異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第24話「事件の後」

 風龍廃墟での戦いから、数日が経った。

 

 モンドには、少しずつ日常が戻ってきていた。

 

 街を歩けば、商人たちの呼び声が聞こえる。

 

 広場では子供たちが走り回り、噴水の周りにはいつものように人が集まっている。

 

 酒場からは笑い声が漏れ、風車は穏やかな風を受けて回っていた。

 

 風龍が街を襲っていた頃には考えられなかった光景だ。

 

「……戻ったな」

 

 俺は街を眺めながら呟いた。

 

 隣を歩くおじさんが俺を見る。

 

「何がだ?」

 

「モンドの日常」

 

「そうか」

 

「……それだけ?」

 

「他に何かあるのか?」

 

「いや、ないけどさ」

 

 俺は苦笑した。

 

 この世界へ来てから、いろいろなことがあった。

 

 突然の転移。

 

 見知らぬ世界。

 

 ヒルチャールとの戦い。

 

 モンドでの生活。

 

 そして、風龍トワリンとの戦い。

 

 数日前までなら、こんな生活になるなんて想像もしていなかった。

 

 それでも。

 

「平和になったな」

 

「ああ」

 

 おじさんは短く答えた。

 

「よかったじゃないか」

 

「まあな」

 

 俺も頷いた。

 

 しばらく二人で街を歩く。

 

 すると、おじさんが突然口を開いた。

 

「ところで」

 

「何?」

 

「今日の昼は何を食べる?」

 

「……」

 

 俺は立ち止まった。

 

「おじさん」

 

「何だ?」

 

「もう少し余韻に浸ろうよ」

 

「腹は減る」

 

「それはそうだけど!」

 

 おじさんは真剣な顔をしている。

 

「重要な問題だ」

 

「分かったよ……」

 

 俺はため息をついた。

 

「まずギルドに行って報酬を受け取ってから考えよう」

 

「それがいい」

 

「そこは素直なんだな」

 

 二人で冒険者ギルドへ向かった。

 

     ◇

 

「お帰りなさいませ」

 

 受付に立つキャサリンさんが、いつもの笑顔で俺たちを迎えた。

 

「おじさん、たかふみ。依頼の報告ですね」

 

「ああ」

 

 おじさんが依頼書を差し出す。

 

 キャサリンさんは受け取ると、内容を確認していく。

 

「はい。こちらで間違いありません」

 

「よかった」

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 テイワットで生活するようになって、改めて実感したことがある。

 

 金が必要だ。

 

 当たり前のことだが、日本にいた頃よりも強く感じる。

 

 宿に泊まるにも。

 

 食事をするにも。

 

 旅をするにも。

 

 何をするにもモラが必要だった。

 

「それでは、今回の報酬です」

 

 キャサリンさんが袋をカウンターへ置いた。

 

 ずしり。

 

 音がした。

 

「……おお」

 

 俺は目を丸くする。

 

「結構あるな」

 

「今回の依頼は危険度が高かったですから」

 

 キャサリンさんが説明する。

 

 俺は袋を持ち上げてみた。

 

 重い。

 

「……これなら、しばらく大丈夫そうだな」

 

「そうですね」

 

 少しだけ安心した。

 

 日本に帰る方法が分からない。

 

 それ以前に、この世界でどう生きていけばいいのかも分からない。

 

 だが、少なくとも今は生活できる。

 

 それだけでも大きかった。

 

「おじさん」

 

「何だ?」

 

「これで宿代とか食事代は、しばらく大丈夫だな」

 

「ああ」

 

「よかった……」

 

 肩の力が抜ける。

 

 すると、おじさんが報酬袋を見ながら言った。

 

「なら、昼飯は少し豪華にするか」

 

「結局そこに戻るのかよ!」

 

 キャサリンさんが小さく笑った。

 

「お二人とも、仲がよろしいのですね」

 

「そう見えます?」

 

「はい」

 

「……まあ」

 

 俺は苦笑した。

 

 おじさんは特に気にしていない。

 

「今日は何を食べる?」

 

「だから今決めなくていいって」

 

 二人でギルドを出た。

 

     ◇

 

 外へ出ると、青空が広がっていた。

 

 風が気持ちいい。

 

