異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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【お知らせ】

前作『異世界おじさん、原神の世界へ』は、作品全体の設定や構成を見直すため、投稿を停止していました。

今回、内容を最初から整理して全面的に改稿し、

『異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版』

として完成しました。

前作を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

なお、前作は『全面改稿版』への移行に伴い、一週間ほどを目安に削除する予定です。

前作を読んでくださった方も、よろしければ新しくなった『全面改稿版』を読んでいただけると嬉しいです。

今後はこちらを本編として投稿していきます。

よろしくお願いします。


第1話「冒険者ギルドの依頼」

 異世界に来て、数日が経った。

 

 最初に言っておく。

 

 俺は、異世界生活というものを舐めていたわけじゃない。

 

 むしろ、かなり警戒していた。

 

 だって、ここはゲームの中の世界――に、そっくりな場所だからだ。

 

 モンド。

 

 風の国。

 

 俺が知っているゲーム『原神』に登場する最初の国。

 

 石造りの街並み。

 

 風車。

 

 城壁。

 

 そして、街の中を普通に歩いている人々。

 

 ゲームで何度も見た景色が、今は現実として目の前にある。

 

 それだけでも十分おかしい。

 

 なのに。

 

「腹減ったな」

 

「……」

 

 隣を歩くおじさんの第一声がこれだった。

 

「いや、もっと他にあるだろ」

 

「何が?」

 

「異世界に来た感想とか」

 

「異世界だな」

 

「雑!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

 おじさんは特に気にした様子もなく歩いている。

 

 ……この人、順応するの早すぎないか?

 

 まあ、俺も人のことは言えない。

 

 ここ数日は、それなりに濃い時間を過ごしている。

 

 森の中で迷って。

 

 魔物に遭遇して。

 

 アンバーに助けられて。

 

 モンドまで連れてきてもらって。

 

 西風騎士団の人たちにも事情を聞かれた。

 

 ジンさん。

 

 ガイアさん。

 

 リサさん。

 

 他にも何人かと顔を合わせた。

 

 最初は当然、警戒された。

 

 異世界から来ました、なんて言われて信じられる人間のほうが少ない。

 

 俺だって、逆の立場なら絶対に疑う。

 

 幸い、おじさんが妙なことをしなかったこともあって、今ではモンドに滞在すること自体は認めてもらっている。

 

 ただし。

 

 問題は別にあった。

 

 金だ。

 

 俺たちは日本から来た。

 

 当然、日本円しか持っていない。

 

 そして、この世界では日本円なんて使えない。

 

 使えるのはモラ。

 

 つまり。

 

 金がない。

 

 もっと正確に言えば、金は持っているのに使えない。

 

 異世界転移して最初に直面する問題がこれだとは思わなかった。

 

「今日は冒険者ギルドだよな?」

 

「ああ」

 

「依頼を受ける」

 

「ああ」

 

「……働くんだよな、俺たち」

 

「ああ」

 

「異世界に来ても結局仕事か……」

 

 自分で言って、ちょっと虚しくなった。

 

 でも仕方ない。

 

 食べなければ死ぬ。

 

 寝る場所にも金がいる。

 

 服だって必要になる。

 

 日本に帰る方法を探すにしても、まずは今日を生きなければならない。

 

 そんなわけで、俺たちは冒険者ギルドに向かっていた。

 

     ◇

 

 冒険者ギルドに入る。

 

 受付には、いつものキャサリンさんがいた。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、たかふみさん。おじさん」

 

「おはようございます」

 

 俺たちは受付の前に立つ。

 

「本日も依頼をお探しでしょうか?」

 

「はい」

 

 キャサリンさんが依頼書を何枚か出してくれた。

 

 俺はそれを受け取る。

 

「……」

 

 そして黙る。

 

 読めない。

 

 いや。

 

 正確には、まったく読めないわけじゃない。

 

 この数日で、少しずつ文字は教えてもらっている。

 

 モラのことも教わった。

 

 簡単な単語も少しずつ覚えてきた。

 

 でも、文章になるとまだ厳しい。

 

「……うーん」

 

「どうしました?」

 

