潰し、悟空とトランクスの元へ戻った。
丘の上。
「はあ。いい天気だなあ。ドラゴンボールも四つ揃ったし、この調子で早いところ他の三つもぱんぱんぱんと見つけちゃいましょうよ」
と、トランクスが言う。
悟空は横たわりながらため息を吐く。
「地球のみんなどうしてるかなあ?」
「あれあれ? ホームシックかなあ、パンちゃんは」
トランクの言葉にパンは返す。
「そんなじゃないわ」
「はあ」
悟空のため息にパンとトランクスが顔を向ける。
「あ……オラもうダメだ」
「どうしたのおじいちゃん?」
と、パンに続いて。
「さっきからなんか変ですよ?」
トランクスが言う。
「いや、あの雲がよ。シュークリームみてえで美味そうだなあってな」
「おじいちゃん、ご飯食べたんじゃないの?」
その問いにトランクスが答える。
「それがとんでもなくまずくて」
「何よそれ。やっぱり病院の食堂行こうよ。私もお腹空いちゃったわ」
「嫌だよ。注射打たれちまうもん」
そこに医者がやってくる。
(ベビー様だ)
と、パン。
「ほっほっほっほ。そんなことありませんよ。どうぞ安心して病院の食堂をご利用ください」
悟空は起き上がる。
「本当か? オラが飯食ってっと、いきなり後ろからブスッと注射打ったりしねえだろうな?」
「どこの世界にそんな医者がいるんですか。さあ、バカなこと言ってないで行きましょう」
三人が医者と共に病院の食堂に向かう。
悟空はこれでもかと言うくらいたくさん食べている。
パンとトランクスはポカンと口を開けて悟空を眺めている。
「ところで、トランクスさんだったかな?」
医者がトランクスを見て訊ねる。
「はい」
「君はここに来る途中、随分とこの病院の設備に興味を示していたようだが?」
「ええ。この星の科学技術は素晴らしいですよ。あれだけの医療設備は地球のどの病院でも見たことありません」
「それでは特別に私が病院の中を案内してあげよう」
「本当ですか!?」
トランクスは医者に連れられ、病院の中を見て回っている。
「わあ。すごい!」
部屋の中央の設備に夢中になるトランクス。
医者が不気味な笑みを浮かべながら、トランクスに近づく。
「すごい性能ですね。とても地球には——」
医者がトランクスの首を絞める。
「な、何をする!?」
苦しそうな表情で訊ねるトランクス。
「ふっふっふっふ。お前のサイヤパワーをよこせ」
「お、お前は、ベビー……! 生きていたのか!」
ベビーが医者の左肩から姿を現す。
「お前たちが俺の細胞を完全に消滅させなかったのが幸運だった。俺はあの後ドクターミューに乗り移り、リルドに乗り移り、そしてお前たちを追うため、必要な人間どもに乗り移って再び成長してきたのだ」
「では、あの宇宙船も!? 乗客たちはどうした!?」
「みんな俺のエネルギーになったさ。今頃は宇宙の墓場に辿り着いていることだろう」
「な、何と言うことを……!」
「ではサイヤパワーをいただくとするか」
ベビーがジェル状になる。
「と言うことだそうですよ、悟空さん!」
しかし、悟空はおろかパンさえやってこなかった。
「無駄だ。今頃あの小娘が悟空の邪魔をしているよ」
「なんだって?」
「あの小娘は俺の忠実なシモベになったんだ」
「どういうことだ?」
「こういうことだよ」
ベビーがトランクスに覆い被さり、その体内に入り込む。
「うわああああ!」
苦痛に顔を歪めるトランクス。
「ふふふふ。すごいエネルギーだ」
その時、トランクスが抵抗を始めた。
「なに!?」
トランクスが超サイヤ人に変身し、ベビーを体外へ追い出す。
吹っ飛ばされたベビーが床に叩きつけられる。
「お前の体は完全に支配することは敵わなかったが、仕掛けを施させてもらったよ」
「何を言って——」
刹那、トランクスを激しい頭痛が襲う。
「うわ! これは!?」
超化が解けて倒れ込むトランクス。
「お前の体内に卵を産み落としておいた。あの小娘にも同じものを置いてきた」
「卵だと!?」
「その卵でお前は俺の奴隷となるのだ」
「そんなこと死んでもごめんだ!」
「あとどれくらい抵抗できるかな?」
「ぐっ……!」
トランクスの目が赤く染まる。
「大丈夫かトランクス!」
そこに悟空がやってくる。
パンも一緒だ。
「ベビー! オラのかめはめ波をくらってピンピンしてるとはな!」
悟空がかめはめ波の体勢になる。
「ふっ」
ベビーは笑う。
するとパンが悟空に襲いかかる。
「うわ!」
パンの攻撃をくらい、悟空は吹っ飛んだ。
「いきなり何すんだパン!?」
「よくやったパン」
悟空がベビーを見る。
「どういうことだ!?」
「こういうことさ」
ベビーがジェル状になり悟空に接近する。
悟空は咄嗟にかわす。
「はあ!」
悟空の気弾がベビーを襲う。
ジェル状のベビーに穴が開くが、再生して元の姿になる。
「パン、トランクス、やつを押さえろ!」
「「はい!」」
パンとトランクスが悟空に迫り拘束した。
「な、やめろ!」
「ふふふふ。悟空、お前のサイヤパワーももらうぞ」
「はああああ!」
悟空は気を解放して超サイヤ人3となり衝撃でパン、トランクス、ベビーを弾き飛ばした。
「なんだこの凄まじいエネルギーは!? これでは入り込んでも俺が潰されてしまう!」
「パン、トランクス、おめえたちどうしちまったんだ!?」
「私たちはベビー様に忠誠を誓うことにしたのよ。おじいちゃんもベビー様に卵を植え付けてもらうのよ」
「卵だって!?」
驚き戸惑う悟空。
「そうさ。俺は乗り移った相手に卵を産み落として操ることができる。悟空、お前も俺の奴隷となれ」
「オラ、死んでもおめえの手下になんかなんねえ!」
「そうか。ならば死ぬがいい!」
パンとトランクスが悟空に襲いかかる。
しかし、悟空は二人に反撃することができないでいた。
デク坊の悟空を二人が乱打して追い詰める。
やがて悟空はダメージを受けてボロボロになり倒れ込んでしまった。
「今だ!」
ベビーがジェル状になり悟空に迫る。
悟空は力を振り絞ってかわした。
「往生際が悪いわよ、おじいちゃん」
逃げ出す悟空。
パンとトランクスが追おうとするが。
「待て!」
二人が立ち止まって振り返る。
「ベビー様?」
と、疑問符を浮かべるパン。
「放っておけ。どうせ一人では何もできまい。それより、DB4649T2006RSはどこだ?」
「そうか! 悟空さんを放っておいて俺たちで残りのドラゴンボールを捜しに行くんですね!」
トランクスに続いて。
「でも、ギルが素直に言うことを聞くでしょうか?」
と、パンが訊ねる。
「その時は分解でもしてレーダーだけ取り出せばいい」
二人はなるほどと思った。
「俺は単独で先に地球へ向かう。お前たちはゆっくりドランゴーボールを捜しながら来い」
ベビーはそう言って、部屋を出て行く。