「そういえば」

 

 俺は口を開く。

 

「トワリンのこと、もう街では普通に話されてるな」

 

「そうだな」

 

「少し前まで、風龍がモンドを襲ってるって大騒ぎだったのに」

 

「状況が変われば、人も変わる」

 

「まあ……そうだけど」

 

 俺は街を見回した。

 

 人々の表情は明るい。

 

 誰もが以前の生活を取り戻そうとしている。

 

 その中に、俺たちもいる。

 

 不思議な感覚だった。

 

「あっ!」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

「おじさん! たかふみ!」

 

 二人が振り向く。

 

 アンバーがこちらへ駆けてきた。

 

「アンバー」

 

「二人とも、元気そうだね!」

 

「ああ」

 

「俺は大丈夫」

 

「よかった!」

 

 アンバーは笑顔を見せる。

 

「騎士団もまだまだ忙しいけど、モンドはだいぶ落ち着いてきたよ」

 

「修理とか?」

 

「うん。壊れたところも多いからね」

 

 アンバーは街を見回した。

 

「でも、みんな前向きだよ」

 

「そうなんだ」

 

「モンドの人って、そういうところあるから」

 

 アンバーは胸を張る。

 

「風が吹けば、また歩き出せるんだよ」

 

「……なるほど」

 

 俺は笑った。

 

「モンドらしいな」

 

「でしょ?」

 

 アンバーが嬉しそうにする。

 

「それに、二人にはちゃんとお礼を言わないとね」

 

「礼?」

 

「うん」

 

 アンバーはおじさんを見る。

 

「トワリンのこと」

 

「別に」

 

 おじさんは淡々としている。

 

「必要だったからやっただけだ」

 

「そういうところ、おじさんらしいね」

 

 アンバーが笑う。

 

「でも、本当に助かったんだよ」

 

「そうか」

 

「うん」

 

 アンバーは俺を見る。

 

「たかふみもね」

 

「俺?」

 

「うん」

 

「俺はそこまで……」

 

「そんなことないよ」

 

 アンバーは即答した。

 

「二人がいなかったら、もっと大変なことになってたと思う」

 

 少し照れくさくなった。

 

「……そっか」

 

「うん!」

 

 アンバーは笑った。

 

「これからもモンドに来たら、いつでも声をかけてね」

 

「ありがとう」

 

「じゃあ、私は仕事に戻るね!」

 

 アンバーは手を振る。

 

「またね!」

 

「またな」

 

 俺たちはアンバーを見送った。

 

「知り合い、増えたな」

 

 俺が呟く。

 

「そうだな」

 

 おじさんが答えた。

 

     ◇

 

 その後、俺たちは騎士団本部へ向かった。

 

 受付を通り、案内された部屋へ入る。

 

「来てくれましたか」

 

 ジンさんが立ち上がる。

 

「おじさん、たかふみ」

 

「ジンさん」

 

「改めて、礼を言わせてください」

 

 ジンさんは俺たちへ向き直った。

 

「モンドを守ってくれて、本当にありがとうございました」

 

「俺たちは――」

 

「必要なことをしただけだ」

 

 おじさんが先に言った。

 

 ジンさんは少し微笑む。

 

「そう言うと思っていました」

 

「……」

 

 俺は苦笑した。

 

 ジンさんは続ける。

 

「しかし、感謝しているのは事実です」

 

「ありがとうございます」

 

 俺が答えた。

 

「お二人がいなければ、トワリンを救うことは難しかったでしょう」

 

「蛍たちもいたから」

 

 俺はそう付け加えた。

 

「俺たちだけじゃないですよ」

 

「もちろんです」

 

 ジンさんは頷いた。

 

「蛍さん、パイモンさん、そしてウェンティ。皆さんの力があってこそです」

 

 その名前が出たところで、俺は思い出した。

 

「そういえば」

 

「何でしょう?」

 

「ウェンティって今どこに?」

 

 ジンさんが少し困ったような表情をする。

 

「彼ですか?」

 

「はい」

 

「……まあ、どこかで風に乗っているのではないでしょうか」

 

「なるほど」

 

 俺は納得した。

 

「すごくそれっぽい」

 

「そうだな」

 

