異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第12話「幸運の冒険者」

 冒険者ギルドは、今日も朝から賑わっていた。

 

 依頼掲示板の前には何人もの冒険者が集まり、それぞれ目当ての依頼を探している。

 

 俺も、おじさんと並んで掲示板を眺めていた。

 

「……今日はどれにする?」

 

「街道の魔物討伐でいいんじゃないか?」

 

 おじさんが一枚の依頼書を指差す。

 

「危険度も高くないし、報酬も悪くない」

 

「じゃあ、それにするか」

 

 最近はこうして、冒険者ギルドの依頼を受けることにも慣れてきた。

 

 モラを稼ぐ。

 

 この世界の文字を覚える。

 

 生活に必要なものを揃える。

 

 そして――日本へ帰る方法を探す。

 

 やることはいくらでもある。

 

「おっ、二人ともいたのか!」

 

 明るい声が聞こえた。

 

 振り返る。

 

「ベネット」

 

「よう、たかふみ! おじさん!」

 

 そこにいたのは、冒険者のベネットだった。

 

 俺たちは、すでに何度か顔を合わせている。

 

 冒険者ギルドで会うこともあれば、街で見かけることもある。

 

 だから、今さら自己紹介するような関係ではない。

 

「今日も依頼探しか?」

 

「ああ」

 

 俺が依頼書を見せる。

 

「これを受けようと思ってる」

 

「街道の魔物討伐か!」

 

 ベネットが依頼書を覗き込む。

 

「ちょうどいいじゃん!」

 

「ベネットも?」

 

「俺も依頼を探してたんだ」

 

 ベネットが笑う。

 

「なあ、よかったら一緒に行かないか?」

 

 俺はおじさんを見る。

 

 おじさんも特に反対する様子はない。

 

「俺は構わない」

 

「俺もいいよ」

 

「よし!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「それじゃ、今日は三人で冒険だな!」

 

「……」

 

 俺はベネットを見る。

 

 なんとなく。

 

 本当になんとなくだが。

 

 嫌な予感がした。

 

     ◆

 

 街を出て、街道を歩く。

 

「いい天気だな!」

 

 ベネットが前を歩きながら言う。

 

「こういう日は冒険するのにぴったりだ!」

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

「たかふみはどうだ?」

 

「俺もまあ……」

 

 その時だった。

 

 ――ガラッ。

 

「ん?」

 

 ベネットが足を止める。

 

 次の瞬間。

 

 足元の地面が崩れた。

 

「うわっ!」

 

 ベネットが慌てて飛び退く。

 

 幸い、穴はそれほど深くなかった。

 

 しかし。

 

「……あ」

 

 ベネットの背負っていた荷物が大きく傾いた。

 

 中身が一気に地面へ落ちる。

 

「うわぁぁっ!」

 

 食料。

 

 冒険道具。

 

 ロープ。

 

 何かの部品。

 

 その他いろいろ。

 

 街道に散らばっていく。

 

「……」

 

 俺は無言でその光景を見た。

 

「……やっぱり始まった」

 

「何が?」

 

 ベネットが聞く。

 

「いや、なんでもない」

 

 俺はしゃがんで荷物を拾う。

 

「悪い!」

 

 ベネットも慌てて拾い始めた。

 

「二人に手伝わせちゃったな!」

 

「気にするな」

 

 おじさんも拾っている。

 

「ありがとう!」

 

 ベネットが笑う。

 

 俺はその笑顔を見ながら思った。

 

 ベネットの不運。

 

 ゲームで知っていた。

 

 だが、こうして現実に目の前で起きると、思っていた以上にすごい。

 

「……これで全部?」

 

 俺が聞く。

 

「えっと……」

 

 ベネットが周囲を見る。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「食料が一つない」

 

 俺たちも周囲を探す。

 

「あそこ」

 

 おじさんが指差した。

 

 少し離れた場所に袋が落ちている。

 

「助かった!」

 

 ベネットが走り出す。

 

「待て」

 

 おじさんが止めた。

 

「え?」

 

「その先は危ない」

 

 見ると、袋のすぐ近くには地面の亀裂が走っていた。

 

「……うわ」

 

 ベネットが止まる。

 

「危なかった……」

 

「だから確認してから動け」

 

「分かった!」

 

 ベネットは素直に頷く。

 

 そして荷物を拾い直した。

 

「よし!」

 

 ベネットが立ち上がる。

 

「今度こそ大丈夫!」

 

