異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第19話「決戦前夜」

 モンドの朝は、いつもより慌ただしかった。

 

 街を歩く西風騎士団の数が多い。

 

 武器を持って移動する騎士。

 

 荷物を運ぶ騎士。

 

 街の外へ向かう準備をしている者。

 

 風魔龍――トワリンへの対応が、いよいよ本格的になっている。

 

「……決戦前って感じだな」

 

 宿の窓から街を眺めながら、俺は呟いた。

 

「そうだな」

 

 部屋の中では、おじさんがいつものように準備をしている。

 

 荷物を確認し、武器を確認する。

 

 特別に緊張している様子はない。

 

「おじさん、緊張しないの?」

 

「する必要があるのか?」

 

「いや……」

 

 俺は苦笑する。

 

「相手、風魔龍だぞ」

 

「知っている」

 

「それなのに普通だな」

 

「やることは変わらない」

 

「まあ、おじさんらしいけど」

 

 二人は宿を出た。

 

 今日は西風騎士団で、決戦に向けた最終確認が行われる予定だった。

 

 その途中。

 

「たかふみ!」

 

 後ろから声がした。

 

 振り返る。

 

 蛍とパイモンが歩いてきていた。

 

「おはよう」

 

「おはよう!」

 

 俺も手を上げる。

 

「二人も騎士団?」

 

「うん」

 

 蛍が頷く。

 

「昨日から少し調べてたの」

 

「何か分かった?」

 

 俺が聞く。

 

「風魔龍について、昔の記録を調べてた」

 

 蛍が答えた。

 

「それで、いくつか気になる情報があったの」

 

「風魔龍の?」

 

「そう」

 

 パイモンが横から口を挟む。

 

「トワリンは昔、モンドを守ってたんだろ?」

 

「ああ」

 

 俺も知っている。

 

「でも、今はモンドを襲ってる」

 

「だから、その間に何があったのか調べてたんだ」

 

 蛍が言う。

 

「まだ全部は分からないけど、風龍廃墟に関係する記録が見つかった」

 

「風龍廃墟……」

 

 俺はその言葉を聞いて、一瞬だけ考え込んだ。

 

 ゲームで知っている場所。

 

 だが、この世界では何もかもが同じとは限らない。

 

「場所まで分かった?」

 

「まだ」

 

 蛍は首を横に振る。

 

「古い記録だから、今の地図とは少し違ってるみたい」

 

「そっか」

 

 俺は頷いた。

 

「こっちも昨日、アビス教団の拠点で資料を見つけた」

 

「本当?」

 

「うん」

 

 俺は昨日の出来事を簡単に説明した。

 

 森に現れたヒルチャール。

 

 アビスの魔術師。

 

 そして、トワリンについて書かれていた資料。

 

「アビス教団がトワリンを利用してる可能性が高い」

 

「やっぱり……」

 

 パイモンが顔をしかめる。

 

「じゃあ、オイラたちが調べたことと繋がるな」

 

「そうだね」

 

 蛍も頷く。

 

 それぞれが集めた情報を簡単に交換する。

 

 トワリンの過去。

 

 アビス教団の動き。

 

 風龍廃墟に関する手掛かり。

 

 まだ分からないことは多い。

 

 それでも、別々に動いていたからこそ見えてきたものがあった。

 

「とりあえず、今日の話し合いで共有しよう」

 

 俺が言う。

 

「うん」

 

「オイラも覚えてるぞ!」

 

 パイモンが胸を張った。

 

「……本当に?」

 

「もちろんだ!」

 

「じゃあ後で確認するからな」

 

「えっ」

 

 パイモンの動きが止まる。

 

「たかふみ、疑ってるのか?」

 

「念のため」

 

「ひどいぞ!」

 

 蛍が小さく笑う。

 

「でも、パイモンなら忘れてそう」

 

「蛍まで!?」

 

 そんなやり取りをしながら、四人は西風騎士団へ向かった。

 

     ◆

 

 騎士団の建物には、すでに多くの人が集まっていた。

 

 ジンさん。

 

 ガイアさん。

 

 リサさん。

 

 アンバー。

 

 ディルックさん。

 

 そしてウェンティ。

 

「集まったな」

 

 ジンさんが全員を見る。

 

「これより、風魔龍への対応について最終的な確認を行います」

 

 部屋の空気が引き締まった。

 

 ジンさんは机の上に広げられた資料を指す。

 

「まず、騎士団はモンドの安全確保を担当します」

 

「街に残る人員も必要だからな」

 

 ガイアさんが続ける。

 

「戦闘に参加する者だけを外へ出すわけにはいかない」

 

「その通りです」

 

 ジンさんが頷く。

 

「街への被害が出た場合に備え、救護と避難経路も確認しておきます」

 