 おじさんも頷く。

 

 その時。

 

「おや、僕の話かい?」

 

 扉の近くから声がした。

 

「ウェンティ」

 

「やあ」

 

 ウェンティが笑っている。

 

「相変わらず仲がいいね」

 

「そう見える?」

 

 俺が聞く。

 

「見えるよ」

 

 ウェンティは楽しそうに笑った。

 

 その横から。

 

「おやおや、いいところに来たな」

 

 ガイアさんが入ってきた。

 

「ガイアさん」

 

「やあ、二人とも」

 

 ガイアさんは俺たちを眺める。

 

「さて――」

 

 軽い笑みが消える。

 

「トワリンの件は片付いた」

 

「はい」

 

 ジンさんが答える。

 

「だが、アビス教団の問題は残っている」

 

 ガイアさんは静かに続けた。

 

「奴らが何を企んでいたのか。まだ全部は分かっていない」

 

「……」

 

 俺は黙った。

 

「だから、騎士団としては引き続き警戒する」

 

 ガイアさんはおじさんを見る。

 

「特に、異世界から来た二人にはな」

 

「俺たち?」

 

「ああ」

 

 ガイアさんは笑う。

 

「君たちはアビスにとっても、かなり珍しい存在だろうからな」

 

「……面倒だな」

 

 おじさんが呟く。

 

「だろう?」

 

 ガイアさんは楽しそうに笑った。

 

「まあ、焦る必要はないさ」

 

「そうですね」

 

 俺は頷いた。

 

「俺たちは俺たちで、帰る方法を探します」

 

「日本へ、か」

 

「はい」

 

 ガイアさんの目が細くなる。

 

「その旅で何か分かったら、知らせてくれ」

 

「分かりました」

 

「約束だ」

 

 ガイアさんは軽く手を上げた。

 

     ◇

 

 騎士団本部の廊下へ出たところで。

 

「お二人とも」

 

 柔らかな声が聞こえた。

 

 リサさんだった。

 

「これから帰るところかしら?」

 

「はい」

 

「そう」

 

 リサさんはおじさんを見る。

 

「ところで、あなたたち」

 

「何だ?」

 

「これからも旅を続けるのでしょう?」

 

「ああ」

 

「どこへ?」

 

「まだ決めてない」

 

 おじさんが答える。

 

 俺がすぐに付け足した。

 

「たぶん璃月です」

 

「まあ」

 

 リサさんが微笑む。

 

「璃月なのね」

 

「はい」

 

「なら、いろいろと気をつけたほうがいいわ」

 

「危険なんですか?」

 

「もちろん、どの国にも危険はあるわ」

 

 リサさんは意味深に笑った。

 

「でも、それ以上に興味深い場所よ」

 

「興味深い?」

 

「ええ」

 

 リサさんは俺を見る。

 

「あなたたちのような異世界人が、何を見るのか」

 

「……」

 

「少し気になるわね」

 

「俺たちも、まだ何があるのか分からないですけど」

 

「それでいいのよ」

 

 リサさんは微笑む。

 

「旅というのは、知らないものを見るためにあるのでしょう?」

 

「……そうかもしれません」

 

「ふふっ」

 

 リサさんは手を振った。

 

「それじゃあ、気をつけてね」

 

「はい」

 

「また会いましょう」

 

 俺たちは騎士団本部を後にした。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 モンドの街を歩いていると。

 

「おーい!」

 

 また声がした。

 

「蛍!」

 

「パイモン!」

 

 蛍とパイモンがこちらへ向かってくる。

 

「二人とも、元気そう」

 

 蛍が言った。

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「そっちは?」

 

「元気だぞ!」

 

 パイモンが胸を張る。

 

「トワリンの件も片付いたし、これでまた旅を続けられるな!」

 

「そうだな」

 

 俺が答える。

 

「俺たちも次の国へ行こうと思ってる」

 

「次の国?」

 

「璃月」

 

「おっ!」

 

 パイモンが反応する。

 

「璃月か!」

 

「知ってるの?」

 

「もちろんだぞ!」

 

 パイモンは得意そうに胸を張る。

 

「璃月は商業が盛んな国なんだ!」

 

「へえ」

 

 俺は興味を示す。

 

