異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第20話「風龍廃墟へ」

 朝のモンド。

 

 いつもなら、城門の周辺には冒険者や商人の姿が見える。

 

 けれど、この日は少し違っていた。

 

 西風騎士団の団員たちが城門や城壁周辺に配置され、街の警戒を強めている。

 

 街道の先を確認する者。

 

 城壁の上から周囲を見張る者。

 

 市街地へ続く道を巡回する者。

 

 騎士団全体が、いつでも動けるよう準備を整えていた。

 

「……結構、厳重だな」

 

 俺は城門を眺めながら呟いた。

 

「トワリンが再びモンドへ来る可能性があるからね」

 

 隣にいた蛍が答える。

 

 その向こうでは、ジンさんが騎士団の指示を出していた。

 

「城門周辺の警戒を強化してください。異変を確認した場合は、必ず報告を」

 

「はい!」

 

 団員が敬礼する。

 

「それから、無理に戦闘を続ける必要はありません。危険を感じた場合は、すぐに退避してください」

 

「了解しました!」

 

 ジンさんは一人一人の配置を確認していく。

 

 その表情は真剣だった。

 

 街を守る。

 

 それが今のジンさんたちの役目なのだろう。

 

 トワリンがどれほど危険な存在なのかは、俺も知っている。

 

 ゲームの中で見た敵。

 

 けれど、ここでは違う。

 

 実際にモンドで暮らす人たちにとって、トワリンは巨大な災害そのものだ。

 

「たかふみ」

 

 ジンさんがこちらへ歩いてきた。

 

「はい、ジンさん」

 

「準備はできましたか?」

 

「大丈夫です」

 

 俺が答える。

 

 ジンさんは蛍、おじさん、ウェンティ、パイモンにも視線を向けた。

 

「今回、騎士団は風龍廃墟へ同行しません」

 

「分かってる」

 

 蛍が頷く。

 

「トワリンがモンドへ戻ってきた場合に備えて、騎士団は街の防衛を優先します」

 

 ジンさんの視線が、モンドの街へ向く。

 

「もし何かあれば、すぐに退避してください」

 

「退避?」

 

 俺が聞き返す。

 

「はい」

 

 ジンさんは頷いた。

 

「風龍廃墟で想定以上の危険が発生した場合、戦闘を続けることよりも皆さんの安全を優先してください」

 

「でも、トワリンを助けるんだろ?」

 

 パイモンが言う。

 

「そのつもりです」

 

 ジンさんは穏やかに答えた。

 

「ですが、無理をして誰かが倒れてしまえば、それこそ取り返しがつきません」

 

 蛍が黙って頷く。

 

「分かった」

 

 俺も頷いた。

 

「俺も気をつけます」

 

「お願いします、たかふみ」

 

 ジンさんはそう言って、少しだけ表情を和らげた。

 

 そこへアンバーがやってきた。

 

「準備できた?」

 

「うん」

 

 蛍が答える。

 

「風龍廃墟までの道は?」

 

「今のところ問題ないよ」

 

 アンバーが周囲を見る。

 

「でも、アビス教団が動いている可能性は高いから気をつけてね」

 

「分かった」

 

 俺が答える。

 

「アンバーさんたちは?」

 

「私たちはモンドに残るよ」

 

 アンバーは胸を張った。

 

「何かあったら、すぐ対応できるようにしておくから」

 

「ありがとう、アンバーさん」

 

「うん!」

 

 続いてガイアさんがこちらへ歩いてきた。

 

「いよいよ風龍廃墟か」

 

「ガイアさん」

 

「向こうには何が待っているか分からない。まあ、お前たちなら大丈夫だろうがな」

 

 ガイアさんは笑う。

 

「ただし、無茶はするなよ」

 

「分かってます」

 

 俺が答える。

 

「俺も、おじさんが無茶しないように見ておきます」

 

「俺は無茶などしない」

 

 おじさんが真顔で言った。

 

「……それ、信用していいのか?」

 

「問題ない」

 

 即答だった。

 

 俺は何とも言えない顔になる。

 

 するとリサさんが後ろから声をかけてきた。

 

「ふふっ。たかふみ、心配なのねぇ」

 

「そりゃ心配ですよ、リサさん」

 

「おじさんのこと?」

 

「そうです」

 

 リサさんはおじさんを見る。

 

「確かに、あの人は自分の力を過小評価しているようなところがあるものね」

 

「過小評価じゃない」

 

 おじさんが言う。

 

「必要な力を使っているだけだ」

 

「それが心配なのよ」

 

 リサさんが笑った。

 

 俺も頷く。

 

「ですよね」

 

