異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第10話「爆発する少女」

 モンドの街に、少しずつ日常が戻ってきていた。

 

 風魔龍――トワリンの襲撃。

 

 その影響は、まだ街のあちこちに残っている。

 

 騎士たちは忙しく動き回り、壊れた場所の確認や修復を続けている。

 

 それでも、人々は普段の生活を続けていた。

 

 市場では店員が声を張り上げ、広場では子供たちが走り回っている。

 

 酒場からは笑い声も聞こえてきた。

 

「……こういうのを見ると、少し安心するな」

 

 俺は街を歩きながら呟いた。

 

「何がだ?」

 

 隣を歩くおじさんが尋ねる。

 

「いや、風魔龍の騒ぎがあっただろ。もっと街全体がピリピリしてるのかと思ってた」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 俺は周囲を見渡した。

 

「普通に生活してる人も多いし」

 

「人間は強いからな」

 

「おじさんが言うと妙に重いな」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 そんな会話をしながら、二人は冒険者ギルドへ向かっていた。

 

 今日も何か依頼を受けるつもりだった。

 

 この世界で生活するにはモラが必要だ。

 

 文字も少しずつ覚えてきた。

 

 食事も宿も必要になる。

 

 そして何より――。

 

「日本に帰る方法も探さないとな」

 

「そうだな」

 

 おじさんが頷く。

 

「そのためにも、まずはこの世界のことを知る必要がある」

 

「……珍しくまともなこと言うな」

 

「俺はいつもまともだ」

 

「それは違う」

 

 俺は即答した。

 

 その時だった。

 

「……ん?」

 

 前方に、小さな女の子が歩いているのが見えた。

 

 赤い服。

 

 赤い帽子。

 

 白い髪。

 

 そして背中には、小さなバッグ。

 

 俺は足を止めた。

 

「……え?」

 

 見覚えがある。

 

 いや。

 

 見覚えどころではない。

 

 知っている。

 

「……まさか」

 

 俺の背中に、嫌な汗が流れた。

 

 女の子がこちらを振り返る。

 

 大きな目。

 

 幼い顔。

 

 そして――満面の笑顔。

 

「こんにちは!」

 

「……こんにちは」

 

 おじさんが普通に挨拶を返した。

 

 俺も遅れて頭を下げる。

 

「こ、こんにちは……」

 

 少女は二人をじっと見た。

 

「二人とも、旅人?」

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

 少女は首を傾げる。

 

「おじさんは旅人?」

 

「そうだ」

 

「じゃあ……」

 

 少女が、俺を見る。

 

「一緒にいるお兄ちゃんも?」

 

「え?」

 

「この人も旅人?」

 

「あ、うん……まあ」

 

 俺は苦笑した。

 

 初対面の相手から突然「お兄ちゃん」と呼ばれるのは、なんだか妙な感じがする。

 

「ふーん!」

 

 少女は楽しそうに笑った。

 

 そして。

 

 背中のバッグに手を伸ばした。

 

「ちょっと待って」

 

 俺の声が低くなる。

 

「そのバッグ……何?」

 

「これ?」

 

 少女がバッグを開ける。

 

「ボンボン爆弾!」

 

「やっぱり!」

 

 俺は頭を抱えた。

 

 そう。

 

 この少女は――クレー。

 

 モンドの西風騎士団に所属する、爆発大好き少女。

 

 原神を知っている俺にとって、あまりにも有名な存在だった。

 

「おじさん、下がって!」

 

「なぜだ?」

 

「爆弾だから!」

 

「爆弾?」

 

 おじさんの目が輝いた。

 

「……おじさん?」

 

「興味深いな」

 

「興味持つなよ!」

 

 俺のツッコミが響く。

 

 クレーが首を傾げた。

 

「おじさん、爆弾好き?」

 

「詳しく見てみたい」

 

「おじさん!」

 

「どういう構造なんだ?」

 

「知らないよ!」

 

 クレーが大事そうに爆弾を抱える。

 

「クレーの大事な爆弾だよ!」

 