「なら、モラの心配は少し減るかな」

 

「どうだろうな」

 

 おじさんが言う。

 

「食べ物がうまいなら、それでいい」

 

「また食べ物かよ」

 

 パイモンが呆れる。

 

「おじさんって、本当に食い物の話が好きだな」

 

「重要だからな」

 

「お前もか!」

 

 俺が突っ込む。

 

 蛍が小さく笑った。

 

「二人らしいね」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 蛍は少し考える。

 

「じゃあ、璃月でまた会えるかも」

 

「そうだな」

 

 俺は頷いた。

 

「その時はよろしく」

 

「うん」

 

「パイモンもよろしくな」

 

「任せろ!」

 

 パイモンが胸を張る。

 

「……何を任せるんだ?」

 

「細かいことはいいんだ!」

 

 俺は笑った。

 

 蛍とパイモンも笑う。

 

 短い時間だったが。

 

 それだけで、少し安心できた。

 

     ◇

 

 夜。

 

 俺たちは宿へ戻った。

 

 机の上には、今日受け取った報酬。

 

 旅の荷物。

 

 地図。

 

 そして、モンドで手に入れた細かな品々。

 

 俺は椅子に座り、地図を広げた。

 

「……璃月」

 

 モンドから東へ。

 

 広大な大地を越えた先にある国。

 

「本当に行くんだな」

 

「ああ」

 

 おじさんは荷物を整理している。

 

「日本へ帰る方法を探すためだ」

 

「そうだね」

 

 俺は地図を見る。

 

「モンドでは、何も分からなかった」

 

「完全に何も、ではない」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

 おじさんは言う。

 

「俺たちが知らない世界だと分かった」

 

「……それは確かに」

 

 俺は苦笑する。

 

「それに、帰る方法があるかもしれないっていう情報も、まだ何もない」

 

「なら探す」

 

「うん」

 

 俺は地図を見つめた。

 

「璃月へ行って、そこで情報を集める」

 

「それでいい」

 

 おじさんは頷く。

 

「急ぐ必要はない」

 

「でも、いつまでもここにいるわけにもいかない」

 

「ああ」

 

 俺たちの目的は変わっていない。

 

 日本へ帰ること。

 

 突然飛ばされた理由も。

 

 帰還する方法も。

 

 まだ何一つ分かっていない。

 

 それでも。

 

 少しずつ進むしかない。

 

 俺は地図を畳んだ。

 

「明日、準備しよう」

 

「ああ」

 

 おじさんも頷いた。

 

 二人で荷物を確認する。

 

「食料」

 

「重要だ」

 

「薬」

 

「必要だな」

 

「地図」

 

「ある」

 

「宿」

 

「璃月で探す」

 

「モラ」

 

 俺は報酬袋を見る。

 

「……ある」

 

「なら問題ない」

 

「いや、問題はあるだろ」

 

「何だ?」

 

「おじさんが無駄遣いしないこと」

 

「俺は無駄遣いなどしない」

 

「食事に使うだろ」

 

「必要経費だ」

 

「それを無駄遣いっていうんだよ」

 

 俺たちの声が宿の部屋に響く。

 

 しばらくして。

 

 俺は笑った。

 

「……まあ、いいか」

 

「何がだ?」

 

「いや」

 

 俺は窓の外を見る。

 

 夜のモンド。

 

 風車の影。

 

 静かな街。

 

 数日前まで戦場になっていたとは思えないほど穏やかだった。

 

「モンド、結構好きになったかもね」

 

「そうか」

 

「おじさんは?」

 

「悪くない」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

「相変わらずだな」

 

 俺は笑った。

 

 モンドで知り合った人たち。

 

 アンバー。

 

 ジンさん。

 

 ガイアさん。

 

 リサさん。

 

 そして、蛍とパイモン。

 

 短い時間だった。

 

 それでも。

 

 もう完全な他人ではない。

 

「……また来ることもあるかな」

 

「旅が続けばな」

 

「そうだな」

 

 俺は地図を畳んだ。

 

「じゃあ、明日から璃月への準備だ」

 

「ああ」

 

 おじさんも頷いた。

 

 二人は静かな夜のモンドで、翌日の出発に備えた。

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