「いや、だいぶ分かるようにはなってきたんですけど……」

 

 依頼書を見る。

 

「まだ全部は読めないですね」

 

「焦る必要はありませんよ」

 

 キャサリンさんは穏やかに言う。

 

「生活していけば、自然と覚えていきます」

 

「そうですよね」

 

 俺は頷く。

 

 会話はできる。

 

 なのに文字が読めない。

 

 異世界に来てから気づいたけど、これが地味に困る。

 

 街の看板も読めない。

 

 店の名前も分からない。

 

 依頼書も一人では確認できない。

 

「おじさんは?」

 

「読めない」

 

「堂々と言うなよ」

 

 おじさんは依頼書を見ている。

 

 当然、俺と同じような顔をしている。

 

 ……まあ、この人の場合、文字が読めなくても魔法でどうにかしそうなのが怖いけど。

 

「それでは、こちらはいかがでしょうか?」

 

 キャサリンさんが一枚の依頼書を示した。

 

「モンド近郊の魔物退治です」

 

「魔物?」

 

「はい。街道から少し離れた森で、ヒルチャールの集団が確認されています」

 

「ヒルチャール……」

 

 俺は依頼書を見る。

 

 名前だけなら分かる。

 

 原神をやっていたからだ。

 

 この世界に来てからも、ゲームの知識はかなり役立っている。

 

 ただし、俺は攻略サイトを全部暗記しているような人間じゃない。

 

 知っていることには限界がある。

 

 ゲームの世界と現実の世界が完全に同じとも限らない。

 

 だから。

 

「何体くらいですか?」

 

「報告では十数体ほどです」

 

「武器は?」

 

「そこまでは確認されていません」

 

「なるほど……」

 

 俺は少し考える。

 

「たぶん、近接だけとは限らないと思います」

 

「弓を持っている個体などですか?」

 

「はい。盾持ちとか、遠距離攻撃をするやつが混じっている可能性があります」

 

 おじさんを見る。

 

「気をつけて」

 

「分かった」

 

「あと、ゲームと同じとは限らないから、俺が見て判断する」

 

「任せる」

 

 ……こういうときだけ妙に素直なんだよな。

 

 俺は依頼書をもう一度見る。

 

 報酬も確認する。

 

 生活費としては、悪くない。

 

「これ、受けます」

 

「承知しました」

 

 キャサリンさんが頷く。

 

「お気をつけてください」

 

「はい」

 

 依頼を受ける。

 

 これで今日の仕事は決まった。

 

 俺たちはギルドを出た。

 

     ◇

 

 モンドの門を抜ける。

 

 風が吹く。

 

 草原が広がっている。

 

 ゲームの画面で何度も見た景色。

 

 だけど。

 

「……やっぱり変な感じだな」

 

「何が?」

 

「この景色」

 

 俺は周囲を見る。

 

「知ってるんだよ。知ってるはずなのに、実際に歩くと全然違う」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 ゲームでは移動も簡単だった。

 

 ボタンを押せば走る。

 

 敵が出れば戦う。

 

 倒せばアイテムが手に入る。

 

 でも現実は違う。

 

 風が冷たい。

 

 地面は平らじゃない。

 

 歩けば疲れる。

 

 そして、魔物に襲われたら本当に死ぬ。

 

「ゲームじゃないからな」

 

「そうだな」

 

「……まあ、分かってるけど」

 

 俺たちは森へ向かう。

 

 道中、何度か周囲を確認する。

 

 今のところ敵はいない。

 

「おじさん」

 

「なんだ?」

 

「魔法は、できるだけ必要なときだけ使って」

 

「分かった」

 

「あと、敵がいたらまず俺が確認する」

 

「ああ」

 

「勝手に突っ込まないで」

 

「分かった」

 

「……本当に?」

 

「分かった」

 

 返事だけは完璧だ。

 

 問題は、その後。

 

 この人、戦闘になると妙に行動が早い。

 

 俺が警戒する理由はそこだ。

 

     ◇

 

 森の中へ入る。

 

 木々が増え、視界が狭くなる。

 

 風の音も少し変わった。

 