「……」

 

 俺はおじさんを見る。

 

「今の、フラグだよな?」

 

「たぶんな」

 

「だよな……」

 

 ベネットは何も知らずに歩き始めた。

 

     ◆

 

 それからしばらくは何事もなかった。

 

 少なくとも、俺にはそう思えた。

 

 だが。

 

「魔物だ!」

 

 ベネットが叫んだ。

 

 街道の先から、複数の魔物が姿を現す。

 

「数は?」

 

「十体くらい!」

 

 ベネットが剣を抜いた。

 

「俺が前に出る!」

 

「分かった」

 

 おじさんも光の剣を取り出す。

 

 光の刀身が現れる。

 

「相変わらず、それ便利だな……」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 ベネットが振り返る。

 

「おじさん、その剣すごいな!」

 

「ありがとう」

 

「俺も負けないぞ!」

 

 ベネットが駆け出した。

 

「行くぞ!」

 

 炎元素を纏った剣が魔物を斬り払う。

 

「おおっ!」

 

 そのまま次の敵へ向かう。

 

 しかし、左右から魔物が迫っていた。

 

「ベネット、右!」

 

「分かった!」

 

 ベネットが振り返る。

 

 炎を纏った剣で魔物を弾き飛ばす。

 

 その隙を狙って、別の魔物が飛び込んだ。

 

「危ない!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 だが。

 

 おじさんがすでに動いていた。

 

「そこだ」

 

 一閃。

 

 魔物が吹き飛ぶ。

 

「助かった!」

 

「周囲を見ろ」

 

「了解!」

 

 ベネットが頷く。

 

「たかふみ、左は?」

 

「二体!」

 

「分かった!」

 

 ベネットが走る。

 

 俺は周囲を確認する。

 

「正面にも三体!」

 

「おじさん!」

 

「任せろ」

 

 光の剣が閃く。

 

 魔物が次々と倒れていく。

 

 ベネットは前線で敵を引きつける。

 

 おじさんは隙を見つけて敵を倒す。

 

 俺は後方から状況を伝える。

 

 思ったより、三人の役割は噛み合っていた。

 

「右!」

 

「了解!」

 

「後ろ!」

 

「任せろ!」

 

「おじさん、正面!」

 

「ああ」

 

 最後の魔物が倒れた。

 

「……終わった?」

 

 ベネットが周囲を見回す。

 

「終わったな」

 

 おじさんが光の剣を消す。

 

「やった!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「三人で倒したな!」

 

「ああ」

 

 俺も頷く。

 

「たかふみ!」

 

「ん?」

 

「さっきの指示、助かった!」

 

「そう?」

 

「ああ!」

 

 ベネットは嬉しそうだった。

 

「俺、一人で突っ込むことが多いからさ!」

 

「それは危ないだろ」

 

「よく言われる!」

 

「直したほうがいいぞ」

 

「努力する!」

 

「……本当に?」

 

「たぶん!」

 

「そこは自信持てよ」

 

 思わず笑ってしまう。

 

 ベネットも笑った。

 

「でも、楽しかったな!」

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「悪くない連携だった」

 

「だろ?」

 

 ベネットは嬉しそうに胸を張った。

 

     ◆

 

 依頼先へ到着し、周辺を確認する。

 

 街道に出ていた魔物を倒したことで、依頼は無事に達成できたようだった。

 

「これで終わりだな」

 

「よし!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「報酬をもらいに帰ろう!」

 

「元気だな……」

 

「冒険者だからな!」

 

 ベネットは笑った。

 

 三人で街道を戻る。

 

 行きと違い、帰り道は穏やかだった。

 

 少なくとも、しばらくは。

 

「……」

 

 俺はベネットを見る。

 

「……」

 

 何も起きない。

 

 さらに歩く。

 

 何も起きない。

 

「……今日は大丈夫なのか?」

 

「何が?」

 

「いや、こっちの話」

 

 そう思った直後。

 

 ――ガシャン!