「おい」

 

 おじさんが俺を見る。

 

「何だ?」

 

「いや、何でもない」

 

 この人に言っても無駄だ。

 

 俺はそう判断した。

 

 そのとき。

 

「そろそろ行こうか」

 

 ウェンティが言った。

 

「うん」

 

 蛍が頷く。

 

 俺たちは城門へ向かう。

 

 最後に俺はモンドを振り返った。

 

 騎士団が街を守っている。

 

 アンバーさんやガイアさん、リサさんたちも残る。

 

 そして、ジンさんも。

 

「気をつけてください」

 

 ジンさんが言う。

 

「ジンさんも」

 

 俺が答える。

 

「何かあったら、すぐ退避してくださいね」

 

「分かっています」

 

 ジンさんは微笑んだ。

 

「たかふみも、無理はしないように」

 

「はい」

 

 俺たちはモンドを出た。

 

     ◇

 

 街を離れると、周囲は急に静かになった。

 

 街道を歩きながら、俺は前方を見る。

 

 遠くに巨大な建造物が見えていた。

 

「……あれが風龍廃墟か」

 

「そうだよ」

 

 ウェンティが答える。

 

「もう少し先だね」

 

 俺は目を細めた。

 

 ゲームでは何度も見た場所だ。

 

 けれど。

 

 実際に見ると、印象がまるで違う。

 

「デカいな……」

 

「そんなに?」

 

 蛍が俺を見る。

 

「うん。ゲームで見たときより、ずっと大きく感じる」

 

「ゲーム?」

 

「……まあ、俺がいた世界で見たものと比べてってこと」

 

「なるほど」

 

 蛍は深く追及しなかった。

 

 パイモンが俺の横を飛びながら言う。

 

「たかふみは変なことを言うよな」

 

「自覚はある」

 

「自覚あるのかよ!」

 

「あるよ」

 

 おじさんは何も言わずに前を歩いている。

 

 風が少しずつ強くなってきた。

 

 草が大きく揺れている。

 

「風、強くなってない?」

 

 蛍が言う。

 

「うん」

 

 ウェンティが答えた。

 

「近づいている証拠だよ」

 

「トワリンに?」

 

「そう」

 

 ウェンティの表情から、いつもの軽さが少し消えた。

 

 俺はそれを見て、背筋が伸びる。

 

 いよいよだ。

 

 風龍廃墟。

 

 そして、トワリン。

 

 ここから先は、ゲームの知識だけではどうにもならない。

 

 現実の戦いだ。

 

「止まって」

 

 ウェンティが言った。

 

 全員が足を止める。

 

「どうした?」

 

 おじさんが聞く。

 

「……いる」

 

 ウェンティが前を見る。

 

 俺も目を凝らす。

 

 何も見えない。

 

 だが。

 

 次の瞬間。

 

 遠くの岩陰から、黒い影が現れた。

 

「アビス教団!」

 

 蛍が剣を抜く。

 

「やっぱり来たか」

 

 俺も周囲を見る。

 

 一体。

 

 二体。

 

 さらに奥にもいる。

 

「数が多い!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

「俺たちを足止めするつもりだろうな」

 

 俺は周囲を確認した。

 

「蛍、おじさん。左右に分かれよう」

 

「分かった」

 

「了解した」

 

 蛍が右へ。

 

 おじさんが左へ走る。

 

「パイモン、俺たちは中央から全体を見る!」

 

「分かった!」

 

 アビスの魔術師が杖を掲げる。

 

 炎の魔法が飛んできた。

 

「来る!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 蛍が横へ飛ぶ。

 

 炎が地面を焼いた。

 

「たかふみ!」

 

「大丈夫!」

 

 俺は走りながら敵の位置を確認する。

 

 その直後。

 

 左側から風が巻き起こった。

 

「ワーグレント・スラドセルド――疾風駆送」

 

 おじさんが一気に距離を詰める。

 

 光の剣が閃いた。

 

 アビスの魔術師が防御する。

 

 しかし。

 

 おじさんはそのまま押し切った。

 

「うわ……」

 

 俺は思わず呟く。

 

 敵が吹き飛ぶ。

 

 続けて別の敵が攻撃する。

 

 おじさんは身体をひねって避けた。

 

「レグスウルド・スタッガ――縛動・拘鎖」

 

 光の鎖が伸びる。

 

 敵の身体を拘束。

 

 おじさんが踏み込む。

 

 一閃。

 

 敵が倒れる。

 

「おじさん、右!」

 

「分かっている」

 

 振り向く。

 

 飛んできた魔法を光の剣で弾いた。

 

 そのまま敵へ接近する。

 

