異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第17話「風の詩」

 モンドの街に戻ってきた夕方。

 

 俺は、冒険者ギルドで受け取った依頼書を片手に、街の中を歩いていた。

 

 今日の依頼は、森の調査だった。

 

 最近、ヒルチャールの目撃情報が増えている。

 

 その原因を調べてほしい。

 

 依頼そのものは、そこまで珍しいものではなかった。

 

 だが――。

 

「……妙だな」

 

 俺は足を止めた。

 

「何がだ?」

 

 隣を歩くおじさんが振り返る。

 

「いや」

 

 俺は少し考える。

 

「最近、妙に事件が続いてる気がする」

 

「そうか?」

 

「風魔龍の件があって、アビスの魔術師も出てきて……」

 

 俺は依頼書を見る。

 

「今回のヒルチャールも、ただ増えてるだけならいいんだけど」

 

「調べれば分かるだろう」

 

「まあ、そうなんだけど」

 

 俺は歩き出す。

 

 おじさんも続いた。

 

 そんな二人の前から。

 

「やあ!」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

「……あ」

 

 俺が顔を上げる。

 

 木箱の上に座っていたのは、小柄な少年だった。

 

 緑色の服。

 

 羽根のついた帽子。

 

 そして、どこか人を食ったような笑顔。

 

「こんにちは、旅人さんたち」

 

「ウェンティ」

 

 おじさんが普通に名前を呼ぶ。

 

「おや、覚えていてくれたんだね」

 

「一度会っているからな」

 

「それは嬉しいなぁ」

 

 ウェンティは笑った。

 

 俺は少し離れたところから、その様子を見る。

 

 ――やっぱり、この人。

 

 知っている。

 

 もちろん原神の知識としてだ。

 

 ただ、実際に目の前にすると妙な感覚がある。

 

 見た目は少年。

 

 口調も軽い。

 

 態度も気楽。

 

 なのに。

 

「……」

 

 俺はウェンティをじっと見る。

 

「どうしたの、たかふみ?」

 

「いや……」

 

 ウェンティが首を傾げる。

 

「僕の顔に何かついてる?」

 

「そういうわけじゃないけど」

 

「ならよかった」

 

 ウェンティは笑う。

 

「それにしても、二人とも最近忙しそうだね」

 

「まあな」

 

 おじさんが答える。

 

「冒険者ギルドの依頼を受けている」

 

「へえ。すっかり冒険者らしくなったんだね」

 

「生活費が必要だからな」

 

「現実的だねぇ」

 

「モラがないと何もできない」

 

「それは確かに」

 

 ウェンティが頷く。

 

 俺は思わず苦笑した。

 

「そこは意外と普通なんだな……」

 

「僕はいつだって普通だよ?」

 

「……そういうところが怪しいんだけど」

 

「おやおや」

 

 ウェンティが楽しそうに笑う。

 

「たかふみは僕を疑ってるのかな?」

 

「なんとなく」

 

「正直だね」

 

 その時だった。

 

「蛍!」

 

 別の方向から声が聞こえてきた。

 

 振り返る。

 

 蛍とパイモンが歩いてくるところだった。

 

「おじさん! たかふみ!」

 

 パイモンが手を振る。

 

「また会ったな!」

 

「蛍、パイモン」

 

 おじさんが軽く手を上げる。

 

「何してるんだ?」

 

 俺が尋ねる。

 

「ウェンティを探してたんだ」

 

 蛍が答えた。

 

「ボクも一緒だよ!」

 

 パイモンが胸を張る。

 

「……何かあったの?」

 

 俺が聞く。

 

 ウェンティが少しだけ表情を変えた。

 

「うん」

 

 いつもの軽い笑顔。

 

 その奥に、わずかな真剣さが見える。

 

「話しておきたいことがあるんだ」

 

 俺は黙った。

 

「トワリンのことだよ」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

 空気が少し変わった。

 

 風魔龍。

 

 モンドを襲った巨大な竜。

 

 そして――。

 

 苦しんでいた存在。

 

「トワリンを助けたい」

 

 ウェンティが言った。

 

 俺は黙ってウェンティを見る。

 

「アビス教団が関わっている可能性が高い」

 

 蛍が頷く。

 

「だから、助ける」

 

 迷いのない声だった。

 

「おじさんは?」

 

 パイモンが聞く。

 

 おじさんは少し考える。

 

 そして。

 

「なら助ければいい」

 

「……即答?」

 

 俺が思わず口を挟んだ。

 

「何か問題があるのか?」

 

「いや、ないけど」

 

 あまりにも迷いがなかった。

 

「普通、もうちょっと考えない?」

 

「困っているなら助ける。それだけだろう」

 

「……まあ」

 

 俺は言葉を止める。

 

 確かに、その通りだった。

 

 おじさんはウェンティを見る。

 

「トワリンは苦しんでいるんだろう?」

 

「ああ」

 

「なら助ける」

 

 ウェンティは少しだけ目を細めた。

 

 そして、笑った。

 

「君って、本当に面白いね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 ウェンティは静かに頷く。

 

「そういう人、僕は嫌いじゃないよ」

 

 俺はそのやり取りを見ていた。

 

 ――なんだろう。

 

 妙に自然だ。

 

 もっと警戒してもいいはずなのに。

 

 おじさんはいつも通り。

 

 蛍もいつも通り。

 

 パイモンもいつも通り。

 

 そしてウェンティだけが、どこか違う。

 

 まるで。

 

 この世界の事情を、全部知っているような。

 

「たかふみ」

 

 蛍に呼ばれて、俺は我に返った。

 

「どうした?」

 

「準備する必要がある」

 

「そうだな」

 

 俺は頷いた。

 