 

「うわっ!」

 

 ベネットが飛び上がった。

 

 足元には壊れた木箱。

 

「……」

 

 俺は黙った。

 

「俺、何もしてないぞ?」

 

 ベネットが困った顔をする。

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

「ただ歩いただけだ」

 

「だよな!」

 

「でも壊れた」

 

「なんでだよ!」

 

 ベネットが叫ぶ。

 

 俺は思わず吹き出した。

 

「……悪い」

 

「たかふみ、笑っただろ!」

 

「いや……ごめん」

 

「ひどいな!」

 

 そう言いながらも、ベネットは笑っている。

 

「まあ、こういうこともある!」

 

「前向きだな」

 

「落ち込んでも仕方ないからな!」

 

 ベネットは壊れた木箱を片付け始めた。

 

 おじさんも手伝う。

 

「ありがとう」

 

「気にするな」

 

「二人ともいい奴だな!」

 

「そうか?」

 

「そうだよ!」

 

 ベネットが笑う。

 

 その笑顔を見て、俺は少し感心した。

 

 不運。

 

 失敗。

 

 トラブル。

 

 それが何度起きても、ベネットは諦めない。

 

 むしろ、それを笑い飛ばして前へ進む。

 

「……すごいな」

 

「何が?」

 

「いや」

 

 俺は首を振った。

 

「なんでもない」

 

     ◆

 

 冒険者ギルドに戻る。

 

 依頼達成を報告すると、報酬が支払われた。

 

「やった!」

 

 ベネットが喜ぶ。

 

「これで次の冒険の準備ができる!」

 

「ちゃんと貯めろよ」

 

「もちろん!」

 

「……本当に?」

 

「もちろん!」

 

 ベネットは胸を張った。

 

 少し間を置いて。

 

「……たぶん!」

 

「やっぱり信用できない」

 

「ひどいな!」

 

 ベネットが笑う。

 

 俺も笑った。

 

 こうしてみると、やっぱり悪い奴じゃない。

 

 むしろ、かなり付き合いやすい。

 

 原作で知っていた人物と実際に話す。

 

 最初の頃は、それだけで妙な感覚があった。

 

 けれど。

 

 ここで会うベネットは、ゲームのキャラクターではない。

 

 実際に笑って。

 

 失敗して。

 

 それでも立ち上がる。

 

 一人の冒険者だ。

 

「今日はありがとな!」

 

 ベネットが言う。

 

「こちらこそ」

 

 おじさんが答える。

 

「また一緒に依頼を受けようぜ!」

 

「ああ」

 

「たかふみも!」

 

「もちろん」

 

 ベネットは満足そうに頷いた。

 

「じゃあ、俺は次の依頼を探してくる!」

 

「まだ行くのか?」

 

「まだ元気だからな!」

 

「……すごい体力だな」

 

「冒険者だから!」

 

 ベネットは笑いながらギルドの奥へ向かっていった。

 

 俺はその背中を眺める。

 

「……なんだかんだ、いい奴だったな」

 

「そうだな」

 

 おじさんも頷いた。

 

「不運だけどな」

 

「そこも含めてだろ」

 

「そうかもしれない」

 

 俺は少し笑った。

 

 ベネットとは、すでに顔見知りだった。

 

 これまでも何度か話したことはある。

 

 でも、こうして一緒に依頼を受けたことで、今までより少しだけ距離が近くなった気がする。

 

「また一緒に行くことになりそうだな」

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

「次は何が起こるか分からないが」

 

「……それ、考えたくないな」

 

 俺は苦笑する。

 

 風魔龍。

 

 魔物。

 

 異世界。

 

 日本へ帰る方法。

 

 この世界では、何が起こるか分からない。

 

 それでも。

 

 一人で抱え込む必要はないのかもしれない。

 

 冒険者ギルドで出会った仲間たち。

 

 ジンさんやアンバー。

 

 クレー。

 

 フィッシュルとオズ。

 

 そしてベネット。

 

 少しずつ、この世界で知り合いが増えている。

 

「さて」

 

 おじさんが立ち上がる。

 

「次の依頼を探すか?」

 

「いや、今日は休もう」

 

「珍しいな」

 

「さすがに疲れたよ」

 

「そうか」

 

 二人でギルドを出る。

 

 モンドの街には、いつもの風が吹いていた。

 

 風魔龍の事件が終わったわけではない。

 

 まだ不穏なものも残っている。

 

 それでも。

 

 こうして笑える時間がある。

 

 それは悪くなかった。

 

「おじさん」

 

「なんだ?」

 

「明日はもっと平和な依頼にしよう」

 

「分かった」

 

「魔物も少なくて、爆発もなくて、不運も起きないやつ」

 

「そんな依頼があるのか?」

 

「……知らない」

 

「なら難しいな」

 

「だよな」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 そして、笑った。

 

 この世界での生活は、まだ始まったばかりだった。

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