 一方。

 

 蛍も敵を相手にしていた。

 

「そこ!」

 

 剣が閃く。

 

 元素の力が敵を吹き飛ばす。

 

「残りは?」

 

 蛍が叫ぶ。

 

「二体!」

 

 俺が答える。

 

「任せて!」

 

 蛍が走る。

 

 俺はパイモンと一緒に中央から状況を確認する。

 

「左、もう一体!」

 

「分かった!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

 おじさんが反応する。

 

 光の剣が振り抜かれた。

 

 敵が倒れる。

 

「最後!」

 

 蛍が一気に距離を詰める。

 

 そして。

 

 最後の敵が地面に倒れた。

 

 静かになった。

 

「……終わった?」

 

 パイモンが周囲を見る。

 

「今のところは」

 

 俺が答える。

 

「でも、まだ油断できない」

 

 ウェンティが風龍廃墟を見つめていた。

 

「アビス教団は、僕たちが来ることを予想していたようだね」

 

「まだいる可能性がある?」

 

 蛍が聞く。

 

「うん」

 

 ウェンティは頷いた。

 

「急ごう」

 

 俺たちは再び歩き始めた。

 

     ◇

 

 風龍廃墟の入口が近づく。

 

 巨大な石柱が空へ伸びている。

 

 崩れた建物。

 

 長い年月を感じさせる石壁。

 

 風が廃墟の中を吹き抜けている。

 

「……すごい」

 

 蛍が呟いた。

 

 俺も言葉を失っていた。

 

 知っている景色なのに。

 

 知らない場所に見える。

 

 ゲーム画面では、ただの背景だった。

 

 けれど、ここには巨大な石があり、風が吹き、足元には細かな砂が転がっている。

 

 現実だ。

 

「俺、本当にここに来たんだな……」

 

 思わず呟く。

 

「どうした?」

 

 パイモンが聞く。

 

「いや」

 

 俺は首を振る。

 

「何でもない」

 

 そのとき。

 

 ウェンティが足を止めた。

 

「……」

 

「ウェンティ?」

 

 蛍が声をかける。

 

 ウェンティは答えない。

 

 ただ、風龍廃墟の奥を見ている。

 

「近い」

 

 やがて、ウェンティが言った。

 

「トワリンが?」

 

 俺が聞く。

 

「うん」

 

 ウェンティが頷く。

 

「すぐそこだ」

 

 風が強くなる。

 

 廃墟の奥から、低い音が聞こえてきた。

 

 ゴォォォ……。

 

「何の音?」

 

 パイモンが不安そうに言う。

 

「風……だけじゃない」

 

 俺は耳を澄ます。

 

 地面が微かに震えている。

 

「来るぞ」

 

 おじさんが言った。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な風圧が吹き抜けた。

 

「うわっ!」

 

 パイモンが飛ばされる。

 

「パイモン!」

 

 蛍が腕を掴む。

 

 俺も身体を低くする。

 

 砂と小石が舞い上がる。

 

「なんだ、この風……!」

 

 おじさんは光の剣を地面へ突き立て、身体を支えている。

 

 ウェンティは。

 

 ただ前を見ていた。

 

「……トワリン」

 

 その名前を呼ぶ。

 

 風龍廃墟の奥。

 

 巨大な影が動いた。

 

 翼。

 

 長い尾。

 

 青い身体。

 

 そして。

 

 巨大な風龍が姿を現した。

 

「……!」

 

 俺は息を呑む。

 

 トワリン。

 

 ゲームで何度も見た姿。

 

 それなのに。

 

 現実に見ると、圧倒的だった。

 

「でか……」

 

 パイモンが呟く。

 

 蛍が剣を構える。

 

 おじさんも光の剣を構えた。

 

 ウェンティが前へ出る。

 

「トワリン!」

 

 声が廃墟に響く。

 

 巨大な風龍がこちらを見る。

 

 赤い瞳。

 

 その身体から荒々しい風が吹き出している。

 

「……」

 

 ウェンティは動かない。

 

「僕だよ」

 

 静かな声だった。

 

 しかし。

 

「グォォォォォォォォッ!」

 

 トワリンが咆哮した。

 

 風が爆発する。

 

「くっ!」

 

 蛍が身体を低くする。

 

 俺も腕で顔を覆った。

 

「たかふみ!」

 

「大丈夫!」

 

 俺は叫び返す。

 

 風が少し弱まる。

 

 そして俺は見た。

 

「……あれか」

 

 トワリンの身体に、黒いものが絡みついている。

 

 禍々しい力。

 

「アビスの力だ」

 

 ウェンティが言う。

 