「そうか」

 

「触らないでね!」

 

「分かった」

 

「分かったならいいけど……」

 

 俺は二人を交互に見る。

 

 妙に会話が成立している。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「ねえ、おじさん」

 

「なんだ?」

 

「魔法使える?」

 

「ああ」

 

「どんな魔法?」

 

「いろいろだ」

 

「見せて!」

 

「いいぞ」

 

「ダメ!」

 

 俺が間に割って入った。

 

「街中で魔法を見せるな!」

 

「なんで?」

 

 クレーが不思議そうに首を傾げる。

 

「危ないからだよ!」

 

「じゃあ、爆弾は?」

 

「もっと危ない!」

 

「そっかー」

 

 クレーは納得したように頷いた。

 

 ……納得してくれた。

 

 俺は少し安心した。

 

 その直後。

 

「じゃあ、ちょっとだけなら大丈夫?」

 

「何が!?」

 

 クレーがバッグから別の爆弾を取り出した。

 

「待て!」

 

 俺は慌ててその手を押さえる。

 

「クレーちゃん、それはしまおう!」

 

「えー」

 

「ここ街だから!」

 

「でも、小さいよ?」

 

「大きさの問題じゃない!」

 

 おじさんが横から爆弾を見る。

 

「確かに小さいな」

 

「そこじゃない!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 クレーは楽しそうに笑った。

 

 だが。

 

「じゃあ、これあげる!」

 

「何?」

 

 クレーがバッグから何かを出そうとする。

 

「待って!」

 

 俺が慌てて手を押さえた。

 

「もう爆弾はいい!」

 

「お菓子かもしれないよ?」

 

「……本当に?」

 

「うん!」

 

 クレーが取り出したのは――。

 

「爆弾だった」

 

「だと思ったよ!」

 

 俺が頭を抱える。

 

 クレーが笑う。

 

 おじさんも少し笑っていた。

 

「仲良くなったな」

 

「どこを見てそう思った!?」

 

 その瞬間。

 

 クレーの手から爆弾が落ちた。

 

「え?」

 

 俺の顔が青ざめる。

 

「クレー!」

 

 爆弾が地面に転がる。

 

「おじさん!」

 

「任せろ」

 

 おじさんが素早く動いた。

 

 爆弾を拾い上げ、周囲を確認する。

 

 近くには人がいる。

 

 店もある。

 

「こっちは駄目だ」

 

 おじさんは爆弾を持ったまま、人の少ない路地へ走った。

 

「そっち!」

 

 俺が指を差す。

 

 おじさんが路地の奥へ爆弾を投げる。

 

 次の瞬間。

 

 ドンッ!

 

 小さな爆発音。

 

 煙が上がった。

 

 周囲から驚きの声が上がる。

 

「……大丈夫か?」

 

 おじさんが戻ってくる。

 

「たぶん……」

 

 俺は周囲を確認した。

 

 怪我人はいない。

 

 建物にも大きな被害はない。

 

「よかった……」

 

 俺は胸を撫で下ろす。

 

 クレーはというと。

 

「すごーい!」

 

 目を輝かせていた。

 

「おじさん、すごいね!」

 

「そうか?」

 

「うん!」

 

「爆弾を持って走ったんだよ!」

 

「うん!」

 

「褒めるところじゃないから!」

 

 俺は思わず叫んだ。

 

 そこへ。

 

「クレー!」

 

 今度こそ、はっきりした声が響いた。

 

 ジンさんだった。

 

 アンバーも一緒にいる。

 

「クレー!」

 

「アンバー!」

 

 クレーが嬉しそうに手を振る。

 

 アンバーは駆け寄ると、クレーの前で腰を屈めた。

 

「もう、心配したんだから!」

 

「ごめんなさい!」

 

「街中で爆弾を使っちゃ駄目でしょう?」

 

「……はい」

 

 クレーがしょんぼりする。

 

 ジンさんが静かに近づいてきた。

 

「クレー」

 

「はい……」

 

「こちらへ来なさい」

 

「……はい」

 

