異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第18話「アビスの拠点」

 朝のモンド。

 

 冒険者ギルドには、今日も多くの冒険者が集まっていた。

 

 依頼を受ける者。

 

 報告に来た者。

 

 これから街の外へ向かう者。

 

 そんな冒険者たちの間を抜けながら、俺とおじさんは掲示板の前に立っていた。

 

「……これだな」

 

 俺は一枚の依頼書を指差す。

 

「最近、森の周辺でヒルチャールの目撃情報が増えている。原因を調査してほしい、か」

 

「倒せばいいんじゃないのか?」

 

「書いてあるでしょ。原因を調べてほしいって」

 

「そうか」

 

「ちゃんと読んでよ」

 

 俺は苦笑する。

 

 最近は、こういう依頼を受けることにもすっかり慣れてきた。

 

 モンドで生活するにはモラが必要だ。

 

 食事も宿も必要になる。

 

 日本へ帰る方法を探すためにも、この世界で生きていかなければならない。

 

 だから二人は、冒険者ギルドの依頼を受けながら少しずつ情報を集めていた。

 

「それにしても、最近ヒルチャールの依頼が多いな」

 

「風魔龍の事件の影響かもしれない」

 

「それだけならいいんだけどな」

 

 俺は依頼書を見つめる。

 

 ここ最近、森の周辺では妙な痕跡が見つかっていた。

 

 ヒルチャールの行動も普段とは違う。

 

 そして何より――。

 

「アビス教団が関わってる可能性もある」

 

「そうだな」

 

 おじさんも頷いた。

 

 二人は受付で依頼を受ける。

 

 そして街の外へ向かおうとした、その時だった。

 

「あれ?」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

 振り返る。

 

 そこにはアンバーが立っていた。

 

「やっぱり二人だった!」

 

「アンバー」

 

 俺が手を上げる。

 

「今日も依頼?」

 

「うん」

 

 俺は依頼書を見せる。

 

「森のヒルチャールについて調べるんだ」

 

「それなら、私も似たような情報を追ってるところだよ」

 

「本当?」

 

「最近、森の周辺でヒルチャールの動きがおかしいの」

 

 アンバーの表情が少し真剣になる。

 

「いつもなら森の奥にいるような集団が、街道近くまで出てきてる」

 

「数は?」

 

「小さな集団もいるけど、妙に組織立って動いている集団もいるんだ」

 

 俺はおじさんを見る。

 

 おじさんも同じことを考えているようだった。

 

「アビスかもしれないな」

 

「私もそう思ってる」

 

 アンバーが頷く。

 

「まだ確証はないけどね」

 

「じゃあ、一緒に調べる?」

 

「いいの?」

 

「もちろん!」

 

 こうして三人は、一緒に森へ向かうことになった。

 

     ◆

 

 森へ入ると、空気が少し変わった。

 

 街の喧騒が遠ざかり、木々のざわめきが大きくなる。

 

 アンバーは弓を手にしながら、周囲を確認していた。

 

「この辺りで目撃情報が多いんだ」

 

「何か見つかった?」

 

「まだ――」

 

 アンバーが言葉を止めた。

 

「……あれ」

 

 地面を指差す。

 

 そこには、いくつもの足跡が残っていた。

 

「ヒルチャールだな」

 

 おじさんが言う。

 

「しかも結構な数」

 

 俺が周囲を見る。

 

「足跡が同じ方向に向かってる」

 

「追ってみよう」

 

 三人は足跡を追った。

 

 しばらく進んだところで、ヒルチャールの声が聞こえてきた。

 

「いるね」

 

 アンバーが小声で言う。

 

「何体?」

 

 俺が尋ねる。

 

「……多い」

 

 木々の隙間から覗く。

 

 そこにはヒルチャールの集団がいた。

 

 ただし、普通の群れとは少し違う。

 

 何体かが周囲を警戒している。

 

 まるで見張りのようだった。

 