 俺は足を止める。

 

「……待って」

 

 何か聞こえた。

 

「どうした?」

 

「声」

 

 遠くから聞こえる。

 

 低い声。

 

 何かを叫んでいる。

 

「……いる」

 

 俺は木の陰から先を見る。

 

 いた。

 

「ヒルチャール」

 

 複数。

 

 俺は慎重に数える。

 

「一、二、三……」

 

 中央に何体か。

 

 さらに奥。

 

「……十二」

 

「十二か」

 

「いや、待って」

 

 右側を見る。

 

「もう一体いる」

 

「十三?」

 

「たぶん」

 

 さらに見る。

 

 弓を持っている個体がいる。

 

「弓持ち、右」

 

「分かった」

 

「中央は近接」

 

「分かった」

 

「左に盾持ちが一体」

 

「分かった」

 

 俺は一度深呼吸する。

 

 知っている敵だ。

 

 何度もゲームで戦った。

 

 でも。

 

 目の前にいると怖い。

 

 サイズも違う。

 

 動きも違う。

 

 何より。

 

 攻撃を受けたら、本当に痛い。

 

「……おじさん」

 

「なんだ?」

 

「無理はしないで」

 

「ああ」

 

「本当に」

 

「ああ」

 

 おじさんが前へ出る。

 

「いや、だから――」

 

 次の瞬間。

 

 ヒルチャールの一体がこちらを向いた。

 

「グルル!」

 

「気づいた!」

 

 敵が動く。

 

 弓持ちが矢を構える。

 

「右!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 直後。

 

 風が吹いた。

 

「ワーグレント・マグナ――疾風操作」

 

 風が一気に走った。

 

 草が大きく揺れる。

 

 ヒルチャールの足元が崩れ、数体がバランスを失った。

 

「今だ!」

 

 おじさんが走る。

 

 光が集まる。

 

 手の中に剣が現れる。

 

 光の剣。

 

「……」

 

 何度見ても慣れない。

 

 おじさんは、そのまま敵の群れへ突っ込んだ。

 

 ヒルチャールが武器を振る。

 

 避ける。

 

 光の剣が閃く。

 

 一体。

 

 二体。

 

 さらに別の敵が襲いかかる。

 

「左!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 おじさんが身を捻る。

 

 攻撃をかわした。

 

 反撃。

 

 敵が倒れる。

 

「弓!」

 

 後ろから矢が飛んできた。

 

 おじさんが横へ跳ぶ。

 

 矢が地面に突き刺さる。

 

「……危なっ」

 

 俺も木の陰へ移動する。

 

 おじさんが弓持ちへ向かって走る。

 

 その間にも、別のヒルチャールが迫ってくる。

 

「前!」

 

 叫ぶ。

 

 おじさんは止まらない。

 

 むしろ速度を上げた。

 

「ちょっ……!」

 

 そして。

 

 数十秒後。

 

 静かになった。

 

「……」

 

 俺は木の陰から顔を出す。

 

 ヒルチャールが倒れている。

 

 残っている敵はいない。

 

「……終わった?」

 

「ああ」

 

 おじさんが振り返る。

 

「終わった」

 

「早くない?」

 

「そうか?」

 

「いや、早いよ!」

 

 俺は思わず頭を抱える。

 

「十三体いたんだぞ?」

 

「ああ」

 

「もうちょっとこう……」

 

「何だ?」

 

「苦戦とか」

 

「必要か?」

 

「必要じゃないけど!」

 

 俺はため息をつく。

 

 分かっていた。

 

 この人が強いことくらい。

 

 それでも。

 

 ゲームの知識を使って敵の種類や位置を確認して。

 

 危険な相手を見分けて。

 

 戦い方を考えて。

 

 ようやく役に立てると思ったら。

 

 おじさんが全部片づける。

 

「……俺、必要だった?」

 

「必要だった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「どこが?」

 

「敵の位置を教えてくれた」

 

「……」

 

 そう言われると、何も言えない。

 

「まあ、それならいいけど」

 

 俺は周囲を見る。

 

 依頼対象の魔物は倒した。

 

