異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

21 / 21
第21話「苦しむ風龍」

 轟音が響いた。

 

 風龍廃墟の最深部。

 

 崩れかけた巨大な建造物の奥から、凄まじい風が吹き抜けている。

 

 足元の石畳が震え、壁の向こうから低い唸り声が響いた。

 

「……来る」

 

 ウェンティが静かに呟いた。

 

 蛍が剣を構える。

 

 パイモンは慌てて蛍の後ろへ隠れた。

 

「お、おい……今の音、かなり大きかったぞ!」

 

 俺は答えられなかった。

 

 ゲームで何度も見た。

 

 その姿も知っている。

 

 名前だって知っている。

 

 それでも。

 

 実際に目の前に現れると、まるで別物だった。

 

 巨大だった。

 

 青白い身体。

 

 長い尾。

 

 大きく広げられた翼。

 

 そして、その全身から溢れ出す風。

 

 巨大な風龍が、廃墟の奥から姿を現した。

 

「――トワリン!」

 

 蛍が叫ぶ。

 

 トワリンは俺たちを睨みつけた。

 

「人間よ……!」

 

 低い声が響く。

 

「ここから立ち去れ!」

 

「トワリン!」

 

 ウェンティが前へ出る。

 

「僕の声が聞こえるかい?」

 

「その声……」

 

 トワリンの目が僅かに揺れた。

 

 だが、次の瞬間。

 

「去れ!」

 

 巨大な翼が振り下ろされた。

 

「危ない!」

 

 蛍が前へ出る。

 

 剣を振る。

 

 風の塊が弾け飛んだ。

 

「蛍!」

 

「大丈夫!」

 

 蛍はそのままトワリンへ駆け出した。

 

 俺も周囲を見る。

 

 廃墟の床には瓦礫が散らばっている。

 

 逃げ場は少ない。

 

 相手は空を飛ぶ。

 

 しかも、あの巨体だ。

 

「おじさん!」

 

「分かってる」

 

 おじさんが前へ出た。

 

 右手に光の剣が現れる。

 

 そのまま、トワリンへ向かって走り出した。

 

「速っ!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

 おじさんは風の中を一直線に進んでいく。

 

 トワリンが気づいた。

 

「人間ごときが!」

 

 巨大な爪が振り下ろされる。

 

 おじさんは直前で身体を横へ滑らせた。

 

 巨大な爪が石床を砕く。

 

 そのまま、おじさんがトワリンの身体へ飛び乗った。

 

「そこ!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 おじさんの光の剣が振り下ろされる。

 

 だが――。

 

 ギィンッ!

 

 剣が何かに弾かれた。

 

「……?」

 

 おじさんが一瞬だけ止まる。

 

 俺は目を凝らした。

 

 トワリンの身体に、黒い何かがまとわりついている。

 

「アレだ……」

 

 思わず声が出た。

 

「たかふみ?」

 

 パイモンが俺を見る。

 

「トワリンを苦しめてるもの」

 

 ウェンティも黒い力へ視線を向ける。

 

「アビスの力だ」

 

「やっぱり……」

 

 ゲームで見たものと同じだった。

 

 トワリンを蝕んでいる力。

 

 そして。

 

 俺はトワリンの身体を見た。

 

 背中に食い込むように取り付けられた黒い装置。

 

「……あれだ」

 

 見間違えるはずがない。

 

 ゲームで見たものと同じだ。

 

「たかふみ?」

 

 蛍が振り返る。

 

「トワリンの身体についてる、あの黒い装置を壊して!」

 

「装置?」

 

 パイモンが目を凝らす。

 

「あれのことか?」

 

「そう!」

 

 俺は頷いた。

 

 焦っていた。

 

 だから。

 

 つい、口が滑った。

 

「ゲームでは、あれがトワリンを苦しめてた!」

 

「ゲームでは、か」

 

 おじさんが呟いた。

 

 俺は一瞬だけおじさんを見る。

 

 けれど、おじさんは驚いていない。

 

 俺が原作を知っていることは、おじさんも知っている。

 

 だから、俺の言葉を疑うこともしなかった。

 

「なら、あれを壊せばいいんだな?」

 

「うん!」

 

「分かった」

 

 おじさんは即答した。

 

「蛍、あれを狙え」

 

「分かった!」

 

 蛍が走り出す。

 

 トワリンが翼を大きく広げた。

 

「来るぞ!」

 

 おじさんが前へ出る。

 

 光の剣を振り、迫ってきた風を弾き飛ばした。

 

 その隙に蛍が走る。

 

「今!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 蛍が跳躍した。

 

 トワリンの背中へ近づき、黒い装置へ剣を叩き込む。

 

 ガキィン!

 

「硬い!」

 

「根元を狙って!」

 

 俺は叫んだ。

 

「そこなら外せる!」

 

「分かった!」

 

 蛍が体勢を立て直す。

 

 トワリンが身をよじった。

 

「うわっ!」

 

 蛍が振り落とされそうになる。

 

 おじさんがすぐに動いた。

 

「蛍!」

 

 光の剣でトワリンの攻撃を受け止める。

 

 その一瞬で蛍が体勢を戻した。

 

「ありがとう!」

 

「今だ!」

 

 俺が叫ぶ。

 

 蛍が再び剣を振り下ろした。

 

 バキッ!