「今すぐ行くわけじゃないんだよな?」

 

「うん」

 

 ウェンティが答える。

 

「準備が必要だよ。トワリンのいる場所へ行くなら、それなりの覚悟もね」

 

「場所は?」

 

「それは――」

 

 ウェンティが空を見上げる。

 

「風が教えてくれるさ」

 

「……」

 

 俺は無言になった。

 

「なんだ、その顔?」

 

「いや」

 

 俺はため息をつく。

 

「急に詩人になるなと思って」

 

「僕は吟遊詩人だからね」

 

「そうだった」

 

 パイモンが笑う。

 

「ウェンティはいつもこんな感じだぞ!」

 

「それは知ってる」

 

 俺も苦笑する。

 

 蛍が少しだけ笑った。

 

「戦い方を確認しておこう」

 

 蛍が言う。

 

 おじさんと蛍が向かい合う。

 

「俺は近距離が中心だ」

 

「私も剣を使う」

 

「空中戦になる可能性がある」

 

「その場合は私が対応する」

 

 短い会話。

 

 必要なことだけを確認している。

 

 俺はその横で聞いていた。

 

「俺とパイモンは?」

 

「後ろから状況を見る!」

 

 パイモンが答える。

 

「何か分かったことがあったら教えてくれ!」

 

「分かった」

 

 俺も頷く。

 

「戦闘そのものは任せるよ」

 

 おじさんが俺を見る。

 

「無理はするな」

 

「分かってる」

 

 俺は苦笑した。

 

「俺は戦闘要員じゃないから」

 

「そうか」

 

「だから、おじさんが無茶しそうになったら止める役」

 

「必要ない」

 

「必要だよ」

 

 俺は即答した。

 

「おじさんの場合、敵が強いほど普通に突っ込むから」

 

「問題ない」

 

「それが問題なんだよ」

 

 蛍とパイモンが笑った。

 

 ウェンティも楽しそうに笑っている。

 

「いいね」

 

「何が?」

 

「こういうの」

 

 ウェンティが言った。

 

「誰かを助けるために、それぞれが自分のできることをする」

 

 その声だけは。

 

 いつもの軽さとは少し違っていた。

 

 俺は黙ってウェンティを見る。

 

「……本気なんだな」

 

「もちろん」

 

 ウェンティは笑う。

 

「僕は、トワリンを助けたいんだ」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「なら、俺も協力する」

 

「ありがとう」

 

「俺は何もできないかもしれないけど」

 

「そんなことないよ」

 

 ウェンティが言う。

 

「知識っていうのも、大切な力だからね」

 

 俺は少し驚いた。

 

「……そうかな」

 

「そうさ」

 

 ウェンティは帽子を直す。

 

「特に、この世界を知っている人がいるならね」

 

「……」

 

 俺は少しだけ黙った。

 

 ウェンティがどこまで知っているのか。

 

 やっぱり分からない。

 

 それでも。

 

 今は、それを追及する必要はない気がした。

 

「じゃあ、一度別れよう」

 

 蛍が言った。

 

「準備をしてから、また集まる」

 

「そうだね」

 

 ウェンティも頷く。

 

「僕は準備しておくよ」

 

「俺たちも依頼の整理をしておく」

 

 おじさんが言う。

 

 パイモンが手を振った。

 

「じゃあ、またな!」

 

「うん。またね」

 

 蛍とパイモンが歩き出す。

 

 ウェンティも別の方向へ向かう。

 

 おじさんと俺も、冒険者ギルドへ戻ることにした。

 

 しばらく歩いたところで。

 

「……おじさん」

 

「なんだ?」

 

「本当に行くんだよな」

 

「何がだ?」

 

「トワリンを助けに」

 

「ああ」

 

「怖くないの?」

 

「怖い?」

 

「竜だぞ」

 

「そうだな」

 

「……」

 

 俺は苦笑した。

 

「おじさんらしいわ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 街の外から風が吹いてきた。

 

 旗が揺れる。

 

 木々が揺れる。

 

 モンドの街を、風が静かに通り抜けていく。

 

「風って、なんだか変だな」

 

 俺が呟く。

 

「何がだ?」

 

「同じ風なのに、気分によって全然違って感じる」

 

「そういうものだろう」

 

「……そうかもな」

 

 二人は歩き続ける。

 

 その頃。

 

 モンドの外では。

 

 一羽の鳥が空を飛んでいた。

 

 風に乗って、高く。

 

 高く。

 

 そして――。

 

 遠く離れた場所で。

 

 巨大な竜が、苦しそうに身をよじった。

 

 風が大きく渦を巻く。

 

 その声は、遠くモンドまで届くことはなかった。

 

 だが。

 

 決戦の時は、確実に近づいている。

 

 アビス教団。

 

 トワリン。

 

 そして、モンドを覆う異変。

 

 これまで別々に見えていた出来事が。

 

 少しずつ、一つにつながり始めていた。

 

「……明日は忙しくなりそうだな」

 

 俺が空を見上げる。

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

 二人の頭上には、モンドの夜空が広がっていた。

 

 無数の星。

 

 静かな風。

 

 そして、その向こうに待つ戦い。

 

 俺は一度だけ深呼吸した。

 

「……帰る方法も、見つけないとな」

 

「ああ」

 

「その前にトワリンを助ける」

 

「そうだ」

 

「順番がおかしい気もするけど」

 

「困っているなら助ける」

 

「……分かったよ」

 

 俺は笑った。

 

「じゃあ、やるか」

 

 二人は宿へ向かって歩き出した。

 

 モンドの夜に、風が吹く。

 

 静かで。

 

 どこか寂しい風だった。

 

 そして、その風の先には――。

 

 トワリンとの決戦が待っていた。

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