「トワリンは、あれに蝕まれている」

 

「ゲームで見たときより、ずっと酷いな……」

 

 俺は呟く。

 

 トワリンが再び苦しそうに咆哮する。

 

「……苦しんでる」

 

 蛍が言う。

 

「うん」

 

 ウェンティが答える。

 

「助けなきゃ」

 

「どうする?」

 

 俺が聞く。

 

 ウェンティはトワリンを見る。

 

「アビスの力を取り除く」

 

 おじさんが光の剣を握り直した。

 

「ならば、あれを狙う」

 

「おじさん」

 

 俺は振り向く。

 

「トワリン本体を傷つけすぎないでくれ」

 

「分かっている」

 

「本当に?」

 

「問題ない」

 

 俺は少しだけ不安になる。

 

 でも。

 

 今は信じるしかない。

 

「蛍」

 

「うん」

 

「トワリンの動きを止めるんじゃなくて、隙を作ろう」

 

「分かった」

 

「俺は動きを見る」

 

 パイモンが頷く。

 

「オイラも手伝うぞ!」

 

 ウェンティが弓を構える。

 

「じゃあ、始めよう」

 

 トワリンが翼を広げる。

 

 巨大な風が巻き起こる。

 

「来る!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 トワリンが空へ舞い上がった。

 

「右!」

 

 蛍が走る。

 

 風の刃が地面を削る。

 

 おじさんが飛び上がった。

 

「ワーグレント・スラドセルド――疾風駆送!」

 

 一気に加速する。

 

 トワリンへ接近。

 

 しかし、トワリンが翼を振る。

 

 おじさんが弾き飛ばされる。

 

「おじさん!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 おじさんは空中で体勢を整え、着地した。

 

「問題ない」

 

「ならいいけど!」

 

 蛍が走る。

 

「今!」

 

 剣がトワリンの翼へ迫る。

 

 トワリンが身をひねる。

 

 その瞬間。

 

「見えた!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 黒い力が一瞬だけ露出した。

 

「おじさん、左!」

 

「分かった」

 

 おじさんが走る。

 

 光の剣が黒い力へ向かう。

 

 だが。

 

 トワリンが咆哮した。

 

 強烈な風が吹き荒れる。

 

「くっ!」

 

 おじさんの身体が押し戻される。

 

「まだ!」

 

 ウェンティが叫ぶ。

 

 風の流れが変わった。

 

 蛍がその風に乗って跳ぶ。

 

「おじさん!」

 

「分かっている!」

 

 二人が同時に動く。

 

 蛍がトワリンの注意を引く。

 

 その隙に、おじさんが接近する。

 

 光の剣が黒い力を捉えた。

 

「――っ!」

 

 黒い力が弾けた。

 

 トワリンが苦しそうに叫ぶ。

 

「効いてる!」

 

 俺は叫んだ。

 

 ウェンティがトワリンへ呼びかける。

 

「トワリン!」

 

 風龍がこちらを見る。

 

「もう少しだ!」

 

 しかし。

 

 黒い力はまだ残っている。

 

 むしろ。

 

 トワリンの身体を守るように広がっていく。

 

「……まだある」

 

 俺が呟く。

 

「たかふみ!」

 

 蛍が叫ぶ。

 

「どうする?」

 

「無理に一気に剥がそうとするな!」

 

 俺は叫び返す。

 

「少しずつ削る!」

 

 おじさんが頷く。

 

「分かった」

 

「蛍は動きを引きつけて!」

 

「任せて!」

 

 蛍が走る。

 

 トワリンの風が吹き荒れる。

 

 それでも蛍は避け続ける。

 

 おじさんが黒い力へ接近する。

 

 光の剣が振り抜かれる。

 

 また一部が消える。

 

「そのまま!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 ウェンティの風が戦場を支える。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつ。

 

 トワリンを蝕んでいた黒い力が剥がれていく。

 

 だが。

 

 俺はまだ安心できなかった。

 

 この戦いは始まったばかりだ。

 

 目の前には、巨大な風龍。

 

 そして。

 

 その身体を蝕むアビスの力。

 

「……まだ終わってない」

 

 俺は剣を握る蛍を見る。

 

 おじさんを見る。

 

 ウェンティを見る。

 

 そして、トワリンを見る。

 

 巨大な風龍が再び翼を広げた。

 

 廃墟全体を揺らすほどの風が吹き荒れる。

 

「来るぞ!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 蛍が剣を構える。

 

 おじさんが光の剣を構える。

 

 ウェンティが弓を引く。

 

 そして。

 

 風龍廃墟を揺るがす戦いが、本格的に始まった。

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