「ヒルチャールが見張りをしてる?」

 

 アンバーが眉をひそめる。

 

「変だな」

 

 俺も頷く。

 

「誰かに指示されてるのかもしれない」

 

 その時だった。

 

 森の奥から、紫色の光が漏れた。

 

「……あれは」

 

 アンバーが弓を構える。

 

 ヒルチャールの後ろから、一体のアビスの魔術師が姿を現した。

 

「侵入者か」

 

 低い声が響く。

 

「ここへ何をしに来た」

 

「それはこっちが聞きたいよ!」

 

 アンバーが矢を放つ。

 

 アビスの魔術師が障壁を展開した。

 

 矢が弾かれる。

 

「やっぱりアビスだ!」

 

「来るぞ!」

 

 俺が叫んだ。

 

 ヒルチャールたちが一斉に動き出す。

 

「数、多いぞ!」

 

「分かった」

 

 おじさんが前へ出る。

 

 その動きに迷いはない。

 

「おじさん、無理に突っ込まないで!」

 

「大丈夫だ」

 

「いや、毎回それで――」

 

 俺が言い終わる前に、おじさんが手を掲げた。

 

「ワーグレント・マグナ――疾風操作」

 

 風が一気に吹き抜けた。

 

 ヒルチャールたちの隊列が大きく崩れる。

 

「うわっ!」

 

 アンバーが思わず声を上げた。

 

「すご……」

 

「またやりすぎだ……」

 

 俺は頭を抱える。

 

「まだ敵は残ってるぞ」

 

「分かってる」

 

 アンバーが弓を構える。

 

「そこ!」

 

 矢が飛ぶ。

 

 ヒルチャールが倒れる。

 

 俺は周囲を確認した。

 

「右から二体!」

 

「任せて!」

 

 アンバーが振り返る。

 

 その間に、おじさんが敵との距離を詰めた。

 

 光の剣が現れる。

 

 一閃。

 

 二閃。

 

 ヒルチャールが次々と倒れていく。

 

「……本当に強いな」

 

 アンバーが呟いた。

 

「強いけど……」

 

 俺はため息をつく。

 

「毎回これだと、依頼の難易度って何なんだろうな」

 

「敵が弱いだけだろう」

 

「そういう問題じゃない」

 

 その時。

 

「――異界の力か」

 

 アビスの魔術師が呟いた。

 

 俺が振り返る。

 

「おじさん」

 

「分かっている」

 

 魔術師が魔法を放つ。

 

 紫色の攻撃が地面をえぐった。

 

 おじさんは横へ跳んで避ける。

 

「危ない!」

 

 アンバーが叫ぶ。

 

 俺は敵の動きを見る。

 

「次は左!」

 

 おじさんが即座に動く。

 

 攻撃をかわし、距離を詰める。

 

 光の剣を構えた。

 

 しかし。

 

「撤退する!」

 

 アビスの魔術師が叫ぶ。

 

 周囲に紫色の霧が広がった。

 

「待って!」

 

 アンバーが矢を放つ。

 

 だが、霧が晴れた時には、魔術師の姿は消えていた。

 

「逃げた……」

 

 アンバーが悔しそうに呟く。

 

「追う?」

 

 俺がおじさんを見る。

 

「いや」

 

 おじさんは首を横に振った。

 

「追う必要はない」

 

「どうして?」

 

「目的を調べる方が重要だ」

 

 俺は少し考える。

 

「……確かに」

 

 三人は、ヒルチャールたちが集まっていた場所を調べ始めた。

 

     ◆

 

 森の奥。

 

 そこには簡単な拠点が作られていた。

 

 木箱。

 

 簡素な机。

 

 いくつかの道具。

 

 そして、奇妙な紋章。

 

「アビス教団のものだね」

 

 アンバーが言った。

 

「ここで何かやってたみたい」

 

 俺は周囲を見る。

 