 

 黒い装置に亀裂が走る。

 

「もう一回!」

 

 蛍が力を込める。

 

 ガシャァン!

 

 装置が砕け散った。

 

 黒い破片が風に舞う。

 

 その瞬間。

 

 トワリンの動きが止まった。

 

「……!」

 

 苦しそうだった咆哮が途切れる。

 

 ウェンティがトワリンを見上げた。

 

「トワリン……」

 

 トワリンの瞳が揺れた。

 

「……我は……」

 

 先ほどまでの荒々しい声とは違う。

 

 そこには苦しみと戸惑いが混じっていた。

 

「効いてる!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

 俺は息を吐いた。

 

「よかった……」

 

 だが。

 

 おじさんがトワリンを見る。

 

「まだ残っている」

 

「え?」

 

 俺もトワリンを見る。

 

 装置があった場所。

 

 そこから黒い力がまだ残っている。

 

 完全には消えていない。

 

「……そうか」

 

 装置を壊せば終わり。

 

 そう思っていた。

 

 でも。

 

 どうやら、それだけでは足りないらしい。

 

 トワリンが苦しそうに身体を震わせる。

 

「グ……オオ……」

 

「トワリン!」

 

 ウェンティが声をかける。

 

「大丈夫だよ。もう君を縛っていたものは壊れた」

 

「……まだ……」

 

 トワリンが苦しそうに答える。

 

「我の中に……何かが……」

 

 黒い力が再び蠢いた。

 

 トワリンの身体を覆うように広がっていく。

 

「まだ終わってない!」

 

 俺が叫ぶ。

 

「蛍!」

 

「分かってる!」

 

 蛍が再び剣を構える。

 

 トワリンが翼を広げた。

 

 風が一気に強くなる。

 

「来るぞ!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

 巨大な風圧が廃墟を駆け抜ける。

 

「くっ!」

 

 蛍が踏ん張る。

 

 俺は近くの瓦礫に手をついた。

 

 風が強すぎる。

 

 まともに立っているだけでも精一杯だ。

 

 その中を、おじさんが進んでいく。

 

「おじさん!」

 

「大丈夫だ」

 

 おじさんが光の剣を構える。

 

「トワリン自身を傷つけずに、残ったものを削る」

 

「できる?」

 

「やる」

 

 おじさんが走った。

 

 トワリンの爪が迫る。

 

 おじさんは紙一重でかわした。

 

 光の剣が黒い力へ向かう。

 

 ザンッ!

 

 黒い影が弾けた。

 

「グオオオオオッ!」

 

 トワリンが叫ぶ。

 

「効いてる!」

 

 蛍も動く。

 

 トワリンの攻撃を避けながら、黒い力へ剣を振る。

 

 俺は戦況を見る。

 

「右!」

 

 おじさんが反応する。

 

 巨大な風が横から迫る。

 

 おじさんが飛び退いた。

 

「次、左!」

 

 光の剣が黒い力を斬る。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつ。

 

 黒い力が剥がれていく。

 

「もう少し!」

 

 ウェンティがトワリンへ呼びかける。

 

「トワリン、君なら耐えられる!」

 

「……ウェンティ……」

 

 トワリンの瞳に、少しずつ正気が戻っていく。

 

 しかし。

 

 黒い力は最後まで抵抗していた。

 

「まだだ!」

 

 俺が叫ぶ。

 

「まだ残ってる!」

 

 おじさんがトワリンを見る。

 

「最後の一つか」

 

「うん」

 

 俺はおじさんを見る。

 

「今度は慎重に頼む」

 

「ああ」

 

 おじさんが頷く。

 

 蛍も剣を構え直した。

 

「僕も手伝う」

 

 ウェンティがトワリンへ近づく。

 

「トワリン、もう少しだけ頑張れるかい?」

 

 トワリンは苦しそうに息を吐いた。

 

「……ああ」

 

 その声には、先ほどまでの怒りはなかった。

 

 けれど。

 

 最後に残った黒い力が、再び脈動する。

 

 風が少しずつ強くなる。

 

 俺は嫌な予感を覚えた。

 

「……これ、まだ終わってないよな」

 

 おじさんが答える。

 

「ああ」

 

 俺はトワリンを見る。

 

 そして、おじさんを見る。

 

「……頼むぞ、おじさん」

 

「任せろ」

 

 おじさんが前へ出る。

 

 その瞬間。

 

 トワリンの身体から、再び黒い力が噴き出した。

 

「来る!」

 

 蛍が構える。

 

 ウェンティが叫ぶ。

 

「トワリン!」

 

 風が廃墟を揺らす。

 

 最後に残ったアビスの力が、大きく膨れ上がった。

 

 俺は息を呑む。

 

 ――まだ、終わっていない。

 

 そして。

 

 ここからが、本当の勝負だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。