 クレーは素直にジンさんのところへ歩いていった。

 

 ジンさんはクレーの手を取る。

 

「おじさん、たかふみ」

 

「はい」

 

 俺が返事をする。

 

「クレーを止めてくれて、ありがとうございます」

 

「いえ、俺たちも巻き込まれただけで……」

 

 俺が苦笑する。

 

「特におじさんには助けてもらいました」

 

 ジンさんがおじさんを見る。

 

「ありがとうございます」

 

「気にするな」

 

 おじさんはクレーを見る。

 

「元気な子だな」

 

「元気で済ませていいのかよ」

 

 俺が即座に突っ込む。

 

 アンバーが吹き出した。

 

「ふふっ」

 

「笑わないでよ、アンバー……」

 

「ごめんごめん」

 

 クレーが突然、おじさんを見上げた。

 

「おじさん!」

 

「なんだ?」

 

「また遊ぼうね!」

 

「ああ」

 

「爆弾で!」

 

「おう」

 

「おうじゃない!」

 

 俺の声が街に響いた。

 

 ジンさんは少しだけ目を閉じた。

 

「……クレー」

 

「はい」

 

「今日は騎士団で話をしましょう」

 

「えー……」

 

「話をしましょう」

 

「……はい」

 

 クレーが肩を落とす。

 

 それでも、最後には笑顔になった。

 

「ばいばーい!」

 

「またな」

 

 クレーはアンバーとジンさんに連れられていった。

 

 俺はその背中を見送る。

 

「……疲れた」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「だが、悪い子ではない」

 

「それは分かるよ」

 

 俺は苦笑した。

 

「ただ……」

 

 クレーの姿が遠ざかっていく。

 

「爆弾を持って走り回るのは勘弁してほしい」

 

「それもそうだな」

 

 珍しく、おじさんが同意した。

 

 俺は少し驚いた。

 

「おじさんもそう思う?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、さっき爆弾に興味持ってたのは?」

 

「別の話だ」

 

「同じだよ!」

 

 俺はまた突っ込んだ。

 

 その後。

 

 二人は冒険者ギルドへ戻った。

 

 受付を済ませ、次の依頼について確認していると、先ほどの騎士団員がやってきた。

 

「おじさん、たかふみ」

 

 二人が振り返る。

 

「先ほどはありがとうございました」

 

「いえ」

 

「クレーも、もう落ち着いています」

 

「それならよかった」

 

 俺が答える。

 

 騎士団員が少し笑った。

 

「そういえば、まだクレーにはお二人の名前をきちんと伝えていませんでしたね」

 

「ああ」

 

「先ほど騎士団のほうで簡単に自己紹介をしました」

 

「なるほど」

 

 俺は頷いた。

 

 これで納得できた。

 

 クレーが俺たちのことを「おじさん」と「お兄ちゃん」と呼んでいたのも、まだ名前を知らなかったかららしい。

 

 騎士団員が頭を下げる。

 

「それでは、失礼します」

 

「はい」

 

 騎士団員が去っていく。

 

 俺は隣のおじさんを見る。

 

「今日は本当に疲れたな」

 

「そうか?」

 

「クレーに会っただけでこれだよ」

 

「楽しかっただろう」

 

「……まあ」

 

 俺は苦笑した。

 

 クレー。

 

 ゲームで知っていたキャラクター。

 

 でも。

 

 実際に会ってみると、画面越しに見るよりずっと元気で、ずっと危なっかしい。

 

「……この世界、思ってた以上に騒がしいな」

 

「まだ始まったばかりだ」

 

「それ、嫌な予言に聞こえるんだけど」

 

 おじさんは答えなかった。

 

 俺はため息をつきながら、冒険者ギルドの依頼書へ目を向ける。

 

 日本へ帰る方法を探す。

 

 そのためには、この世界で生きていかなければならない。

 

 そして。

 

 この世界を知る必要がある。

 

 今日のクレーとの出会いも、その一つだった。

 

 俺たちのテイワットでの日々は、まだ始まったばかりだった。

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