「……これ」

 

 机の上に紙が置かれていた。

 

「何か書いてある」

 

 俺が手に取る。

 

 文字を追う。

 

「全部は読めないけど……」

 

「何が書いてある?」

 

 アンバーが覗き込む。

 

「トワリン……」

 

 アンバーの表情が変わった。

 

「トワリン?」

 

「うん」

 

 俺は続けて読む。

 

「それから……風……龍……」

 

「風魔龍のことを調べてる?」

 

 アンバーが呟く。

 

 別の紙には、トワリンの様子や行動について書かれていた。

 

「これ……」

 

 俺の顔から笑みが消える。

 

「トワリンを利用してる」

 

「……やっぱり」

 

 アンバーが拳を握る。

 

「風魔龍の事件は、アビス教団が仕組んでるんだ」

 

「少なくとも、関係している可能性は高い」

 

 俺が答える。

 

 おじさんは黙って資料を見ていた。

 

 その表情が少し変わる。

 

「……これは放っておけないな」

 

「うん」

 

 俺も頷いた。

 

 今までにもアビス教団の存在は確認してきた。

 

 だが、今回は違う。

 

 トワリン。

 

 モンドを襲った風魔龍。

 

 その背後にアビス教団がいる。

 

 それが、はっきりと見えてきた。

 

「この資料、騎士団に持って帰ろう」

 

 アンバーが言う。

 

「そうしよう」

 

「私が報告する」

 

「お願い」

 

 アンバーは資料をまとめる。

 

「二人も一緒に来る?」

 

「うん」

 

 三人は森を後にした。

 

     ◆

 

 モンドへ戻ると、アンバーはそのまま騎士団へ向かった。

 

「じゃあ、私は報告してくるね」

 

「ああ」

 

「二人も気をつけて」

 

「分かった」

 

 アンバーが走っていく。

 

 俺とおじさんは、その背中を見送った。

 

「……これで少し進んだな」

 

「そうだな」

 

「でも、まだ分からないことも多い」

 

「トワリンがどこにいるのかもな」

 

「うん」

 

 俺は空を見上げた。

 

 風が吹いている。

 

 その風の向こうに、何かがある。

 

 そんな気がした。

 

「蛍たちも何か調べてるかもしれないな」

 

「そうだな」

 

「俺たちだけで全部調べる必要もないし」

 

「ああ」

 

 おじさんは頷いた。

 

 二人はそのまま街を歩く。

 

「それにしても……」

 

 俺が呟く。

 

「アビス教団がトワリンを利用してるってなると、かなり大きな話になってきたな」

 

「なら、止めればいい」

 

「簡単に言うなよ」

 

「簡単だろう」

 

「いや、そういう問題じゃ――」

 

 俺は途中で言葉を止めた。

 

 おじさんはいつも通りだった。

 

 やるべきことが決まれば、迷わない。

 

 それが、この世界に来てから何度も二人を助けてきた。

 

「……まあ、そうだな」

 

 俺は小さく笑った。

 

「まずは騎士団に任せよう」

 

「ああ」

 

「俺たちは俺たちで、できることをやる」

 

「そうしよう」

 

 二人は冒険者ギルドへ向かう。

 

 まだ風龍廃墟の場所は分からない。

 

 トワリンがどこにいるのかも分からない。

 

 だからこそ、今は集められる情報を集めるしかない。

 

 その頃。

 

 モンドの別の場所では――。

 

「ねえ、パイモン」

 

「なんだ、蛍?」

 

「少し気になることがあるの」

 

 二人もまた、風魔龍について調べ始めていた。

 

 まだ、おじさんたちは知らない。

 

 蛍とパイモンが別の場所から、少しずつ同じ事件へ近づいていることを。

 

 そして。

 

 風龍廃墟へ続く手掛かりが、まもなく見つかろうとしていることを。

 

 モンドを吹き抜ける風は、少しずつ強くなっていた。

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