「じゃあ、戻ろう」

 

「ああ」

 

     ◇

 

 モンドへ戻る。

 

 街が見えてくる。

 

 それだけで少し安心する。

 

 やっぱり街はいい。

 

 魔物がいない。

 

 少なくとも、街中では普通に生活できる。

 

 冒険者ギルドへ向かう。

 

「お疲れさまでした」

 

 キャサリンさんが迎えてくれた。

 

「依頼のほうは?」

 

「終わりました」

 

「確認いたします」

 

 報告を済ませる。

 

 そして。

 

 報酬としてモラを受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

 袋を受け取る。

 

 中身を見る。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「計算してる」

 

「何を?」

 

「これで何日食えるか」

 

「今日の飯は?」

 

「だから、それだけじゃないって!」

 

 俺はモラを数える。

 

 宿代。

 

 食費。

 

 その他。

 

 これから必要になるもの。

 

 そして、日本へ帰るために必要な情報を集める費用。

 

 考えることは多い。

 

「……まあ、しばらくは大丈夫かな」

 

「そうか」

 

「でも、依頼を受け続けないと」

 

「そうだな」

 

 俺たちはギルドを出る。

 

     ◇

 

 夕方のモンドは穏やかだった。

 

 街の人たちが行き交っている。

 

 店を閉める人。

 

 家へ帰る人。

 

 広場で話をする人。

 

 風車がゆっくり回っている。

 

 さっきまで魔物と戦っていたとは思えない。

 

「平和だな」

 

「そうだな」

 

「こういうのを見ると、ここが本当にゲームじゃないって感じる」

 

 俺は街を見渡す。

 

 知っている場所。

 

 知っているキャラクター。

 

 知っている世界。

 

 なのに、全部が現実だ。

 

「……不思議だよな」

 

「何が?」

 

「いや」

 

 俺は首を振る。

 

「なんでもない」

 

     ◇

 

 夜。

 

 部屋へ戻る。

 

 簡単な食事を済ませた。

 

 今日も一日が終わる。

 

 俺は窓の外を見る。

 

 モンドの夜空。

 

 日本とは違う星空。

 

 この世界に来てから、何度も見た。

 

 でも。

 

 見るたびに思う。

 

 帰りたい。

 

 家に帰りたい。

 

 元の生活に戻りたい。

 

「……おじさん」

 

「なんだ?」

 

「日本に帰る方法」

 

「……」

 

「見つかるかな」

 

 返事はすぐにはなかった。

 

 俺はおじさんを見る。

 

 おじさんは黙っている。

 

「この世界に来た原因も分からない」

 

「そうだな」

 

「帰る方法も分からない」

 

「ああ」

 

「そもそも、どうやってここに飛ばされたのかも分からない」

 

「ああ」

 

 俺はため息をつく。

 

「結構詰んでない?」

 

「探すしかないだろ」

 

 短い答えだった。

 

「……まあ、そうだよな」

 

 俺は椅子に背を預ける。

 

 今すぐ帰れるわけじゃない。

 

 なら。

 

 この世界で生きながら探すしかない。

 

 モラを稼ぐ。

 

 情報を集める。

 

 モンドを知る。

 

 そして。

 

 帰る方法を探す。

 

「明日も依頼か」

 

「ああ」

 

「……異世界に来ても冒険者生活か」

 

「ああ」

 

「会社員よりはマシかな」

 

「そうだな」

 

「そこは否定しないんだ」

 

 少しだけ笑う。

 

 まだ帰れない。

 

 何も分からない。

 

 それでも。

 

 今日一日を生き延びた。

 

 依頼をこなして。

 

 モラを稼いで。

 

 この世界での生活を一日分進めた。

 

 今は、それでいい。

 

 俺は窓の外を見る。

 

 モンドの風が、静かに吹いていた。

 

 異世界での生活は、始まったばかりだ。

 

 そして俺たちは、この世界で生きながら。

 

 いつか日本へ帰るための方法を探していく。

 

 ――まずは明日の依頼をどうするか。

 

 そんな現実的なことを考えながら、俺はベッドへ向かった。

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