 俺は静かに聞いていた。

 

 ゲームで知っている流れとはいえ、実際のモンドでは多くの人が生活している。

 

 ゲーム画面の向こう側にいた人たちではない。

 

 ここにいる一人一人が、この世界で暮らしている。

 

(だから、単純にイベントを進めればいいって話じゃないんだよな)

 

 俺はそう思った。

 

「ガイアには周辺の警戒をお願いしたい」

 

「任せてくれ」

 

 ガイアさんはいつもの余裕ある笑みを浮かべる。

 

「ただし、今回の相手はいつもの魔物とは違う。油断はしないさ」

 

「お願いします」

 

 続いてリサさんが資料を確認する。

 

「アビス教団が関わっている以上、魔術的な干渉も警戒した方がいいでしょうね」

 

「何か分かりますか?」

 

「まだ断定はできないわ」

 

 リサさんは首を横に振る。

 

「だからこそ、何が起きても対応できるようにしておくの」

 

「分かりました」

 

 俺は頷いた。

 

 少し離れた場所では、ディルックさんが腕を組んでいた。

 

「俺も動く」

 

 短い言葉だった。

 

「助かります」

 

 ジンさんが答える。

 

「アビス教団が関わっているなら、放っておく理由もない」

 

 ディルックさんはそれだけ言った。

 

 そして。

 

「僕も行くよ」

 

 ウェンティが軽い調子で言った。

 

「トワリンを助けたいからね」

 

 俺はウェンティを見る。

 

 いつもの軽い口調。

 

 いつもの笑顔。

 

 けれど、以前会った時とは少し違って見えた。

 

 冗談だけで話しているわけではない。

 

「……本気なんだな」

 

 俺が呟く。

 

「もちろん」

 

 ウェンティは笑った。

 

「僕にとっても、大切な友達だからね」

 

 蛍が頷く。

 

「私も行く」

 

「オイラも!」

 

 パイモンが続く。

 

「二人とも、頼りにしてるよ」

 

 ウェンティが言った。

 

 そして、視線が二人に向く。

 

「おじさんとたかふみも来てくれるんだよね?」

 

「ああ」

 

 おじさんが答えた。

 

「なら助ければいい」

 

 あまりにも迷いのない返事だった。

 

 俺は思わず横を見る。

 

「……即答だな」

 

「助ける必要があるんだろう?」

 

「そうだけど」

 

 俺は苦笑する。

 

「もうちょっと考えてもいいんじゃないか?」

 

「考える必要がない」

 

「……まあ、おじさんならそう言うよな」

 

 ウェンティが楽しそうに笑う。

 

「頼もしいね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 おじさんは特に気にした様子もない。

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

     ◆

 

 話し合いが終わった後も、準備は続いた。

 

 武器。

 

 道具。

 

 食料。

 

 必要なものを一つずつ確認する。

 

 おじさんも、自分の武器を確認していた。

 

 光の剣を使うための準備も整えている。

 

「おじさん」

 

「なんだ?」

 

「明日は無茶するなよ」

 

「いつもしていない」

 

「してる」

 

 俺は即答した。

 

「敵が強いからって、いきなり全部吹き飛ばすなよ」

 

「分かった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「……ならいいけど」

 

 俺は少し安心した。

 

 だが、おじさんのことだから本当に守るかどうかは分からない。

 

 それでも、今は信じるしかなかった。

 

     ◆

 

 昼を過ぎた頃。

 

 俺は騎士団の外で蛍とパイモンに会った。

 

「これからどうする?」

 

 俺が聞く。

 

「もう少し資料を見てみる」

 

 蛍が答える。

 

「風龍廃墟について、まだ分からないことがあるから」

 

「そっか」

 

 俺は頷く。

 

「俺も原作知識だけなら多少あるけど……」

 

 そこまで言って、口を閉じた。

 

「何?」

 

 蛍が首を傾げる。

 

「いや」

 

 俺は笑った。

 

「実際に行ってみないと分からないことも多いし」

 

「うん」

 

 蛍が頷く。

 

「何か分かったら教える」

 

「こっちも」

 

 情報を共有する。

 

 それだけで十分だった。

 

 無理に全員が一緒に行動する必要はない。

 

 それぞれが調べ、分かったことを伝え合う。

 

 今の二人と蛍たちには、それくらいの距離感がちょうどよかった。

 

「じゃあ、また後で」

 

「うん」

 

「またな!」

 

 パイモンが手を振る。

 

 俺も手を振り返した。

 

     ◆

 

 夕方。

 

 モンドの街に少しずつ夕日が差し始める。

 

 決戦を前に、街は静かになっていった。

 

 俺とおじさんも宿へ戻る。

 

「疲れたな」

 

 俺がベッドに腰を下ろす。

 

「そうか?」

 

「情報整理だけでも結構疲れるんだよ」

 

「そういうものか」

 

「そういうもの」

 

 少し休んでから、二人は夕食を取った。

 

 特別なものではない。

 

 いつもの食事。

 

 いつもの宿。

 

 いつもの二人。

 

 それでも、明日は違う。

 

 俺は窓の外を見る。

 

 モンドの街が夕暮れに染まっていた。

 

「……明日か」

 

「ああ」

 

「風龍廃墟」

 

「そうだ」

 

「本当に行くんだな」

 

「行く」

 

 おじさんは迷わない。

 

 俺はそんなおじさんを見て、少しだけ笑った。

 

     ◆

 

 夜。

 

 二人は宿を出て、少しだけ街を歩いた。

 

 モンドの夜は静かだった。

 

 昼間の騒がしさは消え、街灯が道を照らしている。

 

 酒場からはかすかに声が聞こえる。

 

 風が建物の間を抜けていく。

 

「……綺麗だな」

 

 俺が空を見上げる。

 

「そうだな」

 

 おじさんも星を見る。

 

「最初にここへ来た時はさ」

 

 俺が言う。

 

「こんなところで生活するなんて、考えもしなかったよな」

 

「ああ」

 

「モラのことも分からない」

 

「分からなかったな」

 

「文字も読めない」

 

「今は少し読める」

 

「それはそうだけど」

 

 俺は笑った。

 

「冒険者ギルドで依頼受けて、魔物倒して、街の人と話して……」

 

「普通に生活しているな」

 

「うん」

 

 少しだけ間が空く。

 

「だから余計にさ」

 

 俺は前を向いた。

 

「日本に帰れるのかって考えるんだよ」

 

「……」

 

「このまま帰れなかったら、どうするんだろうって」

 

 おじさんは何も言わずに聞いている。

 

「こっちで生活するのも、慣れてきたけどさ」

 

 俺は苦笑する。

 

「やっぱり日本に帰りたいよ」

 

「ああ」

 

「家族もいるし、バイトもあるし」

 

「そうだな」

 

「このまま、ずっと帰れなかったら……」

 

 俺の声が少しだけ小さくなる。

 

「……怖いんだよ」

 

 おじさんは夜空を見上げた。

 

 そして。

 

「帰る」

 

「……」

 

「日本に帰る」

 

 俺が顔を上げる。

 

「必ず帰る」

 

 短い言葉だった。

 

 でも、それで十分だった。

 

「……そっか」

 

 俺は小さく笑った。

 

「そうだよな」

 

「ああ」

 

「じゃあ、俺も頑張らないとな」

 

「そうだ」

 

「明日、ちゃんと生きて帰ろう」

 

「ああ」

 

 二人は宿へ戻った。

 

     ◆

 

 翌朝。

 

 モンドの空は青かった。

 

 風が街を吹き抜けている。

 

 出発の準備は整っていた。

 

 蛍とパイモンも合流する。

 

 ウェンティも準備を終えている。

 

 騎士団側も、それぞれの役割を確認していた。

 

「忘れ物はない?」

 

 パイモンが確認する。

 

「たぶん」

 

 蛍が答える。

 

「たぶんってなんだよ!」

 

「大丈夫」

 

 俺が苦笑する。

 

「必要なものは確認した」

 

「なら安心だな!」

 

 パイモンが胸を張る。

 

 ウェンティが空を見上げた。

 

「風がいい感じだね」

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

 俺はモンドの街を見る。

 

 これまで依頼を受けて歩いた道。

 

 冒険者ギルド。

 

 宿。

 

 何度も通った広場。

 

 出会った人たち。

 

 ベネット。

 

 フィッシュル。

 

 モナ。

 

 ディオナ。

 

 そして、クレー。

 

 短い間だった。

 

 それでも、この街での生活は確かに積み重なっている。

 

「……行こう」

 

 蛍が言った。

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「おう!」

 

 パイモンも声を上げる。

 

 俺は最後にもう一度、モンドを振り返った。

 

(ゲームでは、ここから風龍廃墟へ行く)

 

 そのことは知っている。

 

 けれど。

 

(実際はどうなるか分からない)

 

 ここまでだって、ゲームとは違うことがいくつも起きている。

 

 だから、知識だけに頼るつもりはなかった。

 

「……行くか」

 

 俺が歩き出す。

 

 おじさんも隣を歩く。

 

 蛍とパイモン、ウェンティも続く。

 

 モンドを吹き抜ける風が、彼らの背中を押すように流れていった。

 

 こうして一行は、決戦へ向けてモンドを出発した。

 

 風魔龍――トワリンを救うために。

 

 そして。

 

 二人が日本へ帰る方法を探す旅を続けるために。

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